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第17章 海と大地の狭間に
第707話 双子神の教団のおこりとは
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スキリオスと名乗った亡霊はガレリアの口で語り出す。
『どうやらこの者は我が遠い末裔のようだな。だから相性がよいらしいな』
その話はよくあるパターンではあるけど、そんな事が本当にわかるんだろうか。それに火山の噴火で当時の住民は根こそぎ命を落としているはずだ。
ここでスキリオスはこちらの疑念の視線に気付いたらしく、説明を追加する。
『我がここに幽閉された時、親族や支持していた者は残らず追放されたのだ。そのお陰で遠く離れた地にて我が血脈が受け継がれたとすれば、これも神のご加護というものか』
似たような話は以前に『卵さらい』の街がドラゴンに滅ぼされた時にも聞いたなあ。
そしてスキリオスは周囲を見回して、感嘆の声をこぼす。
『久しぶりに肉体を得たと思ったら、随分と美しい花園で目覚めたものだな』
こいつやっぱりガレリアの先祖かもしれん。
いや。それよりも何らかの手がかりが得られるなら、今は付き合うしかない。
場合によってはある程度『サービス』ぐらいはしてやるさ。
重要な情報を得て、それでスキリオスが穏便にこの世を去って行ってくれるなら少しぐらいの羞恥心は犠牲にしても構わない。
そんなわけでオレが前に立って、問いかけるとしよう。
「それでうかがいますが、あなたはどうしてこんなところに幽閉されていたのですか?」
ヴェガの言葉によれば、この部屋は高貴な地位にある人間を幽閉するためのものであり、ここが高位聖職者の区画ならば、スキリオスは何か重大な宗教上の罪を犯したか、もしくは宗派対立があって身柄を拘束されたと考えるべきだろう。
『我は神の御子から新たな信仰を作り出した。それが非難されたのだ』
え? スキリオスが本当にガレリア・エレリアの先祖であって、しかもそれで『神の御子から新たな信仰を作り出した』という言葉が本当だとしたら、もしかすると――
「それではあなたが海の女王リーナ神と大地の王レリオン神の双子の神を崇拝する教団をつくったのですか?」
『おお。その通りだ』
スキリオスはいかにも嬉しげに笑う。
『そなたの言葉からすると、今でも教団は存在しているのだな。何とも喜ばしい事だ』
ここでエレリアは複雑そうな表情を浮かべ、ヴェガもまた不満げな色をその顔に見せる。
ヴェガはもともと双子神の教団を嫌っていたから分かるのだが、エレリアが『教団の開祖』に出会っても、喜んでいないのはその霊に乗っ取られている兄の身を案じたからとはまた違う感情がありそうだ。
しかしスキリオスがその信仰が理由で幽閉され、親族も罪人として追放されたとしたら、今に繋がる双子神の信仰を広めたのはその追放者達なのは間違い無い。
もしも親族達が罪に問われず、この地に留まっていたとしたら、街と共にその信仰も滅びていたかもしれないと考えると、追放されたお陰で彼らは生き残る事が出来た事になる。
だが双子神の崇拝はどういう罪になるのだろうか。
幽閉されていながらも、高位聖職者として敬意を払った扱いをされていたというなら、神性冒涜とか背教とかそこまで重大なものとは見なされていないはずだ。
「双子神の崇拝はどういう罪とされたのですか?」
『言葉を慎め。我は罪など犯してはいない』
うう。そういう返答になるか。
まあ幽閉ぐらいで宗教的な情熱が失われるなら、世の中に苦労はない。
「それでは他の人たちが、あなたの何を理由で幽閉したのか教えて下さい」
『我がここに押し込められたのは、本来ならば別々に崇拝されるはずだった大地と海、双子の御子を一つの信仰とする事を提唱したからだ』
そういうことか。
スキリオス以外の人間は双子の神が生まれた時に、それぞれを大地と海に関する神として別々に崇拝する――つまりごく一般的な宗教にしようとしたのを、スキリオスはその二柱を一体とする特殊な崇拝を行う事を考えて、自分の支持者に実践させたのだな。
それは確かに背教の域には達していないだろうけど、それでも大多数の同胞の考えていたものとは異なっていたので、スキリオス自身は異端の信仰を唱える危険人物として拘束され、その支持者達も追い払われたと言う事か。
しかし崇拝を自分達の考えであれこれいじる存在は、以前に出会った神造者だけでもなかったのだな。
いや。たぶんこれまでにもスキリオスのような事を考えて、実践した人間も少なくはなかったのだろうけど、それがちゃんとした信仰として残っているのがごく一部の例外でしかないのだろう。
そしてそんな少数派の中でどうにか生き残り、その考えを発展させていって、ついには大帝国を作り上げたのが神造者だったのかもしれないな。
双子神の教団にしても、火山の噴火でこの街が潰滅しなかったら、少数派の異端として排除され、殆ど知られる事無く消え去っていったに違いない。
しかし本来ならば主流派だったはずの、ごく普通に二神を別に崇拝する勢力が火山の噴火で滅んでしまった結果、追放された双子神を一体する勢力が今では主流になっているのだから、本当に世の中は何が幸いし、何が災いするか分からないものなんだな。
