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第16章 破滅の聖者
第601話 ファザール達から見た場合について……
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このオレがあちこちに恋人をもうけていると誤解しているところは仕方ない。
テマーティン本人が勝手に『恋人』を自称していて、他の連中も全員同じなんだけど、そこれは目をつぶろうじゃ無いか。
しかしオレがその恋人をもてあそんで、飽きたら酷い目に遭わせる可能性があると思われているとはあんまりではないか。
「ファザールさん……いくら何でも今の言葉はないですよ……」
オレは少なからぬ怒りを押し殺しつつ、ファザールを睨み付ける。
ここでファザールはいかにもすまなさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。小官の心配が先に立って……」
まあファザールの気持ちは分からないでもない。
忠誠を誓っているテマーティン王子は、善人で寛容な反面、立場をわきまえず、危険を顧みない行為を好きでやってるのかと言いたくなるような、向こう見ずな一面のある男だ。
もしもオレが『あちこちで恋人を作っては、平然と捨てる』ような真似をしていたとしても、テマーティンは自分の地位をかけて『火遊び』をしかねない
ひょっとすると捨てられても気にせず、追い求めるという展開もあるかもしれない――世の中、そういう『悪い女に引っかかって破滅する男』は珍しくないからな。
もちろんオレには『恋人』なんぞ一人もいないし、ましてや男を弄び、飽きたら捨てるなどとは考えた事もない。
だけどファザールからすれば、万一にもそんな展開になったら、下手をすれば国が乱れかねないという危惧があったのだろう。
「実のところアルタシャ様には本当に大勢、恋人がいるのかどうか、小官は半信半疑でした」
そりゃそうだ。
テマーティンの屋敷にご厄介になっていたときは、かたくなに誘いを断っていたからな。
一国の王太子ですら応じないオレが、そうそう他のところで恋人を作るはずがないだろう。
「そうですよ。わたしにはそんな関係の男性はいません」
「しかし聞くところによれば、あなた様は我が国を出た直後にマニリア帝国で後宮に入っておられたとか……それは嘘だったのですか?」
うげえ。そういえばそうだった。
テマーティンの誘いをかたくなに断っていたオレが、その直後に他国で『皇帝の女』になっていたと聞けば、そりゃまあ気にならない方がおかしいか。
「殿下の元では着飾って同行する事すら拒絶されていたのに、その話を聞いたときには、自分にいかなる落ち度があったのかと、殿下は本当にお悩みでしたよ」
オレはテマーティンのところにいた時は、まだ性転換されてから間が無かったので、女性の装いをする事をかたくなに拒んでいたからなあ。
ああ。思い返すとつくづくオレ自身変わってしまったものだ。
あの当時のオレが今の自分を見たらどう思うだろうか。そんな下らなく無意味な考えが脳裏をよぎるが、今はそれどころではない。
「確かにわたしは一時、マニリア帝国の後宮にいましたけど――」
「やっぱりマニリア帝国の後宮で起きた出来事は本当だったのですね?」
うがあ。確かにオレが後宮で過ごしていたのは事実だが、それでも『皇帝の女』になったわけでは絶対にない。
しかしそんな事を口にしたところで、あまりに説得力が無いとは理解しているつもりだ。
何しろ皇帝のウァリウスもまたオレの恋人を自称しているからな。
確かにテマーティンやファザールの視点からすれば、かの王子の元を出ていってからオレが恋人をあちこち作っては放浪しているのだと思われても仕方ない。
「もしもあなた様がそのままマニリア帝国におられたのならば、殿下は戦争まで引き起こしかねない勢いでした」
「いくら何でも冗談ですよね?!」
それはマジでシャレではすまないぞ。オレの身柄を巡って戦争など引き起こされたら、こっちがたまったもんじゃない。
自分が『傾国の女』になってしまうなど、想像するだけで背筋が寒くなるよ。
「もちろん小官達は必死で止めましたが、殿下はそこまで本気であられたということですよ」
そういってファザールはちょっとばかり恨めしそうにオレを睨む。
テマーティンが暴走しかけたのはたぶんオレがかたくなに彼の誘いを受け付けずに、ドレスをまとうことすら拒絶していたにも関わらず、その直後に『皇帝の女』になった事なんだろうなあ。
オレがテマーティンの立場でもそりゃまあ納得は出来ないだろうとは思うよ。
「先ほど申し上げた通り、あなた様がどこに恋人をつくっていても殿下は気にはなさりません。しかし『殿下だけ』を恋人に選ばれなかったとしたらその理由ぐらいはお教え下さい」
もうこうなっては説得力があろうがなかろうが、真実を答えるだけだ。
オレにはそれしか選択肢が無いと言うべきだろうけど。
「ハッキリと申し上げておきますけど、わたしは本当に恋人などいないのです。後宮にいたのも相応の理由があったからですけど、あくまでも困っている人を助けるためでした」
「それは本当なのですか? しかしマニリア帝国ではあなた様が――」
「同じ事をテマーティン王子もなさっておられるでしょう。皆さんがめいめい勝手にわたしの恋人を名乗っているだけですよ!」
