59 / 62
第4章
第12話 氷は閉ざす
しおりを挟む息を整え、残された全ての魔力を注ぎ込む。
「第八階梯魔法〝氷閉楽園〟」
氷閉楽園――空間に干渉する魔法は、発動が困難な上に、制御が出来なければ、周囲を巻き込んでしまう可能性が高い、危険な魔法だ。
空間に関連する魔法を未熟で無謀な魔導師が発動し、制御を失敗して、死傷者を出す事例は嘗ては少なく無かった。
〝氷閉楽園〟は、『領域支配』と呼ばれる魔法であり、領域に踏み込んだ者を全て凍てつかせる。
俺は、自分の背後に冒険者や村人達を囲う様な氷の壁を創り出す。
人々が1ヶ所に集まり、敵と距離が空いた今だからこそ、使う事が出来た。
もっと早く発動出来ていれば、戦況を変える事が出来た筈だが、今の俺自身が〝第八階梯魔法〟を完璧に扱える自信はない。
「なっ!?」
「雪っ!!どういうつもりだっ!!」
氷の壁の内側から、ヴィルヘルム達の叫び声が聞こえた。
俺は、背後の氷の壁に囲まれた人々を一瞥する。
「……」
これから俺が行う事は、決して誇れる事ではない。
「ここからは、俺1人で充分だ」
だが、現状を打開する方法が、これ以上浮かばなかった。
俺は、ホムンクルスに寄生された人々を盾に、近付いて来る魔物達を睨み付ける。
思考を研ぎ澄ます。
迫り来る魔物やホムンクルスに寄生された人々の身体が、一瞬で氷柱の中に閉じ込められた。
地面から逃れようと、建物に登っても、建物ごと凍り付く。
空に飛ぼうと、地面からの冷気に、羽が凍て付き、地面に落ちて凍り付く。
着実に自分の手駒が減らされている事に、女王混蟲は奇声を上げ始めた。
女王混蟲が、殺意を込めて振り落ろした鎌や鋏は、俺の眼前に出現した氷の壁に防がれてしまう。そして、距離を取る間もなく、女王混蟲の体の一部は凍り付いた。
「ッッッッ!!?」
「っ逃がすか!」
俺は残された魔力の全てを放出する。その瞬間、俺の周囲の全てが凍り付いた。女王混蟲だけでなく、気温が急激に低下した事で、地面や建物が氷漬けとなっている。
息を吸う度に、喉や肺に痛みを感じ、魔力枯渇を起こした事で、体が悲鳴を上げていた。
「……まだ、生きてるかっ」
魔力が少ない状態で、使いこなせていない魔法――〝氷閉楽園〟を使った所為で、充分な威力を出す事ができなかった。
女王混蟲を倒すには、あと一歩届かない。
「くそっ、あと一撃……」
瀕死とは言え、半端な攻撃では、女王混蟲を倒す事は出来ない。
この場で可能性があるとすれば、リツェアの闇属性の魔法か、ヴィルヘルムの魔装による全力の一撃だ。
いや、それでは、足りない。
リツェアが得意としているのは、魔法による範囲攻撃だ。一点に集中した破壊力は、低い。
ヴィルヘルムの魔装は、一点に集中した攻撃を行う事が出来る。それでも、魔装が未完成なヴィルヘルムが女王混蟲を倒し切れる可能性は低い。
何より、ヴィルヘルムの力を借りる為には、俺の背後の氷の壁を無くす必要がある。そうしてしまうと、〝氷閉楽園〟の効果範囲の境目が曖昧になってしまう。そうなれば、冒険者や村人を魔法の効果範囲に巻き込んでしまう可能性がある。
「……っ」
その時、俺の横を人影が走り抜けた。
人影は、〝氷閉楽園〟の冷気を物ともせずに、女王混蟲に向かって行く。
「魔装〝雷鳴〟」
稲妻が鳴り響き、赤い雷を纏ったバルザックが右腕を振りかぶっていた。
「〝雷刃〟」
〝氷閉楽園〟の氷ごと、バルザックの雷を纏った手刀は、女王混蟲を真っ二つに斬り裂く。その姿は、嘗て《雷獣》と恐れられた男が、衰えていない事を俺に証明して見せた。
断末魔を上げる隙もなく、女王混蟲は倒れ伏す。
俺は、女王混蟲の魔力が尽きた事を確認して、〝氷閉楽園〟を解除した。
肌を刺す様な冷気が漂う調査村の中で、生き残った人々の歓声が響き渡る。
だが、バルザックは険しい表情で女王混蟲を睨み付けていたかと思うと、周囲に視線を向けて、より一層表情を強張らせた。そして、俺の元に歩み寄って来る。その視線に込められている感情は、燃える様な『怒り』だ。
「自分が何をしたか、分かっているな?」
