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第19章 神気の山脈にて
第798話 山賊のねぐらに近づくと
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とりあえず当面の問題は、本当にあの神像が『神の欠片』なのかどうかを確かめる事だけど、たぶんそれはこれまで所有してきたフォラジにも分かるまい。
ならばフォラジが知っている範囲の事を尋ねるとしよう。
「これまでも『神の欠片』として神像を集めた勢力がいくつもあるのですか?」
「もちろんだとも」
「そこで何が起きたのか、フォラジさんはご存知なのですよね」
普通に考えれば、何も起きなかったはずだ。
本当に神様が復活したのなら、その欠片の神像が残っている筈が無いからな。
だがここでフォラジはオレの心を見透かしたかのような表情を見せる。
「君の事だから、神が復活していない以上、何も起きなかったという結論を出しているんだろうね」
「違うのですか?」
どうも猛烈に嫌な予感がしてくる。そして大抵、その予感は当たるのだ。
「更に争いが激化したんだよ。何しろ神の欠片は幾つもの勢力が集めようとしていたからね」
うわあ。オレの考えはまだまだ甘かったらしい。
正直に言えば薄々予感はしていたが、それを考えたくなかったというのが本音だな。
なぜなら同じ事が、いまオレの目の前で起きるかもしれないからだ。
「中にはケフェルティリ神を復活させて、その力を得る儀式を行ったと称し『自分は神の化身となった』と宣言する輩も出た」
「そうすると他の勢力も同じ事を言い出したのですか……」
「当然の帰結だな。それで争いはますます激化し、各勢力はお互いに滅ぼしあった挙げ句、集められた『神の欠片』も散逸してしまったのさ。この地域にある廃虚の多くは、その戦乱で滅びたものらしい」
これもよくあるパターンだと、そうやって争いの種をばらまくことそのものが『神の欠片』の本当の目的だったりしないよな?
オレの経験で言えば、神様の一見不可解な行動でも――中には『世界を消滅させる』などととんでもない事を唱える相手もいた――そいつらも話を聞けばそれなりの理由を持ってやっているものだった。
そうするとケフェルティリ神の伝説にも、その背後に何らかの意図が秘められているのかもしれないぞ。
実際に神様に直接対面して、話をしてみないとどっちみち想像の域を超えるものではないけどな。
「そんなわけでボクが確保していたあの像も、住民達に恐れられ封じられていたというわけだ」
「フォラジさんはその伝説はどう考えているのです」
「さあね。我が神命は真実を収拾、記録する事だ。だから伝説の中身がどうだろうと興味は無いさ。そんな事はやりたい人間が議論していればいい」
これが以前に出会った『神造者』だったら、自分達にとって都合のいい話を『正しい神話』にする事に血道をあげていただろうけど、フォラジはそっちには興味がないのだな。
しかし本当にフォラジの言うとおりだとしたら、この地で戦乱が巻き起こるのは避けられないし、オレごときにはどうする事も出来ないぞ。
いや。まだ諦めるのは早いか。
今までと同じく、オレはオレに出来る事をするだけだ。
そんなわけでオレとフォラジは山賊と『仮面の男』が神像を持ち込んだと思しき、山の廃虚に近づくのだった。
遠目には山のあちこちで何条もの煙が上がっているのが目についた。
最初はまたしても戦闘であがった火の手かとドキッとしたが、よくよく見ると単なる炊事の煙のようだ。
そういえば太陽も既に傾き、そろそろ日が暮れる時間帯なので、山賊連中も夕食の準備をしているのだろう。
ただ改めて確認したところ、山頂付近で石に覆われた廃虚の部分からは煙が出ていない。
彼等も神聖な場所として近づかないのか。それともロクでもない存在が巣くっていて危険な場所なのかは分からない。
まったくいろいろありすぎた一日だったが、これからが本番か。だが――
「ふう……ここまで来たか……」
オレはまだしもフォラジは限界だな。朝から動き回っていたのだから当然か。
仕方ない。ここは一晩、休むとしよう。
明日になったらオレが山賊を誰か捕まえて、尋問しようか。
ドルイド魔術が使える山中ならば、山賊の五人や十人ならどうにでもなる。
いくら山賊でも命を奪うような真似は出来ないけど『成長加速』や『植物歪曲』を使えば、身柄を拘束するのは造作も無いのだ。
「とりあえず野宿でもしましょうか」
「いや。麓を見たまえ」
フォラジが指差した先には小さな集落があった。
「あんなところでは山賊達が巣くっていませんか?」
「それは大丈夫だろう」
フォラジは堂々と言い切る。
「見たところ人の気配が無いからな。山賊達を恐れて住民は逃げ出したか、さもなくばケフェルティリ神の――」
「それ以上は言わなくて結構です」
村人もなるだけ大勢、逃げ延びた事を祈るしか無いな。
