ごりごりの生娘ですけど、悪い女を演じることになりまして。

野地マルテ

文字の大きさ
8 / 10

純血の証

しおりを挟む




 行為が一通り終わったあと、なぜかアヴェラルドは青ざめていた。
 シーツの上に視線を落とし、肩を震わせている。

「どうしたんですか? アヴェラルドさん……」
「メニエラ、君……」
「はい?」
「もしかして、処女だったのか?」

 こくんと頭を縦に振る。
 あっさりバレてしまった。

 見るとシーツには桃色に色づいた染みが出来ていた。女騎士には普通、月の触りは来ない。薬で止めているからだ。
 膣から出血するとしたら、不正出血した時か、処女膜が破れた時ぐらいだろう。不正出血の色は茶色だ。鮮血にはならない。
 挿入時の裂傷だって、私はあれだけ濡れていたのだ。抽送による摩擦の裂傷が出来たとは少々考えにくい。

「こういう事をするのははじめてでした……。ごめんなさい。言っても信じてもらえないと思ってて」
「君のような可愛らしい子が、特務部隊にいて何故……?」

 何故と言われても困るが……。
 しかたなく、私は自分の子どもじみた恋愛観を正直に語ることにした。
 男女交際は交換日記からじっくりはじめたいこと。
 お互いの事をよく知ってから、公園でほのぼの手繋ぎデートがしたいこと。
 身体の関係は、結婚が決まってからしたいこと──など。
 子どもっぽすぎて呆れられちゃうかなと思ったけど、アヴェラルドは真剣に聞いてくれた。

「特務部隊にいる状態で恋人ができたら、たぶん、真っ先に身体から求められちゃうと思ったんです。……私、身体の関係から始まる恋は、ぜったいに嫌だったんです。はじめての恋人とは、交換日記から交際を始めて、少しずつ愛を育みたいと思っていました。だから私、今まで恋人を作りませんでした……」
「そうだったのか……」

 私の非現実的な恋愛観を聞き、アヴェラルドは文字通り頭を抱えていた。
 なぜ?

「すまない、俺は……君のことを誤解していたようだ。……今まで俺は君のことを千人切りの淫乱女だと思っていたんだ」
「──は?」

 ──千人切り? 淫乱?

 まじまじと、自分の身体を見る。胸は大きくも小さくもなく、腹筋には微かに筋肉は浮いているものの、あんまりくびれてはいない。
 こんな平凡な裸体で、千人の男に需要があるとは到底思えなかった。

「君は清純そうな顔をして、男をだます──悪女だと思っていた……」
「あ、あくじょ……⁉︎」

 そんなバカな。私はこんなに色気がないのに。
 ロラ先輩の出るとこ出てる抜群のスタイルを思い出す。ロラ先輩が見た目どおりの悪女かどうかは分からないが、彼女にたぶらかされてしまった男はたくさんいるだろう。何故なら、色っぽいから。

 私みたいなちんちくりんが、男を騙せるもんか。

「ありえませんよ!」
「すまない……。君は特務所属だし、ものすごく可愛いし、簡単に男と関係を持っているだろうと思って嫉妬して、こんな暴挙に出てしまった……なんと謝ったらいいか」

 えっちのあと、こんなに謝られることはそうないだろう。アヴェラルドは本気で私のことを勘違いして、本気で私に申し訳ないと思っているのだ。

 非処女だと思われているだろうなというのは私でも感づいていたが、まさか千人切りだと思われていたとは。
 淫乱だと思っていた相手が性体験がまったくなくて、アヴェラルドはさぞやびっくりしたことだろう。


「もういいですよ、謝らなくても」
「しかし……! なんと詫びていいか」
「言わなかった私も悪いですし」
「だが……」
「アヴェラルドさん、私のなか、気持ち良かったですか?」

