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第16章 破滅の聖者
第624話 『破滅』なのか『救済』なのか
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自分たちの考える『正しいザスターニック』について熱く語る戦士たちを前にして、事態がかなり深刻になりつつある嫌な予感を抱いていた。
それは『虚ろなる者』が一般の信徒に対して約束する救済の中身が
『知性も無く、自分達の境遇も理解出来ない下級アンデッドとして永遠にこき使われる』
というものだったのと同じようなものが、目の前にいる戦士達の唱える『世界を救う』には感じられたのだ。
ひょっとするとメトゥサイラは同じように他の神々の信徒も、そのような考えに引き込む事が可能なのかもしれない。
前に出会った『物事に絶対の善も悪もなく、相対的に考えるべき』という思想の神のウルハンガは自分の思想を他の神の信徒にも広める事で不滅の存在となっていた。
同じようにメトゥサイラは『苦痛に満ちた世界を救済すべし』という使命を他の神の信徒に刷り込むことで、己の力に変えているのではないだろうか。
そうするとアンデッドや病の精霊が幅を利かせている、この近辺は救いを求める人々を引き込むには格好の場所という事になるな。
それにウルハンガがその思想の広まったところに顕現できるように、メトゥサイラもまた『苦痛に満ちた世界からの救い』を求める人々の声のあるところに顕現できる存在なのかもしれない。
しかし当たり前の話だが、この世界が苦痛に満ちているとか、そのろくもでない世界から救済するとか、そのような教えそのものはさして珍しいものではないが、同時にそれだけでは大した力にはならないはずだ。
過去に幾柱のもの神を見てきたオレからすると、メトゥサイラ自身にはそれほど大した力はない。
直接出会った相手を、目の間にいるザスターニック信徒たちのように同じ考えに引き入れる事が出来たとしても、それが一気に広まりを見せて元からの教義を持つ信徒たちまでゴッソリと引き入れられるだろうか?
いくら何でもそれは無理があるだろう。
むしろ多数派と明らかに異なる教義を有する勢力の存在が知られたら『異端』として――場合によっては流血を伴ってでも――排除しようとするのがこの世界における一般的な反応だ。
だからメトゥサイラが本当に、オレが考えている通りの能力を有していたとしても、それで世界をどうにかできるとは考えにくい。
しかしそれはあくまでも『今のメトゥサイラ』についての話だ。
以前に考えたようにメトゥサイラは幾つもの名前を有していて、ひょっとすると過去には別の名前で大きな支持を得ていた可能性もあるはず。
それならその支配下の地域では、他の地域と同じ神を崇めつつもメトゥサイラの教えを受けて『苦痛に満ちた世界を救う』ことを教義で使命とした教団が生まれたのかもしれない。
だけど大陸を駆け巡り、あちこちで知識を仕入れてきたオレでもそのような話を聞いた事が無いとすれば、少なくとも千年前のウルハンガのように、広大な支配地域を有する帝国を作ったわけではないのだろう。
まあ元の世界でも『物事には絶対の善も悪もなく、相対的に考えろ』という教えはかなり一般的にはなっていたが『苦痛に満ちた世界を救済する』という使命に燃える人間は、ごく少数だったし、その殆どは広い支持など受けなかったからな。
そして残念ながら『世界の救済』を唱える存在が、時には『救済を受けたければ全財産を差し出せ』などと唱えて私腹を肥やす事もあれば、最悪の場合には虐殺のような口にするのもはばかる所行に手を染める事すらあった。
正直に言えば、ここにいる『正しい信仰』に目覚めたザスターニック神の信徒達も既にそこに片足を突っ込んでしまっているかもしれないのだ。
だがそれでもオレが出会ったメトゥサイラ本人には、悪意や私利私欲といったものはまるで感じられなかった。
そのあたりはウルハンガが自分の思想を広める事が最優先であって、それを誤って解釈して悪行に手を染めたり、自分が敵対勢力から悪魔のごとく忌み嫌われても興味がなかったりするのと同様に、メトゥサイラも『苦痛に満ちた世界よりの救済』を行うように導きはしても、その中身には頓着しないタイプなのかもしれない。
とにかく今は急いでメトゥサイラを探し出せねばならない。
「皆さんのお話は分かりました。それではわたしは失礼させていただきます」
「そうか。お前がまたメトゥサイラに会うことがあれば、我らはその教えを実践すべく尽力していると伝えてくれ」
「……分かりました。それではこの地でアンデッド退治に尽力して下さい。きっとザスターニック神にお喜びになられるでしょう」
「言われるまでもないことだ」
オレとしては少しでも彼らが『世のため人のため』になるように誘導するしかない。
そんなわけで複雑な思いを抱きつつ、オレは『正しき信仰』に導かれたという戦士達と別れる事となった。
どう考えても彼らの向かう先には苦難どころか、下手をすれば破滅しか横たわっていないようにも思えるが、恐らくは自分達がこの苦痛に満ちた世界より解放されたらそれでよいと思っているのだろうな。
