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第23章 女神の聖地にて真相を
第1044話 新手の海賊船の正体は?
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オレが『戦意高揚』の魔法で士気を支えているはずなのに、船員には明らかに動揺が広がる。
それはただ単に挟み撃ちにされたから、と言うわけではなくもっと恐ろしい『何か』を予感しているかのように感じられた。
「あれはいったいどこの海賊なのですか?」
「ヴァルゼインの……奴らだ……」
ドーマルの声は恐怖でかすれている。
そのヴァルゼインというのは、船乗り達にとってよっぽど恐ろしい存在らしい。
「そんなに非道な相手なのですか?」
「まあな……俺たちが恐ろしいと言っても、アルにとってはピンとこないだろうけどな」
この発言はどういう意味だろうか?
どうもドーマル達が抱く怖れが、オレとは無縁の事のように考えているかのように思えてくるぞ。
「申し訳ない。今は船の指揮に専念させてくれ。俺たちにとってはここが正念場なんだ」
ここで船員の一人がまたしても恐怖の声を上げる。
「もう『海の牙』の方に降参した方がいい! ヴァルゼインに捕まるよりもまだマシだ」
人間を生贄に捧げる『海の牙』よりも恐ろしいとは、連中はいったいどんな事をしているんだ?
「てめえ! 怖気ずくな!」
ドーマルは自分自身を鼓舞するかのように叫びつつ、正面に立ちふさがる形になっている新手の海賊船を指差す。
「幸か不幸かヴァルゼインの奴らと『海の牙』は不倶戴天の仇敵同士だ。手を組んでいるはずがない」
まあ海賊同士、縄張りを巡って争うなんて日常茶飯事だろうからな。
しかもこの海域だとそれぞれの海賊団が自分達の海賊神を崇拝していて、神様同士が激突する事もあるらしい。
もしもお互いの崇拝する神様に怨恨関係があるとなると、協力は絶対にあり得ないな。
「だからうまくすれば連中同士でぶつかり合ってくれて、その間に俺たちが逃げる事ができるかもしれねえぞ」
幾ら何でもムシが良すぎるけど、ドーマルとすればそれにすがるしか無いのだろうな。
「おお! 分かったぜ!」
「とにかくそれで行くしか無いな!」
「それでは今はあちらに舵をとれ」
ドーマルはヴァルゼインの船の方を指差す。
「ヴァルゼインの奴らに全力で向かって、ギリギリでかわせば奴らはすれ違って後からくる『海の牙』の奴らと鉢合わせするはず。上手くすれば正面衝突し、両方沈没してくれるかもしれんぞ」
そんな漫画みたいな展開が起きてくれたら嬉しいけど、物事がそこまで都合よくいったら苦労はしない。
しかし今はそれしか手が無いのも確かだろう。
「野郎ども! 行くぞ!」
「おお!」
助かる見込みが出てきたからなのか、船員も少しは意欲が戻ってきたようだ。
そして『癒しの風』号は三本あるマストを複雑に動かしている。
オレには操船の事などまるで分からないけど、相当に面倒な作業らしい。だがそれでもゆっくりとその巨体は向きを変える。
もちろんその間にも『海の牙』から攻撃が来るが、例の大きな矢は飛んでこなくなった。
搭載していた分を撃ち尽くしたのか、こちらが降参しないのでもっと重要な場面に備えて温存しているのかのいずれかだろう。
「おらぁ! てめえら俺たちよりもヴァルゼインの奴らにすがるつもりか?! この玉無し野郎ども!」
「あいつらが慈悲深い俺たちと比べてどれだけ恐ろしいか、どれほど多くの船員が命を取られたのか、お前らは忘れっちまったのかよ」
こちらの意図に気づいたのか『海の牙』の方から聞くにたえない罵声が飛んで来る。
これだけ声が響くのはたぶん魔法による拡声器のようなものがあるのだろうな。
無線通信などこの世界には無い以上、味方や獲物の船と意思疎通するにはそういうものがあれば便利なわけだ。
「本当に俺たちよりもヴァルゼインの連中を選ぶというのかよ! それならもう容赦はしねえからな」
どっちみちこっちを容赦する気なんかないだろうけど、かなり必死で呼びかけているところを見ると『海の牙』にとっても、ヴァルゼインの海賊船は恐ろしいらしい。
ドーマルからは詳しい事を聞けなかったが、あちらの海賊はいったい何をそんなに恐れられているのだろうか。
こういう場合、元の世界で一番ありがちなパターンと言えば――船員がみんなアンデッドの幽霊船というタイプだろうか。
この世界ではアンドッドを戦士や労働者に使う事は忌み嫌われてはいるが、実践する勢力も少なくはない。
長期のつらい航海でも文句も言わず、分け前も要求せず、食料や真水も不要な下級アンデッドの乗組員は確かに魅力的かもしれない。
海賊だったらモラルや人の目を気にする必要もないから尚更、有益だろう。
しかしその場合、先ほどのドーマルの態度がちょっと引っかかる。
この『癒やしの風』号の船員達にとっては口にする事も忌まれるほどの存在でも、オレにとってはそれほどではないかのように見えたのだ。
ドーマルはオレを『見習い聖女』だと思っているわけだが、アンデッド教団にとって聖女教会は絶対に相容れない存在のはずだから、そういう勢力では無いらしい。
そんな事を考えていると、先ほどからドンドン迫ってきていた『海の牙』の船が舵を切ったらしく向きを変える。
「お前らの考える事なんざお見通しだ! あばよ!」
むう。『海の牙』とヴァルゼインの海賊船をかみ合わせるという、こちらの意図は見抜かれていたらしい。
しかし敵が一隻だけになっただけでもこちらは助かったはずだが、船員達は少しも安堵した様子が無い。
そしてヴァルゼインの船の方は突っ込んできた『癒やしの風』号の前を横切る形で立ちはだかる。
どうやら相手は衝突覚悟で止める気らしい。何でそこまでするんだ?!
そして近づいた海賊船の甲板がよく見えるようになったとき、オレは思わぬものを目の当たりにする。
ええ? まさかこの海賊船はもしかして?!
いつもの事ではあるが、事前の想像を見事に裏切られた状況にオレは愕然となった。
それはただ単に挟み撃ちにされたから、と言うわけではなくもっと恐ろしい『何か』を予感しているかのように感じられた。
「あれはいったいどこの海賊なのですか?」
「ヴァルゼインの……奴らだ……」
ドーマルの声は恐怖でかすれている。
そのヴァルゼインというのは、船乗り達にとってよっぽど恐ろしい存在らしい。
「そんなに非道な相手なのですか?」
「まあな……俺たちが恐ろしいと言っても、アルにとってはピンとこないだろうけどな」
この発言はどういう意味だろうか?
どうもドーマル達が抱く怖れが、オレとは無縁の事のように考えているかのように思えてくるぞ。
「申し訳ない。今は船の指揮に専念させてくれ。俺たちにとってはここが正念場なんだ」
ここで船員の一人がまたしても恐怖の声を上げる。
「もう『海の牙』の方に降参した方がいい! ヴァルゼインに捕まるよりもまだマシだ」
人間を生贄に捧げる『海の牙』よりも恐ろしいとは、連中はいったいどんな事をしているんだ?
