離縁の危機なので旦那様に迫ったら、実は一途に愛されていました

野地マルテ

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《番外編》本編終了後のお話

ドカ喰い大好き!リオノーラ様《節制編③》

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「う、腕が……っ! 足がぁっ……!」

 筋力トレーニングをしたその晩、リオノーラは早速筋肉痛に苛まれていた。
 しばらく感じる機会がなかった痛みで眠れない。熱を持った患部はしっかり冷やしたが、それでも額に脂汗が浮く。
 こんなにキツい筋肉痛を覚えたのは、護身術をレイラから習い始めた時以来だ。あの時もベッドの上で悶え苦しんだ。

「関節を痛めた様子はないですし、二、三日もすれば痛みは引きますよ」

 リオノーラのふくらはぎに湿布を貼り、慣れた様子で包帯をぐるぐる巻きながらアレスは言う。

「二、三日も苦しむのですか……!」
「超回復と言って、この痛みに耐え抜けば筋肉がついて以前よりも太りにくい身体になれますよ」

 太りにくい身体にはなりたいが、痛いのは辛い。

「明日明後日は安静にしていてください。俺は仕事があるので詰所に行きますけど、食事の時間には戻りますから」
「うっうっ……」



 次の日の朝も、猛烈な筋肉痛でリオノーラは動けなかった。手洗いに行くのがやっと。
 ベッドからろくに動けず、アレスに食事を運んでもらい、食べさせてもらった。
 今朝の食事も粥だ。

「あーん」
「あ、あーん……」

 粥の中には黒豆が入っていて香ばしく美味しかった。筋肉疲労が激しい身体に、やさしい味わいの粥が沁みる。普段はこってりとした料理を好むリオノーラも、今朝はさすがに揚げ物が食べたいとは思わない。

(今は揚げ物も甘い物も受け付けないわ……もしかして、これが真の狙いだったのかしら)

「今日、帰りに果物を買ってきますね」
「……よろしくお願いします」



 二、三日痛みが続くと言われていたが、湿布の効果か、夜にはかなり楽になった。
 リオノーラがダイニングに行くと、テーブルには粥とひと口サイズに切られたリンゴが用意されていた。
 今夜の粥は、鶏のささみ肉と赤い木の実がのった白濁したものだ。南方地域の料理だろうか。
 粥生活に少し慣れてきたリオノーラは、口元を綻ばせる。

「美味しそうですね!」
「そろそろタンパク質も摂りたいところですから、鶏ベースの粥にしてみました」

 ごま油がほんのり香る粥を掬う。
 細かく割かれたささみ肉は柔らかく、食べやすい。赤い木の実もほどよく酸味があり、良いアクセントになっている。

「はー……筋肉の痛みが引いてやれやれです」
「明日一日休んだら、また軽いランニングから始めましょうか」

 また走るのか……とリオノーラは遠い目になる。だが、アレスの引き継ぎが終われば二人でティンエルジュ領に戻る。帰った際に自分がぶくぶく太っていれば、また父に色々言われてしまうだろう。
 間違いなく、ここがふんばりどころだ。
 リオノーラは粥を啜りながら、また頑張ろうと決意を新たにするのであった。

《つづく》
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