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「うわぁ、華やかねぇ」
「そりや、国王陛下御夫妻主催の夜会だもの。当然だろ」
一歩足を踏み入れた大広間は別世界のようだった。
「キミだって初めてでもないだろう? 驚くほどのことでもないじゃないか」
「でもねぇ、セイデス。私、仕事以外で夜会に来たのは久しぶりなのよ」
トレーシーの目の前には色の洪水。
ピンクに赤、青に黄色と色とりどりのドレスが会場を埋めていた。
「そんなに違うものかい?」
「仕事の時とは、見える世界が違うわ」
言われてみれば、広い広い大広間も、天井に輝くシャンデリアも、初めて見るわけではない。
騒めきさざめく紳士淑女の方々も、いつもと同じように装ってそこに居る。
それだけの事なのに、なぜかトレーシーはその光景に圧倒された。
春から夏に向かっていく季節。
背中や胸元が大胆に開いたドレスも寒々しくはない。
それぞれの魅力を引き立てながら見せびらかす女性たちの情熱と、その女性たちに向けられた男性たちの熱を帯びた視線とで、会場内は暑いくらいだ。
「あ、来た来た。セイデスにトレーシーちゃん。こんばんは」
「ご機嫌麗しゅうございます、トラント部長」
トレーシーとセイデスは、それぞれに美しい礼をとる。
トラントも優雅に礼を返した。
今夜のトラントは少し黄味を帯びた白、アイボリーの貴族服をまとっている。
褐色の肌に柔らかく映える白の衣装には、金の刺繍が輝いていた。
仕事の時と着ている服は違えども雰囲気の変わらないトラントに、トレーシーはホッと一息吐いた。
「今夜は一段と綺麗ね、トレーシーちゃん。セイデスもキメてきたわね」
「ふふふ。セイデスのお母さまに、遊ばれちゃいました」
「ダウジャン伯爵として初の夜会ですからね。トレーシーの後見人としても恥ずかしくないようにしてきましたよ」
「そうね。優秀で綺麗なトレーシーちゃんを見て、結婚を申し込みたい紳士が列をなすかもしれないものね」
「ふふふ。やめて下さいよ、トラント部長」
「アルバスも、居るわよ。彼にも見せたいわね……どこかしら? さっきまで隣に居たのだけれど」
「あれ、そうじゃないでしょうか?」
「ん? あら、セイデス。目が良いわね」
セイデスが指さす先を見れば、誰か一瞬、分からない美丈夫がいた。
キラキラ輝く銀の髪。
澄んだ青い瞳。
切れ長の大きな目は長い睫毛に縁取られ。
整った顔立ちにスッと通った高い鼻すじ。
女性ほど滑らかではなく、かといってゴツイわけでもない顎のライン。
透き通るような白い肌のスラリとした男性が、そこに居た。
「……え? アルバス先輩?」
長い銀の髪を三つ編みにして背中に流し、憂いを帯びた瞳で周囲を見回しているその男性は、グルリと周りを令嬢たちに囲まれていた。
「あらあら。相変わらずモテること」
「んー、噂通りですね。氷の麗人と言われているアルバス・メイデン侯爵令息は実在した。衝撃的~」
「ふふふ。セイデスったら、何よソレ。アルバスは、いつもあんな感じよ?」
「そう……なんですね?」
トレーシーは、白衣かローブを着たアルバスしか知らない。
令嬢たちに囲まれているアルバスは、違う人のように見えた。
美しいけれど表情に乏しい美貌の人は、スッと背筋を伸ばして頭一つ分くらい小さな令嬢たちを見下ろしている。
スラリとした体に纏っているのは、髪の色と瞳の色とで作られた貴族服。
青い生地の上を銀色の刺繍がこれでもかというほど遠慮なく施されている。
幾重にもフリルの重なるクラバットには白のレースと銀色の刺繍。
繊細で大胆な衣装を身につけたアルバスは、酷く冷淡な人に見えた。
「アルバス、コッチよ」
トラントに気付いたアルバスがコチラを見る。
トレーシーに気付いた青い目が大きく見開かれて一瞬、止まる。
そして、表情がゆっくりと緩んでいく。
花がほころぶように華やかで、明らかな、その変化。
柔らかな笑みに染まった優しい眼差しが、トレーシーを捕えた。
(いつものアルバス先輩だ)
トレーシーはアルバスに向かって小さく手を振る。
人混みをかき分けてコチラに向かってくるアルバスの背中は少し丸くなり。
身長も少し縮んだように見えたけれど。
近くに来たアルバスの視線は、トレーシーのそれと簡単に交わる。
「こんばんは、トレーシー君」
「ふふ。こんばんは、アルバス先輩。ご機嫌麗しゅうございます」
どちらからともなく自然に笑みがこぼれる。
「ちょっと何よ、アレ」
「なによ、あんな派手なドレス着ちゃって」
「誰なの? あの女」
「知らないわ、どこのご令嬢かしら?」
「随分となれなれしいわね」
さっきまでアルバスを取り巻いていた令嬢たちがコソコソと、だがハッキリと耳に届くような声で騒めく。
だが、アルバスの耳には聞こえていないようだ。
「今夜は綺麗にしてきたのだね、トレーシー君」
「ふふ。アルバス先輩こそ」
「ああ、これかい? 屋敷の侍女たちに遊ばれちゃってね。派手だろう? 屋敷に戻ると、いつもこうなんだよ」
「ふふ。お似合いですよ」
「揶揄わないでくれよ、トレーシー君」
にこやかに会話する二人を、周囲にいる令嬢たちはキッと睨む。
トラントとセイデスは顔を見合わせて、やれやれとばかりに溜息を吐いた。
