【R18・完結】王女メリアローズの決断

野地マルテ

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真実を告げる時がきた

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「ありがとうございます! 冬を目の前にしたこの時期に、王都から三人も来ていただけるなんて……!」
「モール医局長……」

 モールは感激のためか、声を震わせている。
 ティンシアの冬はことさら厳しいらしく、体調不良を理由に王都に帰ってしまう医法士は多いと彼は嘆いていたのだ。

「頑張ってきて良かった……耐えてきて良かった……!」
「今まで助けになれず、申し訳ございませんでした。これからは共にがんばりましょう」
「はい……っ!」

 手を取り合うモールと院長。それを目にしたメリアローズも、つんと鼻の奥が痛むのを感じた。
 砦の中は今も灰色の空間が広がっている。
 だが、ここに来た当初に感じた、閉塞した雰囲気がなくなってきていた。
 停戦し、頼もしい助っ人の医法士もやってきた。物事は確実に好転している。
 メリアローズの胸はいっぱいになった。

 ◆

「ようメリアローズ、浮かれているな」
「お兄様」

 午前の診療を終えたメリアローズは、昼食を摂ろうと食堂へ向かっていた。
 兄に呼びとめられたメリアローズは、昨晩エリヴェルトに言われたことを思い出す。
 自分が結婚相手として敬遠されていたのは、高い魔力のせいだと。
 兄ならば率直な意見を聞かせてくれるはずだと、おずおずと口を開く。

「お兄様、変なことを聞いてもいいですか?」
「何だよ? 変なことって」
「私の魔力って……その、高いですか?」

 彼女の問いに、サディアスは切れ長の目を丸くした。

「おう、そりゃあもう、……無茶苦茶高いな。豊富っていうレベルじゃない。言い方は悪いが、バケモノかってくらいだ」
「バケモノ……! そ、そんなに……!?」
「この大陸の上位の人間はだいたい魔力持ちだ。お前が見合いを断られていたのも、その魔力の高さのせいじゃないかって、俺は考えてる……。ほどほどに魔力が高い嫁さんは自慢だが、強すぎる女は怖いからな」
「お兄様もそう考えていたのですか……!?」

 分かっていなかったのは自分だけだったのでは。
 無駄に外見コンプレックスをこじらせてしまっていたのでは。
 メリアローズは俯くと、自分の頬を両手でおさえる。

「なんだ、エリヴェルトに言われたのか?」
「ええ……」
「あいつは自分をケツに敷いてくれるような強い女が好きそうだし、別にいいんじゃないか?」
「け、ケツ……!」

(確かにエリヴェルトは、私から誘われる妄想……というか、夢を見ていたみたいですけど……)

 また昨夜のことを思い出す。叫び出したいような衝動に駆られる。
 だが、いつまでもエリヴェルトから逃げていられないのだ。
 当初はエリヴェルトやティンシアを助けるための婚姻だったが、停戦したことでそれらは達成した。
 
(私は……エリヴェルトと真の夫婦になりたい)

 やっとティンシアは平和になるのに、気まずいままでいたくない。
 メリアローズは拳を握りしめた。

 ◆

 夜、寝衣に上着を羽織ったメリアローズは、エリヴェルトの自室にいた。
 寝衣は、昨夜まで着ていた慎ましいものではない。
 砦に初めて来た夜に着た、薄くて白い、扇情的な寝衣だ。下は履いていない。

「すまないメリアローズ、今夜も遅くなってしま……て」
「エリヴェルト!」

 また今夜も、エリヴェルトは就寝時間をかなり過ぎてからやってきた。
 メリアローズは上着を脱ぎ捨てると、彼の名を叫びながら抱きついた。

「ごめんなさい! 寝ているあなたを勝手に襲って、ごめんなさいっ!」

 落ち着いた状況では、また逃げ出してしまうと思った。だから、彼がやってきたらすぐに言おうと心に決めていた……真実を。

「……落ち着いてくれ。私は怒っていない」

 二の腕を優しく掴まれる。
 エリヴェルトの口調は、いつもどおり穏やかだった。まるで、子どもに言い聞かせるようなものであった。

「君が初めて砦に来たあの夜、君から誘ってくれたのに、無下にしてしまってすまなかった」
「いいえ、私も……はしたなかったです。まだ結婚式も済んでいなかったのに」
「いいや、私の意気地がなかった。私から君の部屋に行くべきだったんだ」
「そんな……そんなことは……」

 お互いに自分が悪い、よくなかったと言い合い、数分が経っただろうか。メリアローズはぶるりと肌を震わせると、口と鼻を手で覆い、くしゅんと小さくくしゃみをした。
 ティンシアの夜は冷える。砦内はいくら風がないとはいえ、薄着ができるほど暖かくはない。

「……このままでは風邪をひいてしまう。寝台へ行こう」

 エリヴェルトに手を引かれ、メリアローズは寝台へ向かう。彼に掴まれている手が、異様に熱く感じた。
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