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第15章 とある御家騒動の話
第546話 改めて投票についていろいろ
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先ほどの反応を見る限りミリンサは間違い無く、何らかの特別な理由があって自分が大勢の相手から追われている事を知っている。
ただそれを他者に明かしたくないのも間違い無い。
しかしミリンサが『特別』だとしたら、いったいそれは何だろうか?
もちろん彼女は人並み以上に容姿は端麗だし、学業も出来るので故郷から遠く離れた学校に通わせてもらっていたという話も嘘ではないだろう。
だけどそれが大勢から追われる理由ではないはずだ。
それに加えてミリンサに強力な魔力だとか、常人の持ち得ない生来の魔法能力といったものがあるようにも思えない。
そうするとやっぱり特別なのは血縁か、さもなくば人間関係の方ではないだろうか。
ミリンサの言葉からすると、実家はそれなりに裕福ではあるにせよ、あまり有力というわけでもなく、領主を決める投票に参加できるという以上に特別な点は無いらしい。
しかしそれでも実は初代領主から何らかの特権を与えられている家系だとか、そんな話はありうるはずだ。
「ミリンサさん。あなたに追われる特別な理由はあるのでしょう?」
「いえ。繰り返させてもらうが、私にも私の実家にも特別な点など特にない」
「それでも代々の領主家と特別な関係にあったりするのではないですか?」
「そんな事は絶対にない! いえ……ありません」
どういうわけかミリンサはまた力説する。
そのあたりに何か秘密があるのだろうか?
「あと前にも言った通り、領主は投票で決まるので、特定の家が独占しているわけではありません。もちろん過去には何人も領主を輩出している有力な家が幾つかあるにせよ、私の実家はそのいずれとも深い繋がりはないのです」
「それでは領主になる条件は、市民である女性の投票以外に、どのようなものがあるのか教えてもらえますか?」
いくら何でも市民が誰であろうと領主に立候補出来るワケではあるまい。
その立候補者の資格とミリンサに関係はあるのだろうか。
そしてミリンサはゆっくりと説明を始める。
「まず領主になるには初代領主であり街の神であるドズ・カム神の子孫であることが求められます」
この世界では街の創設者が神様として崇拝されていて、その子孫が特権階級となっているのはごくありふれた話だけど、ドズ・カムの町でも同じなのだな。
「その上で最低でも三代にわたり市民でなければなりません。だから親が町を追放されていたりすれば領主にはなれないのです。あとは親族に最低でもひとりは町の神の司祭がいる必要があります。もちろん領主候補本人は成人した男子であり、犯罪者でもないとか当然の規定も幾つかあります」
「それは分かりましたが、ドズ・カム神の大司祭と領主はどういう関係なのですか?」
この世界ではしばしば町の神の大司祭が町のトップを兼任している。つまり聖俗が一体になっていることが多い。
これは殆どの場合、町の神の利益と町の利益が同じであり、その町の神への崇拝を仕切る大司祭がその町における最高権力者となるのが普通だからだ。
もともとこの世界には『政教分離』なんて考えは無いか、仮にあっても非常に希薄なので宗教的な地位が、世俗の権力に直結しているのも珍しくはない。
しかし町の神様は当然ながらその権能が及ぶのは町の中だけであって、外には力を及ぼせないから、周辺地域を含んだ領主となるとまた別の話になる。
そのせいで場所によっては町の神の大司祭と領主が結構、微妙な関係だったり、時には対立して面倒な事になったりすることもあるらしい。
ひょっとするとそのあたりにこの謎を解く糸口があるかもしれないな。
「大司祭様は領主候補者が正当な資格があるかどうかを神託で判定し、更に投票に不正が起きないよう監視するのです。もちろん不正が発覚した候補者や投票人はその資格を失います」
なるほど。領主を選ぶ選挙を仕切るのが大司祭の仕事というわけか。
言い換えれば町の神の寺院は領主選びの投票を管理する立場にあるということだな。
そうすると厳正中立が求められそうだけど、逆を言えば表向き中立としておいた上で、大司祭を自分達の陣営に引き込む事が出来ればそれだけ有利になるということだな。
いや。大司祭本人は中立でも、手足となって働く部下の司祭達は当然、候補者と関わりを持っていろいろと暗闘はやっているに違いない。
そう考えると、さきほどミリンサが口にした『領主候補者となるには、親族に町の神の司祭が最低一人必要』という規定は、司祭達を否応なしに領主選びに巻き込むが、同時に司祭同士をお互いに監視させて、投票の公平性を担保させるためのものでもあるのだろう。
全く利害関係を持たず無関係な第三者に投票を監督させる事が出来ないから、やむを得ずそういう形になったに違いない。
「それで選出された領主を市民の前で承認し、ドズ・カム神の名の元に祝福するところまでが大司祭様の仕事となります」
「それでは一つうかがいますけど――」
「前もって断っておきますが、私自身も実家もいち市民という以上に大司祭様とは殆ど関係はありませんよ。ついでに言えば親族に司祭もいません」
オレの質問の前にミリンサはあっさりと言い切った。
その態度を見る限り、嘘をついているようには見えない。どうやら町の神の信仰絡みという事でもないようだ。
ならば一体、何でミリンサは追われているのだ?
