異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第18章 奇怪なる殺戮者?

第745話 取調室に現れたのは

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 通常ならば騒ぎなど起きないであろう魔術師協会の建物で事を荒立てる相手がいたとしたら、それは聖女教会が文句を言いに来たのだろうか?
 下手をすれば生体解剖されかねないこの危機的状況を打開してくれるのなら、誰でもいいのだけど、何か不吉な予感がしてくるぞ。

「どうした? 一体何の騒ぎだ?」

 ガザックが疑問の声を挙げたところで、取調室のドアが一気に開け放たれる。
 そしてそこでオレにとっては妙に聞き慣れた声が響き渡った。

「やはりアルタシャ様でございましたか! ミツリーンでございます!」

 うがあ! 飛び込んできたのは『大陸を股にかけたストーカー』ことミツリーンだった。
 大分前、遊牧民の聖都であるパップスで別れてから音沙汰が無かったので、オレ自身が殆ど忘れていたけど、こいつはずっとこちらを追いかけていたんだな。
 その努力にはマジで頭が下がるが、いい加減諦めてくれ――いや。この場を乗り切るためにはコイツでも助力してもらった方がいいのか。
 まあガザックに比べれば、ミツリーンの方が大分マシだと思うしか無いな。

「な、何を言っているのだ? それにお前はいったい何者だ?」

 ガザックが当然の疑問を述べると、今度はミツリーンが憤激の叫びを挙げる。

「私の事などどうでもいい! だがお前が無礼を働いているお方は大陸に名を馳せる、聖女教会の偉大な女傑たるアルタシャ様だぞ!」
「な? 何だと? そんなバカな――」

 さすがのガザックもこれは想像していなかったらしい。
 まあオレも聖女教会の方から何かしてくることまでは予想していたが、まさかミツリーンがやってくると想像していなかったけど。

「ウソをつくな! 本物だったらなぜ今まで黙っていたんだ!」
「辞めろ。ガザック」

 ガザックが憤激しようとしたところで、ミツリーンの後から初老の男性、そして先ほど出会った聖女のレオナが姿を見せる。

「か、会長?!」

 どうやらこの男が魔術師協会の現会長らしいな。恐らくはレオナから話を聞き、急いでこちらに来たというところだろう。

「この愚か者が!」

 そして会長はガザックを一喝する。

「よりにもよって聖女教会の英雄たるアルタシャ様を疑似生命体などと間違えるとは、お前の目は節穴か!」
「ま、まさか? そんな? 本当に?」

 ガザックは目を白黒させている。
 ううむ。今までにも幾度か、オレの名前の影響力を見せられてきたけど、なんだかんだ言ってもこういう分かりやすい場面は初めてな気がするな。

「しかし……アルタシャの名を騙る偽者など幾らでも……」

 この町は交易ルートにあるから、オレの名――偽名だけど――が広まっているのと同様に、偽者があちこちに現れているのも当然、知られているだろうな。

「それではそのお方は自分でそう名乗られたのか?」
「え……いえ。そうではありませんが……」

 ここでミツリーンが更に口を挟んでくる。

「アルタシャ様は普段から自分の名声を誇ったり、特別扱いを要求したりは決してなさらないお方だ。だからわざわざお名乗りにはならなかったのだろう」
「それほどでもないですよ。それに興味深い話が聞けました」

 オレとしてはなるだけことを荒立てたくはないので、騒ぎを起こすのは避けて欲しいところなのだ。
 ここで会長は改めてオレに対して頭を下げてくる。

「申し訳ありません。この者の非礼については会長の私の方から詫びさせていただきます。もしもお許しいただけぬとなれば賠償も――」

 この会長はさほどガザックの行っていた疑似生命体の捜索には興味が無いらしい。
 恐らくは功を焦ったガザックの独断専行なのだろう。
 しかしいろいろと話も聞けたのと、暴力を振るわれたわけでもないから、オレはさほど怒っているわけではない。
 それにまだ知っている事があれば聞き出したいところなので、ここは庇っておくとしよう。

「いいえ。お構いなく。外出禁止令を破って外に出ていたわたしにも非がありますから。そちらのガザックさんをこれ以上責めるのはおやめ下さい」
「ありがとうございます」

 明らかに会長は安堵した様子だ。
 このヒュールの町の魔術師協会はもちろん特権階級に属するけど、あくまでも地方都市一つで幅を利かせているだけだからな。
 そこに大陸中に名前が知られた相手がお忍びで来たところ、誤解から身柄を拘束してしまったというのでは会長が焦るのも当然か。

「その変わりと言っては何ですが、こちらからも急ぎの話があります」
「な、何でしょうか?」

 会長は一気に緊張の色を見せる。だけどこれはたぶんオレが何か法外な要求でもしてくるのではないかと思ったからだろうな。

「この町を騒がせている殺人鬼ですが、わたしはその相手に昨晩、遭遇したのです」
「何ですと?! 本当ですか?」

 ここでオレはシドンとサレナの事は言わず、雑貨屋に取り憑いていると言った殺人鬼とそれとは別に出てきた水銀の女性について説明した。

「詳しい事は分かりませんが、たぶんそのどちらもガザックさんが言われた疑似生命体ではないでしょうか」
「情報の提供ありがとうございます」

 会長は『なぜわざわざそんな事していたんだ?』と言わんばかりの表情ながら、一応は感謝を述べてくる。

「それでは早急にその近くの雑貨屋に手の者を向かわせて、身柄を拘束いたしましょう」
「それにわたしも同行させていただけませんか」
「ええ?!」

 オレの言葉を受けてその場の全員が驚愕した表情を浮かべる。

「お待ち下さい。危険です」
「それぐらいはわたしにとっていつもの事ですよ」

 オレが軽く言い切ったところ、周囲の空気は驚くというか呆れるというか、そんなものに変わった気がするな。
 しかしこういう場合は強引に押し切らせてもらおう。

「急いで下さい! こうしている間にも今の身体を捨てて逃げ出すかもしれないのですよ」
「わ、分かりました!」

 そんなわけでオレもそのくだんの雑貨屋に向かう事となる。
 だがここでオレには気付いていない事があったのだ。
 このとき事実上置き去りにされた形となったガザックが、押し殺した憤怒を込めてオレの背を睨み付けていたのだった。
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