異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第21章 神の試練と預言者

第955話 火口部にて、神の前に『預言者』と対面?

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 いったいテセルは何に気づいたのか?
 これまでの話からして、シャンサが神造者と何らかの関係があるのは確かだろう。
 テセルは否定していたが、もしもシャンサが道を踏み外した神造者ならば、外部の人間を敵視する教義を唱える事はさほど不思議でもない。
 以前にテセルは『地方に配属されたエリート神造者の中には、中央に戻って出世競争をするのではなく、配属地でお山の大将になるものもいる』と言っていた。
 それと同じように、シャンサはこの荒廃した地でイル=フェロ信徒の支配者となり、この地域に外部の人間を近づかせないようにしようとして『外部の人間は堕落しているから、どんな仕打ちをしても構わない』という教えを広める事は十分にあり得るな。

「いったいどういうことなのですか? 教えて下さい」
「今のところは推測に過ぎないからな。まあ山頂に登ってみれば分かるだろう」
「大丈夫なのですか?」

 いま山頂にいる連中が、オレ達に対して友好的である事を期待するのは、テセルがいきなり真人間になるより可能性は低いだろう。

「万一の時は――」
「わたしを当てにしないで下さいよ」

 そんなことを言っても、本当にテセルが危うければ助けてしまうのは分かっているが、それでも一応は釘を刺しておこう。
 しかし本当にテセルには何らかの当てがあるようだが、それが推測なのも間違いない。
 それでも躊躇せずに命を賭けて行動するところは、本当に相変わらずだが、その点に関してはオレも似たようなものだ。
 オレがなんだかんだ言いつつ、こうやってテセルと付き合っているのは、それが理由なのかもしれないな。

「これは……またアルがやってくれたのか」

 サロールは意識を取り戻したところで、自分の身を改めて確認し驚いている様子だ。
 先ほどのサロールの受けていたやけどは、間違いなく致命傷だったけど、殆ど跡形もなく治っているのだからな。

「わたしたちを守って戦ってくれたのですから、これぐらいは当然ですよ」
「お前はそういうが……」

 サロールはオレの事をいろいろと意識はしているが、それをどう表現していいのか分からないらしい。
 ううむ。いろいろと面倒だけど、毎度の事ながらそのあたりは先延ばしさせてもらおう。

「ところで聖地は目の前です。また何かやってくる前に急ぎたいところなのですけど、あそこに見えている人たちについてサロールさんはなにかご存じですか?」
「いや。俺は知らん」

 ひょっとしたら聖地である火口を守護している役目のあるイル=フェロ信徒がいるのかと思っていたが、少なくともサロールは何も知らないらしい。
 ただの山頂ならいざ知らず、今も噴煙を上げている活火山の火口近くに常時活動している人間がいるはずがないし、やはり直接行って確認するしかないか。

「とにかく先に行きましょう」

 火口にいる連中が正体不明だからと言って、サロールがこの場で引き返す筈もない。
 こうなれば一緒に向かう以外に、選択肢はないか。
 危険は承知だが、この先に何があるのか興味が抑えきれないのは、テセルだけではなくオレ自身についても言える事なのだ。

 しばしの後、火口にて待ち構えている連中に近づいたが、少なくとも相手はすぐにオレ達を攻撃する様子は無い。
 先ほどの『溶岩人形』ラヴァ・ゴーレムは無関係だったのか?
 それとも『聖地の守護者』だとすればよくあるパターンだが、オレ達を試したのか?
 その謎はこの先にあるのは間違いないが、相応の危険があるのも確かだ。
 相手の正確な数は、未だに分からないけど、少なくとも十人はいるらしい。
 一斉に襲いかかられたら、いろいろと面倒なのは間違いないので、ひとまず暴力的活動を抑止する『調和』ハーモニーをかけておく。
 そんなわけで緊張しつつ、オレ達一行は硫黄の匂いが漂うイル=フェロ神の聖地たる火口の端にたどり着いた。

 先ほどからこちらを見ている奴らは、一見したところその装備はサロールと殆ど違いのない典型的なイル=フェロ信徒のものだ。
 そして火口の端には比較的最近になって作られたと思しき、石を組み上げた粗末な建物があった。
 恐らくはイル=フェロ神のやしろなのだろう。

「俺の名はサロール! 偉大なるイル=フェロに会いに来た!」

 サロールが高らかに名乗りを上げると、見ていた連中から一人、中年の男がオレ達の方に近づいてくる。
 相手は高位のイル=フェロ信徒らしく、鍛え上げられた身体を持ち、腰のバックルもかなり手の込んだ細工が施されている。

「お前たちの事は、大いなる預言者もお待ちかねだ」
「預言者だと? それはいったい誰のことだ?」

 サロールは警戒を露わにしつつ問いかける。

「もちろん我らが新たな指導者たるシャンサ様だ」

 思った通り、こいつらはシャンサの支持者だったのか。
 しかもこの先にその『預言者』当人がいるとは、いったい何をしているんだ?
 もちろんこの火口部がイル=フェロ信徒の聖地なのは分かるが、元の世界のようにどこにいても簡単に連絡が取れるはずもなく、ここに居座るのはどうにも不自然だ。
 だがここでサロールは喧嘩腰で叫びをあげる。

「ふざけるな! あのような教えをゆがめるものが偉大なるイル=フェロの預言者であるはずがない!」

 おい。状況を考えろよ。
 ここにいるのがみんなシャンサの手先なのは間違いないのに、いきなり宣戦布告するようなものだろう。
 幾らオレが『調和』で暴力的な活動を抑止していたとしても、魔法がかかったときに視界に入っていなかった相手には効果が無いのだ。
 オレはハラハラしつつ見ていると、周囲の連中は特に怒る様子も無く、むしろこちらに対してあざ笑うかのような表情を示している。

「我らも最初はお前と同じような事を言っていたものだ。だがあのお方に接した事で、それが間違いだったと思い知らされたのだ」

 そして男は改めて先ほどの社を指し示す。

「まずは大いなるシャンサに目通りするがいい。『溶岩人形』を倒したお前には十分にその資格がある」

 男はそう言って余裕のある笑みをオレ達に注いだのだった。
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