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つがう

第四話

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「と、いうことでつがい休暇に入ります」

「そうかっ! やったなルノ。おめでとう」

 ルノの宣言に、国王さまは上機嫌でニコニコしている。

「おめでとうございます、ルノさま。ミカエルさま」

 大きなお腹の王妃さまもニコニコしている。

「ありがとうございます」

 キリッとした表情でルノは答えていたけれど、オレはなんかきまり悪くていたたまれない。

 今日は王宮へつがい休暇をとることを告げに来た。

 気合の入った貴族服が別の意味で恥ずかしい。

「ついにかー。ルノも大人になっちゃうな」

「なんですか、それは。私はもともと大人ですよ、アル」

 国王さまに揶揄われても、今日のルノは上機嫌で余裕がある。

 あらいやだ。なんだかオレの旦那さま、アルファみたい。

 ……まぁ実際アルファなんだが。

 なんだかいたたまれなくて、ひとり脳内コントしちゃったよ。

「ふふふ。ついにミカエルさまも番になられるのね」

 オレに笑顔を向ける王妃さまのとなりで国王さまが言う。

「そうしたら懐妊もすぐだろう? この子と年齢の近い子が出来そうで嬉しいよ」

「いや、そんな。すぐに子どもができるとは……」

 オレは困って、へにゃりと眉を下げた。

 確かに番になれば妊娠の可能性は高くはなるが、すぐに妊娠するかどうかは分からない。

「そうだぞ、アル。私の配偶者に変なプレッシャーをかけないでくれ」

 キリッとした表情のルノがオレの隣で抗議する。

 だからどうしたんだルノ。今日はコントのように凛々しいな?

「おお。ルノが配偶者に配慮を求めるようなことを言う日がくるなんて」

「大人になられましたのね、ルノさま」

 おいおい。マジで両陛下が感激のあまり涙ぐんでいらっしゃるぞ。

 どんな扱いなんだよ、ルノ。

 当人はそんなこと気にせずに、
 
「なんといっても、私はミカエルのアルファだからな」

 キリリとした表情に余裕の笑みも加えてなどとのたまっている。

 だから、そこで胸を張るんじゃない。そんなだから子どもっぽく見えるんだぞ、ルノ。

 呆れたオレが横目でルノを見ていると、王妃さまが声をかけてきた。

「ミカエルさま。お腹、触ってみますか?」

「えっ。いいんですか?」

「ええ。どうぞ」

 オレが恐る恐る大きなお腹に手をあてると、柔らかなオメガの魔力が伝わってきた。

 可愛らしくて小さな命の感触を感じたのと同時にボコッとお腹の中から蹴られた。

「わっ⁈」

 驚いたオレは思わず声を上げて王妃さまのお腹から手を離す。

「あらあら。この子は暴れん坊ね」

「おっ、ミカエル君。うちの子に蹴られたのかい?」

「……はい」 

 どう反応していいか困っていると、王妃さまが笑いながら言う。

「ふふふ。驚かせちゃったわね。この子、気に入った相手がお腹を触ると激しく動くのよ」

「なにっ? 私のミカエルが気に入ったと?」

 ルノが声を上げると、両陛下は吹き出した。

「慌てるな、ルノ。そーゆー意味じゃない」

「ふふふ。ルノさまがうちの子に焼きもちを焼いているわ」

 ルノが御子に焼きもちを焼く?

 御子さまは、まだ生まれてもいないんですけど。

「あー、でもルノとミカエル君の子どもが生まれたら。うちの子の配偶者になってもらいたいなぁ」

「ふふふ。それは良い考えですわね」

「ムッ。まだ出来てもいないうちに我が子を狙われるとは。なんて不吉な」

 楽しそうな両陛下を、ルノは不機嫌そうに睨む。

 今回ばかりはオレもルノの意見に賛成だ。うん。

「あら、ルノさま。侯爵家と王家なら縁組するのにちょうどいいですわ」

「そうだぞ、ルノ。嫁に貰うか、嫁に出すかはちょっと考えるとしてだな……」

「王家との縁組か……でも我が家の跡取りも必要だし……その場合はふたり以上作らないと……」

「まだひとり目も出来てないからなっ」

 オレは慌てて言った。

 確かに侯爵家と王家なら政略的には妥当だ。

 妥当過ぎて、話が勝手にまとまってしまいそうで怖い。

「いやぁ、分からないぞ。うちの子だって、まだ生まれてもいないのだからな。逆にキミの所へ来る子の気配を感じやすいのかもしれん」

「気配って、アル。うちの子は、だ」

 ルノが国王さまを呆れた顔して見ている。

 気持ちは分かるがルノ、言い方っ。

「そうだな。つがい休暇の間に作るのだからな」

 あぁ、案の定、国王さまにツッコまれた。

「そうだ」

 ルノは単純に断言する。

 オレの顔は真っ赤になっているに違いない。

 顔どころか全身が熱い。

 そんなオレを見て王妃さまがクスクス笑っている。

 スッゴク恥ずかしいけど。なんだか幸せな気分でもあるような気もするな。

 多分、気のせいだろうけどね。
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