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第23章 女神の聖地にて真相を
第1079話 温泉の精霊に呼びかけると
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オレの魔力を使えば、通常では届かない地下深くの精霊にも『精霊使い』を届かせる事は可能だ。
もっともこの魔法はあくまでも精霊に呼びかけるだけで、命令出来るわけではないから、相手に無視されたらどうしようもない。
そもそもここにかつていた温泉の精霊が今でもいるとは限らないのだ。
だがオレのその予想は外れた。
魔法をかけてしばらくすると温泉の跡から急速に湯気が噴き出し始めたのだ。
「おお! さすがはアルタシャ様です」
クレアは感激しているが、このままでは危険かもしれない。
温泉の精霊は人間の事など考えもしないからな。自分達では何でも無いことのつもりで熱気を浴びせかける事だってありうるのだ。
「クレアさん。すみませんが少し離れていて下さい」
「分かりました。お気をつけて」
とりあえずこれでひと安心なので、オレはわき上がってくる蒸気をじっと見つめる。
そこで中から呼びかける声が聞こえてくる。
『お前は誰だ? 随分と久しい呼びかけだな』
「あなたがここの温泉の精霊ですか?」
相手は特別に強力というわけでもなく、ごく普通の精霊だ。
しかしそんな普通の精霊でも、熱気を操るとなると危険な存在になりうる。
接触はくれぐれも慎重にならざるを得ない。
『ああそうだ。しかしこの地ではもう我は不要とされたので、元いた地下深くに戻ったのだ』
「え? 不要とされたのですか?」
ううむ。いくら何でも温泉が不要になったとは思えないが。
いや。待てよ。
オレはうち捨てられた社を見るが、そこに祀られているのは女神らしき存在だ。イロールの神像かもしくは『最初の選ばれし者』の姿だろう。
しかしどう見てもこの精霊を祀っている様子は無い。
もしかしたら元々はこの精霊を祀るものだったのかもしれないぞ。
ああそうか。長らく地元の人間はずっとこの精霊を崇拝とは言わずとも、敬意を払い礼拝していたのだろう。
だが時間と共にこの温泉は女神が作ったと言う事で、精霊の事は段々と脇に追いやられ、ついには人々は精霊の事を忘れてしまったのだ。
その結果としてどんどん温泉は枯れていき、ますます人々の関心は薄れて精霊との距離は更に広まり、そして温泉は枯れ果てたと言う事か。
『かつて我に呼びかけたものは、人間の礼拝が得られると約束したが、それが無くなったからには我がここに来る理由も無くなったのだ』
ううむ。それはそれで面倒な問題だが、オレが知りたいのはその『呼び出したもの』についての情報だ。
「その約束をしたのはどんな相手だったのですか?」
『お前によく似ているぞ。だから我もお前の呼びかけに興味を抱いてここに来たのだ』
やっぱり『最初の選ばれしもの』はオレに近い存在なのか。
精霊は外見よりも有する魔力の質で相手を判断するから、魔力がよく似ているのは確かだろうな。
『ただ質は似ているが、力の量はお前の方が遥かに上だな』
そりゃまあオレは今や大陸中で崇拝されているみたいだけど、千年前の『選ばれし者』はイロールが女神になってから間の無い時分――と言っても何十年も経っていたはずだが――の存在だからオレよりもずっと力が弱かったのは間違いない。
「他に何か気付いた事はありませんでしたか?」
『そういえばかの者は途中で力が増大したのを覚えているぞ。あえて言えば。お前の有する魔力はその後によく似ているな』
何だって? もしかしたらそれは――
「まさか性別が変わったのですか?」
『人間の性別など我には分からぬ』
精霊にもいろいろいて人間や動物の霊だったら性別もごく当たり前に理解出来る。
だがこういう大地や水の精霊にとって性別は普通の人間が一目で水や土の違いを見抜くのと同じぐらい難しいものなのだろう。
しかしこの精霊の話を信じるなら、やはり『選ばれし者』は途中で魔力が増すのと引き替えに女になった可能性が高い。
いや。単純に決めつけるわけにはいかない。
今までだって、限られた情報からいろいろと考えていたら、結果的に大外れだった事がしょっちゅうなのだ。
この精霊もオレと『選ばれし者』の区別は曖昧な様子だから、何か重大な点を見逃している可能性はある。
とりあえず今は当面の課題に取り組むとしよう。
「ここにもう一度、温泉を出してもらえませんか?」
『そんなことをしても、人間たちは最初のうちだけ我に敬意を払うが、だんだんと忘れ去り顧みないようになっていくだけだ』
言っている事は決して間違いではないから、これは難しいな。
恐らくはここが『女神の奇跡の温泉』とされてしまったがゆえにこそ、温泉の精霊に敬意を払う意識は希薄になっていったのだろう。
しかしそれでもここは曲げて頼みたい。
「今度こそこの地の住民たちであなたを礼拝してもらいます。そうすればあなたにも利益はありますよね? 決して損はしないはずです」
シャーマンが精霊と交渉できるのも、彼らを礼拝して喜ばせているうからだ。
精霊は人間からの礼拝を受ける事で、それを自分の力に変える事が出来る。
