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異変

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 長髪の侍従は国王陛下が居る寝台の横に置かれている、優美な猫脚のベッドサイドチェストから光沢のある革製の小箱を出して、革製小箱の中から青色と白色の袱紗に包まれた重量感のある物を取り出した。

「皆に見せてやれ」

「はい」

 国王陛下の指示にしたがって侍従が手のひらに乗せた青と白の袱紗を開け中身をのぞかせると、そこには大きな黄金製の金印が輝いていた。

「こ、これは!」

「もしや!」

「うむ。国璽だ」

 重要文書や外交書簡の中でも、国王が最も重要度の高い書類にのみ押すという国璽。王立学園時代にちらりと授業で習ったことがあるそれを、まさか目することがあるとは……。私は驚きのあまり声を出してしまわないように思わず口を押さえた。

「これが国璽……」

 初めて黄金製の金印、国璽を目の当た様子の第二王子が感嘆した様子で呟く。一方、レオン陛下は銀髪の宰相ハイン閣下に視線を向けた。

「宰相。余が決裁せねばならぬ書類がたまっておるのだろう?」

「はい」

「うむ。余は両手とも自由に使えなくなったからな……。余の代理として侍従に国璽を押させても良いのだが、もう長くないならば……。ライガ、そなたを国王代理に任命する」

「こ、国王代理でございますか?」

 金褐色の瞳をこれ以上ない程、見開いた第二王子ライガ殿下はレオン陛下と国璽の金印を交互に見て戸惑っている。

「もちろん、正式な王位継承は余が崩御してからということになるが……。いつまで余が持つか分からぬゆえ、書類の決裁が滞っては臣下や民にも影響が出よう。国王代理となったそなたに、この国璽を預けるゆえ宰相や重臣からよく話を聞いて決裁してくれ」

「兄上……。分かりました」

「国璽の重みに相応しい判断と行動を心がけよ。さもなくば身を滅ぼすことになろう」

「お言葉、肝に命じておきます」

 侍従から国璽が入った革製小箱を受け取った第二王子は、沈痛な表情でレオン陛下の言葉を了承した。

「あと、個人的な頼みになるのだが……」

「何なりと申して下さい兄上。出来る事であれば弟として何でも、お力になりたいと思っております」

 王弟ライガ殿下が真摯な様子で兄王に告げると、レオン陛下は伏せたまつ毛で金色の瞳に影を落とした。

「うむ……。実は頼みたいのは寵妃のことだ」

「兄上の寵妃と言えば、ローザという寵妃のことですね?」

「ああ。ローザは元々、後宮の側女という訳では無い」

「確か元々は侍女であったとか?」

「ああ。余が所望して勝手に寵妃にしてしまったのだ。ローザについては余が亡きあと、後宮で過ごさせるよりも、今の内に降嫁させてやりたいと思うのだ……」
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