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第23章 女神の聖地にて真相を
第1080話 温泉の復活のために
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『……』
精霊はオレの呼びかけに対し、沈黙している。
たぶん少しばかり考えているのだろうけど、何しろ彼らのタイムスケールは人間とは全然違うからな。
下手をすると返答まで年単位という事だってありうるぞ。
だが返答は思っていたよりも短かった。
『お前の言っていることに間違い無いのか?』
「その通りです」
実際にはこの村の住民に話を通して、精霊を礼拝させるのはこれから事だ。
事後承諾になるけど、本当に温泉が復活するならこの村の住民達は喜んで精霊を礼拝するだろう。
いや。ここが聖地として大勢の人間が来るのなら、クレアだって支持するはずだ。
元の世界でも寂れた土地が再び栄えるなら、礼拝どころか崇拝だってしそうな人間は大勢いただろうからな。
身も蓋もないが、人間も精霊も実利が一番ということだ。
ただ精霊は直接、人間に対して意志を示す事は滅多に無い。だから恩恵が当たり前になりすぎた結果として、皮肉にも精霊への礼拝を忘れてしまう事があるわけだ。
他の地域だと本来はその仕事はシャーマンのやっているのだが、このギルボック島は聖女教会が牛耳っているのだ。
もちろん聖女教会は別にシャーマンを弾圧しているわけではないが、自分達の女神を崇拝していない相手をよく思ってもいないだろう。
恐らくこの島のシャーマンは肩身の狭い思いをしていて、教会の聖地をわざわざ訪れて精霊の相手をしようなどとは考えもしないはずだ。
そんなわけでいろいろと面倒だけど、後の事はクレア達に託す形でこの精霊を満足させるしかないな。
『分かった。いいだろう。お前を信じよう』
「ありがとうございます」
『ただし。それを望むならまずお前の方が我に力を与えよ』
ううむ。これからこの村の住民達に礼拝させるにしても、まずは前払いで魔力が必要か。
過去のいきさつを考えればツケは効きそうにないな。
だが今後の事を考えると、あんまり大量に与えるわけにもいかない。
間違い無くオレひとりで村人やクレア達を含めたものよりも多い筈だからな。
もっと言えばこういう場合の『精霊の相場』がどういうものなのか、オレには見当もつかないのだ。
仕方が無いのでオレが適当だと思った量の魔力を精霊に向けて注ぐ。
『おお! これほどだとは! やはりお前は今までとは違うな!』
自分では絞っていたつもりだが、この精霊にとってはかなり多かったらしい。
そして満足したのか、吹き出していた蒸気は熱湯に変わって窪地を満たし始めた。
「おお! 本当に温泉が蘇るとは!」
クレアも感激しているらしい。
「まさに奇跡です! いえ。私はいま『神の御業』を目の当たりにしたのですね」
確かに傍目にはオレが少しばかり魔法を使ったら、あっという間に涸れ果てた温泉が噴き出したように見えるだろうからな。
そう思われるのはむしろ当然なのか。
やっぱりこれもオレの『伝説のひとつ』と言う事になるんだろうな。
しかしそれよりも精霊への礼拝について話をする必要がある。
「待って下さい。これからこの温泉の精霊に対し、地元の人々で力を合わせて礼拝する必要があります。そうでないとまた温泉は涸れてしまいますよ」
ここで問題なのはクレアやこの地の住民達にとって、今まで相手にしていなかった精霊を礼拝する事がどんな意味を持つのかという事だ。
下手をするとクレアも『女神イロールと無関係の精霊を礼拝するなど許されない』などと怒り出す可能性すらあり得る。
「分かりました! 温泉にいる精霊を礼拝すればよいのですね」
え? また随分とあっさり受け入れたな。
「この温泉の精霊はアルタシャ様の下僕でございましょう。それをあなた様とともに礼拝するのは当然のことではありませんか」
ううむ。クレアはオレが精霊に命じて、この温泉を復活させたと思っているらしい。
もちろんあくまでも損得感情でお願いしただけなのだが、伝説の類いは常にこんな形で微妙に歪んでいくものだという事をオレはいつも思い知らされているよ。
「いえ。下僕ではありません。強いて言えば……友達のようなものですね」
いまこの場で出会って、魔力を少しばかり融通しただけの関係だけど、まるっきり嘘というわけでもないので、誤解を招く表現だが許してもらいたい。
「そうですか。もちろんそれでも構いません」
ここでクレアは打ち捨てられた祠を見る。
「明日からでもあの祠を村の人々の総出で修復し、そこでアルタシャ様と精霊をともにまつりましょう。それならよろしいですね」
正直に言ってオレの方は礼拝など全く興味はないのだがここはオレと一緒にされた方が、礼拝が長続きしてあの精霊にとっても利益は大きいだろう。
こういうところも神造者が耳にしたら、研究素材として興味を持ちそうだな。
「それでお願いします」
「かしこまりました。それでは教会に戻りましょう」
ひとり残されたヴィンガはきっと孤児達に振り回され、こちらの状況についてもいろいろとやきもきしている事だろう。
