異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第23章 女神の聖地にて真相を

第1075話 クレアの事情と孤児院の子供たち

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 もしやクレアはオレの正体に一目で気付いたのか?

「そんなに驚かないで下さい。あなた様の身から発する神気を見れば、我らが女神の神聖なる息吹は明らかでございます」

 確かに実力ある聖女ならば、見ただけでオレの正体を察知する事は十分に考えられる。
 だがここでクレアは思わぬ事を口にする。

「差し支えなければ、あなた様の御名をお教え願えますか?」

 あれ? もしかしてこの人はオレの力については察しているが『アルタシャ』だとまでは気付いていないのか?
 ヴィンガはここでオレに対して耳打ちしてくる。

「ここはあなた様の事をお教えした方がいいのではありませんか?」

 クレアは『アルタシャ』だとわかっていないにしろ、オレが尋常で無いことには確実に見抜いているし、今さら常人のふりをしても無駄だろう。
 たった一人で寺院を切り盛りしているらしいから、オレを捕らえようとはしないだろうけど、事情を組織に報告されるといろいろ面倒なことになりかねないが、その場合はさっさと逃げるだけだ。
 オレが同意して頷くとヴィンガは説明を始める。

「紹介が遅れましたが、こちらのお方がアルタシャ様です――」
「そうですか。さぞかし高名なお方なのでしょう」

 やっぱりオレの事は知らないのか。
 同じ島の中でもオレの話で持ちきりだったりする場所もあるのに、少し離れるとこんな事になっていたりするのだな。
 オレが尋常で無いことを一目で見抜いたところからして、かなり有能だとは思うけど、いろいろとギャップの激しい人ではある。
 しかし聖女教会の関係者で『アルタシャ』の名前を知らない相手は本当に久しぶりだな。
 それがこの聖地ギルボック島にて寺院を預かる身だというのだから、ちょっと驚きではあるな。
 いやはや。大陸を横断して幾度も、とんでもない事態に直面して来たけど、世界は驚きに満ちているものだ。

「それでアルタシャ様がここにいらしたのは、いかなるご用件でございましょうか?」

 ううむ。オレとしてもここに来たのは明確な目的があったわけでは無く、あくまでも成り行きで、いっとき身柄を隠すために来ただけなのだ。
 しかしここでクレアは少しばかり期待を込めて問いかけてくる。

「先ほど村の人たちから伺ったところではこの温泉に向かわれるとの事でしたが、もしや温泉を復活させていただけるのでしょうか」

 もちろん全くそんなつもりは無かった――そもそも温泉が枯れている事すら知らなかった――のだけど、クレアの方ではそう考えるのもやむを得ないのか。
 しかしここで温泉に関して何か出来れば、クレアの協力も得られるかもしれないし、ここは話をあわせておくか。

「クレアさんはいかなる理由で温泉が枯れてしまったのかご存じですか?」
「恐らくは精霊に関わる事のようですが、残念ながらそのあたりは専門外でして……」

 申し訳なさそうにクレアは頭を下げる。
 そうだよな。いくら有能な聖女でも、温泉の事までは門外漢だから分かるわけが無いか。

「後でそこに行って様子を見ますから、案内していただけますか?」
「おお! 感謝します!」

 クレアが喜びの声をあげたところで、聖堂の扉が開く。
 何かと思ってみるとそこには大勢の子供の姿があった。そういえばこの寺院は孤児院を兼ねているのだったな。
 人数はだいたい十人ほどだ。最年少は五歳ぐらいで、最年長はおそらくヴィンガとそう年齢は変わるまい。
 もっと幼い子供もいるかもしれないけど、いまこの場には来ていないだけかもしれない。
 オレの記憶でも以前にも聖女が開いている孤児院はあったけど(第十章)、あれはあくまでも聖女が個人でやっているものだった。
 そしてその時のオレはちょっとした魔法の失敗で若返って幼女になっていたので、孤児院に入る側だったのだ。
 それはともかくこちらは正式な教会兼孤児院という事だが、やっている聖女が一人だけだから苦労はあんまり変わらないな。

「あらあら。待っていなさいと言っていたのに、困ったものですね」
「ごめんなさい。司祭様」
「僕たち、どうしても気になったものですから……」

 子供たちは緊張した声を発しつつ、クレアだけでなく、ヴィンガやオレをチラチラと見ている。
 まあ気にならない方がおかしいから、子供としては正しい反応というものか。
 そしてクレアは皆にヴィンガを紹介する。

「みなさん。こちらのヴィンガさんが、今日から私と共にみなさんと一緒に暮らすのですよ」

 子供たちの間で小さなどよめきが走る。
 彼らにとっては少々若々しいが『新しい先生』というところだろうか。
 年長の男子だったら、年もあまり離れていないので、ひょっとすると異性として意識してしまう場合もあるだろうな――などと思っていたら、やっぱり年長の男子はヴィンガを見て頬を赤らめつつモジモジしているな。
 今まさに『思春期の甘酸っぱい思い出』を目の当たりにしているというところか。
 一年あまり前の男だったオレも美人揃いの聖女達を見て、いろいろと妄想をたくましくしていたものだった。
 今のオレには、それがもうずっと昔の事のように感じられるよ。
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