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【短編 一万文字はない】都合のよい駒にされたくない令嬢は冒険の旅にでる
姉は冒険の旅に出る
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「はっ? 今なんておっしゃいました?」
(我ながら間抜けな声ね)
メアリー・ミード伯爵令嬢は、そう思いながらも問わずにはいられなかった。
今日は学園の卒業式。
いまは卒業パーティの真っ最中だ。
王太子の婚約者であるメアリー・ミード伯爵令嬢は、ダンスを披露するために彼の側に控えていた。
なのに、目の前にいるサイクス王太子殿下は嬉々としていうのだ。
「婚約を破棄するっ!」
「は?」
事態が把握できない。
優秀な王太子婚約者であるメアリー・ミード伯爵令嬢には、ダンスに応じる用意はあるが、婚約破棄に応じる用意はなかった。
「お前は私が愛するアグネスをいじめたそうではないか! それに真実の愛に目覚めた私は、お前と婚約を継続する気はないっ! 元々、この婚約は私の意に沿ったものじゃない。お前は少し優秀だからって生意気なんだよっ!」
「王太子殿下。意味が分かりませんわ。この婚約、王家から是非にと言われて結んだと聞いておりますのに」
「そんなの私が知るかっ!」
「そもそも、勝手に婚約破棄などなさって良いのですか?」
「私の人生なんだっ! 私が決めるっ!」
「ですが王太子の結婚は……」
「ええいっ! 押しつけがましい女だっ! 少し後ろ盾に恵まれた伯爵家の長女に生まれたからって生意気なんだよっ!」
「ですが……」
「私は真実の愛に目覚めたのだ! アグネス、アグネスはいるか⁈」
「はい。ここにおります」
ピンクの髪をふわふわと揺らしながらアグネスはサイクスの横に立った。
「あら、アナタは確か、男爵令嬢の……」
「ええいっ! 男爵令嬢だからって愚弄するのかっ! メアリー!」
「サイクスさま。アグネス、怖い」
「ああ、アグネス。ごめんよ。いま、怖い伯爵令嬢を断罪するからね。ちょっと待っててね」
「はい」
「……」
(いいお返事ですけれど……え? 男爵令嬢ですわよね? 王太子殿下? 王太子と婚約出来るのは伯爵位以上の令嬢だけですわよね?)
「お前との婚約は破棄するから、さっさと立ち去れ!」
「ですけれど。今年度卒業の最優秀生徒の表彰が……」
「あぁ⁈ この期に及んで何を言う⁈」
「私が今年度卒業の最優秀生徒なのですけれど」
「まぁ~た自分の優秀さのアピールか⁈ お前のそういう所が大嫌いなんだよっ!」
「サイクスさまぁ~」
「ちょっと待っててね、アグネス。いま、怖い然婚約者を追い出すからねぇ~」
「はい~」
「えっとぉ……。表彰式に出なくてもよいと?」
「ああ、メアリー。お前は用済みだ。さっさと去れ」
「……」
(まぁ、そこまで言うのならよろしいですわ。私も気が進まない結婚でしたから。帰りましょうか)
メアリーは美しいカーテシーを披露すると、ひとりでトコトコと会場を後にした。
「何を考えていらっしゃるのでしょうね? 王太子殿下は」
「さっぱり分からないわ」
自宅に戻ったメアリーは、妹であるマリーナと居間で呑気に紅茶を飲んでいた。
帰宅したメアリーが真っ先にしたのは父への報告だ。
そこからミード伯爵家は大騒ぎである。
「手続き的な事はお父さまにお任せします」
「でも、本当に婚約を取りやめてよろしいのですか? 結婚に向けて王妃教育も頑張ってらしたのに」
「うーん。でも、王太子殿下が嫌だとおっしゃっているし?」
「お姉さまは優秀なのに、王太子殿下は何を考えてらっしゃるのかしら? 王妃教育も履修済みですし、本年度卒業の最優秀生徒。これ以上、次期王太子妃にふさわしい女性などいないでしょうに」
「真実の愛に目覚めたらしいですわ」
「真実の愛? お相手は?」
「男爵令嬢ですって」
「まぁ⁈」
「驚くわよね。サイクスさま、王太子の地位を捨てるおつもりなのかしらね?」
「えっ⁈」
「アグネスとか言うらしいのですが。男爵令嬢と結婚を希望されているのなら、次期国王は難しいわよね」
