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つがう

第三話

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 翌朝。

 目覚めたら窓の外は真っ白だった。

 カーテンを開けたまま寝たのでベッドから外がよく見える。

 ついでにベッドの天蓋も大解放中だ。

 オレもルノもスッポンポン。

 爛れた生活してんなぁ、とか思う。
 
「使用人たちがバタバタしてる」

 使用人たちのお仕着せは色が濃いものが多いから白い風景のなかでは目立つ。

 ベッドで上半身を起こしたオレが窓の外を見ながら言えば、隣でルノがうなずきながら言う。

「んっ。毎年の恒例行事みたいなものだから。それでも今年はミカエルが作ってくれた魔法道具があるから例年よりは楽なはずだよ」

「そっか」

 屋敷内には便利な魔法道具が増えた。

 そのなかには雪対策に関するものもいくつかある。

 今現在、大活躍しているのが雪かきショベルだ。

 コイツはただの雪かきショベルではない。

 魔力を流すことで排出用水路まで移動できるのだ。

 サクッと差し込んでちょっと持ち上げて魔力を流すとブレード部分に乗っかっている雪が自動的に排出用水路まで飛んでいく。

 いちいち運ばなくてもいいから楽だし、水路には安全のためのネットも張ったから安心だ。

「雪かきは体力自慢の護衛騎士たちの仕事だったが……今年は他の使用人たちもやってるね」

「ふぁ?」

 外を眺めながらルノが言うのを聞いて、オレは戸惑った。

 作業の軽減を狙って作ったものだが、かえって仕事を増やしてしまったのだろうか?

「ミカエルの魔法道具が面白いから、みんなして遊んでるんじゃないか?」

「そう……なんだ……」

 遊ぶ?

 雪かきは遊びなの?

「まーだいたい、最初のうちは何でも楽しいんだよね。飽きたらただの肉体労働だけど」

「……ほう」

 そんなものなのか?

 オレは改めて窓の外を見た。

 言われてみれば皆、キャッキャしているような気がする。

 護衛騎士隊長のジルベルトも良い笑顔で楽しそうに雪かきショベルを握っていた。

 ブレード部分に足をかけ、積もった雪の中にザクッとショベルの先を突き入れてはサクサクと処理を進めている。

 イキイキとしているジルベルトは、一つに縛った白髪が銀髪に見えるほどキラキラしていた。

 護衛たちは鍛錬代わりなんだろうけど。

 家令のセルジュや侍女のマーサも若いメイドたちに混ざってキャッキャしているから楽しいんだろうな。

「まぁ……役に立ったなら良かったよ」

「んっ。私はそろそろ朝食前の鍛錬に行くけど。キミはゆっくりしているかい?」

 気付けばルノは身支度を済ませていた。

 オレの方はといえば、まだスッポンポンである。

「あぁ待って。オレも行くっ」

 オレは慌てて自分に洗浄の魔法をかけると、鍛錬用の服を着た。

「ちょっと待って、ルノ」

「遅いぞ、ミカエル」

 ふふふと笑う背中を軽くどつく。

 廊下でじゃれるものではありません、と、叱ってくるマーサも今はいない。

 屋敷内はガランとしていて、ホントに雪かきイベントを皆で楽しんでいるようだ。

 いつも通り鍛錬場に向かうつもりで外に出たオレたちに、護衛たちが楽しげに話しかけてきた。

「おはようございます。よい朝ですね」

「ミカエルさまが作ってくださった雪かきショベル最高です」

「鍛錬代わりに今朝は雪かきですよ。旦那さまたちもご一緒にいかがですか?」

 たくましい男たちが爽やかな笑顔を浮かべ、オレの作った雪かきショベル片手に誘ってくる。

 雪かきショベルに片足かけて笑顔を煌かせイキイキしているガタイの良い男たちを見ながら、雪かきスコップではなく雪かきショベルにしたオレって天才、ってちょっと思った。

 横でルノが嫉妬含みの目で護衛たちを睨んでいたので『いや。オレがイイナと思ったのはガタイの良い男たちが楽しそうにしているからであって、男たちのガタイのイイ体ではないのだよ』と、言い訳しそうになったのだが。

 コレは配偶者持ちの普通の感覚なのかどうかちょっと気になるなど複雑な感情が一瞬だけオレのなかに渦巻いたのは内緒だ。

 うん、くどいな。

 オレの複雑な心情を察してくれ。

「そんなに楽しいなら私も試してみる」

 いそいそと雪かきショベルを手にするルノ。

「私のミカエルが作ったものなのに、お前たちばかり楽しんでいるのはズルい」

 そっちでしたか……。

 オレの考え過ぎだったよ。

 オレの複雑な心情を察してくれ。

「旦那さま。こちらなら雪がたくさん積もってますよ」

「この辺りにサクッと雪かきショベルの先を入れてですねぇ……」

 てな感じで、オレたちの鍛錬も雪かきとなった。

「太陽が昇るのを待てば自然に溶けたんじゃないの?」

 と、オレが思わず言ってしまう程度の積雪を皆で片づけた結果、雪かきは朝食前には終わってしまった。

「まぁ、楽しかったからいいんじゃない?」

 と、ルノは言っていたが。それでいいんだろうか? まぁ、主人がそう言うならいいんだろうな。

 雪かきイベントが終わったシェリング侯爵家では、オレたちが朝食を終えた後、使用人たちが一堂に集められた。

「どういうこと?」

「つがい休暇に入ることを伝えておかないと」

「えっ⁈ いや、番うのに宣言してとかオカシイだろ?」

 なんて恥ずかしいことをしようとしているんだ、ルノ。

「いや、宣言しておかないとつがい休暇に入れないのだが?」

 ルノはキョトンとしている。

 意味が分からない。

「私たちがつがい休暇の間、使用人たちだけで屋敷を回してもらわないといけないし。来客への対応も、私たちは出来なくなるしね」

「あっ」

 そうだ。

 仕事を休むのだし、その間のことを考えたら内緒で休暇をとっても意味はない。

「キチンと伝えておかないとね」

 ニコッと笑ってルノは言った。

 オレはうなずかざるおえない状況ではあったが、恥ずかしいのは変わらない。

 ルノは使用人たちに堂々と、つがい休暇に入ることを宣言した。

 セルジュとマーサは涙ぐみ、ジルベルトは上を向いて目頭をおさえているような気がするが。

 オレは色々な意味でなんだかいたたまれなかった。
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