湿った夏の日の記憶~初体験の相手に再会した~

越智むう

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2章 高校生

16.家(4)*

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 剛は仰向けに横になっているまりんの膝を持ち上げると、奥までペニスを押し込んだ。

(何これ、温か……)

すっぽりと、温かいお湯に包まれるような感覚に思わず息を吐く。彼女がくぐもった呻き声をあげる。膣壁に尖端が触れる感触があった。瞬間、ぎゅっとした締めつけがあり、剛の尖端がどくん、と脈打った。ただでさえ、少し触っただけで弾けそうな、痛みを感じるほど膨らんでいたそれは、すぐにでも射精しそうだった。

(くそ……、まだ、)

 剛は大きく息を吐いた。それからぎこちなく、腰を前後に動かし始めた。動く度に、まりんは、う、ん、と小さな声を上げた。剛は彼女に視線を移した。まりんは、顔を横に向けて、唇を軽く噛んで、瞳を潤ませていた。ただその頬は、焼けた肌の上からでも赤みを帯びているのがわかった。その表情を見た瞬間、また尖端がどくんと脈打った。

 あの、まりんが。中学に転校してきたときからの彼女の姿を思い出した。眉間に皺を寄せて、姿勢よく前を見つめながらつかつかと下校する姿や、授業中にぼんやりと窓の遠くを見つめる姿。それから、今日本屋で見た、今までと全然違う、何にも悩みのなさそうな話し方や。その彼女が、今、こんな状態で、自分の下で呻いている。自分だけが彼女のこの姿を知っていると思った。その事実を脳が認識したとたん、剛は高揚感に包まれた。

 ――そっか、俺、まりんが好きなんだ。

 腰を振る。頭がふわっとするような感覚がする。そして、ぶるぶるとした振動が身体を駆け抜けた。ペニスが彼女の中で震えた。一瞬頭が真っ白になった。

 はっとした時には、まりんが腰を引いて、ずるりと小さくなったそれが吐き出された。薄いピンク色のコンドームには白濁した液が溜まり、情けなく股間にぶら下がっている。

 汗が冷えるような寒気を感じて、剛は彼女を見つめた。まりんは身体を起こすと、後ろの本棚からティッシュケースを取り、ティッシュで股の間を拭いた。白いティッシュに赤い染みがついた。彼女と剛は同時に畳を見つめた。小さな赤い染みができていた。彼女は静かにそこをティッシュで叩いたが、その染みはとれなかった。まりんは膝を抱えると頭を埋めた。

「まりん、」

 しばらくの沈黙の後、剛がようやく名前を呼ぶと、彼女は下を向いたまま言った。

「……言わないでね」

 剛は、かっと頭に血が上るのを感じた。彼女が、最初に口にした言葉がそれだったのが信じられなかった。

(もっと、あるだろ、他に)

 さっきまでの行為が彼女にとっては、何の意味もなかったのかという気持ちがわきあがってきて、思わずまくしたてた。

「何を? 俺とヤッたこと? お前の家の噂話なんて、もともとしねーよ。何なの? 次は貴ちゃんとか、部屋に呼ぶんだろ、どーせ。知ってる? お前の母さん、高校の時、色んな男と遊んでたって。俺のお父さんとも付き合ってたらしいよ。母親のこと馬鹿馬鹿言ってさ、結局お前も同じじゃん」

 そこで、まりんが肩を震わせていることに気付いた。言い過ぎた、とはっとして息を飲んだ。彼女は吠えるように言った。

「私は! 剛くんだから」

 そこまで言って、言葉を飲み込むと、まりんはうつむいた。

「俺だからなんだよ」

「ねえ、私のことまりんって呼ぶの、今はもうお母さんと剛くんだけなんだよ。――嫌なの。剛くんは全部知ってるじゃん」

 ぐずっと鼻水を吸い込むような音がする。まりんは声を震わせて言う。

「私、今、楽しいから、新しくやり直して」

 剛は呆然とその場に立ち尽くした。

(は? 何勝手に泣いてんの?)