隠しもしない怒りが込められた言葉に、互いの無事を喜び合っていた人々が徐々に静まり返る。
「はい」
魔力枯渇で、体が悲鳴を上げていようと、言い逃れをするつもりはなかった。
「ぉ、おいっ――」
俺を庇おうとしたカシムを、視線だけで止める。
「冒険者達を殺す事に、躊躇いは無かったのか?」
氷柱の中に、氷漬けとなった冒険者や村人を見てバルザックは尋ねる。
乱戦状態の中では気付かなかったが、確認出来ていた以上にホムンクルスに寄生されていた人の数が多かった様だ。
だが、それを見ても、俺の答えは変わらなかった。
「はい。ありませんでした」
「何故だ?」
「必要な事だったからです」
人を護る為に、助かる可能性の低い人を見捨てる。それが、俺にとっての最善の選択。
俺の言葉に、バルザックの表情は、今にも喉を噛み切りそうな獣の様に険しくなっていった。
「救う事は、考えなかったのか?」
「俺は、全てを救える程、強くはありません」
俺とバルザックの視線がぶつかる。
「これだけの力がありながら、力がないだと?」
バルザックが、「ギリッ」と音がする程、奥歯を噛み締めていた。
「……冒険者は、人々を護る事が指名だ。護るべき命に、差などない。可能性があるのなら、全力を尽くすべきだ」
「……」
綺麗事だ。
だが、バルザックには、その言葉を言う資格がある。
「これが、俺に出来る最善でした」
「違う」
バルザックは、断言した。
「お前の最善は、仲間を信じて耐え抜く事だった」
「?」
理解出来ない俺の感情を感じ取ったのか、バルザックは一瞬だけ辛そうな表情を浮かべる。
「何故、お前は1人で戦った?何故、周囲を信じ、他の冒険者が駆け付けるまで、待てなかった?」
「戦いが長引けば、死傷者が増える事は確実でした。それに、他の冒険者を待つ余裕があるなら、目の前の敵に全力を尽くすべきです」
「お前は、自分の力を過信している」
バルザックの言葉には、隠しきれない怒りの内側に悟す様な意思が籠っていた。
「どんなに強い者でも、1人に出来る事には限りがある。だが、1人、2人、と人が増えれば、可能性は広がる物だ」
「それこそ、他人の力を過信しています」
「っ」
「他人の力は、所詮は他人の物。可能性を広げる以上に、足枷となる事だってある」
「……」
俺とバルザックは、お互いに譲る事なく睨み合う。
「お前の考えは、分かった」
溢れ出る感情を抑え込んだバルザックは、聞いた者が不意に息を止めそうな程に重苦しい言葉を発する。
「……お前を冒険者組合から除名する」
「……」
「今後、辺境都市内の冒険者組合に出入りする事も禁ずる」
現状からして、バルザックの判断は、妥当な物だ。
寧ろ、この程度で済ませたのは、少なからず俺の功績を評価してくれているのかもしれない。そして、この場に集まりつつある他の冒険者の目の前で、俺の処分を決める事によって、ある程度の混乱を抑えようとしている可能性もある。
この場に集まった冒険者の中には、少なからず俺に対して、複雑な感情を抱いている者も少なくないだろう。
辺境都市の冒険者は、互いに仲間意識が高い。その上、今回は、同じ冒険者を巻き込む魔法を故意的に発動した。
反感や敵対心を抱く者が少なくない事は、容易に想像が付く。
突然、男の叫び声が響いた。
視線を向ければ、冒険者パーティー――『蒼翼』のローディスが、氷漬けになった冒険者達を必死に助け出そうとしている。その他にも、冒険者や村人達が様々な姿で氷漬けとなった人々の前に立っていた。
この後の展開を予測する事は容易い。
2
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!
神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。
そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。
これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる