誰にも止められない

眠りん

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一章

有川先生②

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 こつ、こつ、こつ……。
 誰かが階段を昇ってくる足音が聞こえた。

 俺はすぐに隣の科学準備室に入った。隙間から外の様子は耳に入る。
 大谷だ。確か、戸村さんと和田さんが彼は止め役になってくれていると言っていたな。


「コラお前らいつまでやってんだ!?」


 大谷は勢いよくドアを開いて声を荒らげた。
 さっき俺がやろうとして出来なかった事だ。これからは彼を見習った方がいいのかもしれない。


「出たよ大谷」

「邪魔なんだけど。まだ一周しかしてないし」


 文句を言っているのは山崎と曽根屋だ。


「もーっ大谷君! 私と葵唯君の邪魔しないでくれる?」

「梅山さん、君もねぇ学級委員長として恥ずかしくないのか!?」

「はぁ? 好きな人に全てを見せる事の何が恥ずかしいのよ。ねっ葵唯君」

「いや、まぁ……大谷君が正しいからね」


 小倉君の声も聞こえたが、その一言でいじめの主犯という印象はなくなった。
 クラスにいる時と声の出し方が違う。なんていうか、弱々しく感じる。

 だが、戸村さんと和田さんは小倉君が主導でやっていると言っていた。教室でやっているのを見たと。


「全く困った奴らだな。学校でやるなって言ってんだよ、学校以外でやりたまえ!」


 大谷!? 言い分がおかしい。
 まるで学校以外でならいじめを推奨しているようではないか。
 大谷のお陰でいじめは止められていると聞いたが、それは違ったのか?


「大谷君さぁ、そんな頭堅いと疲れちゃうよ?」

「む……」


 クスクス笑う永瀬の声。
 違和感を覚えた。いじめではないのではないか?
 化学室を掃除した後、永瀬、小倉、梅山さん、百合川、山崎、曽根屋、大谷の七人で仲良く帰っていった。


 いじめではなさそうだ。
 化学室から出ていく皆の動きを見る限り、どちらかというと皆が永瀬を慕っているようにも見える。
 とりあえずは中間考査が終わるまでは様子見するか。


 職員室に戻ろうとした時だった。階段の踊り場をグルっと小回りすると、ちょうど階段を昇ってきた生徒とぶつかりそうになる。


「わっ」

「あ、ごめんっ!」


 この子は確か隣のクラスの……。
 彼の反射神経が良いお陰でぶつからずに済んだ。怪我させたら大変だった。


「丹野君、だよね?」

「はい。先生、すみません」

「いや、俺が悪かった。ごめんな」

「いえ……」


 丹野君は背が高いが下を向いている事が多い為、大人しそうに見える。頼りなさそうな顔と、オドオドした反応、先生の言う事は黙って聞くような目立たない子だ。
 理系教科の成績は良い方ではない、むしろ学年でも下位の方だ。文系教科は多少良いようだが。

 見掛けだけなら永瀬君より丹野君の方がいじめに遭いやすそうに見える。


「こんな時間までどうしたんだ? 今テスト前で部活は休みだよな?」

「あ……はい。部活は、休み、です」

「テスト勉強してるか?」

「……して、ないです」

「頑張れよ。学生は勉強が本分だからな!」

「はい」


 丹野君はぺこりと頭を下げると、階段を駆け上がっていった。人と話すのが苦手なのかもしれない。

 それにしても、上の階は化学室と地学室があるくらいで何も無いというのに、なんだろうか。
 まさか小倉君達の仲間……いや、クラスも違うし考え過ぎだろう。


 それから忙しく日々は過ぎ去った。テスト前の準備、テスト本番、受け持ちクラスのテスト採点。
 今まで成績の良かった佐々木の点数が平均点くらいに落ちていた以外は、目立った問題は無いように思える。
 五十点未満は再テストだ。新たな問題作りと再テストの監督、採点……繰り返していると、もう六月に入っていた。


