21 / 26
真実を告げる時がきた
しおりを挟む
「ありがとうございます! 冬を目の前にしたこの時期に、王都から三人も来ていただけるなんて……!」
「モール医局長……」
モールは感激のためか、声を震わせている。
ティンシアの冬はことさら厳しいらしく、体調不良を理由に王都に帰ってしまう医法士は多いと彼は嘆いていたのだ。
「頑張ってきて良かった……耐えてきて良かった……!」
「今まで助けになれず、申し訳ございませんでした。これからは共にがんばりましょう」
「はい……っ!」
手を取り合うモールと院長。それを目にしたメリアローズも、つんと鼻の奥が痛むのを感じた。
砦の中は今も灰色の空間が広がっている。
だが、ここに来た当初に感じた、閉塞した雰囲気がなくなってきていた。
停戦し、頼もしい助っ人の医法士もやってきた。物事は確実に好転している。
メリアローズの胸はいっぱいになった。
◆
「ようメリアローズ、浮かれているな」
「お兄様」
午前の診療を終えたメリアローズは、昼食を摂ろうと食堂へ向かっていた。
兄に呼びとめられたメリアローズは、昨晩エリヴェルトに言われたことを思い出す。
自分が結婚相手として敬遠されていたのは、高い魔力のせいだと。
兄ならば率直な意見を聞かせてくれるはずだと、おずおずと口を開く。
「お兄様、変なことを聞いてもいいですか?」
「何だよ? 変なことって」
「私の魔力って……その、高いですか?」
彼女の問いに、サディアスは切れ長の目を丸くした。
「おう、そりゃあもう、……無茶苦茶高いな。豊富っていうレベルじゃない。言い方は悪いが、バケモノかってくらいだ」
「バケモノ……! そ、そんなに……!?」
「この大陸の上位の人間はだいたい魔力持ちだ。お前が見合いを断られていたのも、その魔力の高さのせいじゃないかって、俺は考えてる……。ほどほどに魔力が高い嫁さんは自慢だが、強すぎる女は怖いからな」
「お兄様もそう考えていたのですか……!?」
分かっていなかったのは自分だけだったのでは。
無駄に外見コンプレックスをこじらせてしまっていたのでは。
メリアローズは俯くと、自分の頬を両手でおさえる。
「なんだ、エリヴェルトに言われたのか?」
「ええ……」
「あいつは自分をケツに敷いてくれるような強い女が好きそうだし、別にいいんじゃないか?」
「け、ケツ……!」
(確かにエリヴェルトは、私から誘われる妄想……というか、夢を見ていたみたいですけど……)
また昨夜のことを思い出す。叫び出したいような衝動に駆られる。
だが、いつまでもエリヴェルトから逃げていられないのだ。
当初はエリヴェルトやティンシアを助けるための婚姻だったが、停戦したことでそれらは達成した。
(私は……エリヴェルトと真の夫婦になりたい)
やっとティンシアは平和になるのに、気まずいままでいたくない。
メリアローズは拳を握りしめた。
◆
夜、寝衣に上着を羽織ったメリアローズは、エリヴェルトの自室にいた。
寝衣は、昨夜まで着ていた慎ましいものではない。
砦に初めて来た夜に着た、薄くて白い、扇情的な寝衣だ。下は履いていない。
「すまないメリアローズ、今夜も遅くなってしま……て」
「エリヴェルト!」
また今夜も、エリヴェルトは就寝時間をかなり過ぎてからやってきた。
メリアローズは上着を脱ぎ捨てると、彼の名を叫びながら抱きついた。
「ごめんなさい! 寝ているあなたを勝手に襲って、ごめんなさいっ!」
落ち着いた状況では、また逃げ出してしまうと思った。だから、彼がやってきたらすぐに言おうと心に決めていた……真実を。
「……落ち着いてくれ。私は怒っていない」
二の腕を優しく掴まれる。
エリヴェルトの口調は、いつもどおり穏やかだった。まるで、子どもに言い聞かせるようなものであった。
「君が初めて砦に来たあの夜、君から誘ってくれたのに、無下にしてしまってすまなかった」
「いいえ、私も……はしたなかったです。まだ結婚式も済んでいなかったのに」
「いいや、私の意気地がなかった。私から君の部屋に行くべきだったんだ」
「そんな……そんなことは……」
お互いに自分が悪い、よくなかったと言い合い、数分が経っただろうか。メリアローズはぶるりと肌を震わせると、口と鼻を手で覆い、くしゅんと小さくくしゃみをした。
ティンシアの夜は冷える。砦内はいくら風がないとはいえ、薄着ができるほど暖かくはない。
「……このままでは風邪をひいてしまう。寝台へ行こう」
エリヴェルトに手を引かれ、メリアローズは寝台へ向かう。彼に掴まれている手が、異様に熱く感じた。