「てめえ! 怖気ずくな!」
ドーマルは自分自身を鼓舞するかのように叫びつつ、正面に立ちふさがる形になっている新手の海賊船を指差す。
「幸か不幸かヴァルゼインの奴らと『海の牙』は不倶戴天の仇敵同士だ。手を組んでいるはずがない」
まあ海賊同士、縄張りを巡って争うなんて日常茶飯事だろうからな。
しかもこの海域だとそれぞれの海賊団が自分達の海賊神を崇拝していて、神様同士が激突する事もあるらしい。
もしもお互いの崇拝する神様に怨恨関係があるとなると、協力は絶対にあり得ないな。
「だからうまくすれば連中同士でぶつかり合ってくれて、その間に俺たちが逃げる事ができるかもしれねえぞ」
幾ら何でもムシが良すぎるけど、ドーマルとすればそれにすがるしか無いのだろうな。
「おお! 分かったぜ!」
「とにかくそれで行くしか無いな!」
「それでは今はあちらに舵をとれ」
ドーマルはヴァルゼインの船の方を指差す。
「ヴァルゼインの奴らに全力で向かって、ギリギリでかわせば奴らはすれ違って後からくる『海の牙』の奴らと鉢合わせするはず。上手くすれば正面衝突し、両方沈没してくれるかもしれんぞ」
そんな漫画みたいな展開が起きてくれたら嬉しいけど、物事がそこまで都合よくいったら苦労はしない。
しかし今はそれしか手が無いのも確かだろう。
「野郎ども! 行くぞ!」
「おお!」
助かる見込みが出てきたからなのか、船員も少しは意欲が戻ってきたようだ。
そして『癒しの風』号は三本あるマストを複雑に動かしている。
オレには操船の事などまるで分からないけど、相当に面倒な作業らしい。だがそれでもゆっくりとその巨体は向きを変える。
もちろんその間にも『海の牙』から攻撃が来るが、例の大きな矢は飛んでこなくなった。
搭載していた分を撃ち尽くしたのか、こちらが降参しないのでもっと重要な場面に備えて温存しているのかのいずれかだろう。
「おらぁ! てめえら俺たちよりもヴァルゼインの奴らにすがるつもりか?! この玉無し野郎ども!」
「あいつらが慈悲深い俺たちと比べてどれだけ恐ろしいか、どれほど多くの船員が命を取られたのか、お前らは忘れっちまったのかよ」
こちらの意図に気づいたのか『海の牙』の方から聞くにたえない罵声が飛んで来る。
これだけ声が響くのはたぶん魔法による拡声器のようなものがあるのだろうな。
無線通信などこの世界には無い以上、味方や獲物の船と意思疎通するにはそういうものがあれば便利なわけだ。
「本当に俺たちよりもヴァルゼインの連中を選ぶというのかよ! それならもう容赦はしねえからな」
どっちみちこっちを容赦する気なんかないだろうけど、かなり必死で呼びかけているところを見ると『海の牙』にとっても、ヴァルゼインの海賊船は恐ろしいらしい。
ドーマルからは詳しい事を聞けなかったが、あちらの海賊はいったい何をそんなに恐れられているのだろうか。
こういう場合、元の世界で一番ありがちなパターンと言えば――船員がみんなアンデッドの幽霊船というタイプだろうか。
この世界ではアンドッドを戦士や労働者に使う事は忌み嫌われてはいるが、実践する勢力も少なくはない。
長期のつらい航海でも文句も言わず、分け前も要求せず、食料や真水も不要な下級アンデッドの乗組員は確かに魅力的かもしれない。
海賊だったらモラルや人の目を気にする必要もないから尚更、有益だろう。
しかしその場合、先ほどのドーマルの態度がちょっと引っかかる。
この『癒やしの風』号の船員達にとっては口にする事も忌まれるほどの存在でも、オレにとってはそれほどではないかのように見えたのだ。
ドーマルはオレを『見習い聖女』だと思っているわけだが、アンデッド教団にとって聖女教会は絶対に相容れない存在のはずだから、そういう勢力では無いらしい。
そんな事を考えていると、先ほどからドンドン迫ってきていた『海の牙』の船が舵を切ったらしく向きを変える。
「お前らの考える事なんざお見通しだ! あばよ!」
むう。『海の牙』とヴァルゼインの海賊船をかみ合わせるという、こちらの意図は見抜かれていたらしい。
しかし敵が一隻だけになっただけでもこちらは助かったはずだが、船員達は少しも安堵した様子が無い。
そしてヴァルゼインの船の方は突っ込んできた『癒やしの風』号の前を横切る形で立ちはだかる。
どうやら相手は衝突覚悟で止める気らしい。何でそこまでするんだ?!
そして近づいた海賊船の甲板がよく見えるようになったとき、オレは思わぬものを目の当たりにする。
ええ? まさかこの海賊船はもしかして?!
いつもの事ではあるが、事前の想像を見事に裏切られた状況にオレは愕然となった。
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