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第24章 全てはアルタシャのために?
第1132話 皇帝の居場所へと向かうと
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上に登ったところで、改めて周囲の様子をうかがうが、この部屋は埃が厚く積もっている以外にはウァリウスと別れた時と全く変わっていない。
あれから殆ど誰も入っていないと言う事だ。
軟禁されているウァリウスが脱出路のあるこの部屋に入れるのなら、とっくに脱出しているはずだから、ここに来ている筈がないのだけどな。
とりあえず部屋の外にも特に音がない事を確認した上で扉を開けるが、そこも以前に過ごした後宮の廊下と変わらない。
何もなさ過ぎて拍子抜けするほどだ。
そこでようやく出てきたマルキウスに問いかける。
「ところで弘徽殿にはどう向かえばいいのですか?」
「中庭を通れば弘徽殿の正門から入る事になるが……いくら何でもそれはまずかろう。だから裏門に向かうべきじゃな」
普通に考えてそこは閉鎖されているか、最低でも見張りはいるだろうけど、それは何とかしよう。
あたりの様子をうかがっても多数の兵士が見張っているという状態ではないが、これは皇帝ウァリウス一人を軟禁していればいいだけだから、本人を直接見張った上で、なおかつ後宮の出口さえ封鎖していれば大丈夫という見込みなのだろう。
オレのような存在が忍び込んでくる事を考えていなければ、それは間違ってはいないのだけどな。
それからしばらくはマルキウスの案内で、隠れつつ後宮の中を移動した。
途中でオレが魔法でぶち壊した中庭(第五章)も目に入ったが再建されている様子もなく、痛々しい姿をさらしていた。
オレにとってもいろいろと複雑な思い出のある場所だ。
本当に遠い昔の出来事に思えるが、まだ一年かそこらしか経っていないのだなあ。
そんな余計なことを考えつつ、マルキウスの案内に従い移動していると弘徽殿の裏手についた。
周囲は塀に覆われており、後宮の中でも更に独立した区画になっており、これならば皇帝を軟禁するのに便利な場所だと言えるだろう。
予想通り裏門は閉鎖されているが、そのお陰で見張りの兵士もいないようだ。
思った通り警備はゆるゆるらしい。
もちろん失敗すれば大勢の兵士が押し寄せてくるだろう。
そこで逃げ出したら、ウァリウスの居場所も移されて、やり直しもできないので気をぬくわけにはいかない。
幸か不幸かイオがいるので、どんな暴力的なピンチも切り抜けられる自信はある。むしろそれがなかったらこの宮城に忍び込む決心がついたかは疑問だ。
とりあえず裏門から少し離れていて、なおかつ塀の外から木が伸びているのが確認出来るところを選び、オレは『蜘蛛登り』の魔法を使って塀をよじ登る。
そこでミツリーンがテセルを羽交い締めにする。
「こら。僕に何をするんだ?」
「静かにしろ。お前が下から不埒な真似をしないようにするのは当然の事だろう」
「なんだと? この僕が――」
「静かにしろと言ったはずだ。これ以上、騒ぐと首を絞めて『落とす』ぞ」
体力勝負ではミツリーンの方が上なので、テセルは押さえ込まれている。
「なにぃ!」
どういうわけかいきなりテセルは驚愕する。
今まで幾度も命に危険にあってきたはずだが、それとは大きく異なる驚きというよりは恐れがかじられたのだ。
それはただの肉体的な苦痛に対するものではなく、もっと別の何かのように思えた。
「この僕を『落とす』とは……お前にはそんな趣味があったのか?」
「お前は何を言っているんだ?」
なんだかんだ言いながらテセルとミツリーンは仲が良くなりつつあるのか?
だいたいオレ達は皇帝を探している潜入者であって、弘徽殿の中の様子を伺うべき場面で何をやっているんだか。
塀の中を確認すると建物の回り廊下を、女官が何人か動き回っているようだ。
恐らくはウァリウス皇帝の身の回りの世話を――もしかすると夜伽の相手も――しているのだろう。
弘徽殿のサイズに比べれば女官の数も少ないし、タイミングを見計らえば中に入るのはそう難しくないはずだ。
この場合は大地の精霊を使って、地面に穴を開けた方が効率的かな。
そんなわけでいったん塀を降りたところで、オレの『霊視』に引っかかるものがあった。
その姿は後宮の女官に近いものだったが、どうやらこの弘徽殿の守護精霊らしい。
しかし敵対的な様子は示していないし、誰かにオレ達の事を通報している様子も無い。
そして精霊は静かに語りかけてくる。
『あなたがアルタシャですね。皇帝陛下の命によりお待ちしていました』
「気付いていたのですか?」
『もちろんです。あなたがこの後宮の敷地に足を踏みいれたところで、その存在は明らかでしたからね』
そりゃまあ後宮の守護精霊なら当然か。しかしそんな便利な能力があるのなら、以前に後宮に怪異が出てきたときもどうにかして欲しかった。
『帝国の乱れによりこの後宮の守護者である私の力も大きく損なわれました。今の私には陛下に状況を伝える事と、後はこの弘徽殿周辺にしか力は及びません』
後宮の長官であるオントールが好き勝手出来たのも、守護精霊が弱体化している事を知っていたからなのだろうな。
『それでは裏門を開けておきますので、そこからお入りなさい。あなたのことは陛下がお待ちですから』
正直に言えば今でもウァリウスに直接対面するのは気が重いところもある。
しかしこうなれば突撃あるのみだ!
あれから殆ど誰も入っていないと言う事だ。
軟禁されているウァリウスが脱出路のあるこの部屋に入れるのなら、とっくに脱出しているはずだから、ここに来ている筈がないのだけどな。
とりあえず部屋の外にも特に音がない事を確認した上で扉を開けるが、そこも以前に過ごした後宮の廊下と変わらない。
何もなさ過ぎて拍子抜けするほどだ。
そこでようやく出てきたマルキウスに問いかける。
「ところで弘徽殿にはどう向かえばいいのですか?」
「中庭を通れば弘徽殿の正門から入る事になるが……いくら何でもそれはまずかろう。だから裏門に向かうべきじゃな」
普通に考えてそこは閉鎖されているか、最低でも見張りはいるだろうけど、それは何とかしよう。
あたりの様子をうかがっても多数の兵士が見張っているという状態ではないが、これは皇帝ウァリウス一人を軟禁していればいいだけだから、本人を直接見張った上で、なおかつ後宮の出口さえ封鎖していれば大丈夫という見込みなのだろう。
オレのような存在が忍び込んでくる事を考えていなければ、それは間違ってはいないのだけどな。
それからしばらくはマルキウスの案内で、隠れつつ後宮の中を移動した。
途中でオレが魔法でぶち壊した中庭(第五章)も目に入ったが再建されている様子もなく、痛々しい姿をさらしていた。
オレにとってもいろいろと複雑な思い出のある場所だ。
本当に遠い昔の出来事に思えるが、まだ一年かそこらしか経っていないのだなあ。
そんな余計なことを考えつつ、マルキウスの案内に従い移動していると弘徽殿の裏手についた。
周囲は塀に覆われており、後宮の中でも更に独立した区画になっており、これならば皇帝を軟禁するのに便利な場所だと言えるだろう。
予想通り裏門は閉鎖されているが、そのお陰で見張りの兵士もいないようだ。
思った通り警備はゆるゆるらしい。
もちろん失敗すれば大勢の兵士が押し寄せてくるだろう。
そこで逃げ出したら、ウァリウスの居場所も移されて、やり直しもできないので気をぬくわけにはいかない。
幸か不幸かイオがいるので、どんな暴力的なピンチも切り抜けられる自信はある。むしろそれがなかったらこの宮城に忍び込む決心がついたかは疑問だ。
とりあえず裏門から少し離れていて、なおかつ塀の外から木が伸びているのが確認出来るところを選び、オレは『蜘蛛登り』の魔法を使って塀をよじ登る。
そこでミツリーンがテセルを羽交い締めにする。
「こら。僕に何をするんだ?」
「静かにしろ。お前が下から不埒な真似をしないようにするのは当然の事だろう」
「なんだと? この僕が――」
「静かにしろと言ったはずだ。これ以上、騒ぐと首を絞めて『落とす』ぞ」
体力勝負ではミツリーンの方が上なので、テセルは押さえ込まれている。
「なにぃ!」
どういうわけかいきなりテセルは驚愕する。
今まで幾度も命に危険にあってきたはずだが、それとは大きく異なる驚きというよりは恐れがかじられたのだ。
それはただの肉体的な苦痛に対するものではなく、もっと別の何かのように思えた。
「この僕を『落とす』とは……お前にはそんな趣味があったのか?」
「お前は何を言っているんだ?」
なんだかんだ言いながらテセルとミツリーンは仲が良くなりつつあるのか?
だいたいオレ達は皇帝を探している潜入者であって、弘徽殿の中の様子を伺うべき場面で何をやっているんだか。
塀の中を確認すると建物の回り廊下を、女官が何人か動き回っているようだ。
恐らくはウァリウス皇帝の身の回りの世話を――もしかすると夜伽の相手も――しているのだろう。
弘徽殿のサイズに比べれば女官の数も少ないし、タイミングを見計らえば中に入るのはそう難しくないはずだ。
この場合は大地の精霊を使って、地面に穴を開けた方が効率的かな。
そんなわけでいったん塀を降りたところで、オレの『霊視』に引っかかるものがあった。
その姿は後宮の女官に近いものだったが、どうやらこの弘徽殿の守護精霊らしい。
しかし敵対的な様子は示していないし、誰かにオレ達の事を通報している様子も無い。
そして精霊は静かに語りかけてくる。
『あなたがアルタシャですね。皇帝陛下の命によりお待ちしていました』
「気付いていたのですか?」
『もちろんです。あなたがこの後宮の敷地に足を踏みいれたところで、その存在は明らかでしたからね』
そりゃまあ後宮の守護精霊なら当然か。しかしそんな便利な能力があるのなら、以前に後宮に怪異が出てきたときもどうにかして欲しかった。
『帝国の乱れによりこの後宮の守護者である私の力も大きく損なわれました。今の私には陛下に状況を伝える事と、後はこの弘徽殿周辺にしか力は及びません』
後宮の長官であるオントールが好き勝手出来たのも、守護精霊が弱体化している事を知っていたからなのだろうな。
『それでは裏門を開けておきますので、そこからお入りなさい。あなたのことは陛下がお待ちですから』
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