 自分だって泣きたい気分なのに、と思った。これで終わりは嫌だった。コンドームを抜き取る。白い液体がねっとりついたペニスは小さくなって垂れていた。それと彼女を見比べて、口から出た言葉は「舐めてよ」だった。

 彼女は頭を上げた。剛は視線を逸らすと、もう一度言った。

「これ、舐めろよ」

 彼女は、一瞬口を開いてから閉じて、剛を睨んだ。

「……いいよ。そこ座ってよ」

 まりんは立ち上がるとこたつ机の上に、座布団を放り投げた。剛はそこに腰かけた。まりんは肩にかかったままの制服の上とブラを外すと、髪の毛を左右の耳にかけ、剛の足元に座り込んだ。それから、剛のぬるっとしたそれを手にとった。剛はぴくっと身体を震わせた。彼女はそれをちらりと見ると、そのままおもむろに舌で舐めた。

(何これ、ぬめって)

 彼女が舌を動かす度に、剛は、小さく息を漏らした。視線の下で、彼女の裸の背中に流れた黒髪が左右に揺れる。ぎこちなかった舌の動きがだんだんと大きくなっていく。剛の身体が熱くなり、また血液が股間に集まり、それは大きく膨らんでいった。

 剛は立ち上がると、彼女を押し倒した。キスをして、胸を揉む。それから、敏感な場所を触った。びくんと身体が跳ねる。唇を離すと、まりんは声を抑えることなく喘いだ。そのまま胸や、下をいじり続けると、身体を痙攣させ、ぐったりと力が抜ける。剛はそのまま彼女を起こすと後ろ向きにし、床に転がったコンドームの箱からゴムをとり、つけると、後ろから挿れた。今度は、一回でにゅるりと中に入った。

(もうちょっと、長く)

 その気持ちに反応するように、ペニスは締めつけに耐えた。何度も腰を振るうち、ぎこちなく、まりんの腰も対応するように動き始めた。彼女は、動く度に声を上げた。暑いじっとりとした室内で、二人はお互いの身体を濡らすのがどちらの汗なのかわからないくらい、蛇のように身体を絡めた。

「――まりん」

 生気を失ったような、そんな女の声がして、剛ははっとした。視線を上げると、まりんの母親の真由美が、呆然と裸の娘と、そこに覆いかぶさる剛を見ていた。畳の上には、コンドームの空き袋が3つ転がっている。

 剛はまりんの身体から離れて、真由美を見た。

「俺」

 言葉が出てくる前に、つかつかと近づいてきた真由美が剛の頬をはたいた。ぱしん、という音がして頬に痛みが走る。真由美は次に娘を見た。まりんは母親を睨み返した。

「まりん、あんた! 何やってんのよ!」

 ばし、っとまた頬を打つ音が響いた。母親に叩かれて、まりんは裸のまま横に倒れた。だが、そのまますぐに起きて立ち上がると逆に母親の頬を叩いた。剛はその光景を驚いて見つめていた。

 娘に叩かれよろめいた真由美は、剛を睨んだ。

「出て行きなさい」

 唾を飲みこんで、まりんを見る。視線を合わせると、彼女は目を逸らした。

「あ……」

 言葉を失う剛に、真由美が再度強い口調で言った。

「出て行きなさい」

 剛はTシャツを被りジャージを履くとそのままアパートの外へと出た。まだ雨が降っていて、頭からびしゃびしゃになる。振り返ると、扉の中から泣き声と怒鳴り合う声が聞こえてきた。

 ――何やってんの、
 ――あんたに言われたくない
 ――母親に向かって
 ――うるさいな

 ぼたぼたと水滴が顔を流れる。剛はうつむいた。

(俺、何だったんだ)

 まりんの気持ちが全然わからなかった。鼻の奥が痛くなった。

(こんなはずじゃなかったのに)
 
 初体験を終えたのに高揚感はもうなかった。外はすっかり日が暮れている。暗い道をびしょびしょになりながら家まで歩いて帰った。

 家に入ると、母親が驚いたような声をあげた。

「――どうしたの」

「別に」

「夕食は?」

「いらない」

 階段を上がり、自分の部屋のベッドに飛び込むと、枕に向かって「あー!」と叫んだ。隣の部屋から、兄が「うるせえ」と壁を叩いた。
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