「そりや、国王陛下御夫妻主催の夜会だもの。当然だろ」
一歩足を踏み入れた大広間は別世界のようだった。
「キミだって初めてでもないだろう? 驚くほどのことでもないじゃないか」
「でもねぇ、セイデス。私、仕事以外で夜会に来たのは久しぶりなのよ」
トレーシーの目の前には色の洪水。
ピンクに赤、青に黄色と色とりどりのドレスが会場を埋めていた。
「そんなに違うものかい?」
「仕事の時とは、見える世界が違うわ」
言われてみれば、広い広い大広間も、天井に輝くシャンデリアも、初めて見るわけではない。
騒めきさざめく紳士淑女の方々も、いつもと同じように装ってそこに居る。
それだけの事なのに、なぜかトレーシーはその光景に圧倒された。
春から夏に向かっていく季節。
背中や胸元が大胆に開いたドレスも寒々しくはない。
それぞれの魅力を引き立てながら見せびらかす女性たちの情熱と、その女性たちに向けられた男性たちの熱を帯びた視線とで、会場内は暑いくらいだ。
「あ、来た来た。セイデスにトレーシーちゃん。こんばんは」
「ご機嫌麗しゅうございます、トラント部長」
トレーシーとセイデスは、それぞれに美しい礼をとる。
トラントも優雅に礼を返した。
今夜のトラントは少し黄味を帯びた白、アイボリーの貴族服をまとっている。
褐色の肌に柔らかく映える白の衣装には、金の刺繍が輝いていた。
仕事の時と着ている服は違えども雰囲気の変わらないトラントに、トレーシーはホッと一息吐いた。
「今夜は一段と綺麗ね、トレーシーちゃん。セイデスもキメてきたわね」
「ふふふ。セイデスのお母さまに、遊ばれちゃいました」
「ダウジャン伯爵として初の夜会ですからね。トレーシーの後見人としても恥ずかしくないようにしてきましたよ」
「そうね。優秀で綺麗なトレーシーちゃんを見て、結婚を申し込みたい紳士が列をなすかもしれないものね」
「ふふふ。やめて下さいよ、トラント部長」
「アルバスも、居るわよ。彼にも見せたいわね……どこかしら? さっきまで隣に居たのだけれど」
「あれ、そうじゃないでしょうか?」
「ん? あら、セイデス。目が良いわね」
セイデスが指さす先を見れば、誰か一瞬、分からない美丈夫がいた。
キラキラ輝く銀の髪。
澄んだ青い瞳。
切れ長の大きな目は長い睫毛に縁取られ。
整った顔立ちにスッと通った高い鼻すじ。
女性ほど滑らかではなく、かといってゴツイわけでもない顎のライン。
透き通るような白い肌のスラリとした男性が、そこに居た。
「……え? アルバス先輩?」
長い銀の髪を三つ編みにして背中に流し、憂いを帯びた瞳で周囲を見回しているその男性は、グルリと周りを令嬢たちに囲まれていた。
「あらあら。相変わらずモテること」
「んー、噂通りですね。氷の麗人と言われているアルバス・メイデン侯爵令息は実在した。衝撃的~」
「ふふふ。セイデスったら、何よソレ。アルバスは、いつもあんな感じよ?」
「そう……なんですね?」
トレーシーは、白衣かローブを着たアルバスしか知らない。
令嬢たちに囲まれているアルバスは、違う人のように見えた。
美しいけれど表情に乏しい美貌の人は、スッと背筋を伸ばして頭一つ分くらい小さな令嬢たちを見下ろしている。
スラリとした体に纏っているのは、髪の色と瞳の色とで作られた貴族服。
青い生地の上を銀色の刺繍がこれでもかというほど遠慮なく施されている。
幾重にもフリルの重なるクラバットには白のレースと銀色の刺繍。
繊細で大胆な衣装を身につけたアルバスは、酷く冷淡な人に見えた。
「アルバス、コッチよ」
トラントに気付いたアルバスがコチラを見る。
トレーシーに気付いた青い目が大きく見開かれて一瞬、止まる。
そして、表情がゆっくりと緩んでいく。
花がほころぶように華やかで、明らかな、その変化。
柔らかな笑みに染まった優しい眼差しが、トレーシーを捕えた。
(いつものアルバス先輩だ)
トレーシーはアルバスに向かって小さく手を振る。
人混みをかき分けてコチラに向かってくるアルバスの背中は少し丸くなり。
身長も少し縮んだように見えたけれど。
近くに来たアルバスの視線は、トレーシーのそれと簡単に交わる。
「こんばんは、トレーシー君」
「ふふ。こんばんは、アルバス先輩。ご機嫌麗しゅうございます」
どちらからともなく自然に笑みがこぼれる。
「ちょっと何よ、アレ」
「なによ、あんな派手なドレス着ちゃって」
「誰なの? あの女」
「知らないわ、どこのご令嬢かしら?」
「随分となれなれしいわね」
さっきまでアルバスを取り巻いていた令嬢たちがコソコソと、だがハッキリと耳に届くような声で騒めく。
だが、アルバスの耳には聞こえていないようだ。
「今夜は綺麗にしてきたのだね、トレーシー君」
「ふふ。アルバス先輩こそ」
「ああ、これかい? 屋敷の侍女たちに遊ばれちゃってね。派手だろう? 屋敷に戻ると、いつもこうなんだよ」
「ふふ。お似合いですよ」
「揶揄わないでくれよ、トレーシー君」
にこやかに会話する二人を、周囲にいる令嬢たちはキッと睨む。
トラントとセイデスは顔を見合わせて、やれやれとばかりに溜息を吐いた。
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