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第15章 とある御家騒動の話
第541話 風呂場にてまたもいろいろと
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聖女教会で聞かされたところでも歴代の『選ばれし者』は若い身をずっと維持したまま、最終的には神界に入ったそうだった。
最初は半信半疑というか、性転換の衝撃が強すぎてそちらは殆ど意識してはいなかったよ。そりゃまあずっと将来の話と目の前で長年、連れ添った股間の相棒が消えた事を比較すれば後者の方が遥かに深刻な話題だからな。
しかしデレンダの身体を見ると、まるで変化の無い自分の身体を確認して、改めて実感せざるを得ない。
以前に後宮で一緒に風呂に入った時、デレンダの裸体を見て、オレの身が『完全な女』である事を実感させられたが、今度もまたデレンダとの風呂で自分の身が変わり果てていることを思い知らされたわけだ。
オレがそんな事を考えていると、デレンダはハッとなって急に頭を下げる。
「すみません! 何も変な意味で申し上げたんじゃないんです! アルタシャさんはずっと旅をしておられたと聞いていたのに、旅疲れも見せずお美しいままなのが凄いと思ったんです。誤解を招くような事を言ったのなら謝ります」
デレンダの様子を見ると『サプライズでウァリウスと対面させた』事よりも『容姿について誤解を招く事を口にした』方が申し訳ないらしい。
もちろんオレは別に怒っていたワケでも無いが、そういうところが『女性の心理』なのだなと妙に納得はしていたのだった。
「いえ。別に気にはしていませんよ。とにかく風呂に入りましょう」
そんなわけでオレは改めてデレンダと一緒に湯船に浸かる。
さすがに微妙な調整はきかないらしく、温度はかなり熱めだが、耐えられないという程でも無い。
やっぱりデレンダはオレの身体にはいろいろと興味津々であるらしく、チラチラとこちらを見ているらしい。
そして何か意を決した様子で、また話しかけてくる。
「その……今だから言える事なのですけど、後宮におられた頃のアルタシャさんにはかなり違和感があったんです」
「具体的には何ですか?」
正直に言えば思い当たる事が多すぎる。
だいたいオレが後宮に入ったのも、後宮で怪異が発生しているからと聞いたのが理由であって『皇帝の嫁』になるためではなかったのだから、その一点をもっても『皇帝の寵愛』を目指していたデレンダ達とはまるで別だろう。
「実は後宮でのアルタシャさんの振る舞いについて『まるで男の子みたい』と思う事が幾度もあったんですよ」
デレンダと初めて会った日は、オレが初めて女装した日でもあったのだな。当然、女装になど慣れていないから、細かい動作が女性らしくなかった事は当たり前だろう。
そういえばデレンダは朝起きた時に髪の毛が乱れているのを見て、オレに説教してきた事があったなあ。
「あなたほど美しく、聡明な方がなぜ身だしなみを気にせず、ぞんざいな振る舞いをするのかと疑問に思っていましたけど、聖女教会の方だと分かった時は驚くと共になるほどと思ったのですよ」
ああそうか。聖女教会では回復魔法の素養のある子供を引き取って、施設で育てているからな。
そんな女だけの世界で育ったので――本来『女の恥じらい』とは男に見せるものだから――普通の女の子のような『女子のたしなみ』をオレは身につけていなかったとデレンダは考えていたのか。
「それで今はデレンダから見てもどうなんです?」
「もちろん今のアルタシャさんは、いろいろな振る舞いが本当に女らしくなっていて、気品ある美しさが匂い立つように漂っていますよ。あたしがもしも男でしたら、人生を全て捧げても手に入れたいと思ったでしょうね」
「そ……それはありがとう」
もちろんいろいろな仕草が女らしくなっている事は、オレだって自覚はしていたけど、直接にハッキリと指摘されるいろいろ複雑だ。
「それはともかく本当に皇帝陛下には直にお会いにならないのですか?」
「ええ。もう次に行くところは決まっていますから」
「ドズ・カムの地に出向いて行動するのは危険だと承知されているのでしょう?」
「もちろんですよ」
何しろ少なくみても数十人の屈強な男を駆り出す連中がミリンサ一人を追い回しているのだからな。
むしろ何も無かったら、オレが関わる理由もまた無かっただろう。
「皇帝陛下にもお願いはされないのですか?」
「もちろんですよ。そんな事ではいっとき収まっても、後々まで尾を引くでしょうから」
オレ自身その場凌ぎでどうにかやりくりした来た事がしょっちゅうだったのを思い出すと、とてもそんな偉そうな事を言える立場では無いのだが、それでもやっぱり皇帝の力を借りるのは問題が大きくなりすぎる。
「相変わらず、一度決心されると絶対にそれを貫くのですね。本当に何もかもあたしのような凡人とは大違いなのですね」
デレンダは呆れたのか、はたまた感心したのか、よく分からないため息をつく。
「皇帝陛下もそんなあなただからこそ愛されているのでしょうけど、だからこそ中々、会うことも出来ないのですから、あたしは凡人で良かったと思います」
「そうかもしれませんね」
