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第16章 破滅の聖者
第600話 王子が願っているものとは
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とにかくいまあのでしゃばりで軽率な王太子がやってくると、いろいろとこっちの面倒が増えるのは明白だ。
何よりテマーティンの身に万一の事があれば取り返しがつかないので、ここはファザールをどうにか抑えるしかない。
「とにかくいまはこの地の民衆を助ける事を優先しましょう。そうすればきっとそれがテマーティン王子やラマーリア王国のためにもなります。殿下への報告はその後でもいいのではありませんか?」
オレとしてはテマーティンを見るのもイヤというわけではないし、もしも本当に彼が困っているというなら手助けをするのもやぶさかではないつもりだ。
しかし顔を合わせるとまたプロポーズしてくるのは分かりきっているので、ここは遠慮させてもらいたい。
「そうですね……確かに仰せの通りです。しかしそれならばアルタシャ様も後事は我らに任せて、殿下に会っていただけないでしょうか? あなた様の身にもしもの事があれば、小官は殿下に申し訳が立ちません」
それも確かにファザールの立場からすれば正論かもしれないが、オレとしては受け入れるわけにはいかない話だ。
「いえ。わたしはあくまでもいま困っている人を助ける事を優先させていただきます」
「お言葉ではありますが――」
「それではファザールさんはわたしがここで自分の身の安全を考えて、引き下がると思っておられるのですか? あなたの聞いておられるわたしの評判はそんなものだったのですか?」
恐らくファザールはオレについての噂は山のように聞いている筈だから、ここはちょっとばかりきれい事で断るとしよう。
このオレの返答を聞いてファザールはやっぱり困り果てた顔をする。
本当に気苦労ばかり増やして申し訳ないです。
「分かりました……確かにあなた様はいかなる時も、民衆の救済を優先するお方でしたね。ただしその場合でも今後は我らに同行願います」
う~ん。もとから単独行動でどうにかするつもりだったから断ってもいいのだが、これ以上ファザールに心労をかけるのは何とも心苦しい。
「それは了承しました。ただしわたしの事はなるだけ広まらないようにしてもらえますか?」
「分かりました。先ほどの者達には改めて口止めしておきます」
それでも人の口に戸は立てられないし、何よりもオレが実力を発揮すればごまかしようがないだろう。
とりあえずは病の精霊や虚ろなる者達が片付けば、後は急いで立ち去るとしよう。
メトゥサイラの事は気になるが、恐らくオレが望むか否かに関わらず、また会うことになるだろうという漠然とした意識があったのだ。
「ただ事が済んだ後は、是非とも殿下とお会いになっていただけますか?」
テマーティンが――オレに断り無く勝手に――作った『アルタシャを女神と崇める教団』が崇拝を捧げてくれたお陰で何度も助かったのは事実だ。
だがそれはウァリウス皇帝と同様に、テマーティンの王太子としての権威付けにも役立っている筈だから、持ちつ持たれつギブアンドテイクの関係でもある。
まあ顔を合わせるのがどうしてもダメとは言わないが、テマーティンはガッカリするだろうけど、こっちが嫁になる気も無い事はハッキリと言っておかねばならないかな。
しかしここでファザールは重々承知とばかりに断りを入れてくる。
「もちろんアルタシャ様が殿下の妻になるつもりはない事は承知しております。それは小官だけでなく殿下も分かっておられます」
こっちにそのつもりがあったら、とっくにそうなっているはずだから、当然の帰結というものだよな。
だがそこでファザールはオレの全く想定外の事を口にした。
「だから殿下はアルタシャ様の『愛人の一人』で結構だと仰っておられましたよ」
「はあ? いま何と言われました?」
このときオレはファザールの発した言葉はちゃんと聞こえていたけど、その意味を頭が受け付けなかったのだ。
「もちろん。『愛人』なのは我が国を訪れていただいた時だけで構いません。殿下はいつでも待っておられるそうです」
いったい何をどう答えればいいのか。
いや落ち着け。
確かにオレの『恋人』を自称する相手は、この大陸のあちこちにいる。
さすがにワイドリードの二つ名の通り、そういうところまで調べているのだな。
そして神話において神が崇拝される地域毎にその配偶者や恋人が異なる事は珍しい話ではないのだ。
多神教の神話においてやたらと浮気性で大勢の恋人がいる神は多くの場合、そういう地域毎に異なる恋人がいたのを後世で統合した結果であるらしい。
どうにかオレの頭が話に追いつきかけたところだったが、残念ながらファザールは更にその先を行った。
「ただ一つだけお願いがありますが、仮にあなた様が殿下に飽きたとしても――」
「わたしはテマーティン王子に何もしませんから!」
勝手に話を進めるファザールに対して、オレは思わず叫んでしまう。
神の中にはときどき信徒に対しては慈悲深く、愛をもって接していても、恋人に対しては時に放蕩でなおかつ愛情が冷めれば非道な扱いをする存在がいる。
このタイプで元の世界において特に有名なのはイシュタルだろう――日本だととある有名なゲームでそれを元ネタにした『イ○ター』の方が有名になってしまった気がするが。
まあファザールもそこまで深刻だとまでは思ってはいない筈だが、それでもオレが気まぐれにあちこち放浪して、数多くの『恋人』を作っているという話を半分でも信じているなら、テマーティンに対する態度を心配するのは理解出来る。