 このままごめんなさい合戦を繰り広げるのもアレだと思い、アヴェラルドの言葉をさえぎって、私は彼ににっこり微笑みかけた。
 どストレートすぎる問いかけに、アヴェラルドはウッと言葉を詰まらせながらも、感想を言ってくれた。

「あ、ああ……。腰をぜんぶ持っていかれると思ったぐらい、気持ちよかった……」
「なら、良かったです‼︎」

 頬を染め、私の膣の具合を誉めるアヴェラルドはたどたどしく、なんか可愛いなと思ってしまった。
 だから、彼を許すことにした。

 ──まあ、元から怒っていたわけじゃないけど。

 アヴェラルドは何も悪いことをしていない。
 私に恋人のフリをしてほしいと言い、ちゃんと契約書を交わし、前金も払っている。
 身体の関係を求めるのは、ごく自然な流れだ。

 私は、自分の本音を言えてスッキリした。
 アヴェラルドは私の子どもっぽい恋愛観をバカにしなかった。
 はじめての相手は、私のことを面倒くさい女だと罵らなかった。真摯に謝ってくれた。それでいいではないか。

 私は良い相手と契ることが出来た。
 清々しい気持ちで心が満たされる。
 まあ、ほんのちょっぴり悲しさも感じるけど、気のせいだろう。




 ◆




 この後、アヴェラルドから媚薬が入っていた瓶を見せて欲しいと言われた。
 アヴェラルドみたいな清廉潔白そうな男の人でも、媚薬に興味があるのかとドキドキしたが、彼は真剣な顔で瓶に書かれた南方文字に視線を走らせている。

「……これは南方に伝わる霊薬じゃないか」
「霊薬? 媚薬じゃないんですか?」
「おもな効能は性的興奮を促すものではあるのだが……。これは性癖をねじ曲げるほど強力なものだ。なんでも、昔は果実酒に混ぜられ、ある程度地位のある新婚夫婦の寝所に差し入れられたものらしい」
「へええ」

 さすがアヴェラルド、物知りである。
 私は南方出身だけど、こんなすごい媚薬があることなどまったく知らなかった。

「……二十年近く前までは、南方から宗国へと献上されていた。今では禁止薬物扱いだがな」
「えっ、禁止薬物……?」
「人の感情に作用するものは排除せよ、と新任の近衛師団長様は仰っていたよ」

 あのロラ先輩と同年代のイケメン近衛師団長様は相当な堅物らしい。
 今のアラフォー騎士は若い頃に薬物漬けにされながら過酷な戦場へ送り込まれていたので、媚薬に対しても何か思うところがあるのかもしれない。


「私これ……職場の先輩から貰ったんですけど……」
「出どころをはっきり確認しないといけないな」
「媚薬を飲んだ私や、私にこれを渡した先輩は捕まっちゃうんですか?」
「平民が個人的に使う分には罪に問われないと思うが、貴族や王族に故意に流した経緯が見つかったら、有罪になるかもしれん……。執行猶予はつくと思うが」

 ──ロラ先輩、そんなとんでもないものを……。

 ロラ先輩は海千山千の猛者だ。すごい媚薬を持っていてもおかしくないのかもしれないけど、有罪ときいて肝が冷えた。
 私に渡すぐらいなので、さすがに偉いひとにはこの媚薬は流していないと思うが、分からない。

「この媚薬を君に渡した者の名前を教えてもらえるか? 俺には近衛師団長に禁止薬物の存在を直接報告する義務があるんだ」
「えっと……、ロラ・アーガットさんです」
「アーガット……。この瓶の製造元の名前も、アーガットだな」


 結論から言えば、この密告は特にドラマは何も生まなかった……と思う。

 ロラ先輩は何かと一人行動や秘密が多い。
 たぶん、私が知らないロラ先輩の顔はいくつもあるのだろう。
 私はロラ先輩のことを、一方的に宗国のお母さんだと思っている。
 知らないことがあるのは少しさみしいが、仕方がない。
 ロラ先輩は大人だからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

処理中です...