奏歌月種

李林檎

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同室者

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ー何故、君が我らを裏切ったのかー



ーお前には何も分からない、俺達の事を見ていなかったお前にはー



声が聞こえる、誰の声だろうか。
いろいろな声が混ざってぐちゃぐちゃになっている。
とても悲しく、とても怒りが含まれた声だ。

俺に言われているのか分からない、俺には見に覚えがない。
それでも、もしかしたら俺に言っているのかもしれない。

だとしたら、なにか言わないといけない気がする。
答えようにも喉が焼けたように熱くて声を出す事が出来ない。
あつい、いたい…なんだこれ…なんだこれ…

いろんな声が同時に喋り、止める事が出来なくなる。
俺はただ黙って声を聞いていた、いろんな嫌な感情が脳内に入ってくる。
とても、気持ち悪い。

苦しいけど呻き声しか出せずに、シーツを握りしめながら小さく声を漏らした。

「誰だ?コイツ」

「……よく寝てる」

「いや、苦しそうだけど」

「起こした方がいいかな」

また声が聞こえる、でもさっきとはなんか違って聞こえた。
今度は…近くで聞こえているし、複数人いるけどごちゃごちゃに聞こえない。
そして何より、嫌な声ではない。

眠気も浅くなり、うっすらと目を開ける。
朝日が眩しくて目を細める。

俺の目の前にはガタイがいい男と前髪で目元が見えない男が覗き込んでいた。
……これは、どういう状況だろうか。
クエスチョンを飛ばしながら二人を交互に見るとガタイがいい男が後ろを振り返り何か叫んでいた。

「…おーい殿ー!!目が覚めたみたいだぞー!!」

「大声出さなくても聞こえてる」

目の前にはいなかったけどもう一人いるのか、別の声も聞こえてきた。

起き上がろうとしたら背中が痛くて顔を険しくした。
汗も凄い掻いている、何の夢を見てたんだっけ…思い出せない。
あまり気分もすっきりしないから、いい夢ではない事は分かる。

こんなところで寝ていたのが原因かもしれないと、触りながら思った。

もう二度とソファーで寝ない。
必死に硬いソファーから起きて殿と呼ばれた人物を見た。

第一印象はキラキラだった。

全体的にキラキラな訳ではなく、銀色の髪が朝日に反射してキラキラしていた。
無表情だが、顔は美形だ。
殿というか、貴公子という言葉が似合うだろうな。

正直言って、寝起きにはかなり目がチカチカした。

はて、この人達はなんで此処にいるのだろうか。
俺の記憶が正しければ、確か寮の部屋で泊まったから皆同室者なのかな。

「お前が俺の同室者?」

「…じゃあ俺の同室者?」

殿様が俺に近付きそう言うから俺も殿様を見てそう言った。
なるほど、殿様が俺の同室者なのか。
いまいちあだ名なのか本当なのか分からない。

殿様が同室者だったら凄いな、クロードさんに自慢しよう。

そういえばクロードさんが朝に帰ってくると言っていた言葉を思い出した。
……あ、クロードさんは同室者を知ってるか…残念だ。

知っている人を紹介されたら、またバカにされそうだ。

そういえば、クロードさんって先生なんだよな…多分。

必死に想像しようとしても、全くしっくり来ない。
クロードさんはマフィアの若頭の方が似合っている。

勿論顔だけじゃなくて、怒りっぽい短気な性格も合わせて…

「俺の名前は武田霧夜です、よろしくお願いします殿様」

「…同室者なのに殿呼びは止めてくれ、うっかり自分の名前を忘れそうだ」

「…殿様って名前じゃないんですか?」

「アホ、そんな名前の奴いるかよ…いや、いるかもしれないが俺は違う、あと…敬語もなしだ…同室者なら同級生だろ」

そうだったのか、なるほど…
じゃあやっぱりあだ名か、俺も殿様って呼びたかったが呼ばしてもらえそうになかった。

大人っぽいから年上かと思った、部屋割りは学年ごとなんだな。
じゃあ俺を覗き込んだ二人も同級生なのだろうか。
なんか俺を見てずっとニコニコしているが…

殿様(?)は俺に手を差し伸ばしてきた。

九条くじょう信長のぶながだ、よろしく霧夜」

「…よろしく、信長だから殿?」

「………まぁ」

信長は嫌そうな顔をしている。
名前にコンプレックスでもあるのだろうか。
じゃあ名前呼びは止めた方が良いだろうか。

カッコいいと思うんだけどな、少なくとも俺の霧夜よりは…

俺も自己紹介をして頭を下げる。
「礼儀正しすぎだろ」と苦笑いされた。

「九条」

「信長でいい、これから一緒に暮らすのに九条呼びとか気持ち悪い」

遠慮していたが結果、気持ち悪がられた。
よし、許可をもらったし信長と呼ぼう。
信長と握手を交わし、自己紹介が終わった。
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