『どうやらこの者は我が遠い末裔のようだな。だから相性がよいらしいな』
その話はよくあるパターンではあるけど、そんな事が本当にわかるんだろうか。それに火山の噴火で当時の住民は根こそぎ命を落としているはずだ。
ここでスキリオスはこちらの疑念の視線に気付いたらしく、説明を追加する。
『我がここに幽閉された時、親族や支持していた者は残らず追放されたのだ。そのお陰で遠く離れた地にて我が血脈が受け継がれたとすれば、これも神のご加護というものか』
似たような話は以前に『卵さらい』の街がドラゴンに滅ぼされた時にも聞いたなあ。
そしてスキリオスは周囲を見回して、感嘆の声をこぼす。
『久しぶりに肉体を得たと思ったら、随分と美しい花園で目覚めたものだな』
こいつやっぱりガレリアの先祖かもしれん。
いや。それよりも何らかの手がかりが得られるなら、今は付き合うしかない。
場合によってはある程度『サービス』ぐらいはしてやるさ。
重要な情報を得て、それでスキリオスが穏便にこの世を去って行ってくれるなら少しぐらいの羞恥心は犠牲にしても構わない。
そんなわけでオレが前に立って、問いかけるとしよう。
「それでうかがいますが、あなたはどうしてこんなところに幽閉されていたのですか?」
ヴェガの言葉によれば、この部屋は高貴な地位にある人間を幽閉するためのものであり、ここが高位聖職者の区画ならば、スキリオスは何か重大な宗教上の罪を犯したか、もしくは宗派対立があって身柄を拘束されたと考えるべきだろう。
『我は神の御子から新たな信仰を作り出した。それが非難されたのだ』
え? スキリオスが本当にガレリア・エレリアの先祖であって、しかもそれで『神の御子から新たな信仰を作り出した』という言葉が本当だとしたら、もしかすると――
「それではあなたが海の女王リーナ神と大地の王レリオン神の双子の神を崇拝する教団をつくったのですか?」
『おお。その通りだ』
スキリオスはいかにも嬉しげに笑う。
『そなたの言葉からすると、今でも教団は存在しているのだな。何とも喜ばしい事だ』
ここでエレリアは複雑そうな表情を浮かべ、ヴェガもまた不満げな色をその顔に見せる。
ヴェガはもともと双子神の教団を嫌っていたから分かるのだが、エレリアが『教団の開祖』に出会っても、喜んでいないのはその霊に乗っ取られている兄の身を案じたからとはまた違う感情がありそうだ。
しかしスキリオスがその信仰が理由で幽閉され、親族も罪人として追放されたとしたら、今に繋がる双子神の信仰を広めたのはその追放者達なのは間違い無い。
もしも親族達が罪に問われず、この地に留まっていたとしたら、街と共にその信仰も滅びていたかもしれないと考えると、追放されたお陰で彼らは生き残る事が出来た事になる。
だが双子神の崇拝はどういう罪になるのだろうか。
幽閉されていながらも、高位聖職者として敬意を払った扱いをされていたというなら、神性冒涜とか背教とかそこまで重大なものとは見なされていないはずだ。
「双子神の崇拝はどういう罪とされたのですか?」
『言葉を慎め。我は罪など犯してはいない』
うう。そういう返答になるか。
まあ幽閉ぐらいで宗教的な情熱が失われるなら、世の中に苦労はない。
「それでは他の人たちが、あなたの何を理由で幽閉したのか教えて下さい」
『我がここに押し込められたのは、本来ならば別々に崇拝されるはずだった大地と海、双子の御子を一つの信仰とする事を提唱したからだ』
そういうことか。
スキリオス以外の人間は双子の神が生まれた時に、それぞれを大地と海に関する神として別々に崇拝する――つまりごく一般的な宗教にしようとしたのを、スキリオスはその二柱を一体とする特殊な崇拝を行う事を考えて、自分の支持者に実践させたのだな。
それは確かに背教の域には達していないだろうけど、それでも大多数の同胞の考えていたものとは異なっていたので、スキリオス自身は異端の信仰を唱える危険人物として拘束され、その支持者達も追い払われたと言う事か。
しかし崇拝を自分達の考えであれこれいじる存在は、以前に出会った神造者だけでもなかったのだな。
いや。たぶんこれまでにもスキリオスのような事を考えて、実践した人間も少なくはなかったのだろうけど、それがちゃんとした信仰として残っているのがごく一部の例外でしかないのだろう。
そしてそんな少数派の中でどうにか生き残り、その考えを発展させていって、ついには大帝国を作り上げたのが神造者だったのかもしれないな。
双子神の教団にしても、火山の噴火でこの街が潰滅しなかったら、少数派の異端として排除され、殆ど知られる事無く消え去っていったに違いない。
しかし本来ならば主流派だったはずの、ごく普通に二神を別に崇拝する勢力が火山の噴火で滅んでしまった結果、追放された双子神を一体する勢力が今では主流になっているのだから、本当に世の中は何が幸いし、何が災いするか分からないものなんだな。
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