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2章 高校生
11.高1の雨の日(1)
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高校生になった剛は、部活に入らず学校が終わると直帰して、家でゲームをするか漫画を読むかという生活をしていた。部活に入らなかったのは、勉強についていけなかったのと、やる気がでなかったからだ。ぎりぎりで合格した剛は、入学後最初のテストでかなりひどい点をとった。しかし勉強をがんばろうと部活をせずに帰ってみても、結局は別のことをしていた。
母親は夕方まで電器屋を手伝っていたし、高3の兄は相変わらず部活で帰りが遅い。剛は毎日しんとした家で、ひとりテレビに向かってコントローラーを握っていた。
そんなことをしている合間に、高1の一学期はあっという間に終わろうとしていた。7月、いつものとおり家に帰ると、玄関にローファーが2人分置いてあった。一つは兄の、もう一つは小さいサイズだった。
「――お前、もう帰ってきたの」
お茶が入ったグラスを二つ手に持った兄の柊人が、驚いた声で迎えた。
「兄ちゃん、今日帰ってくるの早くない」
「テスト前で部活ないし。今日午前授業だったし。お前こそ、いっつもこんな時間に帰ってきてんの?」
「誰か来てる?」と聞こうと思った瞬間、玄関から2階へ続く階段を、とんとんとん、と軽い音が降りてきた。顔を上げると兄と同じ私立高校の制服を着た女子がいる。
「柊ちゃん、お茶ありがとー」
彼女はそう言いながら近づいてくると、剛に気付いた。柊人が慌てたように言う。
「弟の剛」
「あ! 剛くんね。こんにちは、お邪魔してます」
小柄な可愛い印象の彼女は、にっこり笑うと、剛と柊人を見比べた。
「……あんまり似てないね。っていうか、剛くん、色白いね」
連日外でサッカーをしている柊人は真っ黒に日焼けしている。比べて、受験期から引きこもりになっていた剛は白かった。
小学校から中学までずっと柊人のように真っ黒だったので、元の地肌はこんな色白だったのかと、剛は自分の皮膚の色を見るたびに新発見をしたような気持ちになっていた。
「俺も元は色白だよ」
柊人は笑うと彼女に麦茶のなみなみ入ったグラスを渡して、その腕を引っ張った。そのまま階段を数歩登って、気まずそうな顔で振り返った。
「勉強――テスト勉強してるから、邪魔すんなよ」
「わかってるよ」とぶっきらぼうに返して、キッチンに行く。お茶と氷をたっぷりグラスに入れて飲み干した。
上からドアの閉まる音がした。それを確認して、自分も2階の自分の部屋に上がる。
汗ばんだシャツとズボンを脱ぎ、Tシャツとジャージに着替える。不意に、隣の兄の部屋から「あははっ」と女の高い笑い声が響いた。兄の低い笑い声がそれに続く。
「――で、――だよな」「うそ」「ほんと、ほんと」「そうなんだぁ」「――って」
いったん注意を向けてしまうと、音がやたらとはっきり聞こえる。もう一度高い笑い声が響いた。それから、何かどさっというような、重いものが倒れるような音が聞こえた。話声が消え、ギィと何かが軋むような音がした。
剛は無言でベッドに腰かけた。ギィ。兄と同じパイプベッドは、壁の向こうの音と同じ音を立てた。
「くそ」
呟くとバッグを持って階段を降り、玄関を駆け出して自転車に乗った。
――家でまで、俺の場所に入り込んでくるんじゃねーよ
心の中でそう叫びながら自転車を漕ぐ。ちょっとでもその場から遠くへ行きたかった。駅に着くと考えずに来た電車に乗った。
母親は夕方まで電器屋を手伝っていたし、高3の兄は相変わらず部活で帰りが遅い。剛は毎日しんとした家で、ひとりテレビに向かってコントローラーを握っていた。
そんなことをしている合間に、高1の一学期はあっという間に終わろうとしていた。7月、いつものとおり家に帰ると、玄関にローファーが2人分置いてあった。一つは兄の、もう一つは小さいサイズだった。
「――お前、もう帰ってきたの」
お茶が入ったグラスを二つ手に持った兄の柊人が、驚いた声で迎えた。
「兄ちゃん、今日帰ってくるの早くない」
「テスト前で部活ないし。今日午前授業だったし。お前こそ、いっつもこんな時間に帰ってきてんの?」
「誰か来てる?」と聞こうと思った瞬間、玄関から2階へ続く階段を、とんとんとん、と軽い音が降りてきた。顔を上げると兄と同じ私立高校の制服を着た女子がいる。
「柊ちゃん、お茶ありがとー」
彼女はそう言いながら近づいてくると、剛に気付いた。柊人が慌てたように言う。
「弟の剛」
「あ! 剛くんね。こんにちは、お邪魔してます」
小柄な可愛い印象の彼女は、にっこり笑うと、剛と柊人を見比べた。
「……あんまり似てないね。っていうか、剛くん、色白いね」
連日外でサッカーをしている柊人は真っ黒に日焼けしている。比べて、受験期から引きこもりになっていた剛は白かった。
小学校から中学までずっと柊人のように真っ黒だったので、元の地肌はこんな色白だったのかと、剛は自分の皮膚の色を見るたびに新発見をしたような気持ちになっていた。
「俺も元は色白だよ」
柊人は笑うと彼女に麦茶のなみなみ入ったグラスを渡して、その腕を引っ張った。そのまま階段を数歩登って、気まずそうな顔で振り返った。
「勉強――テスト勉強してるから、邪魔すんなよ」
「わかってるよ」とぶっきらぼうに返して、キッチンに行く。お茶と氷をたっぷりグラスに入れて飲み干した。
上からドアの閉まる音がした。それを確認して、自分も2階の自分の部屋に上がる。
汗ばんだシャツとズボンを脱ぎ、Tシャツとジャージに着替える。不意に、隣の兄の部屋から「あははっ」と女の高い笑い声が響いた。兄の低い笑い声がそれに続く。
「――で、――だよな」「うそ」「ほんと、ほんと」「そうなんだぁ」「――って」
いったん注意を向けてしまうと、音がやたらとはっきり聞こえる。もう一度高い笑い声が響いた。それから、何かどさっというような、重いものが倒れるような音が聞こえた。話声が消え、ギィと何かが軋むような音がした。
剛は無言でベッドに腰かけた。ギィ。兄と同じパイプベッドは、壁の向こうの音と同じ音を立てた。
「くそ」
呟くとバッグを持って階段を降り、玄関を駆け出して自転車に乗った。
――家でまで、俺の場所に入り込んでくるんじゃねーよ
心の中でそう叫びながら自転車を漕ぐ。ちょっとでもその場から遠くへ行きたかった。駅に着くと考えずに来た電車に乗った。
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