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第23章 女神の聖地にて真相を
第1091話 汚れ無き白亜の中で
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聖女教会のトップが『魑魅魍魎の巣』だという事は分かっていたつもりだったけど、まさかオレが権力を奪おうとしていると思い込んでいたとはな。
むしろずっと裏でこそこそと権力闘争をしてきた彼女達からすれば、そう考えるのが自然なのか。
しかしそれでも聖女が直接、オレを狙ってくるとはいくら何でも稚拙過ぎる気もするぞ。
いや。この大聖堂では他に手段がないのだろう――と言うよりは、そこまで追い詰められてしまったと考えるべきだな。
ここで最初に扉を開けさせた聖女が問いかける。
「サビーネ様。本当にやるのですか……」
「ドロテア! もう私達には他の道など無いのですよ! すぐに大神官様は引退される以上、地位さえ得られたら、あとの事はどうにでもなります!」
「え? 大神官様は引退されるのですか?」
オレの問いかけに対し、怒りを露わにサビーネは吐き捨てる。
「なんと白々しい……その機会を狙ってここまで来たのでしょうが」
そこでドロテアの方が取りなすように口を挟む。
「あの……先日、大神官様の旦那様がお亡くなりになり、慣例に従って引退される事となったのです。ただその直後に『癒やしの風』号からアルタシャ様の話が舞い込んだので、引退の発表は延び延びになっていました」
これに対しサビーネはドロテアをにらみつけるが、怒鳴りつけるまではしなかった。
本人もいろいろと思うところがありそうだ。
そういえば高位の聖女は殆どが有力者の側室だが、夫よりもずっと長命なので大半は先立たれるが、その場合、聖女の方は第一線を引くのが慣例だったんだな。
「本来ならば引退するところで、その話を針小棒大に取り上げて先延ばしにしていただけです。それがなければもうとっくに……」
そうか。表向きは何の影響もなかったように見えたけど、実はヴィンガ達の報告は聖女教会の上層部に大きな影響を与えていたんだな。
大神官はアルタシャの存在を口実に引退を渋り、一方でサビーネ達はそこで疑心暗鬼になって、大神官が引退と共に『名高い英雄アルタシャ』に地位を譲ろうとしているのではないかと思い込んだに違いない。
いくら何でも飛躍が過ぎると思うけど、人間は思い込みで視野が狭くなってしまう事など珍しくは無いのだ。
「一つ言っておきますけど、わたしは聖女教会の地位など興味ありません。もちろん大神官様の後を継ごうなどと考えた事もないです」
「それではなぜ今まで聖女教会の大寺院を一度も訪れた事の無いあなたが、わざわざ大神官様の引退が近いここに姿を見せたのですか!」
そんなの全くの偶然というか、オレは大神官の事など全く寝耳に水だったんだけど。
「だからそんな事は知らなかったのですよ。私は大神官様に対し『最初の選ばれし者』の精霊と話をさせて欲しいと頼んだだけです」
「な……」
サビーネはオレの言葉に絶句した。
それはオレを信じたからなのか、信じられなかったからなのか。そこを確かめる前にドロテアが口を挟んできた。
「そうですね! アルタシャ様は権力になど興味の無いお方でしょう。だからもう辞めましょうよ」
どうやら彼女はサビーネに引きずられてしぶしぶ協力させられているらしく、今回の件も全く乗り気ではないようだ。
他の聖女達も沈黙していてサビーネにはかなり引いている様子がうかがえる。
これなら無事に切り抜けられるかもしれない。
「何を言っているのよ! これだけの事をしでかしておいて、今さら引き返せると思っているの?」
「しかしアルタシャ様は自分の命を狙ったものでも寛大にお許しになられるとか……前非を悔いて贖罪すれば……」
「黙りなさい! こうなったら私一人だけでもやるわ!」
サビーネはその短剣を突き出してくるが、正直に言ってかわすのは簡単だ。
訓練など受けていないド素人なんだから当然だ。もちろんオレの方も訓練など受けていないが、こっちは大陸中を駆け巡って命の危険をかわし続けてきたんだ。
たぶん彼女は自分達が荒事になど全く縁遠いのに加えて、オレを見た目で『魔力はあってもか弱い乙女=自分達と同じ』としか思っていなかったに違いない。
つくづく人間は『自分の領分でしか他人を計れない』ものなのだなあ。
「そんなものでわたしは倒せませんよ」
オレは短剣を軽くかわし、そこで一気にサビーネから離れる。
「くう! あなたたちも手伝いなさい!」
「そ、それは……」
命じられたドロテア達はあからさまに躊躇する。一応、顔は出したけど自分達で直接手にかけるような真似はしたくないと思っているのだろう。
「臆病者め! それならば――」
「お待ちなさい!」
サビーネが再び短剣を振りかざしたところで凜とした叫びが響く。
思わず振り向くと、扉のところには大神官および警備員が幾人か姿を見せていたのだ。
「こ、これは……」
なんだこのタイミングは?
もしや?! そうか!
