異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第16章 破滅の聖者

第625話 アンデッド教団の巡礼者に対して

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 そんなわけでオレはまた一人で村をめぐることにした。
 いろいろと悩ましい状況だけど、少なくともファザールが新しい軍をここに送り込んで『虚ろなる者』たちを排除できるようになるまでは、オレが地道に頑張るしかないな。
 何日先になるのかは分からないけど、逃げ回りつつこっそりと出会った病人を治療するぐらいならどうにかなるという見通しぐらいはあった。
 しかしそう考えていると、オレの視界には見逃すことの出来ない集団が引っかかる。
 相手はざっと見たところ老若男女が入り交じった十人ほどの集団だ。
 恐らくはこの近辺の農民らしく服装は貧しそうだが、持っているのは手荷物程度なので特に長旅をしようとか、避難しようとしているわけではないらしい。
 大半はお年寄りらしく、若そうなのは先導している男だけのようだ。
 それだけなら特に驚くような事でもないが彼らを先導しているのは、オレが少し前に出会った『旦那』とだけごろつき共に呼ばれていた『虚ろなる者』の教団員だったのだ。
 オレは思わず身を隠して、連中の様子をうかがうがどうやら『旦那』は農民達に愛想よく笑顔を振りまき、同行者の中にいる老人達が疲れた様子でいるのを励ましているらしい。

 これは何が起きているのか考えるまでもない。
 あの『旦那』が農民達を騙して、これから彼らをどこかの『虚ろなる者』の施設にまで誘導して下級アンデッドに変えてしまうつもりなのだ。
 これは出くわしてしまった以上、見逃すわけにはいかない。
 幸いにも先導している『旦那』以外は近隣に住んでいる農家のお年寄りばかりらしく、周囲にもアンデッドはいないようだ。
 まあ『虚ろなる者』の手口からして、脅して無理強いするのではなく救済を約束した上で希望を持った巡礼者を自発的に拠点まで連れ込んでアンデッド化するのだろうから、むしろアンデッドは人目につかないようにしているのだろう。
 これならばオレ一人でもどうにでもなる。
 オレは隠れて近づくと、先頭を歩いている『旦那』に向けて魔力を強化した『平静』カームをかけてその精神をロックする。

「……」

 相手は何も感じる事が出来なくなったようで、ピクリと動きを止めた。
 よし。まずはこれで騙されている人たちを説得して、元いたところに戻ってもらおう。
 それで後は『旦那』を縛り上げて、官憲に突き出せばいいだろう。

「あの……どうしました?」
「早く連れていって下さい。ワシはもう疲れました」

 後からついてきていた老人達は先導していた相手が動かなくなったので、不安にかられているらしい。
 そこでオレがひとまず声をかける。

「すみません。皆さんにちょっと用があります」
「なんじゃ? おめえさんは?」

 当然ながらいきなり現れたオレに対して、老人達は疑念の目を向けてくる。

「言っておくがワシらのような干からびた年寄りから身ぐるみ剥いでもしれておるぞ」
「いいえ。そんな事はしませんけど、わたしの話を聞いて下さい」

 オレが真剣に呼びかけると、少しは関心を持ってくれたようだ。

「まあええが……ワシらはこれから巡礼に向かうんじゃ。あんまり手間はかけんでくれ」
「別にいいじゃないか。どうせわしらには時間なんぞ有り余っておるからのう」
「ただ時間をかけると、聞いている最中にくたばるヤツが出るかもしれんぞ」
「わははは。そりゃそうだ」

 おいおい。不謹慎にも程があるだろ。
 本人達が自虐的に口にしているとはいえ、オレにとっては笑うというよりドン引きですよ。
 しかし今はそんな事に気を取られている場合では無い。

「皆さんは騙されているんです! これからあなた方が行くところありがたい巡礼などではないのですよ!」
「はあ? 何を言っておるんじゃ?」
「ワシらはそこでもうずっと何の苦痛も老いも無く生きる事が出来るんじゃぞ!」

 やっぱりそうか。予想通りだけど、当然ながらその『苦痛も老いもなく生きる』というのは下級アンデッドとして、何も感じる事無く、奴隷労働者か捨て駒戦士として使い潰されるだけなのだ。

「待って下さい。この人は『虚ろなる者』の信徒であって、皆さんをアンデッドに変えてしまうつもりなんです!」

 オレが必死で呼びかけると、さすがに老人達は動きを止める。
 どうやら分かってくれたらしい。これで元いたところに戻ってくれたらいいのだが。

「そうか……やっぱりそんなところ何じゃろうなあ……」
「ホラ見ろ。ワシの言ったとおりじゃろ」

 え? どういうことなの?
 いや。まさかこの人達は薄々何があるのか察していたのに、それでも下級アンデッドにされる事を承知していたというの?

「見ず知らずのワシらの事を心配してくれてありがとうな。しかしお前さんが言った事はだいたいは分かっていたのじゃ」
「どうせこのままではワシらは役立たずの穀潰しとして、邪魔者になるだけだからのう。それなら、この身だけでも誰かの役に立った方がマシじゃろう」

 うがあ。そうか。この世界では老人福祉なんて殆ど進展していないからな。
 彼らは恐らく周囲にいる先達が、働けなくなったところで邪険に扱われ、悲惨な末路を辿った事をずっと見てきたのだろう。
 それで自分達が同じ運命になるぐらいなら、アンデッドでも何でもいいから働ける身体になりたいと思っているらしい。
 長年生きてきて人生に未練が無くなったからこそ、知性の無い下級アンデッドに成り果てても構わないという境地なのか。
 しかしここで引き下がるワケにはいかない!

「とにかくわたしの話を改めて聞いて下さい!」

 そういってオレはいつものようにフードをとって顔をさらす。

「ほう……お前さんは……」
「ワシも昔はこれぐらい美人じゃったかのう」
「おいおい。この娘さんを比べたら、お前さんなんぞ乾いた雑巾程度じゃぞ」

 とりあえずオレの外見を見て、改めて話を聞いてくれる気になったらしい。
 毎度の事だけど、人間は見た目にかなり影響されるものなのだ。

「そうか……お前さんのような綺麗な娘さんが言うなら、今は考え直した方がええかもなあ」

 おい! なんだその下心、いや、あまりにあっさり過ぎる変心は。
 たぶん老い先短いこの人たちにとって、死ぬ事もアンデッドにされる事も『人生に見切りをつけた』という点では大差は無いのか。
 まあいい。この人達の真意はどうあれ一応はオレの言う事を聞いてくれたのだから、今はそれで納得しておこう。
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