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第15章 とある御家騒動の話
第545話 劣等感と特別について
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オレとミリンサの二人は朝の喧騒に紛れつつ、ひとまず街を出ることにする。
もちろん相手もバカで無いなら確実に町に出入りする門を交代で見張っているだろうが、ここはデレンダのツテで荷物を運ぶ馬車に乗せてもらう事で、どうにか誤魔化す見込みは出来ている。
ここからドズ・カムの町まではオレが全力移動すれば一日もあれば届くけど、ミリンサがいるとそうもいかない。
ドルイド魔法で山を突っ切り、ミリンサに『疲労回復』をかけ続けたとしても数日はかかるだろう。
追っ手がドズ・カムに向かう道を見張っているのは確実だから、遠回りでも人通りの少ないところを選んで向かうしかない。
「ところで……アル……」
「なんですか?」
ミリンサには最初に要求した通り、オレの事は『アル』と呼ぶように頼んでいる。
「もう少し何とかならない……うぐう!」
「下手にしゃべると舌を噛みますよ」
デレンダに頼んで見つからないよう、馬車の荷物と一緒に運んでもらっているが、お世辞にも乗り心地はよくない。
常に発する振動と、突然に受ける衝撃でしゃべるのも一苦労だ。
元から人間を運ぶようには出来ていないし、もちろんデレンダはこの荷台の中の状況など知るよしも無かったろうから仕方の無い事だけど納得するのは難しい。
まあオレの場合は『河を下るドラゴンの卵』に乗って旅をしたこともあるので、これぐらいは大した事でも無いけど、ミリンサはさすがにそういうわけにもいかないようだ。
「町を離れるまでの少しの間ですから、我慢して下さい」
「わ……分かった……うわ!」
今度はミリンサがオレの方に倒れ込んで来たので、反射的に助けようと手を伸ばすが、一緒になって倒れ込む。
身体が絡み合って、ミリンサの胸の感触がオレの身に押しつけられ、お互いの吐息が絡み合う。
少しばかりラッキースケベな状況ではあるが、別に変な気分になって百合な展開になるわけではない。
しかしこうやって女の子と身体を絡めても、やっぱり特別な意識を抱く事は無くなってしまったなあ。
「も、申し訳ありません……」
「とにかく先ほども言いましたが、今は静かにしていて下さい」
そんなわけでオレ達二人はシェイクされつつ、どうにかホーニリオの町を無事に離れる事が出来た。
とりあえず周囲を見回し、追っ手らしき相手がいないのを確認したところでオレ達が馬車を降りると、御者は愛想よく声をかけてくる。
「本当にここまででいいのかい? もっと先まで乗せていってもいいんだぞ」
「いえ。これ以上の迷惑をかけるわけにもいきません。ありがとうございました」
オレはまだしもミリンサが限界に近かったので降りるしかないのだ。
馬車が去った後、少し休んだところでオレ達は敢えて山の方に向かう。
「本当に大丈夫なのですか?」
「ええ。こちらの方が確実ですよ」
ミリンサが不安に思うのも当然である。
この世界では険しい山を進むと獣どころか、モンスターや山の精霊に襲われる危険性があるのだ。
それどころか『山の神様が怒る』などと言う言葉は、元の世界では『山は危険だから注意しろ』という意味なのだが、こっちでは実際に起きる事なのだ――そしてオレの場合はその手の神様からちょっかい出されるのもしょっちゅうである。
しかしオレの今までの経験から言わせてもらえば、神や精霊、モンスターよりも人間に追われる方がよっぽど面倒なので、ここは危険を承知で追っ手の来ない山を突っ切るべきだと判断したのだ。
そんなわけで野外行動用のドルイド魔法を駆使し、オレ達は山を突き進む。
「しかし……最初に会った時もそうだったが、あなたはこんなところを旅するのが当たり前なのですか?」
「もちろんですよ。いつもの事ですから」
「それでいてドレスをまとえばまばゆいばかりの美貌なのだから、本当に何でも出来るのですね……私などとは本当に格が違うのか」
今までオレが出会った相手は妙に突っかかって来たり、自分の正当性を声高に唱えたりする場合が多かった。
もちろん称賛してくれる相手や、利用しようとしてくる相手も少なくはなかったがミリンサのように劣等感を抱くのは少なかったな。
いや。自分で言うのも何だけど、そういう人間も大勢いたのだろう。
ただその殆どは敢えてオレに近づいてこなかったから、ミリンサの振る舞いが特別に感じられるのかもしれないな。
「そんな事はありませんよ。ミリンサさんだって十分に特別な女性ですから――」
何でも無い慰めの言葉だったはずだが、それ対する反応は思わぬものだった。
「違う! 私は特別なんかではない!」
「え?」
妙にムキになってミリンサが言い返して来たので、オレはちょっとばかり面食らった。
「なにかお気に障る事でもありましたか?」
「も、申し訳ない……どういうわけか興奮してしまった……」