もちろんオレの方は全く納得出来ない、理不尽極まりない評価だけどな。
何よりテマーティンの身に万一の事があれば取り返しがつかないので、ここはファザールをどうにか抑えるしかない。
「とにかくいまはこの地の民衆を助ける事を優先しましょう。そうすればきっとそれがテマーティン王子やラマーリア王国のためにもなります。殿下への報告はその後でもいいのではありませんか?」
オレとしてはテマーティンを見るのもイヤというわけではないし、もしも本当に彼が困っているというなら手助けをするのもやぶさかではないつもりだ。
しかし顔を合わせるとまたプロポーズしてくるのは分かりきっているので、ここは遠慮させてもらいたい。
「そうですね……確かに仰せの通りです。しかしそれならばアルタシャ様も後事は我らに任せて、殿下に会っていただけないでしょうか? あなた様の身にもしもの事があれば、小官は殿下に申し訳が立ちません」
それも確かにファザールの立場からすれば正論かもしれないが、オレとしては受け入れるわけにはいかない話だ。
「いえ。わたしはあくまでもいま困っている人を助ける事を優先させていただきます」
「お言葉ではありますが――」
「それではファザールさんはわたしがここで自分の身の安全を考えて、引き下がると思っておられるのですか? あなたの聞いておられるわたしの評判はそんなものだったのですか?」
恐らくファザールはオレについての噂は山のように聞いている筈だから、ここはちょっとばかりきれい事で断るとしよう。
このオレの返答を聞いてファザールはやっぱり困り果てた顔をする。
本当に気苦労ばかり増やして申し訳ないです。
「分かりました……確かにあなた様はいかなる時も、民衆の救済を優先するお方でしたね。ただしその場合でも今後は我らに同行願います」
う~ん。もとから単独行動でどうにかするつもりだったから断ってもいいのだが、これ以上ファザールに心労をかけるのは何とも心苦しい。
「それは了承しました。ただしわたしの事はなるだけ広まらないようにしてもらえますか?」
「分かりました。先ほどの者達には改めて口止めしておきます」
それでも人の口に戸は立てられないし、何よりもオレが実力を発揮すればごまかしようがないだろう。
とりあえずは病の精霊や虚ろなる者達が片付けば、後は急いで立ち去るとしよう。
メトゥサイラの事は気になるが、恐らくオレが望むか否かに関わらず、また会うことになるだろうという漠然とした意識があったのだ。
「ただ事が済んだ後は、是非とも殿下とお会いになっていただけますか?」
テマーティンが――オレに断り無く勝手に――作った『アルタシャを女神と崇める教団』が崇拝を捧げてくれたお陰で何度も助かったのは事実だ。
だがそれはウァリウス皇帝と同様に、テマーティンの王太子としての権威付けにも役立っている筈だから、持ちつ持たれつギブアンドテイクの関係でもある。
まあ顔を合わせるのがどうしてもダメとは言わないが、テマーティンはガッカリするだろうけど、こっちが嫁になる気も無い事はハッキリと言っておかねばならないかな。
しかしここでファザールは重々承知とばかりに断りを入れてくる。
「もちろんアルタシャ様が殿下の妻になるつもりはない事は承知しております。それは小官だけでなく殿下も分かっておられます」
こっちにそのつもりがあったら、とっくにそうなっているはずだから、当然の帰結というものだよな。
だがそこでファザールはオレの全く想定外の事を口にした。
「だから殿下はアルタシャ様の『愛人の一人』で結構だと仰っておられましたよ」
「はあ? いま何と言われました?」
このときオレはファザールの発した言葉はちゃんと聞こえていたけど、その意味を頭が受け付けなかったのだ。
「もちろん。『愛人』なのは我が国を訪れていただいた時だけで構いません。殿下はいつでも待っておられるそうです」
いったい何をどう答えればいいのか。
いや落ち着け。
確かにオレの『恋人』を自称する相手は、この大陸のあちこちにいる。
さすがにワイドリードの二つ名の通り、そういうところまで調べているのだな。
そして神話において神が崇拝される地域毎にその配偶者や恋人が異なる事は珍しい話ではないのだ。
多神教の神話においてやたらと浮気性で大勢の恋人がいる神は多くの場合、そういう地域毎に異なる恋人がいたのを後世で統合した結果であるらしい。
どうにかオレの頭が話に追いつきかけたところだったが、残念ながらファザールは更にその先を行った。
「ただ一つだけお願いがありますが、仮にあなた様が殿下に飽きたとしても――」
「わたしはテマーティン王子に何もしませんから!」
勝手に話を進めるファザールに対して、オレは思わず叫んでしまう。
神の中にはときどき信徒に対しては慈悲深く、愛をもって接していても、恋人に対しては時に放蕩でなおかつ愛情が冷めれば非道な扱いをする存在がいる。
このタイプで元の世界において特に有名なのはイシュタルだろう――日本だととある有名なゲームでそれを元ネタにした『イ○ター』の方が有名になってしまった気がするが。
まあファザールもそこまで深刻だとまでは思ってはいない筈だが、それでもオレが気まぐれにあちこち放浪して、数多くの『恋人』を作っているという話を半分でも信じているなら、テマーティンに対する態度を心配するのは理解出来る。
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