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第23章 女神の聖地にて真相を
第1074話 寺院の聖女と対面して
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話によれば人間だった時のイロールが奇跡を起こした神聖な温泉のはずなのに、地元の住民達はどうもそれについて触れたく無い話題のようだ。
もしかすると何かロクでもない存在が『出る』のだろうか?
悪霊の類が居座っていても、聖女一人だけではどうしようもないだろうからな。
しかしそんな相手ならば、オレならば魔法でどうにかできる。
そんなわけでオレはどこか申し訳なさそうな様子の村人達に問うことにした。
「その温泉に何があったのですか?」
「いえ……実は……」
村人達はいずれも申し訳なさそうな、困ったようなそんな態度であるが、先ほどヴィンガに問いかけた男が意を決した様子で口を開く。
「実はその温泉はもう何年も前に枯れてしまっているのです」
「ええ? 女神の奇跡の泉がですか?!」
なるほど。それならここが聖地でありながら、こんなに寂れているのは当たり前か。
一番の目玉がダメになってしまっているのだからな。
元の世界だったらそんな泉が枯れてしまった事など、すぐに確認出来るだろうけど幾らギルボック島に来たばかりとはいえ、そんな大事な情報が事前に得られないとは何とも困った話だ。
あと聖女教会にとっても決していい話では無いので、口にする事が許されないとまではいかなくとも、あまり広めたくないのだろうな。
だからと言ってここに配属された見習い聖女のヴィンガすら知らないなんて、どう考えても不親切に過ぎるだろう。
観光地のパンフレットでは風光明媚なところに行ってみたら、それは何年も前の写真を使い回した手抜きで、今ではすっかり様変わりし何もかも台無しになっていたかのような気分だな。
「わざわざ来ていただいて恐縮ですが、そんなわけなのでそちらの方はお帰りになった方がよろしいかと思います」
この人たちはたぶん温泉が枯れてしまったのを『自分たちの信仰心が足りないから』『心がけが悪かったから』とかそんな意識があるらしく、本当に恐縮している様子を見せる。
「いえ。ここが聖地である事に変わりはありませんし、しばらくご厄介になりますよ」
「そうですか。それではどうぞこちらにいらして下さい」
とりあえずオレとヴィンガは寺院に案内される。よくよく見ると魔力を感知するオレの『魔法眼』に壁面がぼんやりと光って見える。
微弱だがまだこの石造りの寺院には魔力が込められているのだ。
恐らくは建立時のもので、今では効果はほとんど残っていないだろうが、それでも相当な手間と費用をかけて建てられた寺院である事は間違いない。
少なくともかつてはかなり重要視されていたのだろう。
それはともかく今の課題は、ここの寺院を預かっている聖女であるクレアがどのような人物なのかを確認する事だな。
村人の話を聞く限りでは、この地域での医療と福祉活動を行っている立派な聖女らしい。
まあ普通に考えて、よくある英雄伝説のように『裏では邪神を崇拝している極悪人』ということはないだろう。
そしていくら何でもオレがここに来ることを決めたのは昨日の話だから、彼女に神託が下っているとは思えない。
ちょっとばかり警戒しているところで案内された聖堂は、正面に女神の宗教画を描いた立派なものでこの村の規模に比べたら分不相応に大きい。
村人たちが定期的に掃除はしているらしく清潔だし、恐らくは村の公会堂としても使われているのだろう。
規模からすると、かつては大勢の礼拝者でにぎわっていたのは間違い無く、かつての賑わいを感じさせるだけのものだな。
少し待っていると、扉が開いて白い服装の美女が姿を見せる。
ここの司祭である聖女のクレアで間違いはあるまい。
クレアの外見は二十代後半ぐらいの美女だ。
もっとも聖女は外見年齢と実年齢が一致しないので、実際には五十代かもしれない。
「あなた方がお客様ですか」
「はい。私はここに修行に来た見習いでヴィンガと申します」
「ええ? 見習いの方ですか。それは遠路はるばるよくおいで下さいました」
そう言ってクレアは丁寧に頭を下げる。
「あ……あの。あたし、いえ。私はクレア様の元で修行をするために来たのです」
ヴィンガは違和感があるというか、困惑しているようで一人称についつい地が出ているな。
どうもこの人は何か勘違いしていないか?
「ここで修行……ですか?」
クレアの方もしばらくよく分かっていないかの様子で首をかしげ、じっとヴィンガを見つめている。
少しばかり間の抜けたというか、緊張したというか、複雑な空気が周囲に漂っていたが、ここでクレアは何かに気づいた様子でポンと手をたたく。
「ああ。そういうことですか。つまりここの手伝いに来て下さったのですね」
何か微妙に違う気がするが、どうやらヴィンガを受け入れてはくれたらしい。
そしてここで改めてクレアはオレの方に視線を移す。
「あなた様はいかなるご用でお越しになったのでしょうか?」
「あの……こちらの方は……」
とりあえずヴィンガが事前に用意した説明をしようとしたところで、クレアは和やかに微笑む。
「このようなところに『我らが女神の御使い』がいらして下さるとは、私ごときにとっては身に余る光栄でございます」
「え?」
オレとヴィンガは改めて恭しく頭を下げたクレアを見て、数瞬の間硬直していた。
もしかすると何かロクでもない存在が『出る』のだろうか?