「モール医局長……」
モールは感激のためか、声を震わせている。
ティンシアの冬はことさら厳しいらしく、体調不良を理由に王都に帰ってしまう医法士は多いと彼は嘆いていたのだ。
「頑張ってきて良かった……耐えてきて良かった……!」
「今まで助けになれず、申し訳ございませんでした。これからは共にがんばりましょう」
「はい……っ!」
手を取り合うモールと院長。それを目にしたメリアローズも、つんと鼻の奥が痛むのを感じた。
砦の中は今も灰色の空間が広がっている。
だが、ここに来た当初に感じた、閉塞した雰囲気がなくなってきていた。
停戦し、頼もしい助っ人の医法士もやってきた。物事は確実に好転している。
メリアローズの胸はいっぱいになった。
◆
「ようメリアローズ、浮かれているな」
「お兄様」
午前の診療を終えたメリアローズは、昼食を摂ろうと食堂へ向かっていた。
兄に呼びとめられたメリアローズは、昨晩エリヴェルトに言われたことを思い出す。
自分が結婚相手として敬遠されていたのは、高い魔力のせいだと。
兄ならば率直な意見を聞かせてくれるはずだと、おずおずと口を開く。
「お兄様、変なことを聞いてもいいですか?」
「何だよ? 変なことって」
「私の魔力って……その、高いですか?」
彼女の問いに、サディアスは切れ長の目を丸くした。
「おう、そりゃあもう、……無茶苦茶高いな。豊富っていうレベルじゃない。言い方は悪いが、バケモノかってくらいだ」
「バケモノ……! そ、そんなに……!?」
「この大陸の上位の人間はだいたい魔力持ちだ。お前が見合いを断られていたのも、その魔力の高さのせいじゃないかって、俺は考えてる……。ほどほどに魔力が高い嫁さんは自慢だが、強すぎる女は怖いからな」
「お兄様もそう考えていたのですか……!?」
分かっていなかったのは自分だけだったのでは。
無駄に外見コンプレックスをこじらせてしまっていたのでは。
メリアローズは俯くと、自分の頬を両手でおさえる。
「なんだ、エリヴェルトに言われたのか?」
「ええ……」
「あいつは自分をケツに敷いてくれるような強い女が好きそうだし、別にいいんじゃないか?」
「け、ケツ……!」
(確かにエリヴェルトは、私から誘われる妄想……というか、夢を見ていたみたいですけど……)
また昨夜のことを思い出す。叫び出したいような衝動に駆られる。
だが、いつまでもエリヴェルトから逃げていられないのだ。
当初はエリヴェルトやティンシアを助けるための婚姻だったが、停戦したことでそれらは達成した。
(私は……エリヴェルトと真の夫婦になりたい)
やっとティンシアは平和になるのに、気まずいままでいたくない。
メリアローズは拳を握りしめた。
◆
夜、寝衣に上着を羽織ったメリアローズは、エリヴェルトの自室にいた。
寝衣は、昨夜まで着ていた慎ましいものではない。
砦に初めて来た夜に着た、薄くて白い、扇情的な寝衣だ。下は履いていない。
「すまないメリアローズ、今夜も遅くなってしま……て」
「エリヴェルト!」
また今夜も、エリヴェルトは就寝時間をかなり過ぎてからやってきた。
メリアローズは上着を脱ぎ捨てると、彼の名を叫びながら抱きついた。
「ごめんなさい! 寝ているあなたを勝手に襲って、ごめんなさいっ!」
落ち着いた状況では、また逃げ出してしまうと思った。だから、彼がやってきたらすぐに言おうと心に決めていた……真実を。
「……落ち着いてくれ。私は怒っていない」
二の腕を優しく掴まれる。
エリヴェルトの口調は、いつもどおり穏やかだった。まるで、子どもに言い聞かせるようなものであった。
「君が初めて砦に来たあの夜、君から誘ってくれたのに、無下にしてしまってすまなかった」
「いいえ、私も……はしたなかったです。まだ結婚式も済んでいなかったのに」
「いいや、私の意気地がなかった。私から君の部屋に行くべきだったんだ」
「そんな……そんなことは……」
お互いに自分が悪い、よくなかったと言い合い、数分が経っただろうか。メリアローズはぶるりと肌を震わせると、口と鼻を手で覆い、くしゅんと小さくくしゃみをした。
ティンシアの夜は冷える。砦内はいくら風がないとはいえ、薄着ができるほど暖かくはない。
「……このままでは風邪をひいてしまう。寝台へ行こう」
エリヴェルトに手を引かれ、メリアローズは寝台へ向かう。彼に掴まれている手が、異様に熱く感じた。
151
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる