異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第4章

第12話 氷は閉ざす

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 息を整え、残された全ての魔力を注ぎ込む。

「第八階梯魔法〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟」

 氷閉楽園――空間に干渉する魔法は、発動が困難な上に、制御が出来なければ、周囲を巻き込んでしまう可能性が高い、危険な魔法だ。
 空間に関連する魔法を未熟で無謀な魔導師が発動し、制御を失敗して、死傷者を出す事例は嘗ては少なく無かった。

 〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟は、『領域支配』と呼ばれる魔法であり、領域に踏み込んだ者を全て凍てつかせる。

 俺は、自分の背後に冒険者や村人達を囲う様な氷の壁を創り出す。
 
 人々が1ヶ所に集まり、敵と距離が空いた今だからこそ、使う事が出来た。
 もっと早く発動出来ていれば、戦況を変える事が出来た筈だが、今の俺自身が〝第八階梯魔法フリージアス・オブ・エデン〟を完璧に扱える自信はない。

「なっ!?」
「雪っ!!どういうつもりだっ!!」

 氷の壁の内側から、ヴィルヘルム達の叫び声が聞こえた。
 俺は、背後の氷の壁に囲まれた人々を一瞥する。

「……」

 これから俺が行う事は、決して誇れる事ではない。

「ここからは、俺1人で充分だ」

 だが、現状を打開する方法が、これ以上浮かばなかった。

 俺は、ホムンクルスに寄生された人々を盾に、近付いて来る魔物達を睨み付ける。
 思考を研ぎ澄ます。
 迫り来る魔物やホムンクルスに寄生された人々の身体が、一瞬で氷柱の中に閉じ込められた。
 地面から逃れようと、建物に登っても、建物ごと凍り付く。
 空に飛ぼうと、地面からの冷気に、羽が凍て付き、地面に落ちて凍り付く。

 着実に自分の手駒が減らされている事に、女王混蟲は奇声を上げ始めた。
 女王混蟲が、殺意を込めて振り落ろした鎌や鋏は、俺の眼前に出現した氷の壁に防がれてしまう。そして、距離を取る間もなく、女王混蟲の体の一部は凍り付いた。

「ッッッッ!!?」
「っ逃がすか!」

 俺は残された魔力の全てを放出する。その瞬間、俺の周囲の全てが凍り付いた。女王混蟲だけでなく、気温が急激に低下した事で、地面や建物が氷漬けとなっている。
 息を吸う度に、喉や肺に痛みを感じ、魔力枯渇を起こした事で、体が悲鳴を上げていた。

「……まだ、生きてるかっ」

 魔力が少ない状態で、使いこなせていない魔法――〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟を使った所為で、充分な威力を出す事ができなかった。
 女王混蟲を倒すには、あと一歩届かない。

「くそっ、あと一撃……」

 瀕死とは言え、半端な攻撃では、女王混蟲を倒す事は出来ない。
 この場で可能性があるとすれば、リツェアの闇属性の魔法か、ヴィルヘルムの魔装による全力の一撃だ。

 いや、それでは、足りない。
 リツェアが得意としているのは、魔法による範囲攻撃だ。一点に集中した破壊力は、低い。
 ヴィルヘルムの魔装は、一点に集中した攻撃を行う事が出来る。それでも、魔装が未完成なヴィルヘルムが女王混蟲を倒し切れる可能性は低い。

 何より、ヴィルヘルムの力を借りる為には、俺の背後の氷の壁を無くす必要がある。そうしてしまうと、〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟の効果範囲の境目が曖昧になってしまう。そうなれば、冒険者や村人を魔法の効果範囲に巻き込んでしまう可能性がある。

「……っ」

 その時、俺の横を人影が走り抜けた。
 人影は、〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟の冷気を物ともせずに、女王混蟲に向かって行く。

「魔装〝雷鳴〟」

 稲妻が鳴り響き、赤い雷を纏ったバルザックが右腕を振りかぶっていた。

「〝雷刃〟」

 〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟の氷ごと、バルザックの雷を纏った手刀は、女王混蟲を真っ二つに斬り裂く。その姿は、嘗て《雷獣》と恐れられた男が、衰えていない事を俺に証明して見せた。

