異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第16章 破滅の聖者

第610話 ノイエルとの会話の後で

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 ここでノイエルはオレに対して問いかけてくる。

「それではいくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ。構いませんよ」

 何でも答えるというわけにはいかないけどね。
 ただ聖女教会が現状でオレの事をどうするつもりなのかは確認しておきたい。
もちろんノイエルが上層部の意向を知っている筈が無いけど、それでも聖女達にどのような指示が出ているのかは分かる筈だ。

「非礼を承知で伺いますが、あなた様は本当に我らが女神の『選ばれし者』なのですか?」

 いきなり核心をついてきたな。
 ノイエルからすれば当然の疑問だけど、オレとしたらちょっと返答に困る。
 聞いたところではオレについて聖女教会は公式には何の声明も出していないそうだが、その理由は恐らく『オレの行動の意図が読めない』からだろう。
 実際にあの女神の化身になった事は何度もあるから、オレが『女神に選ばれし者』なのは間違いないはずだ。
 だがそうするとノイエルにすれば『なぜ教会は沈黙しているのか』とか、オレに対しても『どうして名乗り出ないのか』とか次の疑問が出てくるのは当然だ。
 オレとしてはただ単に聖女教会とは関わり合いになりたくないだけなので、ここはちょっとばかり誤魔化す事にしよう。

「聖女教会からどのように評価されているかは、わたしには関係の無い事です」

 オレの返答を受けて、ノイエルは勢い込んでまた問いかけてくる。

「それではやはりあなた様は女神イロールから直接神命を受けておられるのであって、教会とは無縁に行動されているのですね?」

 なるほど。オレ自身の事を知らなければ『聖女教会の組織とは無縁にあちこち放浪して、女神の化身と称えられている相手』については、そういう解釈がむしろ自然だろうな。
 だけどそれも間違いです。
 そもそもあの女神と何度もやり取りはしたけど『神命』とか、そんなものは何も聞いていないからな。
 力を貸してもらった事は何度もあるけど、特に何かを命じられたり指導されたりした覚えは無い。
 たぶん聖女教会にも特別、何かを命じたりはしていないのだろう。
 あの女神はマジで世俗の事や、信者組織について興味が無いらしい。
 何しろ聖女教会が回復魔法の素養のある男子を性転換させている事すら知らないのだから、オレにとっては本当に頼りにならない守護女神様だよ。
 もっとも元の世界でも、こちらの世界でも『頼りになる神様』に出会った事は一度も無いけどな。
 しかしオレがどう答えてよいのか悩んでいると、ノイエルはまたしても頭を下げる。

「すみません。女神とあなた様のやり取りの内容を駆け出しに過ぎない私ごときが聞くなど分をわきまえない事でした!」

 いや。別にそんな事は考えていないけど、勝手に勘違いしてくれたのならここは適当にあわせておこう。
 それと他にも聞きたい事もある。
 つい先ほど出会った『世界を救う』と言い切る奇妙な少年、メトゥサイラの件だ。

「話は変わりますが、ノイエルさんは『メトゥサイラ』という名前について聞き覚えはありますか?」
「いえ……存じませんが、いったいどなたなのですか?」

 やっぱり知らないか。まあ大陸を駆け回ってきたオレでも知らないのだから、少なくとも広く知られた高名な存在では無いのだろう。
 しかしそうするといったい何をどうすればメトゥサイラが唱えるように『この世界を救う』などという事が可能になるのか、さっぱり見当もつかないな。

 この世界では基本的に信徒から捧げられた崇拝が神の力の源だ。
 だからファンタジーでよくあるように信徒が殆どいない『古代神』が復活しても、いきなり世界を席巻する力を得ることなどありえず、まず信徒を獲得するところから始めなければならないのだ。

「そのお方はアルタシャ様とはいかなる関係なのでしょうか? 差し支えが無ければお教え下さい」
「ちょっとした知り合いなのですが、この近くで別れてしまったのですよ」
「もしや。アルタシャ様の『思い人』であられるのですか?」

 なんでやねん! まったくどうしてこういう方向に話を持って行きたがるかな。
 まあファザールと同様、オレがあちこちで『恋人を作っている』という話を聞いていたら、ノイエルがそっちに関心を持つのは当然か。

「いえ。本当にただの知り合いなのですよ」
「そうですか……お力になれなくてすみません」

 やっぱり駆け出しの下っ端に過ぎないノイエルの知っている事はこの程度か。
 まあ一般の聖女がオレの事を『教会組織とは無縁に、イロールの神命を受けて活動している』と考えているらしい事が分かっただけでも、成果はあったと見るべきか。
 そのような認識を有している聖女なら、少なくともオレの行動を邪魔したり、余計な詮索をしたりしないだろうからな。


 オレはノイエルといったん別れると、撤退の準備を始めている兵士達を見回す。
 村人の多くが家財道具をまとめているのを見ると、彼らも兵士と同行して逃げ出すつもりらしい。
 まああんなアンデッドの襲撃を目の当たりにしたのなら、避難しようと思うのは当然か。
 しかしその村人達の保護もせねばならないとなると、撤退時にいろいろと困った事になるのは明白だ。
 家財道具や財産、家畜をなるだけ多く持ち去りたい村人と、急いで撤退したいファザール達ではやはりすりあわせが大変だろう。
 揉めるようならばオレが出張る必要があるかもしれない。
 そう思って足を踏み出そうとした時、視界の片隅に写った人影にオレは足を縫い付けられたように硬直した。
 それは村の柵の外から、じっとオレを見つめているメトゥサイラの姿だったのだ。
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