 テストが終わってから、戸村さんと和田さんが「いじめなくなったんですね、有川先生凄いです!」と言ってきた。


「いや、俺は何もしていないんだ」

「でもテスト前くらいから、皆教室でご飯食べるようになりましたし、永瀬君、小倉君と梅山さんと仲良くしているんです。良かった」


 本当に心配していたんだな。
 やっぱり、いじめがどう収束したのか知っておく必要があるな。いじめじゃなかったのかもしれないけれど、詳細を知りたい。


 今後のいじめ問題の参考にもさせてもらいたいし。学校での性行為の話もしたい。


 俺は放課後、永瀬家に立ち寄った。
 家は富裕層の家が建ち並ぶ一角にあった。
 豪邸と見えるような大きな邸宅だ。親が金持ちだという事が分かる。何部屋あるんだ、それとも一部屋が広いのか? というくらい窓が多い。
 庭はそんなに広くはないけれど、綺麗に手入れされていて、花の咲いたプランターが並んでいる。

 表札には「永瀬」「小倉」とある。あれ、あの二人は同じ家に住んでいるのか?
 疑問が増えながらもチャイムを鳴らすと、永瀬が出た。まだ帰ったばかりなのだろう、制服姿のままだ。


「あれ、先生?」

「聞きたい事があってね。最近はいじめはないみたいだけど、そもそもいじめだったのか? いじめだとしたらどう収束させたのか?
 聞いてもいいかい?」

「……高校で家庭訪問ですか、熱血ですね」

「そういう事じゃないんだけど。親御さんはいるかい?」

「いいえ、いませんが……どうぞ上がってください」


 招かれるまま、俺は永瀬家に入った。

 玄関も広い。どこで靴を脱ぐか戸惑っていると、何故か永瀬が俺の後ろに立った──と思った瞬間。
 両腕を後ろに回されて、手錠で拘束された。


「なっ!! 何をするんだ、永瀬君!!」

「知らないフリしてくれればいいのに、正義感か好奇心ですか? しつこいんで、関わりたくないと思わせようかなって」


 抵抗は出来なかった。永瀬の力は思ったよりかなり強い。よくよく見ると腕が筋張っていないか?
 見た目に惑わされてはいけなかったんだ、何故彼の腕力が弱いと思ったんだろう!
 靴を脱がされた後、俺のネクタイを掴んで二階に上がっていく。

 近くの部屋に入れられると、広い部屋にベッドが一つと、ソファが一つ、その前に横に長いテーブル、窓の前には勉強用のように見える机と椅子があった。
 俺は突き飛ばされて、ベッドの上に倒れてバウンドした。


「うっ」

「可哀想にね。ていうか、先生。もしいじめだったとして、あなたがする事はいじめを撲滅する事じゃないですよ。
 そんな事をしたら、たちまちいじめは悪化します。まずは両親に知らせてあげましょう。その後どうするかは被害者と親とで決める事です。
 いじめの現場を録音しておくのもいいですね」


 いじめに関して、どうして永瀬はそんなに詳しいんだろう? 解決した事があるのか? それとも今回そうやって解決させたのだろうか?


「それ以前に、いじめなんてなかったんですけどね。でもこれ以上うるさいのも面倒なんで、脅迫させてもらいますね」


 永瀬は俺のネクタイを外し始めた。


「ちょ、も、もう何も詮索しない!! 約束するっ!! やめないか!!」

「その言葉を信用するに足る証が欲しいんです。その方が僕が安心なので」


 永瀬はニコッと可愛らしい笑顔を浮かべた。
 これから人の服を脱がせようとしているのに、意地悪な顔でも悪意のある顔でもない。


 シャツのボタンを全て脱がされる。両手が後ろで手錠を掛けられているので、全部は脱がされなかったが、胸も腹もすべて見えてしまっている。
 ベルトも外されて、ズボンは全て脱がされてしまった。

 屈辱から涙が浮かんだ。
 永瀬は淡々と作業をするような様子で、スマホで俺の姿を何枚か写真に収めた。

 クソッ! 絶対コイツいじめられてなんかいない!


「さて、もっと恥ずかしい思いをしてもらいましょうか」


 ニコニコしている永瀬君は、学校にいる時よりも活き活きとしていた。
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