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第16章 破滅の聖者
第609話 勝利の後で
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オレがまたしても望みもしない『女神』としてのエピソードを新しく作ってしまった事を察したところで、兵士達は口々に叫んでいた。
「アルタシャ様がおられるなら我らの勝利は間違いなしだ!」
「アンデッドなど幾ら押し寄せても物の数ではないぞ!」
兵士たちはアンデッドの大軍――実際にはそれほど凄い数でも無かったけど――を大した損害も無く撃退したことで実に意気軒昂だ。
もっともそんな調子に乗った姿を見て、オレの方はむしろ不安になってくる。
今回、敵は明らかに様子見をしてきただけで、もしもこのまま進軍したら、今度は相手の有利な場所で待ち構えつつ、更なる戦力で攻撃してくる事も十分にありうるのだ。
とりあえず敵は視界内はもちろんオレの『鷹の目』の範囲内にも存在しない事を確認した上で、オレは勝利した後とは思えない険しい表情のファザールに問いかける。
「これからどうされるおつもりですか?」
「残念ですが、撤退しかないでしょう」
ファザールは悔しげに唇を噛む。
今回の戦闘では犠牲は少なかったとは言え、もう矢も尽きているし、何より敵が捨て駒をぶつけてきただけであって、こんな戦いを繰り返していたら確実にこちらが戦力をすり減らしていくだけの不毛な消耗戦になるのは明らかだ。
一度、撤退して今回得られた情報を元に万全の準備を整えた上で、今度こそ精鋭を連れてきて、アンデッドや病の精霊を操っている連中を討伐するのが正しい選択というものだろう。
少なくともファザールは、こんな小さな勝利で調子に乗るような愚かな人間では無いが、それでも明らかに気分はすぐれないらしい。
オレの知る限りファザールの主君であるテマーティンはちゃんとした判断の上でよりよい選択として撤退した事を責めるような器の狭い人間では無い。
だがこの場合、むしろ調子に乗って自ら討伐軍を率いてやってくる可能性が高い、大胆というよりは出しゃばりで軽率な男である。
いや。それどころかオレがいると知ったら、間違いなくやってきて『いい格好』をしようとするだろう。
そんな話を聞いても、むしろ民衆の側からすれば喜んで歓迎しそうな王太子ではあるが、部下の側からすればたまったものではあるまい。
幾ら精鋭の兵士を多数連れてきて護衛させるとしても、最前線となればどのような不測の事態が起きるかは見当もつかない。
テマーティンの身にもしもの事があれば、側近のファザールが詰め腹を切るぐらいでは済まないのだ。
そんなわけでファザールにとってはかなり気が重いのだろうな。
「とにかく撤退の準備をしますので、申し訳ありませんがアルタシャ様もお手伝い下さいますか?」
ここで『手伝う』というのは文字通りの意味だけでなく、今後も同行しろと言っているのだろうな。
まあファザールとしたらオレがテマーティンのところに顔を出せば、あの王太子は喜んでオレを王都にまで連れて帰ろうとするだろうから、少なくとも危険から遠ざかってくれるだろうという計算もあるに違いない。
「手伝うのは構いません。しかしファザールさんには申し訳ないのですが――」
「その後で我らと別れて、お一人で行動されるおつもりなのですね」
ファザールはこれ見よがしにため息をつく。
本当に苦労の多い人でオレとしても申し訳ないとは思うが、ここでテマーティンと再会して『お持ち帰り』されるわけにはいかないのだ。
「分かりました……」
ファザールは納得したというよりは『どうせ自分が言っても聞き入れはしないだろう』と諦めた様子で、兵士達の方に足を向けた。
オレとしてはその哀愁まで漂う背中についつい頭を下げずにはいられなかった。
しばしの後、オレは他の負傷兵の手当をしていたノイエルのところを訪れる。
「すみません! そちらの包帯を取って下さい! それとこの薬を――」
村人の手助けを受けつつ、忙しそうに負傷兵の手当をしている彼女にはちょっとばかりすまない気もするが、ここは出しゃばりをさせてもらおう。
「すみません。少しばかりいいですか」
「あの……アルタシャ様?」
オレは少しばかり困惑しているノイエルの前で、負傷兵全員に片っ端から回復魔法をかけて傷を治す。
「おお! 傷が治った!」
「さすがは女神様だ!」
「……」
兵士達は口々に感謝を述べてくれるが、横でノイエルはかなり複雑な表情を浮かべている。
もちろんオレと対等に回復魔法を使える人間など、大陸を旅して回ってきても一人もいなかったので、ようやく聖女として一人前になったばかりのノイエルでは比較にもならないのは当然なのだ。
しかし曲がりなりにもエリートのはずの彼女の前で、こんなことをしたら自信を喪失させてしまわないかとオレの方が不安になってくる。
とりあえず兵士達が感謝を述べて立ち去ったあと、オレはかなり複雑な表情を浮かべているノイエルに向き直る。
「出しゃばりな真似をしたかもしれませんが――」
「申し訳ありません!」
「え?」
いきなり頭を下げられてオレの方がちょっとばかり困惑する。
「先ほどもお力を見せていただいていたのに、正直に言えば今まであなた様の事を疑っていたのです」
ああ。なるほどな。オレの偽者があちこちにいることを知っていたら、疑うのはむしろ当然と言うものだ。
