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第21章 神の試練と預言者
第956話 『預言者』との対面にて
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サロールの態度からシャンサを『偽りの預言者』と見て敵対しているのは明らかだ。
それにも関わらずここにいるシャンサの信奉者達は、サロールに対して敵意を見せないどころか、むしろ歓迎するそぶりすら見せている。
歓迎する理由は、先ほどサロールが『溶岩人形』倒した事で、彼の実力を認めたからなのは間違いない。
彼らも『強者のみに生き残る資格がある』というイル=フェロ神の教えの信奉者である事に変わりはないようだ。
その上でサロールがシャンサに挑んでも、決して『預言者』が負けるはずがないと思っているのだろう。
確かにこんな聖地に陣取っているのならば、信仰の力を己に集めて、常人の想像を絶する力を有していたとしても不思議ではない。
テセルは並みの人間が信仰の力を集めても、それだけでは『人の器』に収まりきらず、心身共に滅びてしまうと言っていた。
だからこの世界では――この世界でも――『死後に神として崇拝される』事は一般的だが、生きている間に神として崇拝が行われるのはほとんどが詐欺師か、誇大妄想の貴族のたぐいだ――このオレが例外的存在になっているのは個人的にはいろいろと悩ましい。
しかし『神の代理人たる預言者』として信仰の力を一部、得るだけならば人の身でもどうにかなるかもしれない。
テセルほどの神造者ならそれぐらいは気づいているはずだ。そうすると先ほど山頂を見たときの態度もそれが理由なのだろうか?
もしもシャンサがそのような形で、力を得ているのならば、イル=フェロ信徒達をひれ伏させるのは当然だろうし、サロール一人ではどうしようもあるまい。
そんな事を考えていると、オレ達は粗末な社の前につく。
入り口の両脇には武装した見張りが立っているが、規模自体は至ってささやかなものだ。
他の地域にあるような壮麗な寺院とは比較にもならないが、それでも恒久的な建物を作る事はほとんどないイル=フェロ信徒にとっては、かなりのものなのだろう。
あとオレの『霊視』や『魔法眼』にも反応はあるが、オレの魔力が基準になってしまうので、その強さは『オレより弱い』という事しか分からず、ほとんど参考にはならない。
「テセルはこれを見て何か分かりませんか?」
「ありふれたものだが、信仰の力を呼び込むための最低限度の機能は備えられているな」
「それは神造者の様式に基づいてのものですか?」
「まあそういうことになるな」
やっぱりそうか。ここまでは予想通りだ。
そして半ば覚悟を固めていると、見張りが道を空けて中に入るようにうながす。
シャンサは護衛を必要とはしていないのか?
よほど自分の実力に自信があるのか、この社に込められた魔力や精霊が凄いのか。
とにかくオレ達一行は小さな社の中に足を踏みいれた。
ひょっとしたら建物の内部は異次元に繋がっているとか、そういう事態まで頭の片隅に置いていたけど、別にそのような事は無く一見すればただのむさ苦しい狭い部屋である。
だがあちこちに魔法や霊体が仕込まれており、決して見た目通りではない。
そして床には毛皮が敷かれ、正面には中年から初老ぐらい、五十歳前後の男が座っていた。
「よく来たな。歓迎するぞ」
男はゆっくりと立ち上がり、言葉通りにその手を広げる。
少なくとも敵意があるようには見えない。
外見は他のイル=フェロ信徒と大きな違いがあるわけでは無いが、身体にまとった装飾はかなり手が込んでいるようだ。
「お前が『偽りの預言者』シャンサか!」