悪い方を想定すると、山賊に入って仲間や近隣の住民を裏切って生け贄に捧げているような事になっている事もありうる。
とにかく周囲を警戒しつつ、オレは疲れ切ったフォラジとともに、壊れかけた柵に覆われた集落の跡に入る事とした。
ならばフォラジが知っている範囲の事を尋ねるとしよう。
「これまでも『神の欠片』として神像を集めた勢力がいくつもあるのですか?」
「もちろんだとも」
「そこで何が起きたのか、フォラジさんはご存知なのですよね」
普通に考えれば、何も起きなかったはずだ。
本当に神様が復活したのなら、その欠片の神像が残っている筈が無いからな。
だがここでフォラジはオレの心を見透かしたかのような表情を見せる。
「君の事だから、神が復活していない以上、何も起きなかったという結論を出しているんだろうね」
「違うのですか?」
どうも猛烈に嫌な予感がしてくる。そして大抵、その予感は当たるのだ。
「更に争いが激化したんだよ。何しろ神の欠片は幾つもの勢力が集めようとしていたからね」
うわあ。オレの考えはまだまだ甘かったらしい。
正直に言えば薄々予感はしていたが、それを考えたくなかったというのが本音だな。
なぜなら同じ事が、いまオレの目の前で起きるかもしれないからだ。
「中にはケフェルティリ神を復活させて、その力を得る儀式を行ったと称し『自分は神の化身となった』と宣言する輩も出た」
「そうすると他の勢力も同じ事を言い出したのですか……」
「当然の帰結だな。それで争いはますます激化し、各勢力はお互いに滅ぼしあった挙げ句、集められた『神の欠片』も散逸してしまったのさ。この地域にある廃虚の多くは、その戦乱で滅びたものらしい」
これもよくあるパターンだと、そうやって争いの種をばらまくことそのものが『神の欠片』の本当の目的だったりしないよな?
オレの経験で言えば、神様の一見不可解な行動でも――中には『世界を消滅させる』などととんでもない事を唱える相手もいた――そいつらも話を聞けばそれなりの理由を持ってやっているものだった。
そうするとケフェルティリ神の伝説にも、その背後に何らかの意図が秘められているのかもしれないぞ。
実際に神様に直接対面して、話をしてみないとどっちみち想像の域を超えるものではないけどな。
「そんなわけでボクが確保していたあの像も、住民達に恐れられ封じられていたというわけだ」
「フォラジさんはその伝説はどう考えているのです」
「さあね。我が神命は真実を収拾、記録する事だ。だから伝説の中身がどうだろうと興味は無いさ。そんな事はやりたい人間が議論していればいい」
これが以前に出会った『神造者』だったら、自分達にとって都合のいい話を『正しい神話』にする事に血道をあげていただろうけど、フォラジはそっちには興味がないのだな。
しかし本当にフォラジの言うとおりだとしたら、この地で戦乱が巻き起こるのは避けられないし、オレごときにはどうする事も出来ないぞ。
いや。まだ諦めるのは早いか。
今までと同じく、オレはオレに出来る事をするだけだ。
そんなわけでオレとフォラジは山賊と『仮面の男』が神像を持ち込んだと思しき、山の廃虚に近づくのだった。
遠目には山のあちこちで何条もの煙が上がっているのが目についた。
最初はまたしても戦闘であがった火の手かとドキッとしたが、よくよく見ると単なる炊事の煙のようだ。
そういえば太陽も既に傾き、そろそろ日が暮れる時間帯なので、山賊連中も夕食の準備をしているのだろう。
ただ改めて確認したところ、山頂付近で石に覆われた廃虚の部分からは煙が出ていない。
彼等も神聖な場所として近づかないのか。それともロクでもない存在が巣くっていて危険な場所なのかは分からない。
まったくいろいろありすぎた一日だったが、これからが本番か。だが――
「ふう……ここまで来たか……」
オレはまだしもフォラジは限界だな。朝から動き回っていたのだから当然か。
仕方ない。ここは一晩、休むとしよう。
明日になったらオレが山賊を誰か捕まえて、尋問しようか。
ドルイド魔術が使える山中ならば、山賊の五人や十人ならどうにでもなる。
いくら山賊でも命を奪うような真似は出来ないけど『成長加速』や『植物歪曲』を使えば、身柄を拘束するのは造作も無いのだ。
「とりあえず野宿でもしましょうか」
「いや。麓を見たまえ」
フォラジが指差した先には小さな集落があった。
「あんなところでは山賊達が巣くっていませんか?」
「それは大丈夫だろう」
フォラジは堂々と言い切る。
「見たところ人の気配が無いからな。山賊達を恐れて住民は逃げ出したか、さもなくばケフェルティリ神の――」
「それ以上は言わなくて結構です」
村人もなるだけ大勢、逃げ延びた事を祈るしか無いな。
悪い方を想定すると、山賊に入って仲間や近隣の住民を裏切って生け贄に捧げているような事になっている事もありうる。
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