湿った夏の日の記憶~初体験の相手に再会した~

越智むう

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1章 中学生

8.神社に行く(2)

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「……高梨くん、別に驚かないんだね」

「え?」

「私のお母さんと先生が付き合ってるって」

「そういうことか、って思って。みんな、その、田中さんと栗田先生がって話してるから」

 まりんは顔を歪めてうつむいた。

「私と先生がヤッてるとか、そういうことでしょ」

 「う」とごうは言葉を詰まらせた。

(そういうことだけどさ)

 まりん本人の口から、「ヤッてる」という言葉が出てきたのが耳慣れなかった。顔が熱くなり、剛もうつむいた。

「――聞こえてるんだよね、こそこそ話してるの。他になんだっけ、」

 剛は黙った。しばらくの沈黙の後、まりんが言いにくそうに言葉を続けた。

「私が買ってたとか――、その、薬局で」

 地面を逸らしたまま頷くと、まりんは小さい声で言った。

「――どんだけ、よく見てるんだろうね。みんな、暇なのかな」

 それから、向きを変えてずんずんと前に歩き始めてしまった。慌てて小走りで、それを追いかけると、横並びになった。自分が彼女の中で、『みんな』に入るのが嫌だった。祖母と母親の似た顔が思い浮かぶ。噂話をするこの町の人間はみんな顔が似ている。

「暇なんじゃね」

 そう言うと、まりんは驚いたような顔で、剛を見た。「あれ」と、彼女は言った。

「あれ、お母さんに買ってたの。うちのお母さん、馬鹿だから。妹とか弟とかできたら困るし」

「馬鹿って」

「馬鹿じゃん。私の名前見てもわかるし。うみでまりんとか、そういう名前つけるような親だから、平気で家に先生泊めるし、」

 早口で言うと、彼女は前を向いて歩きだした。剛はぼそっと呟いた。
 
「――いいじゃん、まりん」

「え」とまりんは振り返った。

「――俺は、良いと思うよ。俺の親のがセンスないよ。名前」

「――どういうこと?」

「兄ちゃん、柊人しゅうとだよ。サッカー部」

 彼女は少し考える様子を見せたあと、「ああ」と思いついたような声を上げた。

「お父さん、サッカー好きだから。俺なんか、最初の予定だと名前、剛琉ごうるだったらしくて。さすがに途中でまずいと思ったのか『る』なくなったけど。良かった。何だよシュートとゴールって」

 まりんはしばらく黙ってから笑った。

「いいじゃん、ごうる」

「変だろ」

 二人は歩調を揃えて歩き出した。そのままずっと、車道にそって歩き続ける。道の下では、トゲトゲしたコンクリートの消波ブロックに波が打ちつけていた。

「あれあれ、神社」

 剛は視線の先に現れた、木の生い茂った緑の場所を指さした。
 
 その神社は、道路から海の方に突き出した崖のところに建てられていて、横にある階段を下ると、ごつごつした岩場の波うち際に出られる。パワースポットになっているので、平日の午後15時頃にも関わらず、パンフレットのようなものを持った女性のグループが何組かいた。
 
 剛は先を行くと、ずんずんと境内に入って行った。

「俺のうち、初詣はここだよ」

 言いながら、鳥居をくぐり、裏の階段を登る。階段の途中がひらけていていて、そこから海と正面に浮かぶ小さい島と、そこに立つ鳥居が見える。小雨の中小さい舟やボードに乗った集団がその周りをふわふわ浮いている。

「わぁ」とまりんが小さく歓声を上げた。
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