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第20章 とある国と聖なる乙女
第850話 『スパイ』だったことを再認識した上で
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帰宅は登校時とは別ルートを通ることにした。
普通に帰ったら間違いなくアイウーズが待ち伏せしていると言うか、この様子では他にもオレにコナをかけようと近寄ってくる相手には事欠かないだろうからな。
その事はネアラも意識しているのか、オレの要望通りに帰り道は少しばかり寂しい裏道を通る事となる。
もちろんいくら人通りが少ないと言っても、治安が悪いわけではない。
そんなところがこの国の中枢部近く、貴族の子弟がこぞって通う地区にあるはずが無いのだ。
だがそこでオレの前に幾人かの人影が立ちはだかる。まさか?!
「あなた方は……なんの用ですか?」
ネアラは困惑しつつ問いかける。立ちはだかった連中は兵士たちだ。そうすると何者なのかは明白だな。
「すみません。この人たちはわたしに用があるのでしょう。先に帰っていてくれますか?」
「分かったわ。しかしあなたは一体どれだけ……」
ネアラは困惑すると言うか呆れていると言うか、今日一日の出来事でオレには何が起きても不思議では無いと思っているようだ。
まあそれでもオレの正体を知れば、きっとまた驚愕するだろうけどな。
しばしの後、オレはまたしてもスコテイのところに案内されていた。
帰り道を変えていたのに見つかったのは、オレが通りそうなところすべてに見張りをおいていたのだろう。
普通だったら、スパイに送り込んだ相手を登校初日でこんなあからさまな接触はしないだろうけど、あれだけ大事になったので慌てて呼びつけたと言うところだろうか。
「お前については……なんと言うか」
さすがのスコテイもどう表現していいのかわからないと言わんばかりの態度だ。
この男に好意を抱いた事は一度も無いが、それでもやっぱり人間だったのだな。
「初日から学園の守護精霊に対面し、全校生徒の注目の的となったそうだな。それに留学生の公子ともすぐに親しくなったと聞いているぞ」
やっぱり概ねオレの行動は筒抜けか。
「断っておきますけど、どれもわたしが望んでやった事ではありませんからね」
「まあいい。重要なのは王妃殿下の動向に関する情報だ」
とりあえず気を取り直して本来の目的を思い出したらしい。
「いくら何でもそんなものが一日で得られるはずがありませんよ。スコテイさんだってそれぐらいは承知済みと思っていましたけど」
「それぐらいは分かっている。ただこうなれば隠れて秘密に探るわけにもいくまい」
「だからもっと大っぴらに王妃様に近づけるようにすればいいのでしょう」
もうこの際だ。オレが王妃に接近するのにスコテイにも協力してもらおう。
王妃について調べるという点で、こちらの利害は一致しているからな。
もっともお互いに肝心な部分で隠しあっているという点でも一致しているのだから、サスペンスドラマ風な関係でもあるか。
「随分と態度が大きくなったようだが、こちらがお前を『聖女教会の手先』として拘束するなど造作もない事を忘れるなよ」
「しかし聖女教会の人間と言うだけで、罪に問うわけにはいかないですよね」
ここまでオレが注目を浴びてしまえば、捕まえてとにかく拷問しなんでもいいから罪を吐かせる、などと言う真似は出来ないだろう。
そこまで好き放題できるのなら、イオドだってどうにでも出来たはず。
スコテイも『閣下』とは呼ばれていたけど所詮はこの国の権力闘争における誰かの手駒であって、さほど大物というわけでもないのだ。
「どうやらお前を甘く見ていたようだが、まあよかろう。こちらにすれば目的を果たせればいいのだ」
「それではもう帰ってよろしいでしょうか」
「いや。まだ話がある」
スコテイはどこか含みのありそうな笑いを浮かべている。
「お前もあれだけ評判になれば、グラフト公子はもちろんニグリ家よりもよほど格上のところから誘いがあることは予想できるだろう」
「それがどうかしましたか」
オレの場合、皇帝だの神だのからしょっちゅうプロポーズされた上で、全部断っているんだよ。
極端な話、この国の王様から『王妃にする』と誘われてもお断りです。
「どうやらまだ実感が湧いていないようだな。お前ほどのものでも男には疎いか。イオドを簡単にたぶらかしたと思っていたが、どうやらそれは誤解だったらしい」
あいにくだけどオレは一年前までれっきとした男だったので、どんな女よりも男については知っている――とは言えないのが悲しいところだ。
「あの堅物めが。本当に『養女』にしていたのだな。ふん。困った男だ」
どうやらここ数日のオレとイオドの動向もあれこれと探っていて、本当に『愛人』でないことを確信したらしい。
同居していたネアラよりよほどこちらの事情に通じているようだ。
まったく。それでは国の金でストーカーしているようなもんだぞ。
まあ内心のツッコミはともかく、スコテイは上級の貴族から誘いがあると言われてもオレが平然としているので『聖女教会内部にずっといたので、男については無知』だとでも思ったらしい。
「何だったら今からでもこの私がお前に『男』というものを教えてやってもいいのだぞ」
「もう帰っていいですか? いつまでも帰らないと不自然だと怪しまれますよ」
相変わらず細かいところで下ネタを挟むヤツだな。
アンタのそういうところが女にもてない理由だろう――オレが勝手に決めつけているだけだが。
とにかくこれ以上、付き合う気もないのでオレが席を立とうとすると静止の声が飛ぶ。
「まあ待て。これからの話はお前にとっても決して不利益ではない。いや。むしろ大きな利益をもたらすといってもいいぐらいだぞ」
今までそんなことを言われて、言葉通りだったことは一度もないが、聞かずに済ませることができたことも同じように一度もないのである。
普通に帰ったら間違いなくアイウーズが待ち伏せしていると言うか、この様子では他にもオレにコナをかけようと近寄ってくる相手には事欠かないだろうからな。
その事はネアラも意識しているのか、オレの要望通りに帰り道は少しばかり寂しい裏道を通る事となる。
もちろんいくら人通りが少ないと言っても、治安が悪いわけではない。
そんなところがこの国の中枢部近く、貴族の子弟がこぞって通う地区にあるはずが無いのだ。
だがそこでオレの前に幾人かの人影が立ちはだかる。まさか?!
「あなた方は……なんの用ですか?」
ネアラは困惑しつつ問いかける。立ちはだかった連中は兵士たちだ。そうすると何者なのかは明白だな。
「すみません。この人たちはわたしに用があるのでしょう。先に帰っていてくれますか?」
「分かったわ。しかしあなたは一体どれだけ……」
ネアラは困惑すると言うか呆れていると言うか、今日一日の出来事でオレには何が起きても不思議では無いと思っているようだ。
まあそれでもオレの正体を知れば、きっとまた驚愕するだろうけどな。
しばしの後、オレはまたしてもスコテイのところに案内されていた。
帰り道を変えていたのに見つかったのは、オレが通りそうなところすべてに見張りをおいていたのだろう。
普通だったら、スパイに送り込んだ相手を登校初日でこんなあからさまな接触はしないだろうけど、あれだけ大事になったので慌てて呼びつけたと言うところだろうか。
「お前については……なんと言うか」
さすがのスコテイもどう表現していいのかわからないと言わんばかりの態度だ。
この男に好意を抱いた事は一度も無いが、それでもやっぱり人間だったのだな。
「初日から学園の守護精霊に対面し、全校生徒の注目の的となったそうだな。それに留学生の公子ともすぐに親しくなったと聞いているぞ」
やっぱり概ねオレの行動は筒抜けか。
「断っておきますけど、どれもわたしが望んでやった事ではありませんからね」
「まあいい。重要なのは王妃殿下の動向に関する情報だ」
とりあえず気を取り直して本来の目的を思い出したらしい。
「いくら何でもそんなものが一日で得られるはずがありませんよ。スコテイさんだってそれぐらいは承知済みと思っていましたけど」
「それぐらいは分かっている。ただこうなれば隠れて秘密に探るわけにもいくまい」
「だからもっと大っぴらに王妃様に近づけるようにすればいいのでしょう」
もうこの際だ。オレが王妃に接近するのにスコテイにも協力してもらおう。
王妃について調べるという点で、こちらの利害は一致しているからな。
もっともお互いに肝心な部分で隠しあっているという点でも一致しているのだから、サスペンスドラマ風な関係でもあるか。
「随分と態度が大きくなったようだが、こちらがお前を『聖女教会の手先』として拘束するなど造作もない事を忘れるなよ」
「しかし聖女教会の人間と言うだけで、罪に問うわけにはいかないですよね」
ここまでオレが注目を浴びてしまえば、捕まえてとにかく拷問しなんでもいいから罪を吐かせる、などと言う真似は出来ないだろう。
そこまで好き放題できるのなら、イオドだってどうにでも出来たはず。
スコテイも『閣下』とは呼ばれていたけど所詮はこの国の権力闘争における誰かの手駒であって、さほど大物というわけでもないのだ。
「どうやらお前を甘く見ていたようだが、まあよかろう。こちらにすれば目的を果たせればいいのだ」
「それではもう帰ってよろしいでしょうか」
「いや。まだ話がある」
スコテイはどこか含みのありそうな笑いを浮かべている。
「お前もあれだけ評判になれば、グラフト公子はもちろんニグリ家よりもよほど格上のところから誘いがあることは予想できるだろう」
「それがどうかしましたか」
オレの場合、皇帝だの神だのからしょっちゅうプロポーズされた上で、全部断っているんだよ。
極端な話、この国の王様から『王妃にする』と誘われてもお断りです。
「どうやらまだ実感が湧いていないようだな。お前ほどのものでも男には疎いか。イオドを簡単にたぶらかしたと思っていたが、どうやらそれは誤解だったらしい」
あいにくだけどオレは一年前までれっきとした男だったので、どんな女よりも男については知っている――とは言えないのが悲しいところだ。
「あの堅物めが。本当に『養女』にしていたのだな。ふん。困った男だ」
どうやらここ数日のオレとイオドの動向もあれこれと探っていて、本当に『愛人』でないことを確信したらしい。
同居していたネアラよりよほどこちらの事情に通じているようだ。
まったく。それでは国の金でストーカーしているようなもんだぞ。
まあ内心のツッコミはともかく、スコテイは上級の貴族から誘いがあると言われてもオレが平然としているので『聖女教会内部にずっといたので、男については無知』だとでも思ったらしい。
「何だったら今からでもこの私がお前に『男』というものを教えてやってもいいのだぞ」
「もう帰っていいですか? いつまでも帰らないと不自然だと怪しまれますよ」
相変わらず細かいところで下ネタを挟むヤツだな。
アンタのそういうところが女にもてない理由だろう――オレが勝手に決めつけているだけだが。
とにかくこれ以上、付き合う気もないのでオレが席を立とうとすると静止の声が飛ぶ。
「まあ待て。これからの話はお前にとっても決して不利益ではない。いや。むしろ大きな利益をもたらすといってもいいぐらいだぞ」
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