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神殿に下った神託

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 午前の早くも遅くもない時間帯に、オレは神殿へと向かった。

 王都にある白亜の神殿は本殿だ。

 この国の信仰対象である太陽神テルが住んでいるとされている場所であり、神官や聖女の住み家で
もあるのでとても広い。 

 案内役の神官の後ろに続いて神殿内を歩いていく。

 神官や聖女たちは基本、話しかけてこないので楽だ。

 ジロジロ見られることもない。

 それでもチロチロは見られる。

 憧れの眼差しが飛んでくると、見た目だけ良いコミュ障でごめんなさい、と思う。

 期待する眼差しが飛んでくると、アニカの方が可愛いんでごめんなさい、と思う。

 オレは無言のまま案内の神官についていき、聖女の待つ部屋へと足を踏み入れた。

 祭壇前に立つ聖女クリスティンと、その横にいる若いが高位の神官アズロに軽く礼をする。 
 
 次期大聖女との呼び声高いクリスティンさまは、銀色の髪に金の瞳を持つ細身の女性だ。

 女性としては身長が高く、170センチ近くあるからスラリとしていて見栄えが良い。

 白地に金刺繍の入った聖衣が似合う美女である。

 もちろん、アニカの方が何倍も可愛くて魅力的だ。

 聖女クリスティンの隣に立つ神官アズロは貴族ではあるが、高位の神官の座に就くことができたのば別に理由がある。

 水色の髪に水色の瞳を持つ男性は聖力を多く保有できるのだ。

 次期大聖女候補と若き高位神官の組み合わせに、オレは悪い予感がした。
 
 クリスティンさまは聖女らしい落ち着いた声で告げる。
  
「勇者さまを召喚するように、との神託が下りました」

 アズロさまが、その内容を伝える。

「つきましては、魔法使いであるルドガー・イシュハートさまに勇者召喚の儀をお願いしたい」

 え? オレが召喚するの?

 この二人を差し置いて、一介の魔法使いであるオレが?

 オレの驚きをくみ取ったように、クリスティンさまが言う。

「なぜルドガーさまに召喚をお願いするのか、疑問に思われているのですね」

 はい、そうです。

 オレがコクリと頷くと、クリスティンさまがゆっくりと優雅な仕草で頷いた。
 
 言葉にしなくても分かってくれる人が相手なのは助かる。

 ついでに理由も教えてもらえると助かります。

「理由は私たちにも分からないのです」

 あー、クリスティンさまにも分かりませんか。

 ならば、なぜオレが呼ばれたんでしょうね?

 理由はアズロさまが教えてくれた。

「神託でルドガーさまの名前が告げられたのです」
  
 神さまのご指名?

 どういうことだろうか?

「召喚の儀では、聖力ではなく魔力が必要です。しかも膨大な魔力を消費する作業になります。想像になりますが、そのために魔力量が豊富なルドガーさまが選ばられたのではないでしょうか」

 うんうん。聖女さまが言うと説得力ある。そうかもしれない。

「膨大な魔力を消費しますので、何か健康上の問題が生じるかもしれません。治癒士も控えさせて万全の体制は整えますが、万が一ということもあります」

 ちょっ、アズロさま? 物騒だな?

 万が一って、一体何が起きる可能性があるっていうんだ。

「魔力の枯渇などルドガーさまの今後の活動に問題がありそうな事態が生じたときには、神殿のほうでお世話させていただきますのでご安心ください」

 いや聖女さま、それじゃ安心できねぇから。

 だいたい、お世話ってナニ?

 どの状態まで想定されているのオレ?

「ルドガーさまは、全く動じないのですね」

 いやアズロさま、動じてますけど。

 オレは動揺しまくっていますよ。

 表情筋が死んでるから動揺していないように見えるだけで、実態は動揺しまくりですよ。

「流石は勇者さま」

 えっ、勇者? 

 何言ってんですか、聖女さま。

 オレが勇者なんて、初耳なんですけど⁈

「ええ、ご立派です。魔法使いにとって魔力を無くことはアイデンティティに関わりますもの」

「そのリスクを物ともせず神託を受け入れてくださるとは。さすが勇者さまだ」

 聖女と神官がニコニコしながらオレを見ている。

 オレが魔力をなくしたら、魔法オタクのアニカとの接点がなくなる。

 それはマズイよ……。

 オレは冷や汗をダラダラと流しながらブルッと震えた。
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