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第21章 神の試練と預言者
第952話 火口近くにて最後の試練?
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未だに噴煙を上げている山頂部に近づくのは、正直に言ってオレでもためらわずにはいられない。
そんな事になる可能性は極めて低いとは分かっていても、万が一目の前で噴火などされたらこちらはひとたまりも無いのだ。
一つだけ安心出来る事があるとすれば、少なくとも人間が待ち伏せている可能性はまずあり得ないと言うか事だな。
シャンサとその支持者達が熱気の精霊を操る事が出来るとしても、山麓から使役しているとなればこちらを正確に狙うような真似は出来ないはずだ。
油断するわけにはいかないが、取りあえずはサロールが聖地である火口にたどり着き、そこでイル=フェロ神と対面できれば、この場はどうにか片がつく事になる。
まあ本当に神様がいるのか、いたとしても意志疎通してくれるのか、そのあたりも含めて面倒事は山積しているが、今は細かい事を考えるのは後回しだ。
「あそこに行けば、偽りの預言者を……」
サロールは自分自身に言い聞かせるよう、小さくつぶやいている。
その額には汗が吹き出しているのは、ただ地熱のためだけではないだろう。
ここでサロールはオレに対して問いかけてくる。
「随分と落ち着いているようだが、アルは何ともないのか?」
「緊張はしていますよ。サロールさんの事も心配ですしね」
オレの場合は、こんな事はしょっちゅうだし、テセルもそのあたりは本職だけど、サロールは自分の崇拝する神様に対面するなど初めてなのだから、落ち着けという方が無理だろうな。
「それよりも聖地にわたしやテセルが足を踏みいれていいのですか?」
「弱者ならばそこで死ぬ。生き残ればそれに値する強者となる。ただそれだけだ……」
彼らの教義に沿った形で、何とも分かりやすいのは確かだな。
一方でオレが『弱者を助ける』事を唱え、サロールの基準で言えば『堕落』した存在である事には複雑な意識があるらしい。
たぶん堕落した奴らが、聖地に足を踏みいれる事がそもそも想定外なのだろうな。
オレは『鷹の目』で上空から見落せるので、道を間違える事もなく、可能な限りの脅威を避けてここまで来たが、それでも命がけだったのだ。
そこまでして好きこのんで危険極まり無い火山の火口までやってくる相手が、イル=フェロ信徒以外に存在する筈もないだろうからな。
今まで幾度か体験してきた事があるが、これは『教義の盲点』という事なのだろう。
そのあたりはテセルが本職だろうけど、オレにとってはサロールから『部外者は近づくな』とムキになって責められないだけマシというところだ。
だが例によって視界の悪い中で、山頂に幾つかの人影が目に映る。
なんだ? いくら何でもオレ達に先回りしている人間がいるとは思えないから、もしかするとまだアンデッドでもいるのか?
だがその直後、オレ達のいる近くの地面にいきなり亀裂が入り、そこから猛烈な熱気が吹き出してくる。
いや。これはもうそんなものではないぞ。
「危ない! 下がって!」
オレが思わず叫ぶのとほぼ同時に、亀裂からは真っ赤に灼熱した溶岩が吹き出してくる。
げげ。火口近くだから、熱気どころか溶岩を操っているのか。
そして溶岩は『溶け崩れた人間』を思わせる、おぞましい人型となってジリジリこちらに近づいてくる。
「ふうむ。溶岩を操るとは大したものだが、もしかするとこれもイル=フェロ神の祝福によるものかな」
テセルは空気をまるで読まない落ち着いた様子で、何とも興味深そうに迫り来る『溶岩人形』を見つめている。
「確かに凄い力ですけど、それが出来るのは『神の祝福』を受けた人間だけなのでしょう?」
いくら何でも並の人間が溶岩を操れる筈がない。
この世界では『火の球』並の攻撃魔法を使える人間は、一国に何人というレベルの希な存在なのだ。
幾ら火山の火口に近いとは言え、溶岩を操るような真似が簡単に出来るのなら、とっくの昔に他の地域における活火山の神様の信徒だって同じ事をやっているはずだ。
これがシャンサの力というなら、確かに『イル=フェロ神の預言者』を名乗るのにふさわしいものだと思うし、信徒達がそれを信じるのもおかしくはない。
それではやっぱりシャンサは本当の預言者と言うことか。
ますます話は厄介な方向に進んでいる様子だな。
いずれにしても火口からオレ達を見下ろしている中にその『預言者』がいる可能性が高い。
つまりシャンサはオレ達に先回りして、待ち伏せていたのか。
一度、神の試練を乗り越えて祝福を受けた身ならば、さほど不自然ではないが何かが引っかかる。
「アルタシャの言うとおりだ……だけど……」
テセルは改めて何かを考え込んでいるが、確証はないとしても、何か思い当たる節があるらしい。
そしてその視線は、火口の近くでオレ達を見下ろしている連中に注がれている。
しかし今はそれどころではない。灼熱を放っている『溶岩人形』の方をどうにかせねばならないのだ。
「うぉぉぉ!」
