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第21章 神の試練と預言者
第958話 神の力を『解放』すると
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テセルの言葉によればシャンサは神造者の『解放派』と言われる派閥に属していたらしい。
その話によると伝説にはよく出てくる『試練を乗り越えた者に力を与える』ものをより多数の人間に開かれた形にするよう伝説を変えていたらしい。
オレはてっきり『信仰の力を独占し、それによって支持を獲得しているのではないか』と予想していたのだが、まさか正反対だったとは驚きだ。
「具体的にはどのような手段を取っていたのですか?」
「そいつらが行ったのは実に簡単で安直な方法さ」
なんか非常に嫌な予感がしてきた。
そしてオレの場合、予想はしょっちゅう外れるが、悪い方の予感は大抵当たるのだ。
「先ほど言ったようにフォンリット帝国には名高い『知性の泉』があって、その泉を飲んだものには叡智が与えられた」
RPGだったら『知力』が上がるイベントというところだな。
「もちろん広く知られた泉ではあるが、守護者たるビーバーが住んでいて、その問いに答えねば誰も飲むことは許されなかった」
守護者がビーバーだとあんまりありがたみはなさそうだが、知性の泉に住んでその水で暮らしているならさぞかし頭はいいのだろう。
ここでシャンサが口を挟む。
「そのビーバーはただ単に、最初にその泉の水を飲み、そこを住処として、泉を独占しただけの存在に過ぎん」
このシャンサの言葉を聞けば、その先に何があったのかはオレでも見当がつく。
「もしかして『解放派』の人たちはそのビーバーを滅ぼしてしまったのですか?」
「ああそうだ。奴らはビーバーを倒し、その毛皮を剥いで自分たちの勝利の証としたのだ」
「それで泉の水はどうなったのですか……」
「そこから先は簡単に想像がつくだろう。愚か者共によって浪費された泉の水は枯渇してしまったのだ」
やっぱりそうなるか。むしろ当然の結果だな。
「もちろんそれだけではない。中身を口にすれば卓越した統率力と指導力を与える『勝利の聖杯』は、偉大な将帥たる資格無き者が手にすると灼熱を発して相手を焼き殺していた。だがそれを止めたので聖杯は飲み干されて打ち砕かれ、破片は盗人に持ち去られた」
いくら何でも浅はかすぎると言いたいが、以前に訪れた『卵さらい』の町では川を流れてくるドラゴンの卵を略奪しまくって、怒ったドラゴンに滅ぼされたわけだし、そういう人間の欲望絡みの問題は決して無くなる事は無いのだろう。
「他にも『解放派』の愚かな行いによって、あるものは貴重な叡智が浪費されて滅び、またあるものは守護者がいなくなったので盗まれて行方知らずになった。その損失は莫大なものとなり、一時はフォンリット帝国と神造者全体を危機に陥れたほどだ。だから奴らは追放されたのだ」
そんなの当たり前だと言いたいが、もしも常人ならばとても手の届かない偉大な力を簡単に得る手段があると言われたら、支持する人間は多いはずだ。
間違いなくその『解放派』には金持ちや権力者に大勢の支持者がいただろう
その結果、彼らは神造者中でも大きな派閥となって、それが破綻するまで神話世界から略奪を続けていたわけだ。
元の世界でも資源に頼っていた国が、その枯渇が問題になっても手をこまねいて破綻してしまった例はあったけど、やっぱりこういうところはどこでも一緒か。
もしも『解放派』が神造者を指導するような事になっていたら今頃、神造者は滅亡していたかもしれないな。
多大な犠牲の末に、その暴走をどうにか食い止められたと言うことか――その結果がテセルだとしたら、あんまり進歩したとは言えないだろうけど。
ここでテセルは改めてシャンサに向き直る。
「お前がここで『預言者』として支持を集めたのは、イル=フェロ信徒に信仰の力を安売りして回ったからだろう」
オレは『力を独占する』事の問題ばかり考えていたけど『資格無きものが力をたやすく手にする』事もやはり大きな問題なのだ。
いつもの事だが、何でも行き過ぎはろくな結果を招かないのである。
「恐らくは精霊界を通過して、この山頂にたどり着く経路を用意したのだな」
以前にテセルと一緒に行動していたときに聞いたところによると、神造者は異世界を通過する事で現実世界の障害を無視して移動する魔法があった。
シャンサはその魔法を提供する事で、イル=フェロ信徒が簡単にこの聖地に到着できるようにしているのか。
この火口にいる連中がどうしてオレ達に先回り出来たのか疑問だったが、それもシャンサが支持を獲得する手法の一つだったというワケか。
「それでまた一つ、お前たちは長年に渡り信仰されてきた聖地の力を枯渇させるわけか。お前たちは我ら『神造者』の端くれではない。信仰の力を欲する人間の心理につけ込む詐欺師、いや寄生虫だ」
「ふん。お前たちの考えるところはその程度だ」
シャンサは蔑みに満ちたテセルの批判に対し、堂々と開き直る。
同様の事は散々、言われてきたのだろうが、それに対する彼らなりの理論武装ぐらいはあって当然だな。
「確かに過去に我ら『解放派』は多くの過ちを犯した事は認めよう。また人間の欲に際限が無いことを甘く見ていたのも間違いない。しかしそれは経験が不十分で、どこまで信仰の力を汲み上げてよいのか分かっていなかったからだ」
それではシャンサは本当にイル=フェロ信徒を自分の実験に使っているだけなのか。
つまりシャンサは本当に『偽りの預言者』そのものだったのだな。