「いえ。気にはしていません」
いったい何だ? いま『特別』という言葉に強く反応したけど、ミリンサにはそれを意識する理由があるのだろうか。
ひょっとすると彼女が大勢から追われている事と何か関係があるのか。
もちろん相手もバカで無いなら確実に町に出入りする門を交代で見張っているだろうが、ここはデレンダのツテで荷物を運ぶ馬車に乗せてもらう事で、どうにか誤魔化す見込みは出来ている。
ここからドズ・カムの町まではオレが全力移動すれば一日もあれば届くけど、ミリンサがいるとそうもいかない。
ドルイド魔法で山を突っ切り、ミリンサに『疲労回復』をかけ続けたとしても数日はかかるだろう。
追っ手がドズ・カムに向かう道を見張っているのは確実だから、遠回りでも人通りの少ないところを選んで向かうしかない。
「ところで……アル……」
「なんですか?」
ミリンサには最初に要求した通り、オレの事は『アル』と呼ぶように頼んでいる。
「もう少し何とかならない……うぐう!」
「下手にしゃべると舌を噛みますよ」
デレンダに頼んで見つからないよう、馬車の荷物と一緒に運んでもらっているが、お世辞にも乗り心地はよくない。
常に発する振動と、突然に受ける衝撃でしゃべるのも一苦労だ。
元から人間を運ぶようには出来ていないし、もちろんデレンダはこの荷台の中の状況など知るよしも無かったろうから仕方の無い事だけど納得するのは難しい。
まあオレの場合は『河を下るドラゴンの卵』に乗って旅をしたこともあるので、これぐらいは大した事でも無いけど、ミリンサはさすがにそういうわけにもいかないようだ。
「町を離れるまでの少しの間ですから、我慢して下さい」
「わ……分かった……うわ!」
今度はミリンサがオレの方に倒れ込んで来たので、反射的に助けようと手を伸ばすが、一緒になって倒れ込む。
身体が絡み合って、ミリンサの胸の感触がオレの身に押しつけられ、お互いの吐息が絡み合う。
少しばかりラッキースケベな状況ではあるが、別に変な気分になって百合な展開になるわけではない。
しかしこうやって女の子と身体を絡めても、やっぱり特別な意識を抱く事は無くなってしまったなあ。
「も、申し訳ありません……」
「とにかく先ほども言いましたが、今は静かにしていて下さい」
そんなわけでオレ達二人はシェイクされつつ、どうにかホーニリオの町を無事に離れる事が出来た。
とりあえず周囲を見回し、追っ手らしき相手がいないのを確認したところでオレ達が馬車を降りると、御者は愛想よく声をかけてくる。
「本当にここまででいいのかい? もっと先まで乗せていってもいいんだぞ」
「いえ。これ以上の迷惑をかけるわけにもいきません。ありがとうございました」
オレはまだしもミリンサが限界に近かったので降りるしかないのだ。
馬車が去った後、少し休んだところでオレ達は敢えて山の方に向かう。
「本当に大丈夫なのですか?」
「ええ。こちらの方が確実ですよ」
ミリンサが不安に思うのも当然である。
この世界では険しい山を進むと獣どころか、モンスターや山の精霊に襲われる危険性があるのだ。
それどころか『山の神様が怒る』などと言う言葉は、元の世界では『山は危険だから注意しろ』という意味なのだが、こっちでは実際に起きる事なのだ――そしてオレの場合はその手の神様からちょっかい出されるのもしょっちゅうである。
しかしオレの今までの経験から言わせてもらえば、神や精霊、モンスターよりも人間に追われる方がよっぽど面倒なので、ここは危険を承知で追っ手の来ない山を突っ切るべきだと判断したのだ。
そんなわけで野外行動用のドルイド魔法を駆使し、オレ達は山を突き進む。
「しかし……最初に会った時もそうだったが、あなたはこんなところを旅するのが当たり前なのですか?」
「もちろんですよ。いつもの事ですから」
「それでいてドレスをまとえばまばゆいばかりの美貌なのだから、本当に何でも出来るのですね……私などとは本当に格が違うのか」
今までオレが出会った相手は妙に突っかかって来たり、自分の正当性を声高に唱えたりする場合が多かった。
もちろん称賛してくれる相手や、利用しようとしてくる相手も少なくはなかったがミリンサのように劣等感を抱くのは少なかったな。
いや。自分で言うのも何だけど、そういう人間も大勢いたのだろう。
ただその殆どは敢えてオレに近づいてこなかったから、ミリンサの振る舞いが特別に感じられるのかもしれないな。
「そんな事はありませんよ。ミリンサさんだって十分に特別な女性ですから――」
何でも無い慰めの言葉だったはずだが、それ対する反応は思わぬものだった。
「違う! 私は特別なんかではない!」
「え?」
妙にムキになってミリンサが言い返して来たので、オレはちょっとばかり面食らった。
「なにかお気に障る事でもありましたか?」
「も、申し訳ない……どういうわけか興奮してしまった……」
「いえ。気にはしていません」
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