サロールは男を指差しつつ怒りを込めて叫ぶ。
「確かに……今はそう呼ばれているな」
むう。思った通り何か含みのありそうな言い方だ。
「俺の名はサロールだ! 神聖なる教義をゆがめたお前をイル=フェロ神の名の下に滅ぼすために来た!」
明らかな敵対宣言をされてもシャンサはまるで動じた様子は無い。
「君がここまで来た理由は分かったが、落ち着きたまえ」
「ふざけるな! イル=フェロ神の名の下に俺と決闘しろ!」
いきり立つサロールに対し、シャンサは落ち着いた様子で応じる。
「決闘するのは別に構わないが、その前にこちらの話を聞いてからにしたまえ」
「黙れ! イル=フェロ信徒ならばそのような詭弁を弄するのではなく、神の前での決闘で正邪を決めるはずだ!」
「君はここまで来るのに、過酷な試練続きで相当疲れているだろう。戦うにしても休息してからにした方がよくはないか?」
ううむ。オレの感覚では、サロールの方が押しかけて一方的に喧嘩を売っていて、それをシャンサが『大人の余裕』であしらっているようにしか見えない。
「俺はそんな事など――」
サロールがシャンサに襲いかかる前に、ここはオレが割って入るとしよう。
「待って下さい。今はあの人の言うとおりにしましょう。戦うのは話を聞いてからでも遅くはありませんよ」
「むう……分かった……」
サロールもシャンサの言うとおり疲れているのは確かだろう。
まあこれまでオレが何度か助けているから、今のところは引き下がってくれたというところだな。
そしてここでシャンサは。オレに対して笑いかけつつ頭を下げる。
「貴女が名高き聖女、アルタシャ様ですな。お目にかかれて光栄です」
オレの『正体』を見抜かれても、特に驚きはしなかった。
シャンサが外部の事情に通じている事は予想出来ていたからな。
だが聞いたところではシャンサは『外部の人間は堕落しているので、尊重する必要など無い』という、オレにすればかなり過激な教えを説いているはず――そもそもイル=フェロ信徒の『弱者には生きる資格は無い』という教えの時点で、とても受け入れがたい極端なものだけどな。
ここまでのシャンサの態度を見る限り『弱肉強食』を唱えるイル=フェロ信徒には明らかにそぐわないものだ。
だがそれが演技でないのならば、かえってその背後に何か不気味なものを感じてしまうのが、これまで何度も厄介事に出くわしてきたオレの習性でもあるのだが。
それにも関わらずここにいるシャンサの信奉者達は、サロールに対して敵意を見せないどころか、むしろ歓迎するそぶりすら見せている。
歓迎する理由は、先ほどサロールが『溶岩人形』倒した事で、彼の実力を認めたからなのは間違いない。
彼らも『強者のみに生き残る資格がある』というイル=フェロ神の教えの信奉者である事に変わりはないようだ。
その上でサロールがシャンサに挑んでも、決して『預言者』が負けるはずがないと思っているのだろう。
確かにこんな聖地に陣取っているのならば、信仰の力を己に集めて、常人の想像を絶する力を有していたとしても不思議ではない。
テセルは並みの人間が信仰の力を集めても、それだけでは『人の器』に収まりきらず、心身共に滅びてしまうと言っていた。
だからこの世界では――この世界でも――『死後に神として崇拝される』事は一般的だが、生きている間に神として崇拝が行われるのはほとんどが詐欺師か、誇大妄想の貴族のたぐいだ――このオレが例外的存在になっているのは個人的にはいろいろと悩ましい。
しかし『神の代理人たる預言者』として信仰の力を一部、得るだけならば人の身でもどうにかなるかもしれない。
テセルほどの神造者ならそれぐらいは気づいているはずだ。そうすると先ほど山頂を見たときの態度もそれが理由なのだろうか?