だがそのような一見、暢気な事を考えて寺院に戻ったオレは思わぬ事態に直面するのであった。
精霊はオレの呼びかけに対し、沈黙している。
たぶん少しばかり考えているのだろうけど、何しろ彼らのタイムスケールは人間とは全然違うからな。
下手をすると返答まで年単位という事だってありうるぞ。
だが返答は思っていたよりも短かった。
『お前の言っていることに間違い無いのか?』
「その通りです」
実際にはこの村の住民に話を通して、精霊を礼拝させるのはこれから事だ。
事後承諾になるけど、本当に温泉が復活するならこの村の住民達は喜んで精霊を礼拝するだろう。
いや。ここが聖地として大勢の人間が来るのなら、クレアだって支持するはずだ。
元の世界でも寂れた土地が再び栄えるなら、礼拝どころか崇拝だってしそうな人間は大勢いただろうからな。
身も蓋もないが、人間も精霊も実利が一番ということだ。
ただ精霊は直接、人間に対して意志を示す事は滅多に無い。だから恩恵が当たり前になりすぎた結果として、皮肉にも精霊への礼拝を忘れてしまう事があるわけだ。
他の地域だと本来はその仕事はシャーマンのやっているのだが、このギルボック島は聖女教会が牛耳っているのだ。
もちろん聖女教会は別にシャーマンを弾圧しているわけではないが、自分達の女神を崇拝していない相手をよく思ってもいないだろう。
恐らくこの島のシャーマンは肩身の狭い思いをしていて、教会の聖地をわざわざ訪れて精霊の相手をしようなどとは考えもしないはずだ。
そんなわけでいろいろと面倒だけど、後の事はクレア達に託す形でこの精霊を満足させるしかないな。
『分かった。いいだろう。お前を信じよう』
「ありがとうございます」
『ただし。それを望むならまずお前の方が我に力を与えよ』
ううむ。これからこの村の住民達に礼拝させるにしても、まずは前払いで魔力が必要か。
過去のいきさつを考えればツケは効きそうにないな。
だが今後の事を考えると、あんまり大量に与えるわけにもいかない。
間違い無くオレひとりで村人やクレア達を含めたものよりも多い筈だからな。
もっと言えばこういう場合の『精霊の相場』がどういうものなのか、オレには見当もつかないのだ。
仕方が無いのでオレが適当だと思った量の魔力を精霊に向けて注ぐ。
『おお! これほどだとは! やはりお前は今までとは違うな!』
自分では絞っていたつもりだが、この精霊にとってはかなり多かったらしい。
そして満足したのか、吹き出していた蒸気は熱湯に変わって窪地を満たし始めた。
「おお! 本当に温泉が蘇るとは!」
クレアも感激しているらしい。
「まさに奇跡です! いえ。私はいま『神の御業』を目の当たりにしたのですね」
確かに傍目にはオレが少しばかり魔法を使ったら、あっという間に涸れ果てた温泉が噴き出したように見えるだろうからな。
そう思われるのはむしろ当然なのか。
やっぱりこれもオレの『伝説のひとつ』と言う事になるんだろうな。
しかしそれよりも精霊への礼拝について話をする必要がある。
「待って下さい。これからこの温泉の精霊に対し、地元の人々で力を合わせて礼拝する必要があります。そうでないとまた温泉は涸れてしまいますよ」
ここで問題なのはクレアやこの地の住民達にとって、今まで相手にしていなかった精霊を礼拝する事がどんな意味を持つのかという事だ。
下手をするとクレアも『女神イロールと無関係の精霊を礼拝するなど許されない』などと怒り出す可能性すらあり得る。
「分かりました! 温泉にいる精霊を礼拝すればよいのですね」
え? また随分とあっさり受け入れたな。
「この温泉の精霊はアルタシャ様の下僕でございましょう。それをあなた様とともに礼拝するのは当然のことではありませんか」
ううむ。クレアはオレが精霊に命じて、この温泉を復活させたと思っているらしい。
もちろんあくまでも損得感情でお願いしただけなのだが、伝説の類いは常にこんな形で微妙に歪んでいくものだという事をオレはいつも思い知らされているよ。
「いえ。下僕ではありません。強いて言えば……友達のようなものですね」
いまこの場で出会って、魔力を少しばかり融通しただけの関係だけど、まるっきり嘘というわけでもないので、誤解を招く表現だが許してもらいたい。
「そうですか。もちろんそれでも構いません」
ここでクレアは打ち捨てられた祠を見る。
「明日からでもあの祠を村の人々の総出で修復し、そこでアルタシャ様と精霊をともにまつりましょう。それならよろしいですね」
正直に言ってオレの方は礼拝など全く興味はないのだがここはオレと一緒にされた方が、礼拝が長続きしてあの精霊にとっても利益は大きいだろう。
こういうところも神造者が耳にしたら、研究素材として興味を持ちそうだな。
「それでお願いします」
「かしこまりました。それでは教会に戻りましょう」
ひとり残されたヴィンガはきっと孤児達に振り回され、こちらの状況についてもいろいろとやきもきしている事だろう。
だがそのような一見、暢気な事を考えて寺院に戻ったオレは思わぬ事態に直面するのであった。
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