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第22章 軍神の治める地では
第990話 門前町に現れたものは
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一応は賑やかな門前町にて、とりあえず聖女教会の場所を尋ねようとしたところで、周囲の巡礼者達がいきなり騒がしくなる。
何事かと思ってそちらを見ると、そこにはこれ見よがしに大きな旗を掲げて近づく兵隊の一団があったのだ。
明らかにこれまで見てきた白馬領の兵士たちとは違う。
まさか?! エシュミール軍がここまで攻めてきたのか?
一瞬、ヒヤリとなったが周囲の様子はどうも違うらしい。
「あれがエシュミール軍か……」
「いったいこの地はどうなるんだ……」
「いや。我らにはケルマル神のご加護がある。あのような者どもに屈する筈がなかろうが!」
明らかに巡礼者たちは動揺していて兵士たちにも緊張が走っているが、戦闘が始まる様子はない、とするとあれはエシュミール軍からの使者だろう。
もちろん少なからぬ兵士を連れてきたのは、威嚇するためなのは間違いない。たださすがに高価で貴重なゴーレムを使者に同行させる余裕は無いようだ。
そうか。ものものしい雰囲気の割にオレとクロンの二人連れがケルマル信徒たちに見とがめられなかったのは、既に使者の話が来ていて、そちらに注意が集中していたからか。
その使者が乗っていると思しき馬車は、門前町の大通りを進んでいる。
もちろん周囲は護衛の兵士がガッチリと固めていて、とても近づく事など出来そうにない。
彼らの武装や動きは規格化が進められている様子で、訓練も行き届いておりこの『白馬領』であちこち見かけた民兵などとはワケが違う事が一目瞭然だった。
確かにウルバヌスを信仰しているだけあって、個人の武勇よりも軍事組織としての活動を優先する規律正しい軍隊である事は間違いないな。
「おのれ……こんなところまで我が物顔で……」
クロンは怒りに満ちた視線を注ぎ、腰の剣に手をかける。
今すぐにでも飛び出していって、斬りつけかねない雰囲気だ。
「ちょっと待って下さい」
オレはひとまずクロンの肩をつかんで止める。
「そんな真似をすれば、あなたの命が――」
「しかし。奴らが何をしにきたのか、アルなら分かっているだろう」
普通に考えれば、中立の立場という白馬領にただの挨拶で兵士を何十人も引き連れて来るはずがない。
恐らくは白馬領に屈服を要求し、エシュミール軍に兵士を提供させるつもりなのだろう。
「エシュミール軍は自分たちの精鋭部隊よりも、まずは征服した地の兵士に先陣を切らせて戦わせるのだ」
これもよくあるやり方だな。征服した土地から兵力を出させれば、後になって反抗する事も難しくなる。
もちろん先陣を切らせて真っ先に戦わせれば、裏切りの心配は下がるし、自軍の犠牲も抑えられるという寸法だ。
それでいて支配者の側からすれば『名誉の先陣を任せたのだ』と言い張れるのだから、何とも都合のいいやり口だ。
もっとも一見すればいい事ずくめのようにも見える話だが、実際にはそう簡単な事でもなかったらしい。
たとえば先陣を切らせた連中がやる気無く敵軍に蹴散らされてしまい、その姿が両軍に見られるような事になれば、士気に大きく影響してしまう。
また規律厳しい軍隊の場合、急に傘下に置いた軍に対し、自軍と同じ規律を守らせるのも困難だ。
そんな場合、規律の乱れが伝染してかえって自軍の方の規律が乱れてしまうような事もあったとか。
実際にエシュミール軍が支配下に置いた軍にどんな扱いをしているのかはよく分からないが、エシュミールの精鋭部隊は先陣を切らせた連中が蹴散らされてもまるで動じず、規律を守らない同盟軍がいても気にも止めない秩序だった軍隊なのか。
いや。待てよ。そういえば今までオレはウルバヌスが神として、いかなる魔法を信者に提供しているのか、聞いていなかったな。
クロンを暴走させないためにも『神なる皇帝ウルバヌス』の信仰について、聞いて見るとしよう。
「今さらながら一つ聞いていいですか?」
「いったいなんだ」
「ウルバヌス神はいかなる魔法を提供しているのです?」
オレの質問に対し、クロンは少しばかり拍子抜けした表情を浮かべる。
「そんなことか……ウルバヌス神は忠実なる信徒に対し『軍団招集』をお与え下さる」
「それにはどのような効果があるのですか」
「まず兵を集め、聖なる軍旗を用意し、そこで司祭が『軍団招集』の儀式を行う。そうすると生前かの皇帝の配下であった軍団長の霊が一体顕現し、儀式で焦点となった軍団旗に宿る。そこで儀式に参加していた兵士達に軍の規律を守って戦う覚悟が固められるのだ。これは再び儀式を行い軍団が解散するまで続く」
なるほどな。オレが使う『士気高揚』は視界内にいる兵士達の士気を高める魔法だけど、ウルバヌスは自分の名の下に結成された軍に規律と秩序を教え込む力があるというわけか。
個人の戦闘力よりも軍事組織を優先する神らしい魔法だ。
それがあれば拡大する占領地から兵士を動員して兵力を確保し、更に次の占領地を増やす事も可能になるな。
言いかえるとこの『白馬領』から兵士を動員出来れば、それがすぐにエシュミール軍の先鋒として働かせる事が可能になるというわけだ。
きな臭くなってくる一方で、クロンの方は危機感が募っているのも間違いない。
ただフェスマールを返還しに来ただけなのに、またしてもいろいろ面倒事に首を突っ込む事になりそうだ。
何事かと思ってそちらを見ると、そこにはこれ見よがしに大きな旗を掲げて近づく兵隊の一団があったのだ。
明らかにこれまで見てきた白馬領の兵士たちとは違う。
まさか?! エシュミール軍がここまで攻めてきたのか?
一瞬、ヒヤリとなったが周囲の様子はどうも違うらしい。
「あれがエシュミール軍か……」
「いったいこの地はどうなるんだ……」
「いや。我らにはケルマル神のご加護がある。あのような者どもに屈する筈がなかろうが!」
明らかに巡礼者たちは動揺していて兵士たちにも緊張が走っているが、戦闘が始まる様子はない、とするとあれはエシュミール軍からの使者だろう。
もちろん少なからぬ兵士を連れてきたのは、威嚇するためなのは間違いない。たださすがに高価で貴重なゴーレムを使者に同行させる余裕は無いようだ。
そうか。ものものしい雰囲気の割にオレとクロンの二人連れがケルマル信徒たちに見とがめられなかったのは、既に使者の話が来ていて、そちらに注意が集中していたからか。
その使者が乗っていると思しき馬車は、門前町の大通りを進んでいる。
もちろん周囲は護衛の兵士がガッチリと固めていて、とても近づく事など出来そうにない。
彼らの武装や動きは規格化が進められている様子で、訓練も行き届いておりこの『白馬領』であちこち見かけた民兵などとはワケが違う事が一目瞭然だった。
確かにウルバヌスを信仰しているだけあって、個人の武勇よりも軍事組織としての活動を優先する規律正しい軍隊である事は間違いないな。
「おのれ……こんなところまで我が物顔で……」
クロンは怒りに満ちた視線を注ぎ、腰の剣に手をかける。
今すぐにでも飛び出していって、斬りつけかねない雰囲気だ。
「ちょっと待って下さい」
オレはひとまずクロンの肩をつかんで止める。
「そんな真似をすれば、あなたの命が――」
「しかし。奴らが何をしにきたのか、アルなら分かっているだろう」
普通に考えれば、中立の立場という白馬領にただの挨拶で兵士を何十人も引き連れて来るはずがない。
恐らくは白馬領に屈服を要求し、エシュミール軍に兵士を提供させるつもりなのだろう。
「エシュミール軍は自分たちの精鋭部隊よりも、まずは征服した地の兵士に先陣を切らせて戦わせるのだ」
これもよくあるやり方だな。征服した土地から兵力を出させれば、後になって反抗する事も難しくなる。
もちろん先陣を切らせて真っ先に戦わせれば、裏切りの心配は下がるし、自軍の犠牲も抑えられるという寸法だ。
それでいて支配者の側からすれば『名誉の先陣を任せたのだ』と言い張れるのだから、何とも都合のいいやり口だ。
もっとも一見すればいい事ずくめのようにも見える話だが、実際にはそう簡単な事でもなかったらしい。
たとえば先陣を切らせた連中がやる気無く敵軍に蹴散らされてしまい、その姿が両軍に見られるような事になれば、士気に大きく影響してしまう。
また規律厳しい軍隊の場合、急に傘下に置いた軍に対し、自軍と同じ規律を守らせるのも困難だ。
そんな場合、規律の乱れが伝染してかえって自軍の方の規律が乱れてしまうような事もあったとか。
実際にエシュミール軍が支配下に置いた軍にどんな扱いをしているのかはよく分からないが、エシュミールの精鋭部隊は先陣を切らせた連中が蹴散らされてもまるで動じず、規律を守らない同盟軍がいても気にも止めない秩序だった軍隊なのか。
いや。待てよ。そういえば今までオレはウルバヌスが神として、いかなる魔法を信者に提供しているのか、聞いていなかったな。
クロンを暴走させないためにも『神なる皇帝ウルバヌス』の信仰について、聞いて見るとしよう。
「今さらながら一つ聞いていいですか?」
「いったいなんだ」
「ウルバヌス神はいかなる魔法を提供しているのです?」
オレの質問に対し、クロンは少しばかり拍子抜けした表情を浮かべる。
「そんなことか……ウルバヌス神は忠実なる信徒に対し『軍団招集』をお与え下さる」
「それにはどのような効果があるのですか」
「まず兵を集め、聖なる軍旗を用意し、そこで司祭が『軍団招集』の儀式を行う。そうすると生前かの皇帝の配下であった軍団長の霊が一体顕現し、儀式で焦点となった軍団旗に宿る。そこで儀式に参加していた兵士達に軍の規律を守って戦う覚悟が固められるのだ。これは再び儀式を行い軍団が解散するまで続く」
なるほどな。オレが使う『士気高揚』は視界内にいる兵士達の士気を高める魔法だけど、ウルバヌスは自分の名の下に結成された軍に規律と秩序を教え込む力があるというわけか。
個人の戦闘力よりも軍事組織を優先する神らしい魔法だ。
それがあれば拡大する占領地から兵士を動員して兵力を確保し、更に次の占領地を増やす事も可能になるな。
言いかえるとこの『白馬領』から兵士を動員出来れば、それがすぐにエシュミール軍の先鋒として働かせる事が可能になるというわけだ。
きな臭くなってくる一方で、クロンの方は危機感が募っているのも間違いない。
ただフェスマールを返還しに来ただけなのに、またしてもいろいろ面倒事に首を突っ込む事になりそうだ。
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