「そうですわね、お姉さま」
「我がミード伯爵家は、爵位のわりに後ろ盾も強い家ですわ。それで目を付けられて婚約者になる派目になったというのに……」
「そうですわよね。お姉さまは乗り気ではない婚約でしたものね」
「王妃になるには王妃教育を受けなければならなかったし」
「ええ、大変でしたよね。小さな頃から歴史やら礼儀作法のお勉強で」
「寝る時間もないような生活でしたわ」
「しかも、学園の勉強もありましたものね」
「今の王妃さまが厳しい方で。王妃教育を理由に学業をおろそかにしてはならないと……全く配慮してはいただけませんでしたからね」
「そうでしたの」
「ええ。だから、王太子殿下も大胆なことをされると思って」
「そうですわね。男爵令嬢、でしたっけ?」
「アグネス嬢とかいう方ですの。男爵令嬢が、あの王妃さまと王妃教育に耐えられるのかしら?」
「難しいのではないかしら、お姉さま。男爵令嬢ですもの」
「それに年齢もあるわよね。私たちと同じ18歳なら、かなり急がないと適齢期を逃してしまうわ。17歳や16歳といっても、さして変わらないし」
「そうですわよね。王太子妃となられるのなら、お子さまも産まなければなりませんし」
「大急ぎでないとね。その辺、王太子殿下が分かってらっしゃるかどうか……」
「ですわよね」
姉妹が呑気に話していると、にわかに玄関の方が騒がしくなってきた。
「なにかしらね?」
「そうですわね、お姉さま」
居間のドアが突然バーンと開いた。
「メアリー殿! メアリー殿はいるかー⁈」
「あぁ、お待ちください!」
「落ち着いて下さいませ。殿下⁈ 殿下⁈」
第二王子であるシリルを先頭に、両親と護衛たちがバタバタと入ってきた。
「シリル殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
「メアリー殿、私の婚約者になってくれないか?」
姉妹揃ってカーテシーを披露すれば、シリルは突然のプロポーズをかました。
「は?」
「シリル殿下。気が早すぎます」
「そうですわ、シリル殿下。物事には順序というものが……」
「愚兄がアナタとの婚約を取りやめたと聞いた。アナタは王妃教育も終えた優秀な方だ。王家としても手放すのは惜しい。それに、愚兄があのような状態では、王位継承がすんなりできるとも思えない。ついては、私との婚約を真剣に考えてくれないだろうか?」
「は?」
「王太子は私になるかもしれないのだ、メアリー殿。そうなれば、私の配偶者は未来の王妃。今から探して間に合うものでもない。だから、どうだろうか? 私の婚約者になっていただけないだろうか?」
「……」
「シリル殿下。気が早すぎますから」
「そうですわ、シリル殿下。メアリーは今日、婚約を白紙にされたばかりですのよ。そうすぐに頭を切り替えられるわけがございません」
(そうよ、そうよ。言ってやって下さいませ、お父さま。お母さま)
「メアリーの気持ちが落ち着いて、考えが整理できように一晩ください」
「そうですわ、シリル殿下。一晩あれば、気持ちの整理もつきますわ」
(一晩っ⁈)
「王妃教育を受けさせてあげたんだ。それを無駄にする必要はあるまい?」
「そうですね、シリル殿下。分かっております」
「メアリーも分かっていますわ。賢い子ですから」
「ならいい。では、また明日来る」
シリルは入ってきた時と同じようにバタバタと出て行った。
メアリーは礼の姿勢を取りながら思った。
(これ以上、他人の都合に振り回されるのはごめんだわっ! そもそも、サイクスさまとの婚約も私が決めたことじゃない。お父さまたちが勝手に決めたことなのよ? なのに、王妃教育を受けたのは私。寝る時間もまともに取れないほどだったのよ? その時、お父さまたちは何をしてくれたのかしら? 私のために、とは言われたけれど。実際に私のためになったのかしら? そりゃ、王妃になれれば女性としては出世よね? でも、それで幸せかしら? 私は今まで、幸せだったかしら? この先、このままで幸せになれるかしら? 王太子や第二王子など王家も、お父さまたちも。結局、ご自分たちのことしか考えてらっしゃらないのでは?)
