そんなに妹がお好きなら結婚したらどうですか? ほか短編・中編ファンタジー系まとめてみたよ短編集

天田れおぽん

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【中編 三万七千文字くらい】お伽噺の薔薇迷宮 愛とはどんなモノかしら?

発見

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(今日もリディアーヌお姉さまはいらっしゃらなかった……)

 そろそろ夕食に備えて着替える時間だ。

 ロザリーは、ガッカリした気分を隠すことなくトボトボと自室に向かった。

 その途中、誰も使っていない部屋の窓辺で何かが揺れているのが見えた。

(あら、なぜかしら?)

 不思議に思ったロザリーは部屋の中を覗いてみた。

 薔薇柄を施されたレースのカーテンが窓辺で揺れている。

「あら、窓が開いたままだわ」

 五月とはいえ、夜は冷える。家全体が冷えてしまう前に窓を閉めようとロザリーは部屋の中に入った。

「この部屋に入るのは初めてね」

 彼女はつぶやきながら、窓をパタンと閉めた。

 この屋敷はロザリーの実家ではない。アーサーとの結婚に備えて15歳を迎える前に移り住んだのだ。

 間借りしている身であるし、年齢的にも屋敷内を探検してみる気にはなれなかった。

 この屋敷は、アーサーの姉であるエメリーヌの嫁ぎ先である。

 もっとも貴族など何処かで繋がりがあるもので、ロザリー自身も縁のある家ではあった。

 それでも他人の家というのは煩わしいものだ。

(いくら私が図々しいタイプでも、やはり気は使うわ)

 実家である伯爵家から嫁に行くという選択肢もあったが、いずれ当主となるアーサーが出入りするとなれば叔父に気を使わせることになる。

(叔父さまは独身ですし。世間の目や叔父さまの立場を考えると難しいのよね)

 面倒だが、エメリーヌにも、デュヴァリエ家の人々にも良くしてもらっているロザリーに不満はない。

 いずれ親戚関係になるのだから遠慮は無用、と、いうエメリーヌの言葉にも同感だ。

 お世話になった恩は、後からゆっくり返していける。

 だからこそ、ありがたく住まわせて貰っているのだ。

 婚約者であるアーサーにも不満はない。不満はないからこそ、複雑になる場合もある。

 ぶっちゃけたところ、ロザリーはリディアーヌのことも好きであるし、アーサーのことも同じくらい好きなのである。

(リディアーヌお姉さまのことも大好きだけど、アーサーのことも同じくらい好き。私は……気の多い、ただの変態なのかしら……)

 ロザリーの小さな頭と細身の体の中には、可愛らしい悩みがいっぱいに詰まっていた。

「ハァ……」

 溜息をついた彼女は、振り返った拍子に部屋の片隅にあった箱をうっかり蹴り倒してしまった。

「あら、いけない」

 ロザリーは急いで飛び出した物を箱の中に戻した。

「……あら?」

 彼女は一枚の絵に手を止めた。古びた紙の上に描かれた人物 ―― そこに描かれていた少女に見覚えがあったからだ。

「これは……お姉さま?」

 そこに描かれている少女は、リディアーヌにとてもよく似ていた。しかし、淡い金髪に包まれた顔に収まっているのは青い瞳だ。

「よく似ているけど……違う方ね」

 まだ十歳にもなっていないであろう幼い顔立ちの少女だが、とても美しい娘だということは分かる。

「もしかして……お姉さまのご先祖さまかしら?」

 ロザリーの心を温かなものが包む。

「お姉さまの、おばあさまかしら? 美しいのは血筋なのね」

 しかし次の瞬間、描かれた少女の首筋を見てハッとした。

 そこには小さな傷痕があったからだ。刃物による切り傷のような……小さくて生々しさを失った小さな傷痕。

「えっ? リディアーヌお姉さま? ……いえ、そんなハズはないわ。目の色が違うし。お姉さまであれば、紙がこんなに古ぼけているわけがない……でも、この傷痕は……お姉さまと同じ?」

 ロザリーは混乱した。そして、気付いた時には、絵を握りしめて部屋を飛び出していた。
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