だからこの精霊も温泉を出す見返りに、礼拝を受けると『選ばれし者』との契約をかわしたのは間違いない。
それが長い年月の間に忘れ去れてしまったのは、双方にとって不幸だったとは思うけど、オレが改めてやり直すしかないのだ。
もっともこの魔法はあくまでも精霊に呼びかけるだけで、命令出来るわけではないから、相手に無視されたらどうしようもない。
そもそもここにかつていた温泉の精霊が今でもいるとは限らないのだ。
だがオレのその予想は外れた。
魔法をかけてしばらくすると温泉の跡から急速に湯気が噴き出し始めたのだ。
「おお! さすがはアルタシャ様です」
クレアは感激しているが、このままでは危険かもしれない。
温泉の精霊は人間の事など考えもしないからな。自分達では何でも無いことのつもりで熱気を浴びせかける事だってありうるのだ。
「クレアさん。すみませんが少し離れていて下さい」
「分かりました。お気をつけて」
とりあえずこれでひと安心なので、オレはわき上がってくる蒸気をじっと見つめる。
そこで中から呼びかける声が聞こえてくる。
『お前は誰だ? 随分と久しい呼びかけだな』
「あなたがここの温泉の精霊ですか?」
相手は特別に強力というわけでもなく、ごく普通の精霊だ。
しかしそんな普通の精霊でも、熱気を操るとなると危険な存在になりうる。
接触はくれぐれも慎重にならざるを得ない。
『ああそうだ。しかしこの地ではもう我は不要とされたので、元いた地下深くに戻ったのだ』
「え? 不要とされたのですか?」
ううむ。いくら何でも温泉が不要になったとは思えないが。
いや。待てよ。
オレはうち捨てられた社を見るが、そこに祀られているのは女神らしき存在だ。イロールの神像かもしくは『最初の選ばれし者』の姿だろう。
しかしどう見てもこの精霊を祀っている様子は無い。
もしかしたら元々はこの精霊を祀るものだったのかもしれないぞ。
ああそうか。長らく地元の人間はずっとこの精霊を崇拝とは言わずとも、敬意を払い礼拝していたのだろう。
だが時間と共にこの温泉は女神が作ったと言う事で、精霊の事は段々と脇に追いやられ、ついには人々は精霊の事を忘れてしまったのだ。
その結果としてどんどん温泉は枯れていき、ますます人々の関心は薄れて精霊との距離は更に広まり、そして温泉は枯れ果てたと言う事か。
『かつて我に呼びかけたものは、人間の礼拝が得られると約束したが、それが無くなったからには我がここに来る理由も無くなったのだ』
ううむ。それはそれで面倒な問題だが、オレが知りたいのはその『呼び出したもの』についての情報だ。
「その約束をしたのはどんな相手だったのですか?」
『お前によく似ているぞ。だから我もお前の呼びかけに興味を抱いてここに来たのだ』
やっぱり『最初の選ばれしもの』はオレに近い存在なのか。
精霊は外見よりも有する魔力の質で相手を判断するから、魔力がよく似ているのは確かだろうな。
『ただ質は似ているが、力の量はお前の方が遥かに上だな』
そりゃまあオレは今や大陸中で崇拝されているみたいだけど、千年前の『選ばれし者』はイロールが女神になってから間の無い時分――と言っても何十年も経っていたはずだが――の存在だからオレよりもずっと力が弱かったのは間違いない。
「他に何か気付いた事はありませんでしたか?」
『そういえばかの者は途中で力が増大したのを覚えているぞ。あえて言えば。お前の有する魔力はその後によく似ているな』
何だって? もしかしたらそれは――
「まさか性別が変わったのですか?」
『人間の性別など我には分からぬ』
精霊にもいろいろいて人間や動物の霊だったら性別もごく当たり前に理解出来る。
だがこういう大地や水の精霊にとって性別は普通の人間が一目で水や土の違いを見抜くのと同じぐらい難しいものなのだろう。
しかしこの精霊の話を信じるなら、やはり『選ばれし者』は途中で魔力が増すのと引き替えに女になった可能性が高い。
いや。単純に決めつけるわけにはいかない。
今までだって、限られた情報からいろいろと考えていたら、結果的に大外れだった事がしょっちゅうなのだ。
この精霊もオレと『選ばれし者』の区別は曖昧な様子だから、何か重大な点を見逃している可能性はある。
とりあえず今は当面の課題に取り組むとしよう。
「ここにもう一度、温泉を出してもらえませんか?」
『そんなことをしても、人間たちは最初のうちだけ我に敬意を払うが、だんだんと忘れ去り顧みないようになっていくだけだ』
言っている事は決して間違いではないから、これは難しいな。
恐らくはここが『女神の奇跡の温泉』とされてしまったがゆえにこそ、温泉の精霊に敬意を払う意識は希薄になっていったのだろう。
しかしそれでもここは曲げて頼みたい。
「今度こそこの地の住民たちであなたを礼拝してもらいます。そうすればあなたにも利益はありますよね? 決して損はしないはずです」
シャーマンが精霊と交渉できるのも、彼らを礼拝して喜ばせているうからだ。
精霊は人間からの礼拝を受ける事で、それを自分の力に変える事が出来る。
だからこの精霊も温泉を出す見返りに、礼拝を受けると『選ばれし者』との契約をかわしたのは間違いない。
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