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値段の高いケーキ

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「ちょっと待って下さい!」

「あなたは?」

「私はローザの友達です」

「寵妃ローザの……」

 フルオライト伯爵家のメイドは忌々しそうに顔をしかめた。

「国王陛下はローザの言いなりになってる訳じゃありません! 事実と異なることを言いふらすのは止めて下さい!」

「あなたは事実と異なる事と言うけど、寵妃ローザが本来いるべき後宮ではなく王妃の部屋に居座ってるのも国王陛下の発言も、伯爵令嬢フローラ様の母君がショックで臥せられたのも全て事実だわ」

「フローラの母君の事は存じませんが、ローザの件は事情があって……!」

「うるさいわね! 私はフルオライト伯爵家で働いてる者なのよ!? 何も知らない第三者に何が分かるというの! 変な言いがかりは止めてちょうだい!」

 激高したメイドは両手で私を突き飛ばした。後方によろめいた私は果物屋の露店に積まれている栗が大量に入った編カゴにぶつかり、複数の栗と共に地面に転がった。

「いたた……」

「フン! 寵妃ローザみたいな悪女を擁護するからよ!」

 フルオライト伯爵家のメイドは憤然とした面持ちで、その場を立ち去り私とメイドが口論している様子を見ていた周囲の人達も眉をひそめながら、まばらに去って行った。

 強く腰や脚を打ちつけた私はすぐに立ち上がることが出来なかった。薄緑色のスカートからのぞく脚を見れば地面に倒れた時に傷を負ったのだろう。すり傷が出来て赤い血がにじんでいる。

 私が大きく息を吐きながら密かに回復魔法を使い傷を癒していると果物屋の店主が地面に転がった栗を拾い集めながら、心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫かい? お嬢ちゃん」

「はい……。それより、お店の前で騒がしくしてしまってスイマセンでした」

「いや、それは良いんだけど……」

 回復魔法による脚の治癒が終わった所で、ようやく立ち上がり私も散らばっている赤褐色の栗を拾い集める。大粒でなかなか良い栗だ。これは良い物だと判断し、栗を網カゴに入れながら果物屋の店主に視線を向けた。

「あ、地面に転がった栗、全部買います」

「え? 別に地面に落ちたのは、お嬢ちゃんのせいじゃないんだから責任を感じなくても……」

「いえ。元々、栗は買おうと思ってたので……。地面に落ちても洗えば問題ないですし」

「そうかい……。それじゃあ少し、おまけしとくよ」

「ありがとうございます」

 栗は水洗いした時に虫食いがある物は水面に浮かぶ。それを取り除いた後によく拭いて天日干しをして水気を完全に取ってから保冷庫に入れるなり一度、冷暗所で保存することによって糖度が高くなり栗の甘さが増す。

 しかも栗は常温保存だと一週間ほどしかもたないが、保冷庫に入れれば一ヶ月以上の保存も可能だからまとめ買いにも打ってつけの食材だ。
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