異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
1,191 / 1,316
第24章 全てはアルタシャのために?

第1191話 廃神が望んだものは

しおりを挟む
 オレが全力で癒やしの力を放つと、周囲の朽ち果て赤茶けた死の空間が少しずつでも生命が戻ってくる事が感じられる。
 そしてそれと共に空間の亀裂が塞がっていく。
 同時に周囲の廃神達もまたその醜悪な姿が、人間に近づいていくように感じられるが、もちろん全体から見れば一部に過ぎない。

『おおお! もっともっと力を寄こせ!』
『我らを癒やせ!』

 しかしそれでも彼らにとっては貴重な存在らしく、必死ですがりつこうとしてくる。

「残念ですけど、あなた方を癒やす事は――いや。皆さんの望み通り神の座に戻す事は出来ません」

 ここでオレが彼らに力を与えたところで、あくまでも一時の事に過ぎない。
 それが本心から好きこのんでのものであれ、恐怖からいやいやであれ、自ら望んで信仰を捧げる相手がいない限り神としての存在は維持できないのだ。
 だからこそ廃神連中はオレを手に入れようとしたわけだが、もちろんこっちからは願い下げだ。

「あなた方もこのままでは仮に一時的に力を得たとしても、しばらくすればまた廃神に逆戻りになる事は分かっているでしょう」
『仮にそうだとしても、今のままよりは遥かにマシだ!』
「あなた方は本来の行くべきところに向かうべきなのです」

 要するに『死者』として悪あがきせずあの世に行ってくれという事だ。

『それはもう我らは用済みだから消えろと言っているだけなのだろうが!』
「ならば言いますが、あなた方が神になったときに今のように、失った神位を取り戻す事を望み、また見捨てた信徒を憎みその恨みを晴らすような姿を考えていたのですか?」

 オレの問いかけに返答は無かった。

「あなた方だって自分を崇拝する信徒に恵みを与え、尊崇されて神の座にある事を望んでいたのではないのですか?」
『そうだとも! だが奴らはその我らを裏切ったのだ! 神の座から引きずりおろし、このような惨めな存在へとおとしめた!』
『いまそうやって大勢の人間から力を得ているお前にその気持ちが分かるはずがない!』

 言われた通り、確かに彼らの気持ちはオレには分からないだろう。
 そもそもオレの場合、神の座を望んだ事も無いし、崇拝を得たいと思っていたわけでもない。
 望みもしないのに『女神』として大陸中にその存在が知られるようになってしまったオレとあちらの廃神の皆さんとでは境遇が違い過ぎる。
 だがそれでも彼らには分かってもらわねばならない。誰のためでも無い。
 他ならぬ彼ら廃神達のためでもある。

「見捨てられた腹いせに人々を殺戮するのは神ですら無い、ただの化け物です。このままあなた方が人々の前に出ても、ただ単に人々を襲って殺害するおぞましい化け物でしか無いのですよ! あなた方はそれを望んでいるのではないでしょう!」
『確かに我らの望みは再び崇拝されることだ』
「それならば人々を恨んで、報復するのは正反対ではないのですか? そんな事を望んで神々になったわけではないですよね!」

 オレの必死の呼びかけを受けて、廃神達は動きを止める。
 元の世界でも悪魔とされている存在が、遠い昔には神として崇拝されていた事は別に珍しいワケでは無い。
 ある勢力にとっての偉大な神が、敵対する勢力にとってはおぞましい邪神である事はむしろ当たり前の事であり、言ってみれば『勝った側が正義』という人間社会と同じ構造があったのも間違い無い。
 そして神造者はそれを認識した上で組織的に神々を定義する事で強大な力を手にしたが、それは神々を必要とすれば作り出し、不要だと判断すればゴミのように廃棄するという『神や信仰を単なる道具として扱う』代物でもあった。
 悲しいかなそれ自体は過去にもずっと繰り返されて来た事だった。時代の流れによって信仰されなくなり、消えていく神が生まれるのは必然なのだ。
 だが神造者のやり方はそれを人為的に推し進める事だったので、あまりにも急ぎすぎ取り残される神々の不満が高まったのは間違い無い。
 更に長年に渡る活動の結果、神造者の中からも神として崇拝される者が大勢出てきたのが事情を更に面倒な事とした。
 神造者内部の争いで、神となっては引きずり下ろす行為を繰り返した結果、どんどん廃神が増え、しかも彼らは人間の時の経験から神造者のやり方をよく知っていたが故に、その穴をついて現実世界へと湧き出そうとしているのだ。

『それは我らに再び、あの荒廃した神界をさまよえというのか?』
「今はあなた方はひいて下さい。そして本来行くべきところに向かうべきです!」

 彼らが神の座を失っても、その地位に執着し続けた結果として、現実世界の無残な現し身であった荒廃した神界に留まり続けるようになったのだ。
 皮肉にもそれ故にこそ彼らの現実世界への憎悪は更に増し、廃神の数は増え続け、神界の後輩は更に進むという悪循環に突入したのだろう。
 ハッキリ言えばこの廃神達は死後もその意志だけが残った亡霊に近い存在だ。
 彼らが自らの意志でこの世界を離れる事を決めてくれなければ、苦痛だけが続く羽目になるのは明白だった。
 問題なのは彼らにそれを受け入れさせる事だ。
 彼らだって元々は神の列に加えられる程の英傑だったとすれば、その理性をいったん取り戻させるためにも、彼らを癒やす必要があるのか。
 今のオレにだったらそれが可能か?
 ええい。考えている場合じゃ無い。
 オレにはいま大陸中から力が集まっているが、それはオレのためではなく、この世界と彼ら廃神達を癒やすために全て使わねばならないのだから。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...