その中身が本当の『破滅』なのか『救済』なのかは彼らにしか分からない事なのだ。
それは『虚ろなる者』が一般の信徒に対して約束する救済の中身が
『知性も無く、自分達の境遇も理解出来ない下級アンデッドとして永遠にこき使われる』
というものだったのと同じようなものが、目の前にいる戦士達の唱える『世界を救う』には感じられたのだ。
ひょっとするとメトゥサイラは同じように他の神々の信徒も、そのような考えに引き込む事が可能なのかもしれない。
前に出会った『物事に絶対の善も悪もなく、相対的に考えるべき』という思想の神のウルハンガは自分の思想を他の神の信徒にも広める事で不滅の存在となっていた。
同じようにメトゥサイラは『苦痛に満ちた世界を救済すべし』という使命を他の神の信徒に刷り込むことで、己の力に変えているのではないだろうか。
そうするとアンデッドや病の精霊が幅を利かせている、この近辺は救いを求める人々を引き込むには格好の場所という事になるな。
それにウルハンガがその思想の広まったところに顕現できるように、メトゥサイラもまた『苦痛に満ちた世界からの救い』を求める人々の声のあるところに顕現できる存在なのかもしれない。
しかし当たり前の話だが、この世界が苦痛に満ちているとか、そのろくもでない世界から救済するとか、そのような教えそのものはさして珍しいものではないが、同時にそれだけでは大した力にはならないはずだ。
過去に幾柱のもの神を見てきたオレからすると、メトゥサイラ自身にはそれほど大した力はない。
直接出会った相手を、目の間にいるザスターニック信徒たちのように同じ考えに引き入れる事が出来たとしても、それが一気に広まりを見せて元からの教義を持つ信徒たちまでゴッソリと引き入れられるだろうか?
いくら何でもそれは無理があるだろう。
むしろ多数派と明らかに異なる教義を有する勢力の存在が知られたら『異端』として――場合によっては流血を伴ってでも――排除しようとするのがこの世界における一般的な反応だ。
だからメトゥサイラが本当に、オレが考えている通りの能力を有していたとしても、それで世界をどうにかできるとは考えにくい。
しかしそれはあくまでも『今のメトゥサイラ』についての話だ。
以前に考えたようにメトゥサイラは幾つもの名前を有していて、ひょっとすると過去には別の名前で大きな支持を得ていた可能性もあるはず。
それならその支配下の地域では、他の地域と同じ神を崇めつつもメトゥサイラの教えを受けて『苦痛に満ちた世界を救う』ことを教義で使命とした教団が生まれたのかもしれない。
だけど大陸を駆け巡り、あちこちで知識を仕入れてきたオレでもそのような話を聞いた事が無いとすれば、少なくとも千年前のウルハンガのように、広大な支配地域を有する帝国を作ったわけではないのだろう。
まあ元の世界でも『物事には絶対の善も悪もなく、相対的に考えろ』という教えはかなり一般的にはなっていたが『苦痛に満ちた世界を救済する』という使命に燃える人間は、ごく少数だったし、その殆どは広い支持など受けなかったからな。
そして残念ながら『世界の救済』を唱える存在が、時には『救済を受けたければ全財産を差し出せ』などと唱えて私腹を肥やす事もあれば、最悪の場合には虐殺のような口にするのもはばかる所行に手を染める事すらあった。
正直に言えば、ここにいる『正しい信仰』に目覚めたザスターニック神の信徒達も既にそこに片足を突っ込んでしまっているかもしれないのだ。
だがそれでもオレが出会ったメトゥサイラ本人には、悪意や私利私欲といったものはまるで感じられなかった。
そのあたりはウルハンガが自分の思想を広める事が最優先であって、それを誤って解釈して悪行に手を染めたり、自分が敵対勢力から悪魔のごとく忌み嫌われても興味がなかったりするのと同様に、メトゥサイラも『苦痛に満ちた世界よりの救済』を行うように導きはしても、その中身には頓着しないタイプなのかもしれない。
とにかく今は急いでメトゥサイラを探し出せねばならない。
「皆さんのお話は分かりました。それではわたしは失礼させていただきます」
「そうか。お前がまたメトゥサイラに会うことがあれば、我らはその教えを実践すべく尽力していると伝えてくれ」
「……分かりました。それではこの地でアンデッド退治に尽力して下さい。きっとザスターニック神にお喜びになられるでしょう」
「言われるまでもないことだ」
オレとしては少しでも彼らが『世のため人のため』になるように誘導するしかない。
そんなわけで複雑な思いを抱きつつ、オレは『正しき信仰』に導かれたという戦士達と別れる事となった。
どう考えても彼らの向かう先には苦難どころか、下手をすれば破滅しか横たわっていないようにも思えるが、恐らくは自分達がこの苦痛に満ちた世界より解放されたらそれでよいと思っているのだろうな。
その中身が本当の『破滅』なのか『救済』なのかは彼らにしか分からない事なのだ。
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