サロールは雄叫びと共に、剣を引き抜いて『溶岩人形』に斬りつける。骨で作られた刀身は溶岩の身に深々と食い込み――そこで燃え尽きる。
そして灼熱を放ちつつ、何の感情も含まれない冷徹な拳がサロールの身に向けて放たれた。
そんな事になる可能性は極めて低いとは分かっていても、万が一目の前で噴火などされたらこちらはひとたまりも無いのだ。
一つだけ安心出来る事があるとすれば、少なくとも人間が待ち伏せている可能性はまずあり得ないと言うか事だな。
シャンサとその支持者達が熱気の精霊を操る事が出来るとしても、山麓から使役しているとなればこちらを正確に狙うような真似は出来ないはずだ。
油断するわけにはいかないが、取りあえずはサロールが聖地である火口にたどり着き、そこでイル=フェロ神と対面できれば、この場はどうにか片がつく事になる。
まあ本当に神様がいるのか、いたとしても意志疎通してくれるのか、そのあたりも含めて面倒事は山積しているが、今は細かい事を考えるのは後回しだ。
「あそこに行けば、偽りの預言者を……」
サロールは自分自身に言い聞かせるよう、小さくつぶやいている。
その額には汗が吹き出しているのは、ただ地熱のためだけではないだろう。
ここでサロールはオレに対して問いかけてくる。
「随分と落ち着いているようだが、アルは何ともないのか?」
「緊張はしていますよ。サロールさんの事も心配ですしね」
オレの場合は、こんな事はしょっちゅうだし、テセルもそのあたりは本職だけど、サロールは自分の崇拝する神様に対面するなど初めてなのだから、落ち着けという方が無理だろうな。
「それよりも聖地にわたしやテセルが足を踏みいれていいのですか?」
「弱者ならばそこで死ぬ。生き残ればそれに値する強者となる。ただそれだけだ……」
彼らの教義に沿った形で、何とも分かりやすいのは確かだな。
一方でオレが『弱者を助ける』事を唱え、サロールの基準で言えば『堕落』した存在である事には複雑な意識があるらしい。
たぶん堕落した奴らが、聖地に足を踏みいれる事がそもそも想定外なのだろうな。
オレは『鷹の目』で上空から見落せるので、道を間違える事もなく、可能な限りの脅威を避けてここまで来たが、それでも命がけだったのだ。
そこまでして好きこのんで危険極まり無い火山の火口までやってくる相手が、イル=フェロ信徒以外に存在する筈もないだろうからな。
今まで幾度か体験してきた事があるが、これは『教義の盲点』という事なのだろう。
そのあたりはテセルが本職だろうけど、オレにとってはサロールから『部外者は近づくな』とムキになって責められないだけマシというところだ。
だが例によって視界の悪い中で、山頂に幾つかの人影が目に映る。
なんだ? いくら何でもオレ達に先回りしている人間がいるとは思えないから、もしかするとまだアンデッドでもいるのか?
だがその直後、オレ達のいる近くの地面にいきなり亀裂が入り、そこから猛烈な熱気が吹き出してくる。
いや。これはもうそんなものではないぞ。
「危ない! 下がって!」
オレが思わず叫ぶのとほぼ同時に、亀裂からは真っ赤に灼熱した溶岩が吹き出してくる。
げげ。火口近くだから、熱気どころか溶岩を操っているのか。
そして溶岩は『溶け崩れた人間』を思わせる、おぞましい人型となってジリジリこちらに近づいてくる。
「ふうむ。溶岩を操るとは大したものだが、もしかするとこれもイル=フェロ神の祝福によるものかな」
テセルは空気をまるで読まない落ち着いた様子で、何とも興味深そうに迫り来る『溶岩人形』を見つめている。
「確かに凄い力ですけど、それが出来るのは『神の祝福』を受けた人間だけなのでしょう?」
いくら何でも並の人間が溶岩を操れる筈がない。
この世界では『火の球』並の攻撃魔法を使える人間は、一国に何人というレベルの希な存在なのだ。
幾ら火山の火口に近いとは言え、溶岩を操るような真似が簡単に出来るのなら、とっくの昔に他の地域における活火山の神様の信徒だって同じ事をやっているはずだ。
これがシャンサの力というなら、確かに『イル=フェロ神の預言者』を名乗るのにふさわしいものだと思うし、信徒達がそれを信じるのもおかしくはない。
それではやっぱりシャンサは本当の預言者と言うことか。
ますます話は厄介な方向に進んでいる様子だな。
いずれにしても火口からオレ達を見下ろしている中にその『預言者』がいる可能性が高い。
つまりシャンサはオレ達に先回りして、待ち伏せていたのか。
一度、神の試練を乗り越えて祝福を受けた身ならば、さほど不自然ではないが何かが引っかかる。
「アルタシャの言うとおりだ……だけど……」
テセルは改めて何かを考え込んでいるが、確証はないとしても、何か思い当たる節があるらしい。
そしてその視線は、火口の近くでオレ達を見下ろしている連中に注がれている。
しかし今はそれどころではない。灼熱を放っている『溶岩人形』の方をどうにかせねばならないのだ。
「うぉぉぉ!」
サロールは雄叫びと共に、剣を引き抜いて『溶岩人形』に斬りつける。骨で作られた刀身は溶岩の身に深々と食い込み――そこで燃え尽きる。
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