異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第23章 女神の聖地にて真相を

第1043話 後門の狼から前門の虎が

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 海賊船から飛んできた矢はほとんど銛と言ってもいいぐらいに大きい。
 どうやら『海の牙』の船には大型の据付弩弓があるらしく、通常の弓矢よりもずっと大きな矢を用いて、はるかに遠距離から攻撃をかけられるようだ。
 残念ながら戦闘を目的としない『癒しの風』号の方にそんな設備はなく、武器はあくまでも船員の手持ち武器だけである。
 また『火球』ファイヤーボールのような強力な攻撃魔法の使い手もいない。
 つまり現時点では一方的に攻撃を受ける事になる。
 いくら大きな弓でも船を沈める威力はないが、こういう場合に真っ先にダメージを受けるのは人間の方である。

「ぐがぁ!」
「痛てぇよ!」

 矢そのものが直撃したわけではないが、それによって砕けたいろいろなものの破片が乗組員に当たって怪我をさせる。
 もちろん致命傷ではないが、味方が負傷して悲鳴をあげれば恐ろしくないわけがない。
 一方的にこんな攻撃を繰り返されたら、当然なら船員の士気が失われてしまう。

「もうだめだ。停船して貢物を出そう。幾ら何でも皆殺しにはしないだろう」
「馬鹿野郎! 俺たちが浮き足立ってどうする! 海にたたき込まれたいか!」

 ドーマルが弱音を吐いた船員を怒鳴りつける。

「もしも降参するという奴は、自分が生贄になる事を了承したとみなすぞ」

 ううむ。冷静に考えるととんでもない横暴な言い草だけど、逃げ腰になる相手にはそれぐらいの発破をかけないと駄目なのか。
 とりあえず『戦意高揚』モラルの魔法をかけて、船員たちの士気を高めておこう。
 その上で負傷している船員には『応急手当』スーズの魔法をかける。

「おお。痛くないぞ!」
「これならまだまだやれる!」

 負傷の痛みがおさまった船員はやる気を出して、立ち向かおうとする。
 それを見てドーマルも感心した様子でつぶやく。

「アルは見習いなのに大したもんだな。いや。さっきは悪かった。お前さんは頼りなるよ」
「謝るのはいいです。それよりも状況はどうですか?」
「正直に言って望ましくはないな」

 ドーマルの表情はかなり難しそうだ。

「連中があんな弩弓を撃ってくるのは本来は停船させるための脅しだが、その気になれば火をかけてくる可能性もある。普通はそんな事をしたら奪うものもなくなってしまいかねないので、やらないはずだが連中に理屈は通じないからな」
「しかし『海の牙』だって何らかの目的があって襲撃しているはずですよね」
「それが分かりゃ苦労しないよ。何だったらアルが向こうの船に渡ってあいつらに聞いてきてくれるかい?」
「ドーマルさんが一緒に来てくれるというなら、考えておきますよ」

 オレの返答を受けてドーマルは苦笑する。

「本当にアルは肝が座っているな。オレだって幾度も修羅場をくぐってきた一丁前の船乗りのつもりだったけど、まさか見習い聖女様の方が上手とは驚いたよ」

 ここでドーマルは改めて船員にゲキを飛ばす。

「こんな年端もいかない見習い聖女様でも見ず知らずの俺たちのために体を張って傷を治してくれているんだ。船員の俺たちがそれに応えないでどうする!」
「おお!」

 オレの『戦意高揚』の影響もあるんだろうけど、ひとまず船員達はやる気を出してくれたようだ。
 しかし精神力で状況が改善するわけもなく『海の牙』の船はどんどん近づいてくる。

「おおい! 聞こえるか! そこの船、いい加減に止まりやがれ!」

 海賊船から停戦しろとの野太い声が飛んでくる。
 もちろん『癒しの風』号はそんなの聞き入れるはずもない。

「お前らの船には聖女様が乗っているんだろう。それを引き渡せば他の船員や乗客は見逃してやるぞ」
「な、なんだと?」

 わざわざ『海の牙』が縄張りを外れて『癒しの風』号を襲撃してきたのは、聖女を手に入れるためだったのか。
 だけどいったい何のためだ?
 聖女だったら神に捧げる生贄として価値が高いと言うのは分かるけど、それだけのためにわざわざ縄張りを外れての行動だとしたら割に合わなすぎるのではないだろうか。
 もしかしたら連中の拠点で病気が広まったので、その治療が出来る人間を必要としているとかそんな事情なのかもしれん。
 ここでドーマルもまた大声で怒鳴り返す。

「お前たちなんぞに聖女様を渡せるか! 生け贄にする気なのだろうが!」
「そんなワケじゃねえよ! 我らが『海の牙』のご意志だ!」

 面倒だけど、この場合の『海の牙』とは目の前にいる海賊団のことでは無く、彼らの崇拝する海賊神を指しているのだろうな。

「それならその神様に言ってやれ。『クソ食らえ』とな!」

 この返答と共にまたしてもデカい矢が飛んでくる。
 どうやら交渉――というにもおこがましいが――決裂のようである。
 いずれにしてもこうなったら『海の牙』の連中はもっと接近して、乗り込んでくるのはほぼ確実だから、流血は避けようが無いな。
 だがここでまたしても思わぬ事態が起きる。

「まずい! 前にもう一隻来たぞ!」

 ええ? そんなまさか?
 見ると前の方の島影から一隻の船が姿を見せていた。
 げげ?! まさか『海の牙』は最初から挟み撃ちにするつもりだったのか?

「ドーマルさん。あれも『海の牙』の船なんですか」
「いや。違う。あれはまさか……なんてこった……」

 このときどういうわけか『海の牙』を相手にはまだ立ち向かう勇気を見せていたドーマルが、その身を震わせていたのだ。
 思いかえすと先ほどオレと会話したとき、ドーマルには『海の牙』よりも恐れている海賊があったように感じられたが、もしかしたらあの船がそれなのか?
 それではまさに『前門の虎、後門の狼』になってしまったのかよ!
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