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第14章 拳の王
第491話 風呂場にて子供達と
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風呂に来た子供は男子が二人、女子が三人の合計で五人だ。
たぶんこの廃虚に来ていた子供の大部分ではないかな。
大人達は急いでやってきたに加えて、崇拝儀式の準備で疲れているので子供達の事まで目が回っていないのだろう。
しかしそうすると問題になるのは、ミーリアの事だな。
「あちらのお姉さんと話をしてはいけないと教えられているのではないのですか?」
「うん……だけどアルタシャ様はいい人なんでしょう? お父さん達も褒めていたよ」
まあガイザーの信徒達がオレの事を認めてくれているのは分かっている。
しかしそれとミーリアは明らかに別枠だろう。
「わたしはよくてもあちらのお姉さんの方は……いろいろとね……あなた達の中にも彼女が昼間にビネースさんと戦ったのを見た子もいるでしょう」
「それは知っているよ。だけど『いい人』のアルタシャ様と一緒にいるのだから、悪い人じゃないと思ったんだよ」
ぬう。子供ながらにいろいろと理屈は立てているのだな。
しかしそんな事を言っても大人達に通用しないのは確実で、このままだとこの子達は後でいろいろと叱られるのも間違い無い。
もちろんこの子供達もそれが分かった上で、わざわざやってきたのだろう。
ひょっとすると男子は『年上のお姉さんの風呂』を覗きたい気持ちが先に立っている気もするけどな。
「僕らはよその人と話をする事がこの年一回の神様のお祭りの時しかないんだよ」
この世界ではよそ者と殆ど関わりを持たない、閉鎖的な小さな共同体は珍しくないからな。
もちろん彼らも普段は貧しいながらもきちんと日々を暮らしている、普通の農民だったり狩猟者だったりするのだろうけど、それでも戦神の信徒とは関わりを積極的に断ち切っているのは間違い無い。
やはり色々と面倒な事になりそうだ。
だけど問答無用で追い返すのもかわいそうだし、ミーリアにも悪い気がするな。
あとこの風呂場での短い会話で、そんな簡単に人生が左右されるはずも無い――子供の頃のこんなちょっとした出会いが、成長してからも人格に大きく影響するなんてフィクションの世界にしか存在しないのだ。
それでも今まで自分達の狭い共同体しか知らなかった子供達に、ちょっとばかり『外の世界』について話して聞かせるのも悪くは無いかもな。
その相手が異世界出身のオレだというのもどうかと思うがな。
何かあったらオレがビネース達に取りなす事でどうにかしよう。
そうオレが判断したところで、ミーリアは急に湯船から身体を上げて風呂の出口へと歩き出した。
「どうしました?」
「この子達の相手はあなたがすればいいだろう」
「え?」
オレが少しばかり困惑していると、子供達の方も不満を漏らす。
「待ってよ。もう少しぐらいならいいでしょう?」
「そうだよ。僕らはお姉さんともゆっくりと話をしたいんだ」
どちらかと言えば男子の方が必死で引き留めている様子だな。
このガキ共、話ではなく身体が目当てなんじゃないのか?
それはともかくミーリアはそそくさとまるで逃げるかのように見えるぞ。
「どうしたんですか」
「ここで私と話をするのは彼らのためにならないだろう。それぐらいの事は分かっているつもりだ」
う~ん。やっぱりそうなるか。
これが普通の村の子供だったりしたら、剣神ザスターニックの教えや、自分のこれまでの戦いについて――いろいろと脚色をした上で――話して聞かせただろうけど、相手が相手だから厄介の種になるのか。
子供相手にミーリアが話をする事で、互いの理解が深まる事を期待したけど、それはいくら何でも都合が良すぎるか。
こうして考えるとまだまだオレの認識は甘いのだろう。たぶん戒律なんて日頃、気にも止めていなかった元の世界の感覚が染みついているに違いない。
そして去りゆくミーリアの後ろ姿を少しばかり未練がましく見ていた子供達には、オレの方から話しかける。
なおいまのオレは身体の大部分を湯船に沈めている。
エロガキ共には水面下を想像させるだけで、十分なサービスシーンと言うモノだろう。
「あなた達は何が聞きたいのですか?」
「それじゃあ。アルタシャ様には恋人いるの?」
随分とストレートだなこのマセガキ!