今さらそんな事など気にしていられないよ。
しかし我ながら、本当にいろいろな事にすっかり慣れてしまったものだと思わずにはいられないなあ。
「アルタシャ様がおられるなら我らの勝利は間違いなしだ!」
「アンデッドなど幾ら押し寄せても物の数ではないぞ!」
兵士たちはアンデッドの大軍――実際にはそれほど凄い数でも無かったけど――を大した損害も無く撃退したことで実に意気軒昂だ。
もっともそんな調子に乗った姿を見て、オレの方はむしろ不安になってくる。
今回、敵は明らかに様子見をしてきただけで、もしもこのまま進軍したら、今度は相手の有利な場所で待ち構えつつ、更なる戦力で攻撃してくる事も十分にありうるのだ。
とりあえず敵は視界内はもちろんオレの『鷹の目』の範囲内にも存在しない事を確認した上で、オレは勝利した後とは思えない険しい表情のファザールに問いかける。
「これからどうされるおつもりですか?」
「残念ですが、撤退しかないでしょう」
ファザールは悔しげに唇を噛む。
今回の戦闘では犠牲は少なかったとは言え、もう矢も尽きているし、何より敵が捨て駒をぶつけてきただけであって、こんな戦いを繰り返していたら確実にこちらが戦力をすり減らしていくだけの不毛な消耗戦になるのは明らかだ。
一度、撤退して今回得られた情報を元に万全の準備を整えた上で、今度こそ精鋭を連れてきて、アンデッドや病の精霊を操っている連中を討伐するのが正しい選択というものだろう。
少なくともファザールは、こんな小さな勝利で調子に乗るような愚かな人間では無いが、それでも明らかに気分はすぐれないらしい。
オレの知る限りファザールの主君であるテマーティンはちゃんとした判断の上でよりよい選択として撤退した事を責めるような器の狭い人間では無い。
だがこの場合、むしろ調子に乗って自ら討伐軍を率いてやってくる可能性が高い、大胆というよりは出しゃばりで軽率な男である。
いや。それどころかオレがいると知ったら、間違いなくやってきて『いい格好』をしようとするだろう。
そんな話を聞いても、むしろ民衆の側からすれば喜んで歓迎しそうな王太子ではあるが、部下の側からすればたまったものではあるまい。
幾ら精鋭の兵士を多数連れてきて護衛させるとしても、最前線となればどのような不測の事態が起きるかは見当もつかない。
テマーティンの身にもしもの事があれば、側近のファザールが詰め腹を切るぐらいでは済まないのだ。
そんなわけでファザールにとってはかなり気が重いのだろうな。
「とにかく撤退の準備をしますので、申し訳ありませんがアルタシャ様もお手伝い下さいますか?」
ここで『手伝う』というのは文字通りの意味だけでなく、今後も同行しろと言っているのだろうな。
まあファザールとしたらオレがテマーティンのところに顔を出せば、あの王太子は喜んでオレを王都にまで連れて帰ろうとするだろうから、少なくとも危険から遠ざかってくれるだろうという計算もあるに違いない。
「手伝うのは構いません。しかしファザールさんには申し訳ないのですが――」
「その後で我らと別れて、お一人で行動されるおつもりなのですね」
ファザールはこれ見よがしにため息をつく。
本当に苦労の多い人でオレとしても申し訳ないとは思うが、ここでテマーティンと再会して『お持ち帰り』されるわけにはいかないのだ。
「分かりました……」
ファザールは納得したというよりは『どうせ自分が言っても聞き入れはしないだろう』と諦めた様子で、兵士達の方に足を向けた。
オレとしてはその哀愁まで漂う背中についつい頭を下げずにはいられなかった。
しばしの後、オレは他の負傷兵の手当をしていたノイエルのところを訪れる。
「すみません! そちらの包帯を取って下さい! それとこの薬を――」
村人の手助けを受けつつ、忙しそうに負傷兵の手当をしている彼女にはちょっとばかりすまない気もするが、ここは出しゃばりをさせてもらおう。
「すみません。少しばかりいいですか」
「あの……アルタシャ様?」
オレは少しばかり困惑しているノイエルの前で、負傷兵全員に片っ端から回復魔法をかけて傷を治す。
「おお! 傷が治った!」
「さすがは女神様だ!」
「……」
兵士達は口々に感謝を述べてくれるが、横でノイエルはかなり複雑な表情を浮かべている。
もちろんオレと対等に回復魔法を使える人間など、大陸を旅して回ってきても一人もいなかったので、ようやく聖女として一人前になったばかりのノイエルでは比較にもならないのは当然なのだ。
しかし曲がりなりにもエリートのはずの彼女の前で、こんなことをしたら自信を喪失させてしまわないかとオレの方が不安になってくる。
とりあえず兵士達が感謝を述べて立ち去ったあと、オレはかなり複雑な表情を浮かべているノイエルに向き直る。
「出しゃばりな真似をしたかもしれませんが――」
「申し訳ありません!」
「え?」
いきなり頭を下げられてオレの方がちょっとばかり困惑する。
「先ほどもお力を見せていただいていたのに、正直に言えば今まであなた様の事を疑っていたのです」
ああ。なるほどな。オレの偽者があちこちにいることを知っていたら、疑うのはむしろ当然と言うものだ。
今さらそんな事など気にしていられないよ。
しかし我ながら、本当にいろいろな事にすっかり慣れてしまったものだと思わずにはいられないなあ。
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