大神官もサビーネ達にはとっくに目をつけていて、その彼女達が動き出すよう、オレをこの部屋に入れたんだ。
いや。むしろサビーネ達をあぶり出すつもりだったのか。
もしかしたら大神官こそオレがその後継者の座を狙っているという話を故意に広めて、サビーネが暴走するように仕向けたのかもしれない。
汚れ無き白亜で彩られた聖女教会の裏がどういうものなのか、垣間見せられる一瞬だった。
むしろずっと裏でこそこそと権力闘争をしてきた彼女達からすれば、そう考えるのが自然なのか。
しかしそれでも聖女が直接、オレを狙ってくるとはいくら何でも稚拙過ぎる気もするぞ。
いや。この大聖堂では他に手段がないのだろう――と言うよりは、そこまで追い詰められてしまったと考えるべきだな。
ここで最初に扉を開けさせた聖女が問いかける。
「サビーネ様。本当にやるのですか……」
「ドロテア! もう私達には他の道など無いのですよ! すぐに大神官様は引退される以上、地位さえ得られたら、あとの事はどうにでもなります!」
「え? 大神官様は引退されるのですか?」
オレの問いかけに対し、怒りを露わにサビーネは吐き捨てる。
「なんと白々しい……その機会を狙ってここまで来たのでしょうが」
そこでドロテアの方が取りなすように口を挟む。
「あの……先日、大神官様の旦那様がお亡くなりになり、慣例に従って引退される事となったのです。ただその直後に『癒やしの風』号からアルタシャ様の話が舞い込んだので、引退の発表は延び延びになっていました」
これに対しサビーネはドロテアをにらみつけるが、怒鳴りつけるまではしなかった。
本人もいろいろと思うところがありそうだ。
そういえば高位の聖女は殆どが有力者の側室だが、夫よりもずっと長命なので大半は先立たれるが、その場合、聖女の方は第一線を引くのが慣例だったんだな。
「本来ならば引退するところで、その話を針小棒大に取り上げて先延ばしにしていただけです。それがなければもうとっくに……」
そうか。表向きは何の影響もなかったように見えたけど、実はヴィンガ達の報告は聖女教会の上層部に大きな影響を与えていたんだな。
大神官はアルタシャの存在を口実に引退を渋り、一方でサビーネ達はそこで疑心暗鬼になって、大神官が引退と共に『名高い英雄アルタシャ』に地位を譲ろうとしているのではないかと思い込んだに違いない。
いくら何でも飛躍が過ぎると思うけど、人間は思い込みで視野が狭くなってしまう事など珍しくは無いのだ。
「一つ言っておきますけど、わたしは聖女教会の地位など興味ありません。もちろん大神官様の後を継ごうなどと考えた事もないです」
「それではなぜ今まで聖女教会の大寺院を一度も訪れた事の無いあなたが、わざわざ大神官様の引退が近いここに姿を見せたのですか!」
そんなの全くの偶然というか、オレは大神官の事など全く寝耳に水だったんだけど。
「だからそんな事は知らなかったのですよ。私は大神官様に対し『最初の選ばれし者』の精霊と話をさせて欲しいと頼んだだけです」
「な……」
サビーネはオレの言葉に絶句した。
それはオレを信じたからなのか、信じられなかったからなのか。そこを確かめる前にドロテアが口を挟んできた。
「そうですね! アルタシャ様は権力になど興味の無いお方でしょう。だからもう辞めましょうよ」
どうやら彼女はサビーネに引きずられてしぶしぶ協力させられているらしく、今回の件も全く乗り気ではないようだ。
他の聖女達も沈黙していてサビーネにはかなり引いている様子がうかがえる。
これなら無事に切り抜けられるかもしれない。
「何を言っているのよ! これだけの事をしでかしておいて、今さら引き返せると思っているの?」
「しかしアルタシャ様は自分の命を狙ったものでも寛大にお許しになられるとか……前非を悔いて贖罪すれば……」
「黙りなさい! こうなったら私一人だけでもやるわ!」
サビーネはその短剣を突き出してくるが、正直に言ってかわすのは簡単だ。
訓練など受けていないド素人なんだから当然だ。もちろんオレの方も訓練など受けていないが、こっちは大陸中を駆け巡って命の危険をかわし続けてきたんだ。
たぶん彼女は自分達が荒事になど全く縁遠いのに加えて、オレを見た目で『魔力はあってもか弱い乙女=自分達と同じ』としか思っていなかったに違いない。
つくづく人間は『自分の領分でしか他人を計れない』ものなのだなあ。
「そんなものでわたしは倒せませんよ」
オレは短剣を軽くかわし、そこで一気にサビーネから離れる。
「くう! あなたたちも手伝いなさい!」
「そ、それは……」
命じられたドロテア達はあからさまに躊躇する。一応、顔は出したけど自分達で直接手にかけるような真似はしたくないと思っているのだろう。
「臆病者め! それならば――」
「お待ちなさい!」
サビーネが再び短剣を振りかざしたところで凜とした叫びが響く。
思わず振り向くと、扉のところには大神官および警備員が幾人か姿を見せていたのだ。
「こ、これは……」
なんだこのタイミングは?
もしや?! そうか!
大神官もサビーネ達にはとっくに目をつけていて、その彼女達が動き出すよう、オレをこの部屋に入れたんだ。
いや。むしろサビーネ達をあぶり出すつもりだったのか。
もしかしたら大神官こそオレがその後継者の座を狙っているという話を故意に広めて、サビーネが暴走するように仕向けたのかもしれない。
汚れ無き白亜で彩られた聖女教会の裏がどういうものなのか、垣間見せられる一瞬だった。
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