異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第17章 海と大地の狭間に

第686話 廃虚の真相は

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 廃墟となった寺院は外からでも、未だ原型を止める石造りの大きなドームが中央にそびえその規模は往時の賑わいを想像させるだけのものだった。
 ただこれだけでは何の神様の寺院なのかはハッキリしない。
 しかし放棄された寺院の場合、何が『出る』か分からないからな。あちこちをうろついている野良精霊が住み着いているぐらいならまだしも、アンデッドの類が巣食っていたら、いろいろと面倒だ。
 そしてヴェガも緊張している様子で廃虚を見つめている。

「相当に古いものだな。かなり前に放棄されたようだ」
「どの神様に捧げられた寺院なのかは分かりますか?」
「古い上にあちこち壊れているからな。残念ながらここからでは見当がつかないな」

 まあ廃虚になってから相当な時間を経ているのは明らかだから、遠目では分からないのは当たり前か。
 普通のファンタジーならこういう廃虚になった寺院跡にはモンスターとお宝が両方、待っているのが定番だけど、少なくともこの世界で『お宝』に出会った事は一度も無いな。

 まあずっと昔に放棄されたところに、もしもお宝がざっくざっくあったら、それはそこに棲み着いている現在の住民のため込んだ――つまり関わり合いになるべきではない――ものということになるので欲しいとも思わないけどさ。
 しかし何らかの手がかりは得られるかもしれないし、何もいないのなら野宿するよりはマシだろう。
ここは一つ中を覗いて見るべきだろうな。

「それではわたしが中に入って見てきますので、皆さんはちょっと待っていて下さい」
「おい! そういう危険な仕事は俺がやるよ」

 ガレリアは身を乗り出してくるけど、申し訳ないがそっちでは不安です。人間相手ならまだしも精霊の類いがいたら、ガレリアではどうしようもないはずだ。

「あなたはエレリアさんを守っていて下さい。そちらの方が重要でしょう?」
「しかしだな――」
「廃虚に魔物がいるという話はよく聞くが、そういうのは多くの場合、山賊の類いが棲み着いていたりするのだ。その場合は私も見逃すワケにはいかんので一緒にいかせてもらおう」

 ヴェガの言葉を聞いて、エレリアも静かに提案してくる。

「ならばいっそみんなで入った方がいいでしょう」
「それはエレリアが危険ではないか?」
「正直に言えばどこにいても、そうそう変わりません。それならばみんな一緒にいた方がまだましでしょう」

 確かに外にいたのなら、今度はケルマル信徒のパトロールにでも見つかって、やっぱり面倒な事になりかねない。
 ガレリア・エレリアのふたりを残していたら、それはそれで心配だな。
 一緒に廃虚を探索して、万一の危険があればオレが踏ん張ればいいだろう。

「おい……俺はそんなに当てにならないのか?」

 ガレリアは不満そうにこぼすが、明言はしていなくとも周囲の空気を敏感に察したのだろうなあ。
 しかし一同は暗黙の了承の元、全員で入る事になったようだ。

「それでは参りましょう」

 そんなわけでオレ達一行は、日が陰りつつある中、廃虚の中に足を踏みいれた。


 かつては数メートルあったとおぼしき寺院を覆う石の壁だが、既に大部分が崩れ落ちていて、亀裂から中に入るのは簡単だった。
 当然ながら敷地の大部分は草が生い茂り、その緑のあちこちにはかつての建物の残骸とおぼしき石材が覗いている。
 ただ霊体を見る『霊視』ソウルサイトでも、いまのところ霊体の存在は感知出来ないので、少なくとも浮遊霊がうろつき回るほどの事は無いようだ。
 また『魔法眼』ウィザード・アイの魔法に引っかかるモノも見当たらないから、魔力の込められた物品も見えるところには残っていないな。
 まあ何も無いなら一晩の宿をどうにか確保すればいいだけだ。
 そう思っていると思わぬ言葉が耳に入ってくる。

「これは……双子神の神殿だぞ」
「え?」

 ガレリアは緊張に満ちた言葉で崩れかけた寺院の礎石に目を向けていた。
 どうやら彫り込んである紋様に目を向けているらしい。
 オレは文書ならば魔法で翻訳できるけど、紋様の場合は残念ながら見ただけで意味は分からない。しかしガレリアにはよく知っているものだったようだ。
 これが双子神の神殿ならば、ひょっとすると何かの手がかりが得られるかもしれない。
 しかし横合いからヴェガが叫ぶ。

「待て! それは違う! これは太陽を司る諸神に捧げられた寺院だ。この建築様式は間違い無い!」
「なんだと! そんなはずはない! この礎石に刻まれているのは間違い無く双子神を象徴するものだ」
「バカな事を言うな――」

 二人が急に口論を始めたが、宗教絡みでは妥協出来なくなるのは、どこでも一緒なのだな。
 しかしこのままではラチがあかないので、ここはオレが見当のついた事でとりなそう。

「待って下さい。たぶんお二人とも言っている事は間違いではありませんよ」
「どういうことだ?」
「なんだって?」
「たぶん元々、ここは双子神の神殿だったのでしょう。しかし何らかの事情で放棄されて、その後で太陽信仰の人たちがそこに改めて寺院を建てたのでしょう」

 普通に考えると双子神の伝説にあった火山の噴火により、この寺院は完全に埋まる事は無いにしても、大きな損害を受けて放棄され、その跡地に入植したケルマル信徒が太陽を崇拝する寺院を建てたけど、それもまた廃虚になっているということだろう。
 やっぱりいろいろと面倒なところに足を踏みいれてしまったわけだ。
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