 断末魔を上げる隙もなく、女王混蟲は倒れ伏す。

 俺は、女王混蟲の魔力が尽きた事を確認して、〝氷閉楽園フリージアス・オブ・エデン〟を解除した。




 肌を刺す様な冷気が漂う調査村の中で、生き残った人々の歓声が響き渡る。

 だが、バルザックは険しい表情で女王混蟲を睨み付けていたかと思うと、周囲に視線を向けて、より一層表情を強張らせた。そして、俺の元に歩み寄って来る。その視線に込められている感情は、燃える様な『怒り』だ。

「自分が何をしたか、分かっているな?」

 隠しもしない怒りが込められた言葉に、互いの無事を喜び合っていた人々が徐々に静まり返る。

「はい」

 魔力枯渇で、体が悲鳴を上げていようと、言い逃れをするつもりはなかった。

「ぉ、おいっ――」

 俺を庇おうとしたカシムを、視線だけで止める。

「冒険者達を殺す事に、躊躇いは無かったのか?」

 氷柱の中に、氷漬けとなった冒険者や村人を見てバルザックは尋ねる。
 乱戦状態の中では気付かなかったが、確認出来ていた以上にホムンクルスに寄生されていた人の数が多かった様だ。
 だが、それを見ても、俺の答えは変わらなかった。
 
「はい。ありませんでした」
「何故だ?」
「必要な事だったからです」

 人を護る為に、助かる可能性の低い人を見捨てる。それが、俺にとっての最善の選択。
 俺の言葉に、バルザックの表情は、今にも喉を噛み切りそうな獣の様に険しくなっていった。

「救う事は、考えなかったのか?」
「俺は、全てを救える程、強くはありません」

 俺とバルザックの視線がぶつかる。

「これだけの力がありながら、力がないだと?」

 バルザックが、「ギリッ」と音がする程、奥歯を噛み締めていた。

「……冒険者は、人々を護る事が指名だ。護るべき命に、差などない。可能性があるのなら、全力を尽くすべきだ」
「……」

 綺麗事だ。
 だが、バルザックには、その言葉を言う資格がある。

「これが、俺に出来る最善でした」
「違う」

 バルザックは、断言した。

「お前の最善は、仲間を信じて耐え抜く事だった」
「?」

 理解出来ない俺の感情を感じ取ったのか、バルザックは一瞬だけ辛そうな表情を浮かべる。
 
「何故、お前は1人で戦った?何故、周囲を信じ、他の冒険者が駆け付けるまで、待てなかった?」
「戦いが長引けば、死傷者が増える事は確実でした。それに、他の冒険者を待つ余裕があるなら、目の前の敵に全力を尽くすべきです」
「お前は、自分の力を過信している」

 バルザックの言葉には、隠しきれない怒りの内側に悟す様な意思が籠っていた。

「どんなに強い者でも、1人に出来る事には限りがある。だが、1人、2人、と人が増えれば、可能性は広がる物だ」
「それこそ、他人の力を過信しています」
「っ」
「他人の力は、所詮は他人の物。可能性を広げる以上に、足枷となる事だってある」
「……」

 俺とバルザックは、お互いに譲る事なく睨み合う。

「お前の考えは、分かった」

 溢れ出る感情を抑え込んだバルザックは、聞いた者が不意に息を止めそうな程に重苦しい言葉を発する。

「……お前を冒険者組合から除名する」
「……」
「今後、辺境都市内の冒険者組合に出入りする事も禁ずる」

 現状からして、バルザックの判断は、妥当な物だ。
 寧ろ、この程度で済ませたのは、少なからず俺の功績を評価してくれているのかもしれない。そして、この場に集まりつつある他の冒険者の目の前で、俺の処分を決める事によって、ある程度の混乱を抑えようとしている可能性もある。
 
 この場に集まった冒険者の中には、少なからず俺に対して、複雑な感情を抱いている者も少なくないだろう。
 辺境都市の冒険者は、互いに仲間意識が高い。その上、今回は、同じ冒険者を巻き込む魔法を故意的に発動した。
 反感や敵対心を抱く者が少なくない事は、容易に想像が付く。

 突然、男の叫び声が響いた。
 視線を向ければ、冒険者パーティー――『蒼翼』のローディスが、氷漬けになった冒険者達を必死に助け出そうとしている。その他にも、冒険者や村人達が様々な姿で氷漬けとなった人々の前に立っていた。

 この後の展開を予測する事は容易い。
 
 
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