オレに何か重大な見落としでもあるのか?
ただそれを他者に明かしたくないのも間違い無い。
しかしミリンサが『特別』だとしたら、いったいそれは何だろうか?
もちろん彼女は人並み以上に容姿は端麗だし、学業も出来るので故郷から遠く離れた学校に通わせてもらっていたという話も嘘ではないだろう。
だけどそれが大勢から追われる理由ではないはずだ。
それに加えてミリンサに強力な魔力だとか、常人の持ち得ない生来の魔法能力といったものがあるようにも思えない。
そうするとやっぱり特別なのは血縁か、さもなくば人間関係の方ではないだろうか。
ミリンサの言葉からすると、実家はそれなりに裕福ではあるにせよ、あまり有力というわけでもなく、領主を決める投票に参加できるという以上に特別な点は無いらしい。
しかしそれでも実は初代領主から何らかの特権を与えられている家系だとか、そんな話はありうるはずだ。
「ミリンサさん。あなたに追われる特別な理由はあるのでしょう?」
「いえ。繰り返させてもらうが、私にも私の実家にも特別な点など特にない」
「それでも代々の領主家と特別な関係にあったりするのではないですか?」
「そんな事は絶対にない! いえ……ありません」
どういうわけかミリンサはまた力説する。
そのあたりに何か秘密があるのだろうか?
「あと前にも言った通り、領主は投票で決まるので、特定の家が独占しているわけではありません。もちろん過去には何人も領主を輩出している有力な家が幾つかあるにせよ、私の実家はそのいずれとも深い繋がりはないのです」
「それでは領主になる条件は、市民である女性の投票以外に、どのようなものがあるのか教えてもらえますか?」
いくら何でも市民が誰であろうと領主に立候補出来るワケではあるまい。
その立候補者の資格とミリンサに関係はあるのだろうか。
そしてミリンサはゆっくりと説明を始める。
「まず領主になるには初代領主であり街の神であるドズ・カム神の子孫であることが求められます」
この世界では街の創設者が神様として崇拝されていて、その子孫が特権階級となっているのはごくありふれた話だけど、ドズ・カムの町でも同じなのだな。
「その上で最低でも三代にわたり市民でなければなりません。だから親が町を追放されていたりすれば領主にはなれないのです。あとは親族に最低でもひとりは町の神の司祭がいる必要があります。もちろん領主候補本人は成人した男子であり、犯罪者でもないとか当然の規定も幾つかあります」
「それは分かりましたが、ドズ・カム神の大司祭と領主はどういう関係なのですか?」
この世界ではしばしば町の神の大司祭が町のトップを兼任している。つまり聖俗が一体になっていることが多い。
これは殆どの場合、町の神の利益と町の利益が同じであり、その町の神への崇拝を仕切る大司祭がその町における最高権力者となるのが普通だからだ。
もともとこの世界には『政教分離』なんて考えは無いか、仮にあっても非常に希薄なので宗教的な地位が、世俗の権力に直結しているのも珍しくはない。
しかし町の神様は当然ながらその権能が及ぶのは町の中だけであって、外には力を及ぼせないから、周辺地域を含んだ領主となるとまた別の話になる。
そのせいで場所によっては町の神の大司祭と領主が結構、微妙な関係だったり、時には対立して面倒な事になったりすることもあるらしい。
ひょっとするとそのあたりにこの謎を解く糸口があるかもしれないな。
「大司祭様は領主候補者が正当な資格があるかどうかを神託で判定し、更に投票に不正が起きないよう監視するのです。もちろん不正が発覚した候補者や投票人はその資格を失います」
なるほど。領主を選ぶ選挙を仕切るのが大司祭の仕事というわけか。
言い換えれば町の神の寺院は領主選びの投票を管理する立場にあるということだな。
そうすると厳正中立が求められそうだけど、逆を言えば表向き中立としておいた上で、大司祭を自分達の陣営に引き込む事が出来ればそれだけ有利になるということだな。
いや。大司祭本人は中立でも、手足となって働く部下の司祭達は当然、候補者と関わりを持っていろいろと暗闘はやっているに違いない。
そう考えると、さきほどミリンサが口にした『領主候補者となるには、親族に町の神の司祭が最低一人必要』という規定は、司祭達を否応なしに領主選びに巻き込むが、同時に司祭同士をお互いに監視させて、投票の公平性を担保させるためのものでもあるのだろう。
全く利害関係を持たず無関係な第三者に投票を監督させる事が出来ないから、やむを得ずそういう形になったに違いない。
「それで選出された領主を市民の前で承認し、ドズ・カム神の名の元に祝福するところまでが大司祭様の仕事となります」
「それでは一つうかがいますけど――」
「前もって断っておきますが、私自身も実家もいち市民という以上に大司祭様とは殆ど関係はありませんよ。ついでに言えば親族に司祭もいません」
オレの質問の前にミリンサはあっさりと言い切った。
その態度を見る限り、嘘をついているようには見えない。どうやら町の神の信仰絡みという事でもないようだ。
ならば一体、何でミリンサは追われているのだ?
オレに何か重大な見落としでもあるのか?
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