悪霊の類が居座っていても、聖女一人だけではどうしようもないだろうからな。
しかしそんな相手ならば、オレならば魔法でどうにかできる。
そんなわけでオレはどこか申し訳なさそうな様子の村人達に問うことにした。
「その温泉に何があったのですか?」
「いえ……実は……」
村人達はいずれも申し訳なさそうな、困ったようなそんな態度であるが、先ほどヴィンガに問いかけた男が意を決した様子で口を開く。
「実はその温泉はもう何年も前に枯れてしまっているのです」
「ええ? 女神の奇跡の泉がですか?!」
なるほど。それならここが聖地でありながら、こんなに寂れているのは当たり前か。
一番の目玉がダメになってしまっているのだからな。
元の世界だったらそんな泉が枯れてしまった事など、すぐに確認出来るだろうけど幾らギルボック島に来たばかりとはいえ、そんな大事な情報が事前に得られないとは何とも困った話だ。
あと聖女教会にとっても決していい話では無いので、口にする事が許されないとまではいかなくとも、あまり広めたくないのだろうな。
だからと言ってここに配属された見習い聖女のヴィンガすら知らないなんて、どう考えても不親切に過ぎるだろう。
観光地のパンフレットでは風光明媚なところに行ってみたら、それは何年も前の写真を使い回した手抜きで、今ではすっかり様変わりし何もかも台無しになっていたかのような気分だな。
「わざわざ来ていただいて恐縮ですが、そんなわけなのでそちらの方はお帰りになった方がよろしいかと思います」
この人たちはたぶん温泉が枯れてしまったのを『自分たちの信仰心が足りないから』『心がけが悪かったから』とかそんな意識があるらしく、本当に恐縮している様子を見せる。
「いえ。ここが聖地である事に変わりはありませんし、しばらくご厄介になりますよ」
「そうですか。それではどうぞこちらにいらして下さい」
とりあえずオレとヴィンガは寺院に案内される。よくよく見ると魔力を感知するオレの『魔法眼』に壁面がぼんやりと光って見える。
微弱だがまだこの石造りの寺院には魔力が込められているのだ。
恐らくは建立時のもので、今では効果はほとんど残っていないだろうが、それでも相当な手間と費用をかけて建てられた寺院である事は間違いない。
少なくともかつてはかなり重要視されていたのだろう。
それはともかく今の課題は、ここの寺院を預かっている聖女であるクレアがどのような人物なのかを確認する事だな。
村人の話を聞く限りでは、この地域での医療と福祉活動を行っている立派な聖女らしい。
まあ普通に考えて、よくある英雄伝説のように『裏では邪神を崇拝している極悪人』ということはないだろう。
そしていくら何でもオレがここに来ることを決めたのは昨日の話だから、彼女に神託が下っているとは思えない。
ちょっとばかり警戒しているところで案内された聖堂は、正面に女神の宗教画を描いた立派なものでこの村の規模に比べたら分不相応に大きい。
村人たちが定期的に掃除はしているらしく清潔だし、恐らくは村の公会堂としても使われているのだろう。
規模からすると、かつては大勢の礼拝者でにぎわっていたのは間違い無く、かつての賑わいを感じさせるだけのものだな。
少し待っていると、扉が開いて白い服装の美女が姿を見せる。
ここの司祭である聖女のクレアで間違いはあるまい。
クレアの外見は二十代後半ぐらいの美女だ。
もっとも聖女は外見年齢と実年齢が一致しないので、実際には五十代かもしれない。
「あなた方がお客様ですか」
「はい。私はここに修行に来た見習いでヴィンガと申します」
「ええ? 見習いの方ですか。それは遠路はるばるよくおいで下さいました」
そう言ってクレアは丁寧に頭を下げる。
「あ……あの。あたし、いえ。私はクレア様の元で修行をするために来たのです」
ヴィンガは違和感があるというか、困惑しているようで一人称についつい地が出ているな。
どうもこの人は何か勘違いしていないか?
「ここで修行……ですか?」
クレアの方もしばらくよく分かっていないかの様子で首をかしげ、じっとヴィンガを見つめている。
少しばかり間の抜けたというか、緊張したというか、複雑な空気が周囲に漂っていたが、ここでクレアは何かに気づいた様子でポンと手をたたく。
「ああ。そういうことですか。つまりここの手伝いに来て下さったのですね」
何か微妙に違う気がするが、どうやらヴィンガを受け入れてはくれたらしい。
そしてここで改めてクレアはオレの方に視線を移す。
「あなた様はいかなるご用でお越しになったのでしょうか?」
「あの……こちらの方は……」
とりあえずヴィンガが事前に用意した説明をしようとしたところで、クレアは和やかに微笑む。
「このようなところに『我らが女神の御使い』がいらして下さるとは、私ごときにとっては身に余る光栄でございます」
「え?」
オレとヴィンガは改めて恭しく頭を下げたクレアを見て、数瞬の間硬直していた。
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