もしもシャンサがそのような形で、力を得ているのならば、イル=フェロ信徒達をひれ伏させるのは当然だろうし、サロール一人ではどうしようもあるまい。
そんな事を考えていると、オレ達は粗末な社の前につく。
入り口の両脇には武装した見張りが立っているが、規模自体は至ってささやかなものだ。
他の地域にあるような壮麗な寺院とは比較にもならないが、それでも恒久的な建物を作る事はほとんどないイル=フェロ信徒にとっては、かなりのものなのだろう。
あとオレの『霊視』や『魔法眼』にも反応はあるが、オレの魔力が基準になってしまうので、その強さは『オレより弱い』という事しか分からず、ほとんど参考にはならない。
「テセルはこれを見て何か分かりませんか?」
「ありふれたものだが、信仰の力を呼び込むための最低限度の機能は備えられているな」
「それは神造者の様式に基づいてのものですか?」
「まあそういうことになるな」
やっぱりそうか。ここまでは予想通りだ。
そして半ば覚悟を固めていると、見張りが道を空けて中に入るようにうながす。
シャンサは護衛を必要とはしていないのか?
よほど自分の実力に自信があるのか、この社に込められた魔力や精霊が凄いのか。
とにかくオレ達一行は小さな社の中に足を踏みいれた。
ひょっとしたら建物の内部は異次元に繋がっているとか、そういう事態まで頭の片隅に置いていたけど、別にそのような事は無く一見すればただのむさ苦しい狭い部屋である。
だがあちこちに魔法や霊体が仕込まれており、決して見た目通りではない。
そして床には毛皮が敷かれ、正面には中年から初老ぐらい、五十歳前後の男が座っていた。
「よく来たな。歓迎するぞ」
男はゆっくりと立ち上がり、言葉通りにその手を広げる。
少なくとも敵意があるようには見えない。
外見は他のイル=フェロ信徒と大きな違いがあるわけでは無いが、身体にまとった装飾はかなり手が込んでいるようだ。
「お前が『偽りの預言者』シャンサか!」
サロールは男を指差しつつ怒りを込めて叫ぶ。
「確かに……今はそう呼ばれているな」
むう。思った通り何か含みのありそうな言い方だ。
「俺の名はサロールだ! 神聖なる教義をゆがめたお前をイル=フェロ神の名の下に滅ぼすために来た!」
明らかな敵対宣言をされてもシャンサはまるで動じた様子は無い。
「君がここまで来た理由は分かったが、落ち着きたまえ」
「ふざけるな! イル=フェロ神の名の下に俺と決闘しろ!」
いきり立つサロールに対し、シャンサは落ち着いた様子で応じる。
「決闘するのは別に構わないが、その前にこちらの話を聞いてからにしたまえ」
「黙れ! イル=フェロ信徒ならばそのような詭弁を弄するのではなく、神の前での決闘で正邪を決めるはずだ!」
「君はここまで来るのに、過酷な試練続きで相当疲れているだろう。戦うにしても休息してからにした方がよくはないか?」
ううむ。オレの感覚では、サロールの方が押しかけて一方的に喧嘩を売っていて、それをシャンサが『大人の余裕』であしらっているようにしか見えない。
「俺はそんな事など――」
サロールがシャンサに襲いかかる前に、ここはオレが割って入るとしよう。
「待って下さい。今はあの人の言うとおりにしましょう。戦うのは話を聞いてからでも遅くはありませんよ」
「むう……分かった……」
サロールもシャンサの言うとおり疲れているのは確かだろう。
まあこれまでオレが何度か助けているから、今のところは引き下がってくれたというところだな。
そしてここでシャンサは。オレに対して笑いかけつつ頭を下げる。
「貴女が名高き聖女、アルタシャ様ですな。お目にかかれて光栄です」
オレの『正体』を見抜かれても、特に驚きはしなかった。
シャンサが外部の事情に通じている事は予想出来ていたからな。
だが聞いたところではシャンサは『外部の人間は堕落しているので、尊重する必要など無い』という、オレにすればかなり過激な教えを説いているはず――そもそもイル=フェロ信徒の『弱者には生きる資格は無い』という教えの時点で、とても受け入れがたい極端なものだけどな。
ここまでのシャンサの態度を見る限り『弱肉強食』を唱えるイル=フェロ信徒には明らかにそぐわないものだ。
だがそれが演技でないのならば、かえってその背後に何か不気味なものを感じてしまうのが、これまで何度も厄介事に出くわしてきたオレの習性でもあるのだが。
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