湿った夏の日の記憶~初体験の相手に再会した~

越智むう

文字の大きさ
11 / 22
2章 高校生

11.高1の雨の日(1)

しおりを挟む
 高校生になったごうは、部活に入らず学校が終わると直帰して、家でゲームをするか漫画を読むかという生活をしていた。部活に入らなかったのは、勉強についていけなかったのと、やる気がでなかったからだ。ぎりぎりで合格した剛は、入学後最初のテストでかなりひどい点をとった。しかし勉強をがんばろうと部活をせずに帰ってみても、結局は別のことをしていた。

 母親は夕方まで電器屋を手伝っていたし、高3の兄は相変わらず部活で帰りが遅い。剛は毎日しんとした家で、ひとりテレビに向かってコントローラーを握っていた。
 
 そんなことをしている合間に、高1の一学期はあっという間に終わろうとしていた。7月、いつものとおり家に帰ると、玄関にローファーが2人分置いてあった。一つは兄の、もう一つは小さいサイズだった。

「――お前、もう帰ってきたの」

 お茶が入ったグラスを二つ手に持った兄の柊人しゅうとが、驚いた声で迎えた。

「兄ちゃん、今日帰ってくるの早くない」

「テスト前で部活ないし。今日午前授業だったし。お前こそ、いっつもこんな時間に帰ってきてんの?」

 「誰か来てる?」と聞こうと思った瞬間、玄関から2階へ続く階段を、とんとんとん、と軽い音が降りてきた。顔を上げると兄と同じ私立高校の制服を着た女子がいる。

しゅうちゃん、お茶ありがとー」

 彼女はそう言いながら近づいてくると、剛に気付いた。柊人が慌てたように言う。

「弟の剛」

「あ! 剛くんね。こんにちは、お邪魔してます」

 小柄な可愛い印象の彼女は、にっこり笑うと、剛と柊人を見比べた。

「……あんまり似てないね。っていうか、剛くん、色白いね」

 連日外でサッカーをしている柊人は真っ黒に日焼けしている。比べて、受験期から引きこもりになっていた剛は白かった。
 
  小学校から中学までずっと柊人のように真っ黒だったので、元の地肌はこんな色白だったのかと、剛は自分の皮膚の色を見るたびに新発見をしたような気持ちになっていた。

「俺も元は色白だよ」

 柊人は笑うと彼女に麦茶のなみなみ入ったグラスを渡して、その腕を引っ張った。そのまま階段を数歩登って、気まずそうな顔で振り返った。

「勉強――テスト勉強してるから、邪魔すんなよ」

 「わかってるよ」とぶっきらぼうに返して、キッチンに行く。お茶と氷をたっぷりグラスに入れて飲み干した。

  上からドアの閉まる音がした。それを確認して、自分も2階の自分の部屋に上がる。

 汗ばんだシャツとズボンを脱ぎ、Tシャツとジャージに着替える。不意に、隣の兄の部屋から「あははっ」と女の高い笑い声が響いた。兄の低い笑い声がそれに続く。

「――で、――だよな」「うそ」「ほんと、ほんと」「そうなんだぁ」「――って」

 いったん注意を向けてしまうと、音がやたらとはっきり聞こえる。もう一度高い笑い声が響いた。それから、何かどさっというような、重いものが倒れるような音が聞こえた。話声が消え、ギィと何かが軋むような音がした。

 剛は無言でベッドに腰かけた。ギィ。兄と同じパイプベッドは、壁の向こうの音と同じ音を立てた。

「くそ」

 呟くとバッグを持って階段を降り、玄関を駆け出して自転車に乗った。

 ――家でまで、俺の場所に入り込んでくるんじゃねーよ

 心の中でそう叫びながら自転車を漕ぐ。ちょっとでもその場から遠くへ行きたかった。駅に着くと考えずに来た電車に乗った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件

鉄人じゅす
恋愛
平凡な男子高校生【山田太陽】にとっての日常は極めて容姿端麗で女性にモテる親友の恋模様を観察することだ。 ある時、太陽はその親友の妹からこんな言葉を隠れて聞くことになる。 「私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない」 親友の妹【神凪月夜】は千回告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫と噂される笑顔がとても愛らしい美少女だった。 月夜を親友の妹としか見ていなかった太陽だったがその言葉から始まる月夜の熱烈なラブコールに日常は急変化する。 恋に対して空回り気味でポンコツを露呈する月夜に苦笑いしつつも、柔和で優しい笑顔に太陽はどんどん魅せられていく。 恋に不慣れな2人が互いに最も大切な人になるまでの話。 7月14日 本編完結です。 小説化になろう、カクヨム、マグネット、ノベルアップ+で掲載中。

数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日

プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。 春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

処理中です...