自分勝手な人たちに愛想を尽かしたメアリーは、全てを捨て生きることを決意する。
(私、家を出るわ。そして冒険の旅に出るの!)
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「婚約を破棄するっ!」
「は?」
事態が把握できない。
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「お前は私が愛するアグネスをいじめたそうではないか! それに真実の愛に目覚めた私は、お前と婚約を継続する気はないっ! 元々、この婚約は私の意に沿ったものじゃない。お前は少し優秀だからって生意気なんだよっ!」
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「ですが……」
「私は真実の愛に目覚めたのだ! アグネス、アグネスはいるか⁈」
「はい。ここにおります」
ピンクの髪をふわふわと揺らしながらアグネスはサイクスの横に立った。
「あら、アナタは確か、男爵令嬢の……」
「ええいっ! 男爵令嬢だからって愚弄するのかっ! メアリー!」
「サイクスさま。アグネス、怖い」
「ああ、アグネス。ごめんよ。いま、怖い伯爵令嬢を断罪するからね。ちょっと待っててね」
「はい」
「……」
(いいお返事ですけれど……え? 男爵令嬢ですわよね? 王太子殿下? 王太子と婚約出来るのは伯爵位以上の令嬢だけですわよね?)
「お前との婚約は破棄するから、さっさと立ち去れ!」
「ですけれど。今年度卒業の最優秀生徒の表彰が……」
「あぁ⁈ この期に及んで何を言う⁈」
「私が今年度卒業の最優秀生徒なのですけれど」
「まぁ~た自分の優秀さのアピールか⁈ お前のそういう所が大嫌いなんだよっ!」
「サイクスさまぁ~」
「ちょっと待っててね、アグネス。いま、怖い然婚約者を追い出すからねぇ~」
「はい~」
「えっとぉ……。表彰式に出なくてもよいと?」
「ああ、メアリー。お前は用済みだ。さっさと去れ」
「……」
(まぁ、そこまで言うのならよろしいですわ。私も気が進まない結婚でしたから。帰りましょうか)
メアリーは美しいカーテシーを披露すると、ひとりでトコトコと会場を後にした。
「何を考えていらっしゃるのでしょうね? 王太子殿下は」
「さっぱり分からないわ」
自宅に戻ったメアリーは、妹であるマリーナと居間で呑気に紅茶を飲んでいた。
帰宅したメアリーが真っ先にしたのは父への報告だ。
そこからミード伯爵家は大騒ぎである。
「手続き的な事はお父さまにお任せします」
「でも、本当に婚約を取りやめてよろしいのですか? 結婚に向けて王妃教育も頑張ってらしたのに」
「うーん。でも、王太子殿下が嫌だとおっしゃっているし?」
「お姉さまは優秀なのに、王太子殿下は何を考えてらっしゃるのかしら? 王妃教育も履修済みですし、本年度卒業の最優秀生徒。これ以上、次期王太子妃にふさわしい女性などいないでしょうに」
「真実の愛に目覚めたらしいですわ」
「真実の愛? お相手は?」
「男爵令嬢ですって」
「まぁ⁈」
「驚くわよね。サイクスさま、王太子の地位を捨てるおつもりなのかしらね?」
「えっ⁈」
「アグネスとか言うらしいのですが。男爵令嬢と結婚を希望されているのなら、次期国王は難しいわよね」
「そうですわね、お姉さま」
「我がミード伯爵家は、爵位のわりに後ろ盾も強い家ですわ。それで目を付けられて婚約者になる派目になったというのに……」
「そうですわよね。お姉さまは乗り気ではない婚約でしたものね」
「王妃になるには王妃教育を受けなければならなかったし」
「ええ、大変でしたよね。小さな頃から歴史やら礼儀作法のお勉強で」
「寝る時間もないような生活でしたわ」