信じてもらえるかどうか分からなかったけどオレが必死に訴えるのを聞いて、ファザールは息を呑んだ。
テマーティン本人が勝手に『恋人』を自称していて、他の連中も全員同じなんだけど、そこれは目をつぶろうじゃ無いか。
しかしオレがその恋人をもてあそんで、飽きたら酷い目に遭わせる可能性があると思われているとはあんまりではないか。
「ファザールさん……いくら何でも今の言葉はないですよ……」
オレは少なからぬ怒りを押し殺しつつ、ファザールを睨み付ける。
ここでファザールはいかにもすまなさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。小官の心配が先に立って……」
まあファザールの気持ちは分からないでもない。
忠誠を誓っているテマーティン王子は、善人で寛容な反面、立場をわきまえず、危険を顧みない行為を好きでやってるのかと言いたくなるような、向こう見ずな一面のある男だ。
もしもオレが『あちこちで恋人を作っては、平然と捨てる』ような真似をしていたとしても、テマーティンは自分の地位をかけて『火遊び』をしかねない
ひょっとすると捨てられても気にせず、追い求めるという展開もあるかもしれない――世の中、そういう『悪い女に引っかかって破滅する男』は珍しくないからな。
もちろんオレには『恋人』なんぞ一人もいないし、ましてや男を弄び、飽きたら捨てるなどとは考えた事もない。
だけどファザールからすれば、万一にもそんな展開になったら、下手をすれば国が乱れかねないという危惧があったのだろう。
「実のところアルタシャ様には本当に大勢、恋人がいるのかどうか、小官は半信半疑でした」
そりゃそうだ。
テマーティンの屋敷にご厄介になっていたときは、かたくなに誘いを断っていたからな。
一国の王太子ですら応じないオレが、そうそう他のところで恋人を作るはずがないだろう。
「そうですよ。わたしにはそんな関係の男性はいません」
「しかし聞くところによれば、あなた様は我が国を出た直後にマニリア帝国で後宮に入っておられたとか……それは嘘だったのですか?」
うげえ。そういえばそうだった。
テマーティンの誘いをかたくなに断っていたオレが、その直後に他国で『皇帝の女』になっていたと聞けば、そりゃまあ気にならない方がおかしいか。
「殿下の元では着飾って同行する事すら拒絶されていたのに、その話を聞いたときには、自分にいかなる落ち度があったのかと、殿下は本当にお悩みでしたよ」
オレはテマーティンのところにいた時は、まだ性転換されてから間が無かったので、女性の装いをする事をかたくなに拒んでいたからなあ。
ああ。思い返すとつくづくオレ自身変わってしまったものだ。
あの当時のオレが今の自分を見たらどう思うだろうか。そんな下らなく無意味な考えが脳裏をよぎるが、今はそれどころではない。
「確かにわたしは一時、マニリア帝国の後宮にいましたけど――」
「やっぱりマニリア帝国の後宮で起きた出来事は本当だったのですね?」
うがあ。確かにオレが後宮で過ごしていたのは事実だが、それでも『皇帝の女』になったわけでは絶対にない。
しかしそんな事を口にしたところで、あまりに説得力が無いとは理解しているつもりだ。
何しろ皇帝のウァリウスもまたオレの恋人を自称しているからな。
確かにテマーティンやファザールの視点からすれば、かの王子の元を出ていってからオレが恋人をあちこち作っては放浪しているのだと思われても仕方ない。
「もしもあなた様がそのままマニリア帝国におられたのならば、殿下は戦争まで引き起こしかねない勢いでした」
「いくら何でも冗談ですよね?!」
それはマジでシャレではすまないぞ。オレの身柄を巡って戦争など引き起こされたら、こっちがたまったもんじゃない。
自分が『傾国の女』になってしまうなど、想像するだけで背筋が寒くなるよ。
「もちろん小官達は必死で止めましたが、殿下はそこまで本気であられたということですよ」
そういってファザールはちょっとばかり恨めしそうにオレを睨む。
テマーティンが暴走しかけたのはたぶんオレがかたくなに彼の誘いを受け付けずに、ドレスをまとうことすら拒絶していたにも関わらず、その直後に『皇帝の女』になった事なんだろうなあ。
オレがテマーティンの立場でもそりゃまあ納得は出来ないだろうとは思うよ。
「先ほど申し上げた通り、あなた様がどこに恋人をつくっていても殿下は気にはなさりません。しかし『殿下だけ』を恋人に選ばれなかったとしたらその理由ぐらいはお教え下さい」
もうこうなっては説得力があろうがなかろうが、真実を答えるだけだ。
オレにはそれしか選択肢が無いと言うべきだろうけど。
「ハッキリと申し上げておきますけど、わたしは本当に恋人などいないのです。後宮にいたのも相応の理由があったからですけど、あくまでも困っている人を助けるためでした」
「それは本当なのですか? しかしマニリア帝国ではあなた様が――」
「同じ事をテマーティン王子もなさっておられるでしょう。皆さんがめいめい勝手にわたしの恋人を名乗っているだけですよ!」
信じてもらえるかどうか分からなかったけどオレが必死に訴えるのを聞いて、ファザールは息を呑んだ。
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