後宮に入っていても『皇帝の寵愛』なんぞ欲しくも無くて、その当の皇帝――ただし女装して身分を偽っていた――の目の前で何度も皇帝批判を繰り返していたら、かえって気に入られてしまったのだから何とも世の中はままならないものだよ。
最初は半信半疑というか、性転換の衝撃が強すぎてそちらは殆ど意識してはいなかったよ。そりゃまあずっと将来の話と目の前で長年、連れ添った股間の相棒が消えた事を比較すれば後者の方が遥かに深刻な話題だからな。
しかしデレンダの身体を見ると、まるで変化の無い自分の身体を確認して、改めて実感せざるを得ない。
以前に後宮で一緒に風呂に入った時、デレンダの裸体を見て、オレの身が『完全な女』である事を実感させられたが、今度もまたデレンダとの風呂で自分の身が変わり果てていることを思い知らされたわけだ。
オレがそんな事を考えていると、デレンダはハッとなって急に頭を下げる。
「すみません! 何も変な意味で申し上げたんじゃないんです! アルタシャさんはずっと旅をしておられたと聞いていたのに、旅疲れも見せずお美しいままなのが凄いと思ったんです。誤解を招くような事を言ったのなら謝ります」
デレンダの様子を見ると『サプライズでウァリウスと対面させた』事よりも『容姿について誤解を招く事を口にした』方が申し訳ないらしい。
もちろんオレは別に怒っていたワケでも無いが、そういうところが『女性の心理』なのだなと妙に納得はしていたのだった。
「いえ。別に気にはしていませんよ。とにかく風呂に入りましょう」
そんなわけでオレは改めてデレンダと一緒に湯船に浸かる。
さすがに微妙な調整はきかないらしく、温度はかなり熱めだが、耐えられないという程でも無い。
やっぱりデレンダはオレの身体にはいろいろと興味津々であるらしく、チラチラとこちらを見ているらしい。
そして何か意を決した様子で、また話しかけてくる。
「その……今だから言える事なのですけど、後宮におられた頃のアルタシャさんにはかなり違和感があったんです」
「具体的には何ですか?」
正直に言えば思い当たる事が多すぎる。
だいたいオレが後宮に入ったのも、後宮で怪異が発生しているからと聞いたのが理由であって『皇帝の嫁』になるためではなかったのだから、その一点をもっても『皇帝の寵愛』を目指していたデレンダ達とはまるで別だろう。
「実は後宮でのアルタシャさんの振る舞いについて『まるで男の子みたい』と思う事が幾度もあったんですよ」
デレンダと初めて会った日は、オレが初めて女装した日でもあったのだな。当然、女装になど慣れていないから、細かい動作が女性らしくなかった事は当たり前だろう。
そういえばデレンダは朝起きた時に髪の毛が乱れているのを見て、オレに説教してきた事があったなあ。
「あなたほど美しく、聡明な方がなぜ身だしなみを気にせず、ぞんざいな振る舞いをするのかと疑問に思っていましたけど、聖女教会の方だと分かった時は驚くと共になるほどと思ったのですよ」
ああそうか。聖女教会では回復魔法の素養のある子供を引き取って、施設で育てているからな。
そんな女だけの世界で育ったので――本来『女の恥じらい』とは男に見せるものだから――普通の女の子のような『女子のたしなみ』をオレは身につけていなかったとデレンダは考えていたのか。
「それで今はデレンダから見てもどうなんです?」
「もちろん今のアルタシャさんは、いろいろな振る舞いが本当に女らしくなっていて、気品ある美しさが匂い立つように漂っていますよ。あたしがもしも男でしたら、人生を全て捧げても手に入れたいと思ったでしょうね」
「そ……それはありがとう」
もちろんいろいろな仕草が女らしくなっている事は、オレだって自覚はしていたけど、直接にハッキリと指摘されるいろいろ複雑だ。
「それはともかく本当に皇帝陛下には直にお会いにならないのですか?」
「ええ。もう次に行くところは決まっていますから」
「ドズ・カムの地に出向いて行動するのは危険だと承知されているのでしょう?」
「もちろんですよ」
何しろ少なくみても数十人の屈強な男を駆り出す連中がミリンサ一人を追い回しているのだからな。
むしろ何も無かったら、オレが関わる理由もまた無かっただろう。
「皇帝陛下にもお願いはされないのですか?」
「もちろんですよ。そんな事ではいっとき収まっても、後々まで尾を引くでしょうから」
オレ自身その場凌ぎでどうにかやりくりした来た事がしょっちゅうだったのを思い出すと、とてもそんな偉そうな事を言える立場では無いのだが、それでもやっぱり皇帝の力を借りるのは問題が大きくなりすぎる。
「相変わらず、一度決心されると絶対にそれを貫くのですね。本当に何もかもあたしのような凡人とは大違いなのですね」
デレンダは呆れたのか、はたまた感心したのか、よく分からないため息をつく。
「皇帝陛下もそんなあなただからこそ愛されているのでしょうけど、だからこそ中々、会うことも出来ないのですから、あたしは凡人で良かったと思います」
「そうかもしれませんね」
後宮に入っていても『皇帝の寵愛』なんぞ欲しくも無くて、その当の皇帝――ただし女装して身分を偽っていた――の目の前で何度も皇帝批判を繰り返していたら、かえって気に入られてしまったのだから何とも世の中はままならないものだよ。
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