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「今の王妃さまが厳しい方で。王妃教育を理由に学業をおろそかにしてはならないと……全く配慮してはいただけませんでしたからね」
「そうでしたの」
「ええ。だから、王太子殿下も大胆なことをされると思って」
「そうですわね。男爵令嬢、でしたっけ?」
「アグネス嬢とかいう方ですの。男爵令嬢が、あの王妃さまと王妃教育に耐えられるのかしら?」
「難しいのではないかしら、お姉さま。男爵令嬢ですもの」
「それに年齢もあるわよね。私たちと同じ18歳なら、かなり急がないと適齢期を逃してしまうわ。17歳や16歳といっても、さして変わらないし」
「そうですわよね。王太子妃となられるのなら、お子さまも産まなければなりませんし」
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姉妹が呑気に話していると、にわかに玄関の方が騒がしくなってきた。
「なにかしらね?」
「そうですわね、お姉さま」
居間のドアが突然バーンと開いた。
「メアリー殿! メアリー殿はいるかー⁈」
「あぁ、お待ちください!」
「落ち着いて下さいませ。殿下⁈ 殿下⁈」
第二王子であるシリルを先頭に、両親と護衛たちがバタバタと入ってきた。
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姉妹揃ってカーテシーを披露すれば、シリルは突然のプロポーズをかました。
「は?」
「シリル殿下。気が早すぎます」
「そうですわ、シリル殿下。物事には順序というものが……」
「愚兄がアナタとの婚約を取りやめたと聞いた。アナタは王妃教育も終えた優秀な方だ。王家としても手放すのは惜しい。それに、愚兄があのような状態では、王位継承がすんなりできるとも思えない。ついては、私との婚約を真剣に考えてくれないだろうか?」
「は?」
「王太子は私になるかもしれないのだ、メアリー殿。そうなれば、私の配偶者は未来の王妃。今から探して間に合うものでもない。だから、どうだろうか? 私の婚約者になっていただけないだろうか?」
「……」
「シリル殿下。気が早すぎますから」
「そうですわ、シリル殿下。メアリーは今日、婚約を白紙にされたばかりですのよ。そうすぐに頭を切り替えられるわけがございません」
(そうよ、そうよ。言ってやって下さいませ、お父さま。お母さま)
「メアリーの気持ちが落ち着いて、考えが整理できように一晩ください」
「そうですわ、シリル殿下。一晩あれば、気持ちの整理もつきますわ」
(一晩っ⁈)
「王妃教育を受けさせてあげたんだ。それを無駄にする必要はあるまい?」
「そうですね、シリル殿下。分かっております」
「メアリーも分かっていますわ。賢い子ですから」
「ならいい。では、また明日来る」
シリルは入ってきた時と同じようにバタバタと出て行った。
メアリーは礼の姿勢を取りながら思った。
(これ以上、他人の都合に振り回されるのはごめんだわっ! そもそも、サイクスさまとの婚約も私が決めたことじゃない。お父さまたちが勝手に決めたことなのよ? なのに、王妃教育を受けたのは私。寝る時間もまともに取れないほどだったのよ? その時、お父さまたちは何をしてくれたのかしら? 私のために、とは言われたけれど。実際に私のためになったのかしら? そりゃ、王妃になれれば女性としては出世よね? でも、それで幸せかしら? 私は今まで、幸せだったかしら? この先、このままで幸せになれるかしら? 王太子や第二王子など王家も、お父さまたちも。結局、ご自分たちのことしか考えてらっしゃらないのでは?)
自分勝手な人たちに愛想を尽かしたメアリーは、全てを捨て生きることを決意する。
(私、家を出るわ。そして冒険の旅に出るの!)
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