ドMビッチに振り回された話

眠りん

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二話

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 次の土曜、駅前でクロと待ち合わせをした。驚く事に、住んでいる場所が電車で三十分程で近かったのだ。
 お互いの間の駅を取った。

 目印となる銅像前で待っていると、約束の時間内にクロが現れた。

「お待たせしてしまってすみません」

 クロは写真で見るよりもオドオドした弱そうな男だ。
 顔もそばかすがあり、今まで相手をしてきた男に慣れている感じのタイプではない。正直顔は好みではない。

「いいよ。クロ君初めましてだね」

「はい、初めまして」

 クロは俯くように笑みをこぼす。人に慣れていないのだろう。
 慧はクロの肩を抱き寄せて歩き出した。ホテルへ。

「すみません、こういうの初めてで……」

「今日は俺に任せて。それとも心配?」

「いえ。今日は覚悟してきましたから。何されても大丈夫です」

 顔を赤くするクロに、慧はドキドキと胸が高鳴った。

(本当に好きになると顔がタイプかどうかなんて関係ないんだな。
 せめて嫌われないように優しくしよう)

 慧は事前にリサーチしていたので、決めてあったラブホテルに向かい、休憩で入った。
 男同士だから、先に肉体関係を持ってお互いの相性を確認した方が早いと思ったのだ。

 クロに先にシャワーを浴びてもらい、後に自分も身体を洗う。特にペニスは十分過ぎるくらいに洗った。

「クロ君、いいかい?」

「はい。僕が出来る事はなんでもします」

(そんな事言ったら、悪い男にいいように扱われるぞ。俺はそんな事しないけど)

 慧はクスリと笑い、クロに口付けをした。クロの身体をベッドに寝かせて、首筋を舐める。
 段々身体が弛緩していくのが分かる。乳首を舐めたり、腕や手、指も舐めた。
 気持ちが良いらしい。クロはトロンと目を潤ませてされるがままでいる。

「あの、ケイさん。僕のここで気持ち良くなってください」

 クロが困ったような顔をして、脚を開くと両手でアナルを開いた。
 そこに何かを入れる事に慣れた穴だと見ただけで分かった。

「こんな広げて、君はエッチなんだね。いつも玩具を入れてるのかい?」

 慧はクロを処女と思っている為、広がっているという事は、毎晩性欲を持て余し、玩具を入れて遊んでいるのだろうと想像した。

「はい」

 クロは恥ずかしそうに目を強く瞑った。そんな反応も可愛く思えるので、余計に胸がキュンと熱くなる。

「もう玩具なんて使うな。これからは俺のだけを受け入れろ」

(はっ! つい命令口調に。クロ君に嫌われてないか?)

 慌ててクロを見ると、クロは嬉しそうに頷いた。

「いいのか? 俺とこれから付き合うって事で……」

「はい。僕、あなたの役に立てるように、頑張りますね」

 恋人になる相手に言う事ではない。
 慧が想像したように、今まで人からいいように扱われてきたに違いない。

(これからは俺が守らないと)

「いいんだよ。クロ君は、何もせず俺に愛されてくれたらいいから」

 クロのアナルにローションを塗り、屹立した自身の肉棒にも塗ると、ゆっくりと広がっているアナルに入れる。
 柔らかく温かい内壁が肉棒を包み、甘やかな快楽を与えてくれる。

「クロ君、辛くないかい?」

「はい。俺の中、緩くないですか? ちゃんと使える肉オナホになってますか?」

「なんだそれは。十分気持ち良いし、肉オナホなんて自分を貶める言い方はやめなさい」

「え……? はい」

「意外そうな顔をするんだな? 今までの彼氏にそう言われたか?」

 クロは黙って頷いた。その顔は無表情で、寂しげだ。

(辛い思いをしてきたんだろう。大事にしなければ)

 慧は優しく抱いた。クロが少しでも欠けてはいけない硝子であるかのように、繊細な手付きで肌を触り、ゆっくりと腰を動かす。

 前立腺をゆっくり擦ると、クロは涙を浮かべて喘ぎ出す。

「あぅ……ん。あっ、あっ」

 色気のあるような喘ぎ方ではないが、それが更に慧の心を揺さぶる。
 男を誘うようなものではなく、素直に感じたままを表しているように見えたからだ。

(クロともっと深い関係になりたい。クロをもっと知りたい)

 まるで、これからクロを幸せにするのは自分だとでも言いたそうな目でクロを見つめる。
 目が合うとキスをした。お互いを労わるようなセックスは初めてだった。

 行為が終わってもクロを離したくなくて、すぐにシャワーしに行かずにベッドで抱き合った。
 昨日観たアニメの話をしながら、クロが語る考察を聞いて頷いた。

 クロの為に勉強はしたが、話せば話す程、新しい情報がクロから入る。
 こういう時、両親の接客を間近で見ていて良かったと感じる。
 普段から聞き上手だと言われる事が多い。そこには自信があった。

 退出時間が近付いてきたので、二人でシャワーを浴びた。
 そして帰り道。

「あの、折角恋人同士になったんだし。名前を教え合わないか?」

 今までずっと聞きたかった事をようやく口に出せた。
 付き合っているのに、ハンドルネームのまま呼び合うのは悲しいものがある。
 慧が今一番知りたい事だ。

「……えと。じゃあ次会えた時にでも」

 クロはオドオドした態度だ。教えたくない理由はなさそうに見えるので、警戒心が強いのだと判断した。
 元彼に酷い目に遭わされたせいだろうと思ったのだ。

(焦らすのが得意なようだな。ウブな子だからゆっくり進めるか)

「ああ。じゃあ俺はこっちだから」

「はい。今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとう」

 帰ったらまた連絡を入れよう、そう思い良い気分で帰宅する。
 いつもは性欲を発散したというのに
胸にモヤモヤが残って、何故か満足は出来なかったのだが、相手がクロだと心の充足感を得られ、幸せな気分になれた。

(クロを幸せにしたいのに、俺が幸せになってしまっているな)

 次はクロに楽しんでもらいたいと、ネットでアニメに関連する事を調べ、近々アニメのイベントが開催されるという情報を得た。
 これくらいはクロも知っているのだろうが、誘えば一緒に行けるだろうと考えた。

 慧はスマホを手に取り、すぐにクロに電話をした。
 だが──……。

「この電話は、お客様のご希望によりお繋ぎできません」

 と、アナウンスが流れた。

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