1,092 / 1,316
第23章 女神の聖地にて真相を
第1092話 ひとまずの決着の後で
しおりを挟む
サビーネは短剣を手にした体勢のまま硬直して、やってきた大神官を呆然と見つめている。
「まず武器を捨てなさい。この神聖なる大聖堂、いえ我らが女神イロールは怪我や病により流れる血は厭いませんが、聖女が人を故意に傷つけ血を流すなど言語道断です」
「だ、大神官様……」
「何か言い訳する事はありますか?」
「大神官様! 私どもは決して――」
ドロテアや他の聖女は慌てて跪き、大神官に許しを乞う。
そしてドロテアは振り返ってオレにも同意を求めて来る。
「アルタシャ様もご存じでしょう! わたし達は何もしていませんよね」
確かにあんたらは積極的ではなかったのかもしれないが、オレが短剣を突きつけられていたとき、止めもしなかったけどな。
たぶんこれまでの襲撃に対しても、止めもせずただ流されつつ消極的に手を貸してはいたんだろうよ。
だが『仲間』のそんな姿を見てサビーネは憤慨しつつ叫ぶ。
「な? 裏切るつもりなの!」
「もともとあなたが強引にやっていた事でしょう。アルタシャ様も先ほどの事を見ておられたのなら、自明の理だったはずです」
「くくく……おのれ……」
ああ。予想はついていたけど何とも見苦しい展開だ。
オレとしても彼女達を積極的にどうこうしようとは思わないが、命を狙われた事に変わりは無いわけで、あえてかばってやる義理もない。
聖女教会の崇拝するイロールは信徒の行動を直接処罰するような事はせず、信徒による裁きに任せているので、どうなるのかは大神官次第だろう。
「この愚か者共を連行するように。厳しく取り調べ、背後関係を徹底的に調べなさい」
幾ら何でもこの場にサビーネたちの『次期大神官候補』が来ているはずは無いけど、間違いなく大神官はそれが誰なのか知っているはず。
当然ながらこの一件を大義名分にして大神官はその相手の追い落としを図るだろうな。
そして警備員が迫る中、サビーネはその短剣を自らの喉に向ける。
「くう! こうなったら!」
「やめなさい!」
その瞬間、オレは『平静』をかけてサビーネを止める。精神が何も感じられなくなったので、自殺もできなくなったのだ。
もちろんこちらに助けてやる義理などないがオレの目の前で死なれたらやっぱり気分がよくないので、自殺は止めることにしたのだ。
ついでに言えば自殺されるよりも、厳しく取り調べられた方が、少しばかり命を狙われたオレの溜飲も下がるというものである。
「おお。これもアルタシャ様のお力でございましょうか。感謝いたします」
大神官の感謝の言葉と共に、警備員たちが改めて駆け寄り、今度こそサビーネやドロテア達を連行する。
それを確認したところで大神官はオレに対してうやうやしく頭を下げた。
「申し訳ありません。あのような暴挙を許したのは、全て私の不徳の致すところです」
実際に連中の首根っこを抑えるため、わざと泳がせていたんじゃないのかという気もするが、もちろんツッコミを入れたところで正直に答えるはずがない。
「今さら過ぎたことを責める気はありませんが、このような事が二度と起きないよう綱紀を正していただけますか?」
「もちろんですとも……ただ一つだけお願いがありますが、この件についてはあくまでも内密にお願いします。表に出れば、私どもだけでなく我らが女神の威信にも関わりますから」
別に醜聞を言いふらす気はないが、それならそれでこちらも交換条件ぐらいはつけさせてもらおう。
「この話を外に出す気はありませんが『最初の選ばれし者』とはわたしだけで話をさせてもらっていいでしょうか?」
もし対面したとしても、大神官が一緒だとこちらの聞きたい事を聞くのもいろいろと面倒だからな。
「アルタシャ様のお言葉ではありますが……」
「心配せずとも別に大神官様のことについて言及する事はありませんよ」
大神官様のオレが聖霊に自分の事を讒言するのではないかと心配している様子だが、正直に言って彼女のことなどどうでもいいのだ。
「それともその場合には、何か都合の悪いことでもあるのですか?」
もしもこの要求を受け入れないと、オレの方にもいろいろ考える事があると言外に匂わせてみる。
聖女教会はオレの事についてはいろいろ深読みしているようだから、ここはあえてそれを煽ってみることにする。
「……かしこまりました。あなた様を信じましょう」
この聖地を開闢した『最初の選ばれし者』と言えど、今ではあくまでもイロールに仕える聖霊の一柱でしかない。
当然、大神官の座をどうにか出来るワケでもないだろうから、オレが何を吹き込もうと構わないという意識なのかもしれないな。
まあ実際に大神官も聖女教会の権力闘争もオレはなるだけ関わりたくないだけだ。
ただあまりにも長い道のりだったけど、ようやく聖女教会の性転換魔法の真相をつかめるかもしれないかと思うと、命を狙われた事すらさして気にならないのは、オレがそういう状況に慣れすぎてしまったからなのかもしれないけどな。