そんな事を聞くために、周囲の人間から怒られるのを承知でこんなところに来たというのか!
それならゲンコツを幾ら喰らってもオレとしては少しも同情の余地は無いぞ。
「そんな人はいませんよ」
オレの恋人だの何だのを一方的に自称しているのは、皇帝を含めて大勢いるようだけど、こっちがそんな関係を望んだ事は一度もありませんから。
しかし子供の無邪気な言葉がいろいろと厄介な話に繋がるのはしばしばある展開だが、自分がその当事者となると全くいい気分はしないな。
「それだったら僕が――」
「何を言ってるのよ! アルタシャ様が迷惑でしょ!」
一方的に『恋人』に立候補しようとしたらしい少年を、少女の一人が怒って口を塞ぐ。
たぶん幼なじみ同士なんだな。なんか微笑ましい。
「とりあえず他に聞きたい事は何ですか?」
わざわざ大人の目を盗んでこんなところまでやってきておいて、聞くことがあまりにも下世話過ぎやしないかね。
「それだったら、どうすればアルタシャ様のような綺麗な肌になれますか?」
「いや。それよりもその長い髪はどうやって手入れしているんです?」
女の子は女の子でまた身近な話題だな。
まあ冷静に考えれば、こんな子供達が宗教の戒律だの何だのに深い関心があるはずもないから、むしろ当然と言うものか。
たぶん大人達が神妙に聞いているであろうビネースのありがたい『ガイザー神の教え』もこの子供達には退屈なだけなんだろうなあ。
いろいろと身構えていた割には、拍子抜けするところだよ。
しかしこの時、思いもかけぬ事が起きる。
魔力で知覚を強化しているオレの耳に、遠くから響いてくるトラブルの声が飛び込んできたのだ。
「まさか?!」
「うひゃあ!」
このとき反射的に身を沈めていた湯船からいきなり起き上がったので、子供達の前にいろいろと面倒なところを晒してしまったのは不覚だった。
たぶんこの廃虚に来ていた子供の大部分ではないかな。
大人達は急いでやってきたに加えて、崇拝儀式の準備で疲れているので子供達の事まで目が回っていないのだろう。
しかしそうすると問題になるのは、ミーリアの事だな。
「あちらのお姉さんと話をしてはいけないと教えられているのではないのですか?」
「うん……だけどアルタシャ様はいい人なんでしょう? お父さん達も褒めていたよ」
まあガイザーの信徒達がオレの事を認めてくれているのは分かっている。
しかしそれとミーリアは明らかに別枠だろう。
「わたしはよくてもあちらのお姉さんの方は……いろいろとね……あなた達の中にも彼女が昼間にビネースさんと戦ったのを見た子もいるでしょう」
「それは知っているよ。だけど『いい人』のアルタシャ様と一緒にいるのだから、悪い人じゃないと思ったんだよ」
ぬう。子供ながらにいろいろと理屈は立てているのだな。
しかしそんな事を言っても大人達に通用しないのは確実で、このままだとこの子達は後でいろいろと叱られるのも間違い無い。
もちろんこの子供達もそれが分かった上で、わざわざやってきたのだろう。
ひょっとすると男子は『年上のお姉さんの風呂』を覗きたい気持ちが先に立っている気もするけどな。
「僕らはよその人と話をする事がこの年一回の神様のお祭りの時しかないんだよ」
この世界ではよそ者と殆ど関わりを持たない、閉鎖的な小さな共同体は珍しくないからな。
もちろん彼らも普段は貧しいながらもきちんと日々を暮らしている、普通の農民だったり狩猟者だったりするのだろうけど、それでも戦神の信徒とは関わりを積極的に断ち切っているのは間違い無い。
やはり色々と面倒な事になりそうだ。
だけど問答無用で追い返すのもかわいそうだし、ミーリアにも悪い気がするな。
あとこの風呂場での短い会話で、そんな簡単に人生が左右されるはずも無い――子供の頃のこんなちょっとした出会いが、成長してからも人格に大きく影響するなんてフィクションの世界にしか存在しないのだ。
それでも今まで自分達の狭い共同体しか知らなかった子供達に、ちょっとばかり『外の世界』について話して聞かせるのも悪くは無いかもな。
その相手が異世界出身のオレだというのもどうかと思うがな。
何かあったらオレがビネース達に取りなす事でどうにかしよう。
そうオレが判断したところで、ミーリアは急に湯船から身体を上げて風呂の出口へと歩き出した。
「どうしました?」
「この子達の相手はあなたがすればいいだろう」
「え?」
オレが少しばかり困惑していると、子供達の方も不満を漏らす。
「待ってよ。もう少しぐらいならいいでしょう?」
「そうだよ。僕らはお姉さんともゆっくりと話をしたいんだ」
どちらかと言えば男子の方が必死で引き留めている様子だな。
このガキ共、話ではなく身体が目当てなんじゃないのか?