ううむ。オレの今までの経験上、そんな非難をぶつけられた相手が本当にその通りだった事は滅多に無かった。
しかしその実例を目の当たりにしてしまうことがあろうとは、それはそれで一つの予想外ではあるな。
その話によると伝説にはよく出てくる『試練を乗り越えた者に力を与える』ものをより多数の人間に開かれた形にするよう伝説を変えていたらしい。
オレはてっきり『信仰の力を独占し、それによって支持を獲得しているのではないか』と予想していたのだが、まさか正反対だったとは驚きだ。
「具体的にはどのような手段を取っていたのですか?」
「そいつらが行ったのは実に簡単で安直な方法さ」
なんか非常に嫌な予感がしてきた。
そしてオレの場合、予想はしょっちゅう外れるが、悪い方の予感は大抵当たるのだ。
「先ほど言ったようにフォンリット帝国には名高い『知性の泉』があって、その泉を飲んだものには叡智が与えられた」
RPGだったら『知力』が上がるイベントというところだな。
「もちろん広く知られた泉ではあるが、守護者たるビーバーが住んでいて、その問いに答えねば誰も飲むことは許されなかった」
守護者がビーバーだとあんまりありがたみはなさそうだが、知性の泉に住んでその水で暮らしているならさぞかし頭はいいのだろう。
ここでシャンサが口を挟む。
「そのビーバーはただ単に、最初にその泉の水を飲み、そこを住処として、泉を独占しただけの存在に過ぎん」
このシャンサの言葉を聞けば、その先に何があったのかはオレでも見当がつく。
「もしかして『解放派』の人たちはそのビーバーを滅ぼしてしまったのですか?」
「ああそうだ。奴らはビーバーを倒し、その毛皮を剥いで自分たちの勝利の証としたのだ」
「それで泉の水はどうなったのですか……」
「そこから先は簡単に想像がつくだろう。愚か者共によって浪費された泉の水は枯渇してしまったのだ」
やっぱりそうなるか。むしろ当然の結果だな。
「もちろんそれだけではない。中身を口にすれば卓越した統率力と指導力を与える『勝利の聖杯』は、偉大な将帥たる資格無き者が手にすると灼熱を発して相手を焼き殺していた。だがそれを止めたので聖杯は飲み干されて打ち砕かれ、破片は盗人に持ち去られた」
いくら何でも浅はかすぎると言いたいが、以前に訪れた『卵さらい』の町では川を流れてくるドラゴンの卵を略奪しまくって、怒ったドラゴンに滅ぼされたわけだし、そういう人間の欲望絡みの問題は決して無くなる事は無いのだろう。
「他にも『解放派』の愚かな行いによって、あるものは貴重な叡智が浪費されて滅び、またあるものは守護者がいなくなったので盗まれて行方知らずになった。その損失は莫大なものとなり、一時はフォンリット帝国と神造者全体を危機に陥れたほどだ。だから奴らは追放されたのだ」
そんなの当たり前だと言いたいが、もしも常人ならばとても手の届かない偉大な力を簡単に得る手段があると言われたら、支持する人間は多いはずだ。
間違いなくその『解放派』には金持ちや権力者に大勢の支持者がいただろう
その結果、彼らは神造者中でも大きな派閥となって、それが破綻するまで神話世界から略奪を続けていたわけだ。
元の世界でも資源に頼っていた国が、その枯渇が問題になっても手をこまねいて破綻してしまった例はあったけど、やっぱりこういうところはどこでも一緒か。
もしも『解放派』が神造者を指導するような事になっていたら今頃、神造者は滅亡していたかもしれないな。
多大な犠牲の末に、その暴走をどうにか食い止められたと言うことか――その結果がテセルだとしたら、あんまり進歩したとは言えないだろうけど。
ここでテセルは改めてシャンサに向き直る。
「お前がここで『預言者』として支持を集めたのは、イル=フェロ信徒に信仰の力を安売りして回ったからだろう」
オレは『力を独占する』事の問題ばかり考えていたけど『資格無きものが力をたやすく手にする』事もやはり大きな問題なのだ。
いつもの事だが、何でも行き過ぎはろくな結果を招かないのである。
「恐らくは精霊界を通過して、この山頂にたどり着く経路を用意したのだな」
以前にテセルと一緒に行動していたときに聞いたところによると、神造者は異世界を通過する事で現実世界の障害を無視して移動する魔法があった。
シャンサはその魔法を提供する事で、イル=フェロ信徒が簡単にこの聖地に到着できるようにしているのか。
この火口にいる連中がどうしてオレ達に先回り出来たのか疑問だったが、それもシャンサが支持を獲得する手法の一つだったというワケか。
「それでまた一つ、お前たちは長年に渡り信仰されてきた聖地の力を枯渇させるわけか。お前たちは我ら『神造者』の端くれではない。信仰の力を欲する人間の心理につけ込む詐欺師、いや寄生虫だ」
「ふん。お前たちの考えるところはその程度だ」
シャンサは蔑みに満ちたテセルの批判に対し、堂々と開き直る。
同様の事は散々、言われてきたのだろうが、それに対する彼らなりの理論武装ぐらいはあって当然だな。
「確かに過去に我ら『解放派』は多くの過ちを犯した事は認めよう。また人間の欲に際限が無いことを甘く見ていたのも間違いない。しかしそれは経験が不十分で、どこまで信仰の力を汲み上げてよいのか分かっていなかったからだ」
それではシャンサは本当にイル=フェロ信徒を自分の実験に使っているだけなのか。
つまりシャンサは本当に『偽りの預言者』そのものだったのだな。
ううむ。オレの今までの経験上、そんな非難をぶつけられた相手が本当にその通りだった事は滅多に無かった。
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