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第23章 女神の聖地にて真相を

第1054話 ハーレム神から思わぬ話が

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 とりあえずオレが回復魔法の魔力を注ぎ込みつづけていると、ソルフ神の傷の化膿は消滅し、ほとんどがふさがってきた。
 常人相手だったら数百人分の致命傷を全快させるぐらいの魔力を費やしただろう。

『ふむ。力が戻ってきた。これならば安心して妻たちを愛する事が出来るぞ!』
「それならわたしの役目も終わりですね」
『そなたは本当に行ってしまうのか?』

 ソルフ神は名残惜しそうにオレを見る。

「そういう約束ですからね」
『やむを得まい……先ほど言った通り、吾は女に対して無理強いは決してしないからな。出て行くというならば引き止めはせぬ』

 男に対しては幾らでも情け容赦なく、自分の妻達にもそう振る舞うように仕向けているけど、女に対しては一応、誠実であろうとしているわけか。
 ツッコミどころは山のようにあるが、オレの立場としてここでソルフ神の機嫌を損ねるのはどう考えても得策では無い。
 早いところこのヴァルゼイン島を出て、本来の目的地であった聖女教会の聖地であるギルボック島に向かわねばならないのだ。
 ただその前に尋ねたいこともある。

「ところであなたは女神イロールとは何か関係がおありなのですか?」
『こう見えても吾はかの女神よりもずっと前から神位にあるのだ』

 イロールが神になったのは千年前だから、コイツはそれよりもさらに前からハーレム生活を送っているのか。
 確かに『男の夢』を体現する存在ではあるな。

『故にあの女神がまだ人間であった時から知っているぞ』

 そう言ってソルフ神がオレに向ける視線から、なんとなく想像はついてきた。

「妻になるように望んだのに断られたのですね」
『そういうことになるな。今のそなたと同じだ』

 よくよく考えると崇拝される場所ごとに夫や恋人が違う女神は、他にも大勢いるはずだ。
 それなのに『ソルフの娘』たちが妙にイロールだけにこだわっていたのは、かつてソルフ神が求愛を断られた事を根に持つ、とまではいかなくともわだかまりを有していたからではないだろうか?

『そなたもそんなところまで真似ずともよかったのにな』
「別に真似ているつもりはありませんよ」

 もともと聖女の多くは崇拝する女神イロールに近い容姿なのだが、オレの場合は幾度もイロールの化身になっていることも影響しているからか、出会った神はその多くが即座に深い関わりを察知する。
 だがオレはあの女神の信者ですら無いのだ――自分で言っていて説得力など無い事は分かっている。

 それはともかく聖女教会が出来る前から存在している神様だったら、回復魔法が女しか使えないという聖女教会の教義が誤りであることは知っているかもしれない。
 だがそれを信徒に伝えるのは、一筋縄ではいかないようだ。
 基本的にこの世界の神様は、自分の権能に関わる事以外では極めて限定的な行動しか出来ないし、たとえ権能に関わる場合でも一定の枠がある。
 たとえば知識神に対し信者が過去の歴史について神託をしても、その神が有する知識が直接与えられるわけではないのだ。
 そのような場合、通常は『尋ねた事について知る人物や、情報が記された書物の収蔵された場所を教える』といった形で神意が示される。
 当然ながらそれで得られる知識が常に正しいという保障は無いし、いつ誰が尋ねても同じ結果になるとは限らない。
 多くの場合、神はその信徒の事情に合わせて教えるので、たいていは近くの寺院に所蔵されている古文書だとか、知識神の司祭の中でその件に詳しい人間が教えられる。

 極めて稀な例として遥か彼方の地にある遺跡のような困難極まる場所が示され、そこから知識を得るべく人生をかけた探索行に乗り出す信徒もいるらしい――成功すれば英雄だが、失敗すれば人生を棒に振るどころか、命を落とすことも珍しくない過酷な神命だ。

 要するに知識神であっても信徒に対して知識を得る手助けはするが、最終的に成果が上がるかどうかは本人次第なのである。
 この結果として、今までオレが出会った知識神の教団はどれも幾つもの学派が生まれ、何が正しい知識なのかを巡って争っていることも当たり前だった。
 知識神でもこの状態だから、他の神となると頼りにする方が間違っている。
 そんなわけで千年以上前からいる神様に尋ねても、千年前の真実が明かされるという事にはならないのである。
 それでも今はソルフ神に直接尋ねているのだから、何か手がかりぐらいはあるかもしれない。

『ふむ。そう言えばギルボック島をかの女神の聖地として開闢したのは、最初の選ばれしものだったな』
「そうなのですか?」

 自分でも半ば忘れていたけど、オレが聖女教会に性転換させられてしまったのも『女神の選ばれしもの』という事だったからだ。
 聖女教会に伝わる伝説では、百年に一度、訓練など受けずとも回復魔法を使える人間が出てくるのを『選ばれしもの』と呼び、いずれも教会の歴史に名を残す偉業を残して神界に入ったと聞かされている。
 恐らくは初期のイロール神の教団組織を定めたのがその『選ばれしもの』だったのだろうな。
 そうするとギルボック島の聖地にて、その相手と接触する事が出来れば何かの手がかりが得られるかもしれないぞ。
 海賊船に乗ったときには何かを期待していたワケでは無いけど、まさかこんなところで情報が得られるとは本当に世の中は分からないものだ。
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