「まず武器を捨てなさい。この神聖なる大聖堂、いえ我らが女神イロールは怪我や病により流れる血は厭いませんが、聖女が人を故意に傷つけ血を流すなど言語道断です」
「だ、大神官様……」
「何か言い訳する事はありますか?」
「大神官様! 私どもは決して――」
ドロテアや他の聖女は慌てて跪き、大神官に許しを乞う。
そしてドロテアは振り返ってオレにも同意を求めて来る。
「アルタシャ様もご存じでしょう! わたし達は何もしていませんよね」
確かにあんたらは積極的ではなかったのかもしれないが、オレが短剣を突きつけられていたとき、止めもしなかったけどな。
たぶんこれまでの襲撃に対しても、止めもせずただ流されつつ消極的に手を貸してはいたんだろうよ。
だが『仲間』のそんな姿を見てサビーネは憤慨しつつ叫ぶ。
「な? 裏切るつもりなの!」
「もともとあなたが強引にやっていた事でしょう。アルタシャ様も先ほどの事を見ておられたのなら、自明の理だったはずです」
「くくく……おのれ……」
ああ。予想はついていたけど何とも見苦しい展開だ。
オレとしても彼女達を積極的にどうこうしようとは思わないが、命を狙われた事に変わりは無いわけで、あえてかばってやる義理もない。
聖女教会の崇拝するイロールは信徒の行動を直接処罰するような事はせず、信徒による裁きに任せているので、どうなるのかは大神官次第だろう。
「この愚か者共を連行するように。厳しく取り調べ、背後関係を徹底的に調べなさい」
幾ら何でもこの場にサビーネたちの『次期大神官候補』が来ているはずは無いけど、間違いなく大神官はそれが誰なのか知っているはず。
当然ながらこの一件を大義名分にして大神官はその相手の追い落としを図るだろうな。
そして警備員が迫る中、サビーネはその短剣を自らの喉に向ける。
「くう! こうなったら!」
「やめなさい!」
その瞬間、オレは『平静』をかけてサビーネを止める。精神が何も感じられなくなったので、自殺もできなくなったのだ。
もちろんこちらに助けてやる義理などないがオレの目の前で死なれたらやっぱり気分がよくないので、自殺は止めることにしたのだ。
ついでに言えば自殺されるよりも、厳しく取り調べられた方が、少しばかり命を狙われたオレの溜飲も下がるというものである。
「おお。これもアルタシャ様のお力でございましょうか。感謝いたします」
大神官の感謝の言葉と共に、警備員たちが改めて駆け寄り、今度こそサビーネやドロテア達を連行する。
それを確認したところで大神官はオレに対してうやうやしく頭を下げた。
「申し訳ありません。あのような暴挙を許したのは、全て私の不徳の致すところです」
実際に連中の首根っこを抑えるため、わざと泳がせていたんじゃないのかという気もするが、もちろんツッコミを入れたところで正直に答えるはずがない。
「今さら過ぎたことを責める気はありませんが、このような事が二度と起きないよう綱紀を正していただけますか?」
「もちろんですとも……ただ一つだけお願いがありますが、この件についてはあくまでも内密にお願いします。表に出れば、私どもだけでなく我らが女神の威信にも関わりますから」
別に醜聞を言いふらす気はないが、それならそれでこちらも交換条件ぐらいはつけさせてもらおう。
「この話を外に出す気はありませんが『最初の選ばれし者』とはわたしだけで話をさせてもらっていいでしょうか?」
もし対面したとしても、大神官が一緒だとこちらの聞きたい事を聞くのもいろいろと面倒だからな。
「アルタシャ様のお言葉ではありますが……」
「心配せずとも別に大神官様のことについて言及する事はありませんよ」
大神官様のオレが聖霊に自分の事を讒言するのではないかと心配している様子だが、正直に言って彼女のことなどどうでもいいのだ。
「それともその場合には、何か都合の悪いことでもあるのですか?」
もしもこの要求を受け入れないと、オレの方にもいろいろ考える事があると言外に匂わせてみる。
聖女教会はオレの事についてはいろいろ深読みしているようだから、ここはあえてそれを煽ってみることにする。
「……かしこまりました。あなた様を信じましょう」
この聖地を開闢した『最初の選ばれし者』と言えど、今ではあくまでもイロールに仕える聖霊の一柱でしかない。
当然、大神官の座をどうにか出来るワケでもないだろうから、オレが何を吹き込もうと構わないという意識なのかもしれないな。
まあ実際に大神官も聖女教会の権力闘争もオレはなるだけ関わりたくないだけだ。
ただあまりにも長い道のりだったけど、ようやく聖女教会の性転換魔法の真相をつかめるかもしれないかと思うと、命を狙われた事すらさして気にならないのは、オレがそういう状況に慣れすぎてしまったからなのかもしれないけどな。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる