奏歌月種

李林檎

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奏月学園

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※視点なし

日本より少し離れた孤島の中心に存在している奏月学園。
孤島全体が魔法使いの世界を再現したもので、奏月学園の他…人間と共に居たくない魔法使いが世界各国から集まり街を作った。
そして光の奏歌月種の結界魔法により何十年も闇の奏歌月種達に見つかっていない。

それでもいつ見つかって魔法使いが全滅するかもしれない恐怖に怯えていた。

やはり奏歌月種には指揮者が必要不可欠な存在だ。

そこで、最近奏月学園と街の向こう側に新しい学園が建った。
指揮者を育成するために建てられた、人間が通う学園がある。

世界各国からいろんな指揮者候補を集めて、通っている。
当然魔法使いの事を授業で知るし、学園を離れるまで孤島を出る事は許されない。
家族には海外留学というかたちにしているから、誘拐事件にはなっていない。

魔法使いには人間嫌いが少なくなく、指揮者候補とはいえ街をうろつく事は出来ない。
あるのは売店くらいで、隔離されている状態になる。
だから、指揮者候補は自由に街を歩けたり英雄になれる指揮者に憧れを抱いている。

それに指揮者候補達は奏歌月種を慕う者がほとんどだ。
彼らの役に立ちたいという憧れは実際に会うとさらに膨れていく。

年に数回、奏歌月種は未来の指揮者のために、人間の学園に出向いて歌を聞かせる事がある。
攻撃魔法の歌ではなく、癒しと幸せを与える歌だ。

なりたい者全員が必ず指揮者になれるわけではない。
厳しい試験をくぐり抜けた一人だけが、指揮者として奏月学園に通う事が許される。

試験に落ちた生徒は記憶を消されて、魔法使い達が用意した人間の世界の普通の学校に入学させられる。
指揮者に選ばれた者は奏歌月種達と運命を共にする存在となる。

そして、一人の優秀な生徒が指揮者として奏月学園に入学する事になる。
最高得点の試験合格者で、指揮者に違いないと偉い魔法使い達は確信していた。

これで闇の奏歌月種達に怯えなくて済むと思っていた。

裏の事情は一部の人しか知らない、キラキラした表とは真逆の部分がある。

それがあっても指揮者という存在は強く、魔法使い達にとって今現在此処は、安全で楽園の島と言ってもいいほど平和だった。

そんな楽園の島の奏月学園の校舎の中に存在感がある塔があった。
その塔は生徒会塔と呼ばれている。

生徒会塔には生徒会室やその他いろんな設備がある。
だけど、そこの塔は生徒会と関係者以外立ち入りを禁じられている。

入る事を許されていないからか、いろんな変な噂が囁かれている。
噂は所詮噂でしかなくて、中身を話す関係者はいないから噂は噂として生徒達は楽しんでいた。

その生徒会塔に向かって書類片手に走る小柄な少年がいた。
可愛い顔をしていて、性格もおっとりしていそうだが顔に似合わない性格をしている。
言いたい事ははっきり言うサバサバした性格で、男らしいと噂の生徒会の世話係だ。

関係者として、生徒会塔の出入りを許可されている一人だ。
ズボンのポケットから鍵を取り出し、ドアに差し込み鍵が解錠される音を聞き、重いドアを力一杯引いて小さな身体を滑り込ませた。

そして他の部屋には目もくれず奥の階段横のエレベーターに乗り込み最上階のボタンを押して一息つく。
早くこれを届けないとと使命感で扉が開くのを待った。

数秒経つとドアが開き、中に入った。
最上階フロアは全て生徒会室になっていてエレベーターのドアを開けたらそこはもう生徒会室となっていた。

いつもは自由に行動していて、滅多に揃わない人達が珍しく揃っていた。

少年はまっすぐ進み、社長席のような生徒会長席に座る男に書類を渡した。
そして男からはお礼の一つもなく睨まれた。

「……遅い」

「はぁ、はぁ…これでも…全力疾走だっ…ての!」

「はっ、俺がこの時間に指定したら一分一秒でも遅れるんじゃねぇ…次やったら燃やす」

「このっ、俺様がっ!!」

別にお礼の一つも期待したわけじゃない、むしろ長い付き合いでお礼なんか言う筈ない事くらい分かる。
けど、もう少しなんかないのかと不満そうな顔をすると生徒会長に無視された。

生徒会長…鬼龍院きりゅういん烈火れっか、火の奏歌月種であり火の王と呼ばれている男だった。
世話係の少年は、烈火と幼少期からの幼馴染みだ。
生徒会の世話係という肩書きだが、実際は烈火専属の世話係になっている。

お互いがそれを当たり前に思っているから、こうして文句を言ってるが関係に不満もない。
いつもの事だから、ため息を吐いて世話係は諦めていた。
烈火は面倒そうに追加の書類を見ていた。

「……なんでまたこんな時期に外部から入学してくる奴がいるんだよ、入学式も近いのに面倒くせぇ…おい…適当に書いてクロードに渡しとけ」

「はいっ!烈火様!」

「ダメに決まってるだろ、烈火が書けよ」

烈火が近くで控えていた自分の親衛隊に指示すると可愛い従順な少年は元気な声を出す。
世話係とは別に生徒会には親衛隊という身の回りの世話をしている生徒がいる。
生徒会の世話係という名の雑用とは違い、必要な時に呼べばすぐ飛んでくる個人の世話係がいる。

一人の奏歌月種に数人の親衛隊がいるが、生徒会塔には代表の一人だけが入る事を許されている。

世話係の少年が親衛隊に丸投げしようとしているのを止めた。
身分は生徒会の世話係の少年が上だが、烈火にため口を言う世話係の少年の事を烈火の親衛隊は良く思っていない。

友達のように接している世話係の少年と烈火を神のように崇めている親衛隊だから、睨んでいた。

「烈火様の世話係は僕だから口出ししないでもらえる?」

「君が甘やかすと、さらにぐうたらになるだろ…奏歌月種様が怠け者になったら他の魔法使い達に示しがつかないだろ」

「やることはやってるだろ、コイツには誰がやってもいい仕事しかさせてない」

烈火の言葉を聞いているのかいないのか、二人は言い合いを始めてしまった。
止める事も出来るが、面倒くさくなって飽きるのを待とうとした。
この場で手を出す喧嘩をしないなら、放っても大丈夫だ。

談話スペースからテーブルを蹴る音がして、会話がピタリと止まった。
世話係や親衛隊は、テーブルがある後ろの方を振り返った。
そこには冷たい眼差しで見る少年がソファーに座っていた。

「……うるさい」

「雪斗様、ごめんなさい」

「何怒ってやがるんだよ雪斗、フラれたからって俺達に当たるなよ」

今度は蹴った衝撃で床に散乱したボールペンを取り、烈火に向かって投げた。
命中率は高いが烈火は自分に当たる前にボールペンを爆発させた。
さっきの言い合いとは違い、こちらは本気の殴り合いになりそうな雰囲気だった。

ぴりつく空気に可愛い二人はあたふたとしていた。

「フラれたんじゃない、仕方ない事だったんだ…俺が奏歌月種なんかにならなければ、ずっと一緒にいれたのに」

「……何でもいいけど女々しいんだよ、お前は」

副会長で水の奏歌月種である明野あけの雪斗ゆきとは烈火を睨みながら生徒会室を出ていった。
雪斗にとってこの話題を長引かせて喧嘩をしたくなかった。

会計で風の奏歌月種の津山つやま疾風はやてと書記で治癒の奏歌月種のクゥが本棚を見ながら話しかけてきた。

「またかいちょー達喧嘩ぁ?」

「…仲良い」

「おいクゥ、何勘違いしてんだよ」

ケラケラ笑う疾風と疾風の後ろをくっついて歩くクゥは自分の定位置である机に着いた。
生徒だけではなく、魔法使いの中でも有名な仲良しコンビの奏歌月種だ。

烈火は「お前らと一緒にするな」と言うと、からかわれるように笑われた。

元々火と水の相性が悪いのは当然で、性格も合わない。

烈火は飛び入り外部生の事をすっかり忘れて机を枕にして寝た。
何もやる気が起きなくて、世話係の少年が騒いでいるが無視をした。

生徒会は奏歌月種により支えられていた。

彼らはまだ知らない、本物の指揮者が誰か……
そして物語が動き出す。
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