異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
707 / 1,316
第17章 海と大地の狭間に

第707話 双子神の教団のおこりとは

しおりを挟む
 スキリオスと名乗った亡霊はガレリアの口で語り出す。

『どうやらこの者は我が遠い末裔のようだな。だから相性がよいらしいな』

 その話はよくあるパターンではあるけど、そんな事が本当にわかるんだろうか。それに火山の噴火で当時の住民は根こそぎ命を落としているはずだ。
 ここでスキリオスはこちらの疑念の視線に気付いたらしく、説明を追加する。

『我がここに幽閉された時、親族や支持していた者は残らず追放されたのだ。そのお陰で遠く離れた地にて我が血脈が受け継がれたとすれば、これも神のご加護というものか』

 似たような話は以前に『卵さらい』ロブ・エッグの街がドラゴンに滅ぼされた時にも聞いたなあ。
 そしてスキリオスは周囲を見回して、感嘆の声をこぼす。

『久しぶりに肉体を得たと思ったら、随分と美しい花園で目覚めたものだな』

 こいつやっぱりガレリアの先祖かもしれん。
 いや。それよりも何らかの手がかりが得られるなら、今は付き合うしかない。
 場合によってはある程度『サービス』ぐらいはしてやるさ。
 重要な情報を得て、それでスキリオスが穏便にこの世を去って行ってくれるなら少しぐらいの羞恥心は犠牲にしても構わない。
 そんなわけでオレが前に立って、問いかけるとしよう。

「それでうかがいますが、あなたはどうしてこんなところに幽閉されていたのですか?」

 ヴェガの言葉によれば、この部屋は高貴な地位にある人間を幽閉するためのものであり、ここが高位聖職者の区画ならば、スキリオスは何か重大な宗教上の罪を犯したか、もしくは宗派対立があって身柄を拘束されたと考えるべきだろう。

『我は神の御子から新たな信仰を作り出した。それが非難されたのだ』

 え? スキリオスが本当にガレリア・エレリアの先祖であって、しかもそれで『神の御子から新たな信仰を作り出した』という言葉が本当だとしたら、もしかすると――

「それではあなたが海の女王リーナ神と大地の王レリオン神の双子の神を崇拝する教団をつくったのですか?」
『おお。その通りだ』

 スキリオスはいかにも嬉しげに笑う。

『そなたの言葉からすると、今でも教団は存在しているのだな。何とも喜ばしい事だ』

 ここでエレリアは複雑そうな表情を浮かべ、ヴェガもまた不満げな色をその顔に見せる。
 ヴェガはもともと双子神の教団を嫌っていたから分かるのだが、エレリアが『教団の開祖』に出会っても、喜んでいないのはその霊に乗っ取られている兄の身を案じたからとはまた違う感情がありそうだ。
 しかしスキリオスがその信仰が理由で幽閉され、親族も罪人として追放されたとしたら、今に繋がる双子神の信仰を広めたのはその追放者達なのは間違い無い。
 もしも親族達が罪に問われず、この地に留まっていたとしたら、街と共にその信仰も滅びていたかもしれないと考えると、追放されたお陰で彼らは生き残る事が出来た事になる。

 だが双子神の崇拝はどういう罪になるのだろうか。
 幽閉されていながらも、高位聖職者として敬意を払った扱いをされていたというなら、神性冒涜とか背教とかそこまで重大なものとは見なされていないはずだ。

「双子神の崇拝はどういう罪とされたのですか?」
『言葉を慎め。我は罪など犯してはいない』

 うう。そういう返答になるか。
 まあ幽閉ぐらいで宗教的な情熱が失われるなら、世の中に苦労はない。

「それでは他の人たちが、あなたの何を理由で幽閉したのか教えて下さい」
『我がここに押し込められたのは、本来ならば別々に崇拝されるはずだった大地と海、双子の御子を一つの信仰とする事を提唱したからだ』

 そういうことか。
 スキリオス以外の人間は双子の神が生まれた時に、それぞれを大地と海に関する神として別々に崇拝する――つまりごく一般的な宗教にしようとしたのを、スキリオスはその二柱を一体とする特殊な崇拝を行う事を考えて、自分の支持者に実践させたのだな。
 それは確かに背教の域には達していないだろうけど、それでも大多数の同胞の考えていたものとは異なっていたので、スキリオス自身は異端の信仰を唱える危険人物として拘束され、その支持者達も追い払われたと言う事か。

 しかし崇拝を自分達の考えであれこれいじる存在は、以前に出会った神造者だけでもなかったのだな。
 いや。たぶんこれまでにもスキリオスのような事を考えて、実践した人間も少なくはなかったのだろうけど、それがちゃんとした信仰として残っているのがごく一部の例外でしかないのだろう。
 そしてそんな少数派の中でどうにか生き残り、その考えを発展させていって、ついには大帝国を作り上げたのが神造者だったのかもしれないな。
 双子神の教団にしても、火山の噴火でこの街が潰滅しなかったら、少数派の異端として排除され、殆ど知られる事無く消え去っていったに違いない。
 しかし本来ならば主流派だったはずの、ごく普通に二神を別に崇拝する勢力が火山の噴火で滅んでしまった結果、追放された双子神を一体する勢力が今では主流になっているのだから、本当に世の中は何が幸いし、何が災いするか分からないものなんだな。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...