それはともかくミーリアはそそくさとまるで逃げるかのように見えるぞ。
「どうしたんですか」
「ここで私と話をするのは彼らのためにならないだろう。それぐらいの事は分かっているつもりだ」
う~ん。やっぱりそうなるか。
これが普通の村の子供だったりしたら、剣神ザスターニックの教えや、自分のこれまでの戦いについて――いろいろと脚色をした上で――話して聞かせただろうけど、相手が相手だから厄介の種になるのか。
子供相手にミーリアが話をする事で、互いの理解が深まる事を期待したけど、それはいくら何でも都合が良すぎるか。
こうして考えるとまだまだオレの認識は甘いのだろう。たぶん戒律なんて日頃、気にも止めていなかった元の世界の感覚が染みついているに違いない。
そして去りゆくミーリアの後ろ姿を少しばかり未練がましく見ていた子供達には、オレの方から話しかける。
なおいまのオレは身体の大部分を湯船に沈めている。
エロガキ共には水面下を想像させるだけで、十分なサービスシーンと言うモノだろう。
「あなた達は何が聞きたいのですか?」
「それじゃあ。アルタシャ様には恋人いるの?」
随分とストレートだなこのマセガキ!
そんな事を聞くために、周囲の人間から怒られるのを承知でこんなところに来たというのか!
それならゲンコツを幾ら喰らってもオレとしては少しも同情の余地は無いぞ。
「そんな人はいませんよ」
オレの恋人だの何だのを一方的に自称しているのは、皇帝を含めて大勢いるようだけど、こっちがそんな関係を望んだ事は一度もありませんから。
しかし子供の無邪気な言葉がいろいろと厄介な話に繋がるのはしばしばある展開だが、自分がその当事者となると全くいい気分はしないな。
「それだったら僕が――」
「何を言ってるのよ! アルタシャ様が迷惑でしょ!」
一方的に『恋人』に立候補しようとしたらしい少年を、少女の一人が怒って口を塞ぐ。
たぶん幼なじみ同士なんだな。なんか微笑ましい。
「とりあえず他に聞きたい事は何ですか?」
わざわざ大人の目を盗んでこんなところまでやってきておいて、聞くことがあまりにも下世話過ぎやしないかね。
「それだったら、どうすればアルタシャ様のような綺麗な肌になれますか?」
「いや。それよりもその長い髪はどうやって手入れしているんです?」
女の子は女の子でまた身近な話題だな。
まあ冷静に考えれば、こんな子供達が宗教の戒律だの何だのに深い関心があるはずもないから、むしろ当然と言うものか。
たぶん大人達が神妙に聞いているであろうビネースのありがたい『ガイザー神の教え』もこの子供達には退屈なだけなんだろうなあ。
いろいろと身構えていた割には、拍子抜けするところだよ。
しかしこの時、思いもかけぬ事が起きる。
魔力で知覚を強化しているオレの耳に、遠くから響いてくるトラブルの声が飛び込んできたのだ。
「まさか?!」
「うひゃあ!」
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